子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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皆さん、大変お待たせしました‼︎
色々と忙しいことが重なって執筆が進まず・・・これからさらに実習が始まりますので、次話も似たような更新になってしまうと思われます。なのでこれからも気長にお待ちいただけると幸いです。

それではどうぞ‼︎


森林地帯での戦い【前編】

森林地帯での戦い。

男鹿・レティシア、葵・東条、レヴィアタンの三組は互いに距離を取って対峙していた。

 

「レティシア、俺は思いっきり暴れてぇ」

 

「言うと思ったよ・・・私はサポートに徹しよう」

 

男鹿は右拳を左掌に打ちつけながら言う。レティシアも随分と男鹿の扱いに慣れたようで、苦笑しながらリボンを解きつつ“龍の遺影”を展開する。

 

「おい、邦枝」

 

「はいはい、貴方も暴れたいって言うんでしょ?」

 

それを聞いていた東条も葵に呼び掛ける。彼女もその趣旨を理解して了承しつつ“断在”を抜き放ち、それを構えながら戦闘の流れを予想していく。

 

(東条は多分男鹿とレヴィアタンさんを標的にしてる。男鹿も似たようなものだとすると・・・)

 

あくまで東条のやりたいように戦わせることを前提に考えた結果、葵はレティシアを標的として見据えることにした。

 

「・・・辰巳、前言撤回する。どうやらサポートに回る余裕はなさそうだ」

 

そんな葵の視線に気付いたレティシアも、男鹿のサポートではなく葵を迎え撃つ構えを見せた。レティシアも男鹿をサポートしている片手間に葵を相手取れるとは思い上がっていない。

 

「よぉお前ら、そろそろ始めてもいいか?」

 

お互いのチーム内で打ち合わせているのを見ていたレヴィアタンは、身体を(ほぐ)しながら気長に待っていた。

その問い掛けに対してはそれぞれが無言であり、レヴィアタンはそれを肯定と受け止める。

 

「じゃあ戦闘開始だ。簡単にはくたばってくれるなよ?」

 

 

 

 

 

 

レヴィアタンの開始宣言とともに男鹿・東条・レヴィアタンがぶつかり合うのと同時、レティシアと葵も激突していた。

激突とは言っても肉体的なものではなく、レティシアは後退しながら“龍影”で強襲し、葵はそれを追いつつ“断在”で襲い来る“龍影”を斬り刻んでいく。

 

(葵殿に接近戦は余りにも不利。影も槍も全て斬り伏せられてしまう)

 

葵の持つ“断在”の恐ろしいところは次元すら斬り裂くと説明された斬性にある。防御不可の斬撃は正に一撃必殺、それを剣の達人である葵が使用すれば鬼に金棒だ。

 

(だがその斬性は常時刃に展開されている訳ではないだろう。でなければ()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる)

 

抜刀・納刀する瞬間は刃を鞘の中で走らせる必要がある。納刀状態でも刃が鞘に触れているのだから、本当なら鞘として機能することすらありえない。

 

(なんとか斬性が展開される条件を把握する‼︎)

 

 

 

と、レティシアが“龍影”を幾筋にも分裂させて操る一方、絶対の斬撃を放つ葵も攻めきれずにいた。レティシアの攻撃が四方八方から襲い掛かってくるのを迎撃し、それでも捌ききれない攻撃は躱しながら追っていたからだ。

 

(この攻め方・・・レティシアさんはもう“断在”の特性を把握してるわね)

 

“断在”の特性とは、刀という形状から刃にしか絶対の斬性が付加されていないことである。そのため必ず一方向へ斬るという動作を行わなければならず、刀のリーチ外に出てしまえばその脅威は極端に減少する。これは“断在”に限らず全ての刀に言えることだが、だからこそ離れてしまえば絶対の斬撃もただの斬撃と大差がなくなる。

 

埒が明かないと判断した葵は追いかけるのを止めて立ち止まり、レティシアも突然立ち止まった葵を訝しんで動きを止める。

葵は“断在”を納刀するともう一振りの刀へと手を伸ばし、

 

「心月流抜刀術・八式ーーー神薙」

 

刀身が霞む程の抜刀と納刀により真一文字の斬撃を放った。

 

(射程距離のある斬撃、だとッ⁉︎)

 

斬撃が飛んでくるという思わぬ攻撃に、レティシアは反射的に上へと飛び上がる。武人としての戦いや祭りという状況から飛翔して一方的に攻撃するという手段は控えていたのだが、考えるよりも前に身体が動いていた。

 

 

 

「心月流抜刀術・弐式ーーー」

 

 

 

そして反射的に動いたために警戒が薄れたレティシアの眼前まで葵が跳躍していた。

心月流抜刀術・神薙は対中・遠距離用の技なのだが、これにはもう一つ特性がある。超速で抜刀から納刀まで行うため、心月流を繋げて放つことができるのだ。

 

「くっ」

 

だがレティシアも伊達に戦闘経験は積んでいない。即座にギフトカードから長柄の槍を顕現させ、正中に構えて急所を隠す。“断在”ではないので防げると判断しての行動だった。その判断は正しく、槍に刀が打ち付けられて金属同士のぶつかる音が響き渡る。

 

だが、彼女の判断が正しかったのはそこまでだった。

 

 

 

「ーーー百華乱れ桜・魔装 絢爛花吹雪」

 

 

 

刀は槍で防いだ。しかし葵から放たれた見えない何かがレティシアを斬り刻む。

 

「ぐっ‼︎ ーーーはあぁぁ‼︎」

 

斬り刻まれたことでレティシアの身体が一瞬強張るも、すぐさま吸血鬼の膂力に加えて王臣紋の力を解放することで鍔迫り合い状態の葵を弾き飛ばした。

葵もなんとか受け身を取って衝撃を殺しつつ着地するが、弾き飛ばされたことにより二人の距離は再び離される。

 

「今のは、魔力が込められた鎌鼬・・・?まさか、葵殿も契約者だったのか?」

 

最近になって魔力と接する機会が増えたレティシアだが、遅ればせながら攻撃されたことによって葵が魔力を使用していることに気付いた。

 

「もしかして、男鹿達から何も聞いてないんですか・・・?」

 

「あぁ。なんの情報も言わなかったものだから、てっきりただ剣の達人なだけかと・・・」

 

葵はてっきり知らされているものだと考えていたのだが、男鹿どころか古市も“ノーネーム”のみんなに伝えるのを忘れていたようだ。

 

「まぁ“断在”の情報は得ていたのだから、対戦相手の全てを教えろというのは甘えだろう」

 

「潔いですね」

 

「手の内を隠すのは基本だからな。実戦では当たり前のことだ」

 

正に威風堂々といった振る舞いのレティシアである。おまけに王臣紋の力の解放と吸血鬼の頑丈な身体と相まって、葵の鎌鼬による攻撃はほぼ無力化していた。

 

「さぁ、続きとーーー」

 

“いこう”と言おうとし、改めてレティシアが葵へ向けて槍を構え直した時、彼女達の間を何か大きな物体が通り過ぎた。

お互いに警戒しつつも飛んできたものを目で追うと、それは先ほど分かれたばかりの人物であった。

 

「辰巳‼︎」

 

「それに東条も‼︎」

 

飛んできた二人が大きく見えたのは、レヴィアタンと戦っていた男鹿と東条が重なり合っていたからである。二人とも大きな怪我はないようだが、所々細かい傷があり少し息も上がっているように見える。

 

「罪源の魔王の名は伊達じゃないぜ。そう簡単に勝てると思うなよ」

 

飛ばされた二人が立ち上がる一方で、飛んできた方向から悠然と歩いてくるレヴィアタン。そちらは全くの無傷であり、少し服が汚れているくらいしか戦闘の痕が見受けられない。

 

「どうする?なんなら二人掛かりーーーいや、そっちの二人も入れて四人掛かりでも俺は構わないぞ?」

 

 

 

 

 

 

少し時間を巻き戻し、男鹿・東条・レヴィアタンの戦いが始まる前まで遡る。

 

まず接触したのは男鹿とレヴィアタンだった。男鹿が逸早く右ストレートを顔面に繰り出したのに対し、遅れてレヴィアタンは左回し蹴りで対応してくる。どう考えても男鹿の方が先に殴り飛ばせるので、回し蹴りに構わず拳を振り抜いた。

 

「いッ⁉︎」

 

しかし予想外に手が痺れたのは男鹿の拳だった。別に反撃を受けた訳ではない。ただ単純にレヴィアタンの皮膚が硬かったというだけだ。

右ストレートを放った後、予想外の展開に思考が一瞬停滞した男鹿にレヴィアタンの左回し蹴りを防ぐ余裕などなく、右脇腹を蹴り抜かれて東条の方へと蹴り飛ばされる。

東条は二人に迫っていた状況で至近距離から飛んできた男鹿を容赦なく腕を振るって払いのけた。

 

「ガッ、んの野郎共・・・‼︎」

 

蹴り飛ばされて払いのけられた男鹿は、地面を転がって衝撃を殺しつつ体勢を立て直して恨み掛かった言葉を漏らす。

一方そんな男鹿の事など露知らず、東条は蹴り抜いた姿勢のレヴィアタンへと肉薄して拳を振るった。

 

「うおっ」

 

今度も殴られたレヴィアタンだが、先程と同様に殴られたダメージはないようだ。東条の拳による運動エネルギーによって数m後方に飛ぶも難なく空中でバランスを保っている。

 

「ーーーゼブル・・・」

 

そしてレヴィアタンが着地する前に仕掛けようと男鹿は右拳に雷電を纏った。さらにレヴィアタンを狙う直線上には巻き込むように東条も入っている。

 

「・・・ブラストォォッ‼︎」

 

先程のお返しとばかりに男鹿も問答無用で二人目掛けて雷撃を放った。二人の立ち位置的に雷撃はまず東条に襲い掛かる。

 

「はっ‼︎」

 

だが東条はそれを平然と真正面から打ち消した。元から素手でゼブルブラストを叩き潰すことができた東条が、さらにそれを無効化するギフトを所持しているのだ。これは当然の帰結とも言える。

 

「防いでくれてありがとよ」

 

そして東条がゼブルブラストを防ぐために男鹿と向かい合った一瞬の隙に、着地したレヴィアタンが東条との距離を詰めて殴り掛かった。

レヴィアタンに気付いた東条は振り向きざまに腕を構えて防御したが体勢悪く、何よりレヴィアタンの拳の威力に踏ん張りが効かず男鹿同様に殴り飛ばされた。

 

レヴィアタンが東条を殴り飛ばした後に男鹿へ目を向けた時、雷撃を放った場所から男鹿の姿が消えているのに気付いた。

 

「ーーーゼブル・・・」

 

直後、自らの身体に向けて横から紋章が展開され、近距離から男鹿の声が聞こえてきた。ゼブルブラストを陽動にして側面に回り込んだのだ。

 

「・・・エンブレムッ‼︎」

 

防御させる間もなく拳を叩き込まれたレヴィアタンは爆発を引き起こし、その身体を爆煙が包み込んだ。

 

「ちったぁ効いたか、この野郎が」

 

爆煙を見据えて独りごちる男鹿。少し離れた所では東条も立て直して様子を窺っている。

 

 

 

「ーーーま、ちっとは効いたんじゃねぇの?」

 

 

 

爆煙が晴れていく中、その中心からレヴィアタンの涼し気な声が響き渡る。爆煙が完全に晴れた場所には、爆発で服が汚れただけで無傷のレヴィアタンが悠然と立っていた。

 

「・・・嘘つけ、全然効いてねぇだろ」

 

男鹿も強がってはいるものの冷や汗が背中を伝う。たった数手打ち合っただけだが、その実力差を見抜けないほど馬鹿ではない。かつての白夜叉を思わせる圧迫感をレヴィアタンから感じていた。

 

「嘘じゃないさ。鉄なんて目じゃない硬さの皮膚の身体を殴り飛ばせる人間なんてそうそういねぇよ。怯んだのは最初の一発のみ、即座に合わせてこれる人間なんて特に、な」

 

旧約聖書において、レヴィアタンはいかなる武器も通用しない鱗を持つ最強の生物と記されている。それなのに男鹿の初撃を除いて二人とも普通に殴っている。レヴィアタンの硬さを理解して即座に合わせたのだ。

 

「あとそっちのガタイのいい・・・東条って言ったか?ただの人間ではあり得ないほど拳が重い。魔力も感じないし身体強化系のギフトを所持しているな?」

 

「え、お前そんなギフト持ってんの?」

 

レヴィアタンの言葉に男鹿も疑問を投げ掛ける。聞いているのは大魔王が持っていたというギフト無効化のネックレスだけだ。それ以外にもあるということだろうか。

 

「おう。よく分からんが、オーナーが言うには頑張れば強くなるそうだぞ?」

 

「それってギフトか?」

 

かなりざっくばらんとした東条の説明に男鹿はツッコまざるを得なかった。白夜叉が言っているらしいのでギフトを所持しているのは確かなようだが、それを理解する東条の方がアレすぎて詳細は全然分からない。

 

「細けぇこたぁいいんだよ。全力で喧嘩すんのには関係ねぇからな」

 

自分の事だというのに東条は全く気にせず、獰猛な笑みを浮かべて戦闘の構えを取る。それは自身の力を隠すなどといった打算ではなく、純粋に今の喧嘩を楽しもうとする笑みであった。

 

「ハッ、それもそうだ」

 

釣られて男鹿も獰猛な笑みを浮かべて魔力を高める。東条にも言えることだが、レヴィアタンに通常ダメージを与えるためにもさらに拳の威力を高めるしかないからだ。

 

「ハハハ。お前らの性格、嫌いじゃないぜ?やっぱり気が合いそうだ」

 

レヴィアタンも張り合いのある二人との戦いを楽しんでいるようだ。

休憩はそこで終わり、止まっていた三人の戦闘は再び動き出す。

 

 

 

 

 

 

その後も三人は似たような戦闘を繰り広げ、現在に至る。

 

「四人掛かりって・・・レティシアさん、どうします?」

 

葵はレヴィアタンの“四人掛かりで来ても構わない”という提案を受けてレティシアに相談を持ち掛ける。男鹿や東条に持ち掛けなかったのは妥当な判断だと言えよう。

 

「・・・辰巳、罪源の魔王と戦ってみた感想はどうだ?」

 

共闘について少し考えたレティシアは、葵に答えを返す前に男鹿に質問を投げ掛けていた。

 

「あぁ?何だよ突然?・・・まぁ白夜叉を思い出す程度には強ぇな」

 

「そうか。それ程の相手ならばもう十分に暴れられたんじゃないか?」

 

男鹿の感想を聞いて、諭すように言葉を重ねるレティシア。最初は何が言いたいのかよく分からなかった男鹿だが、最後の言葉を聞いて何となく言いたいことが理解できた。

 

「・・・さっきは俺の希望を聞いたから、今度はお前の希望を聞けってことか?」

 

「察しが良くて助かる。それに相手はレヴィアタン殿だけではない。一人で無理をし過ぎては後に差し支えるぞ?」

 

言われて男鹿は少し考える。男鹿がレヴィアタンに勝とうとするならば魔力増幅法を長時間使用しなければならないだろう。そこに味方であるレティシアを加えても勝てるとは言えない相手だ。だから他人の手を借りるというのは癪だが、負けるのはもっと気に入らない。

 

「・・・ちっ、しょうがねぇな。今回は乗ってやるよ」

 

「すまんな。・・・という訳で私達は共闘に賛成だ。そちらの英虎殿はどうなのだ?」

 

男鹿の了承を得られたということで、レティシアは残る東条の意向を確認する。後は東条が了承すれば共闘成立だ。

 

「あぁ?だから俺は思いっきり喧嘩できれば何でもいいって言ってんだろ?」

 

「いや、私はそんなこと一言も耳にしていないが・・・ならばなおのこと手を組むことを推奨する。レヴィアタン殿は四人掛かりでもキツイ相手だ。此処で負けてしまえば他の強力な参加者との喧嘩はできなくなってしまうぞ?」

 

言われて東条も少し考える。強い相手とはタイマンで戦り合いたいと思っているが、これだけ猛者が集まっている決勝戦で一回しか喧嘩できないのも物足りない感じである。

 

「・・・よし、俺も構わねぇぜ」

 

レティシアの説得で東条の了承も得られたことで葵も安心する。というかレティシアが男鹿や東条のような人種の扱いに慣れてきているのは気のせいだろうか。

 

「決まりだな。ではレヴィアタン殿の御言葉に甘えて四人掛かりで行かせてもらう」

 

「おう、来い来い。幾らでも相手になるぜ」

 

こうして急遽手を組んだ四人チームと、嫉妬の魔王・レヴィアタンとの激闘は第二ラウンドを迎えるのだった。




流石に三チームもいると戦闘が長くなってしまうので前・後編に分けさせてもらいました。
前書きで言ったように次も遅くなるとは思いますが、出来る限り一ヶ月以内に投稿できるように頑張ります‼︎

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