それと、改めてタグを見ると“独自解釈”・“独自設定”がなかったので追加しました。
それではどうぞ‼︎
十六夜・古市チームは極寒地帯を抜け、隣接する岩石地帯を歩いていた。
「逆廻、いったい何処に向かってるんだよ?」
古市が十六夜に質問する。フルーレティ・氷狼チームを撃破した後、予定通り見晴らしのいい岩石地帯へと進んだ二人は十六夜を先頭にして進んでいた。
「取り敢えず分かりやすい目印になってる“あれ”の中心に行くぞ」
そう言って十六夜が指差す先には、分厚く黒い雲が空に広がっている。
「あっちのゴロゴロ言ってる雷雲?」
「悪天候地帯ってところか?」
レヴィと古市が空を見上げながら視線の先に映る景色に感想を述べた。しかし古市の推測は十六夜によって否定される。
「悪天候地帯なんてものは映像で見た限りではなかったよ。あれは新しく生み出されたものである可能性が高い」
「……マジで?そんなことができる参加者って言ったら……」
「あの人達しかいないよねぇ〜」
ギフトゲーム本戦に参加している人達のギフトはほとんど知っているが、嵐を操るギフトを所持している者など知らない。というよりもその規模でギフトを展開できる参加者など限られていた。
「そうだ。俺達の標的はーーー」
男鹿・レティシアチームは森林地帯で軽く治療を施してから動き出していた。今は草原地帯を歩いている。
「辰巳、脚の具合はどうだ?」
「問題ねぇ。砂漠やらの面倒な場所でもないしな」
「ダブ」
東条・葵チーム、嫉妬の魔王・レヴィアタンとの激闘を終えた二人は宛てもなく森林地帯を抜け出したのだが、草原地帯という見晴らしのいい場所に出たことで少し離れた空に広がる異変に気付いた。
「少しずつ雷雲の広がりが狭まってたが、ある程度の雷雲を残してそれも収まった。自分のいる場所を限定したのだろう。“私は此処にいる”、とな」
「ハッ、自分は俺達が来るのを待ち構えてるってわけか。まるでRPGのラスボスだな」
「それに相応しいだけの実力を備えているわけだから、
誘っていると分かっていても二人に乗る以外の考えは思い付かなかった。次の戦場となるのはまず間違いなく荒れ狂う天候の中となるであろう。
男鹿とレティシアは向かう先にいるであろう存在の実力を十分に理解しているが、だからこそ避けて通れる相手ではない。このギフトゲーム本戦を勝ち抜くためには倒さなければならない、参加者全員の多数決で参加させた強敵の一人。
「私達が次に狙うのはーーー」
ベルゼブブは湿地帯で赤星を打倒してベヘモットを見送った後、その場から動くことなく嵐を弱めつつ展開している雷雲を縮小させていた。
(戦闘を開始する前、此処以外に三ヶ所で戦闘の気配を感じていましたが……どうやら終わったようですね)
彼にはベルフェゴールのような千里眼は持ち合わせていないので確実とは言えないが、少なくとも魔力を持つ者が激しい戦闘をしている様子はないと感覚で分かる。
(ということは、相打ちや複数チームでの乱戦、何処とも戦闘していないチームの可能性を考慮すると残りは三チームほどですか……これは無闇に動き回るとすれ違いになりそうですね)
そう考えたベルゼブブは、雷雲の縮小を抑えることでギフトを解除するのを中止した。
彼のギフトは天候を操作して嵐を起こす。天候の変化は遠くからは観測しやすく、何かを探す際の目印として適している。自分が動くよりも他チームに来てもらう方が効率的だ。
それにただ雷雲を展開しているだけならば疲労はほとんど感じない。なによりも主催者の一人として、参加者にも観客にも無意味な時間を多く過ごさせることは避けなければならないと考えていた。
「ーーーさて。いったい何処のチームが逸早く私に気付いて挑戦に来ますかね」
★
「ーーーはい。というわけで現在一通りの戦闘が終了し、優勝候補が絞られてきました‼︎ 残るは男鹿辰巳・レティシア=ドラクレアチーム、逆廻十六夜・古市貴之チーム、暴食の魔王・ベルゼブブ様の三組となります‼︎」
黒ウサギの解説がギフトゲーム会場の広場に響き渡る。極寒地帯・海岸地帯・森林地帯・湿地帯。それぞれの戦場で行われていた戦いが幕を閉じ、参加者が相手を求めて次の戦場へと向かう時間となっていた。それを観ている観戦者にとっても束の間の休息である。
「現在の参加者達の移動速度と相対距離を考えますと、最初の衝突は恐らく二十分ほど後になると思われます‼︎ その間にこれまでの戦いに対する感想をお訊きしたいと思いますが、二十分というのはあくまで予想ですので何か用事のある方は今のうちに済ませておいて下さい‼︎」
黒ウサギの声により、ギフトゲーム本戦を観戦していた観客の中でも、チラホラと動き始める者もいれば感想や解説を聞こうとその場に留まる者と分かれていく。
黒ウサギ進行の下により感想や解説がなされている裏側。敗退者は参加者のために特設された控え室へと送り込まれ、負傷者の手当てや休憩所として各々に過ごしていた。
「貴女達、全身傷だらけね。傷痕が残らないといいけど……」
葵は至る所に絆創膏や包帯を巻いている飛鳥と耀を見て声を掛ける。アスモデウスとの戦いで、レティシアに変身した彼女の“龍影”による無尽の刃で斬り刻まれた傷だ。
「此処の温泉に入れば一晩で消えるような傷って言われたわ。どちらかと言えば精神的な疲労の方が大きいわね」
「葵達はレヴィアタンさんと戦ったんだよね?」
葵はレヴィアタンから腹部に蹴りを一撃もらった以外に外傷らしい外傷は戦いで受けていないので、二人とは違って大きな治療の跡はない。
「最初は男鹿達とも戦ってたけどね。途中からはレヴィアタンさんを倒すために共闘してたわ」
ちなみに東条と鷹宮は治療を施すと何処かへと行ってしまい此処にはいない。赤星、フルーレティ、バティン、エリゴスは気絶してベッドに寝ており、ベヘモットとプルソンは少し離れた所で話している。氷狼はフルーレティのそばで一緒に寝ていた。
「確かに勝ちはしたのだけれど……ああもあっさりと主催者席に戻られると、ちょっと悔しいわね」
飛鳥が言いながら部屋の窓から外を見ると、アスモデウスが黒ウサギに感想を訊かれて答えていた。その横にはレヴィアタンもおり、二人とも表面上は無傷で涼しい顔をしている。
「二人は残ってる人達で誰が優勝すると思う?」
耀の質問に飛鳥も葵も真剣に考えてみるが、すぐに結論は出た。
「勝ち残っているメンバー全員の全力を見たことがないから、なんとも言えないかしら」
「それに男鹿は予選で見せた技を使ってないし、帰ってきて映像を見たら古市君はレヴィさんといつの間にか契約してたもんね」
十六夜とベルゼブブは言うまでもなく規格外だが、実際にはレティシアも王臣としての力を出し切ってはいない。まだまだ予想を立てるには不確定要素が多すぎる。
「でも、此処まで来たら本当に罪源の魔王を倒してほしいところね」
「そうだね。私達、“魔王を倒すためのコミュニティ”だもんね」
罪源の魔王は白夜叉やレティシアと同じく元魔王で、さらにギフトゲーム仕様に実力を制限しているが、アスモデウスにもレヴィアタンにも勝ちはしたものの倒したとは言えない。
三人は黒ウサギ達のいる壇上から視線を外し、ベルフェゴールの作り出した空間の亀裂から流れる映像を眺めるのだった。
★
ベルゼブブが雷雲を縮小させてから十数分が経過したが、現状に変化は訪れていない。
(……誰も来ませんね。もしや私の雷雲も舞台エリアの一つとして捉えられているのでしょうか?)
憤怒の魔王・サタンが作り出した今回のゲーム盤は入り乱れた環境が凝縮された舞台だ。舞台の一部しか知らない参加者が変わらず停滞している雷雲を見て、舞台装置の一つだと認識していてもおかしくないという考えが頭に
(これ以上誰かが来るのを待つのは得策ではないかもしれませんね。しかし、他の方法で短時間のうちに参加者を探し出すとなるとーーー)
ゲーム展開というよりもゲームの進行について考慮し始めるベルゼブブ。
その時、爆音とともに何かが飛来し、ベルゼブブの前方にある地面が弾け飛んだ。
その余波で割れた地面や泥水が辺り一面に撒き散らされるが、ベルゼブブは自身に降り掛かるそれらを暴風の壁で弾き飛ばす。
「ーーー良いタイミングで来てくれました。もう少し待って何もなければ何かしら働き掛ける必要を感じていましたから。……到着者第一号は貴方達ですか」
撒き散らされた土砂が次第に晴れていき、その中心から三つの影が現れた。
「ヤハハ、よかったなお前ら。俺らが一番乗りだってよ」
「うっぷ……逆廻、お前急に掴んだと思ったらめちゃくちゃな勢いで跳びやがって。吐くぞコラ」
「古市君、汚いから吐かないでね?」
「レヴィさんは跳躍前ねちゃっかり実体化を解いてたし……」
現れたのは十六夜、古市、レヴィの三人だった。三人の会話を聞く限り、ベルゼブブを見つけた十六夜が古市の腕を掴んで長距離を一気に跳躍してきたようだ。
「おや。レヴ
「予選見ててみんな楽しそうだったからね。私も久しぶりに遊びたくなったんだよ」
活発そうな笑みを浮かべて本当に楽しそうにしているレヴィ。それに乗っかるように十六夜も獰猛な笑みを浮かべている。
「魔王サマとガチンコで戦える機会なんて少ないからな。
「俺はできることなら
その横では現実逃避するように古市がブツブツと呟いていた。まぁ十六夜と組むことが決まった時点でそれが叶わぬ願いであったことはまず間違いないだろう。
「では貴方が待ちに待ったボーナスステージ、暴食の魔王・ベルゼブブ戦を開始しましょうか」
ベルゼブブは縮小させていた雷雲を再展開して雷鳴を轟かせた。それに伴って雨や風が激しさを増していき、瞬く間に嵐が天候を支配する。
ギフトゲーム本戦も佳境に差し掛かり、勝者達による最後の戦いが幕を開ける。
いつもより短いと言っても4000文字程度はあるんですよねぇ。
第三章、特にギフトゲームに入ってから8000文字とかが普通になってたから感覚が狂ってきている気がする……。