子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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早くも“アンダーウッド編”の構想が頭に浮かんできて、逆に今が進まない……。

少し遅くなりましたが投稿できました‼︎
今回はちょっと文が入り乱れているかもしれませんがご了承ください。

それではどうぞ‼︎


“乱地乱戦の宴”・最終決戦【中編】

男鹿達が戦闘に乱入する少し前、十六夜達とベルゼブブの戦闘が今まさに始まろうとしていた頃まで時間を遡る。

 

「……ん?」

 

「あん?どうした?」

 

順調に雷雲の中心へと歩みを進めていた男鹿達だったが、急にレティシアが足を止めて空を見上げ始めた。

 

「いや、急に雷雲が広がり出したような……」

 

既に雷雲の下に入り込んでいて三人とも雨風に晒されているのだが、そんな中でレティシアは雷雲の動きに違和感を感じたようだ。

彼女は空を見上げたまま来た道である背後へと振り返り、雷雲と晴天の境界線を確認する。

 

「やはり、歩いた距離と雷雲の広さが合わないな。加えて雨風も強くなってきていて、今もなお雷雲は広がり続けているとなると……」

 

「何言ってんだコイツ?」

 

「ダゥ?」

 

ブツブツと独り言を漏らしながら考えをまとめているレティシアを見て、不思議に思いながら顔を見合わせる男鹿とベル坊。

かなり失礼な物言いの男鹿だったが、レティシアは特に気にせずその呟きに返事を返した。

 

「つまり、ベルゼブブ殿かアスモデウス殿……まぁギフト的にベルゼブブ殿だとは思うが、ギフトを展開し始めたようだ」

 

「だから何だってんだ?」

 

その説明を聞いても理解力の乏しい男鹿には分からなかったようで、レティシアは簡潔に結論だけを答えることにする。

 

「ベルゼブブ殿が誰かと対峙または戦闘している可能性が高い、ということだ」

 

「何ッ⁉︎ 何処の何奴だ‼︎ 俺達の獲物を横取りしようって奴は‼︎」

 

「別に私達の獲物というわけではないが……って待て待て‼︎」

 

レティシアは自身の言葉を聞いて走り出した男鹿の腕を掴み、考えなしに猪突猛進しようとする男鹿を何とかその場に留まらせる。

 

「早く行きたいのは分かるが、地面を走っていくのは効率が悪い。かといって紋章術で空を走るのは魔力節約のため避けたい」

 

「じゃあどうすんだよ?」

 

「私が飛んで運ぼう。速度を出し過ぎなければ魔力の消費は抑えられるはずだ」

 

この提案は魔力の節約だけでなく応急処置を施した男鹿の右脚への負担を減らすことも多少含まれていたが、過剰に心配しても逆に煙たがれるだけだと彼女は判断して口に出さなかった。

 

「あぁ、火龍の祭りん時みてぇにか。んじゃあとっとと頼む」

 

納得した男鹿はくるりとその場で回ってレティシアに背中を向ける。

レティシアも宣言通りに行動しようとして腕を伸ばし……触れる寸前でピタッと動きを止めた。

 

(そうか、飛んで運ぶとなると抱き付かなければならないのか……あの時の私はよく何も考えずに辰巳を抱えて飛んでいたな……)

 

「……おい、早く行かねぇのか?」

 

「あ、あぁ。すまない」

 

改めてやる事を意識してしまい頬を薄く紅潮させていたレティシアだったが、男鹿に促されてハッと意識を浮上させる。

彼女は可能な限り意識しないように自らの腕を男鹿の腰へ回してから黒い翼を展開し、ゆっくりと飛翔を開始して徐々に雷雲の中心へ向けて速度を上げていくのだった。

 

 

 

 

 

飛翔すること数分から十数分。雨風が強くて遠くまで見通せない中、レティシアは感覚だけを頼りに雷雲の中心へと飛翔していく。もうそろそろ見えてきてもおかしくないと考えていた彼女だったが、次の瞬間には前方から爆発音が聞こえてきた。

 

「近いな。流石にもう戦闘は始まっているか」

 

爆発音が聞こえてきた方向に進路を修正して更に速度を上げると、今度は辺り一帯から迸った落雷による轟音が響き渡る。

数十秒ほどの飛行で見えてきた戦場では、古市とベルゼブブが激しい肉弾戦を繰り広げていた。

 

「レティシア‼︎ 此処でいいから下ろせ‼︎」

 

まだ少し距離があるのだが、戦闘を見た瞬間に雨風の音を掻き消すように男鹿は声を張り上げる。

実際には密着しているため声を張り上げなくとも会話は通じるので、レティシアは速度を落として滞空しながら普通の声音で訊き返す。

 

「何故だ?あと少しで着くと言うのに」

 

レティシアの至極もっともな疑問を聞いた男鹿は、溜息を吐きながら呆れたように言う。

 

「お前は乱入の美学ってもんが分かってねぇなぁ。もし自分が戦ってる時に“あ、俺達も来たんで喧嘩に混ぜてくんね?”なんて言われてみろ。白けんだろうが」

 

「そういうものだろうか……?」

 

「そういうもんなんだ、よ‼︎」

 

男鹿は自分の主張を述べると強引にレティシアの腕から抜け出し、支えのない空中へと身を躍らせた。残り少ない距離を落下しながら詰めるために紋章を展開して足場にし、落下の衝撃を吸収しながら段々と地上を目指す男鹿。レティシアもそれに追従して男鹿の後を追う。

まだ少しだけ二人とは離れている場所まで辿り着いたところで男鹿は右拳に雷電を纏わせ、着地すると同時に古市とベルゼブブへ向けて“魔王の咆哮(ゼブルブラスト)”を解き放った。

戦闘中で感覚が鋭敏になっていた二人はすぐさま男鹿の攻撃に気付いて回避行動を取り、回避されたことによって意図せず戦闘から離れていた十六夜へと雷撃は突き進んで霧散させられる。

 

「よう、お前らも来たのか」

 

獰猛な笑みを浮かべながら言葉を投げ掛けてくる十六夜に対し、男鹿も同様の笑みを浮かべて言い返した。

 

「派手にやってんな。俺達も混ぜろよ」

 

 

 

 

 

 

そうして話は現在へと至る。

割り込んできた男鹿を見てジャバウォックは愉しそうに口端を釣り上げた。

 

「男鹿辰巳、お前も参加していたのか。こうも早くリベンジマッチを果たせるとは運がいい」

 

「この魔力の感じ……てめぇ、ジャバウォックか」

 

古市らしからぬ獰猛な笑みと身に覚えがある刺すような魔力の圧迫感により、彼が呼び出した柱師団の悪魔を男鹿は言い当てる。一度は激闘の末に倒しているものの、その時のジャバウォックは未契約状態であった。男鹿も箱庭へ来て更に強くなっているとはいえ、再び勝てるという保証はない強敵である。

 

「お前ら随分とボロボロだな。いったい誰と()り合ったんだ?」

 

「レヴィアタン殿だ。とは言っても私達だけではなく、葵殿や英虎殿と流れで共同戦線を張って何とか勝利したのだがな。その後色々とあって二人はリタイアした」

 

「ほう、レヴィアタンさんを倒されたのですか。今回出場した罪源の魔王(我々)の中では彼をクリアするのが一番困難だと思っていたのですが……やりますね」

 

レティシアの言葉を聞いたベルゼブブは素直に感心していた。自身やアスモデウスがレヴィアタンより劣っているとは思わないが、相性というものがあるのだ。

今回のギフトゲームで彼らから勝利を収めるためには、打倒できる可能性が低い以上ダメージを与えて実力を認められることが必要となる。そういう意味ではレヴィアタンの鉄壁の皮膚は参加者の大半にとっては鬼門であった。彼の皮膚はダメージをほとんど通さないので、まず有効な攻撃手段がなければ相対した時点でほぼ詰みなのだ。

そんなベルゼブブの評価などどうでもいいと言わんばかりに、話の途中で男鹿が魔力を高め始めたことから会話は中断となる。

 

「もう話はその辺でいいだろ。……てめぇら相手に様子見なんてしねぇ。ーーー最初から全開だ」

 

男鹿の右手に刻まれた契約刻印が輝き、その契約刻印が左手へと広がっていく。更に空中に紋章が顕現して巨大化していき、雷雲に覆われ暗くなっていた周囲一帯を照らし上げた。

 

「……なるほど。“お父さんスイッチ”などとふざけた技名の、技とも呼べなかったものの完成形か」

 

肌がざわつく程の魔力を前に、ジャバウォックは過去に男鹿と繰り広げた激闘を思い出していた。

当時、魔力も(から)となり意識も半分飛んだ状態の男鹿に逆転を許したジャバウォック。その事実に“男鹿が覚醒した”と思っていたが、魔力を極限まで高めるこの技が誕生する前触れだったのだ。

 

「ーーー魔王の聖域(ゼブルサンクチュアリ)。さぁ、喧嘩を始めようぜ」

 

男鹿が魔力増幅法ーーー“魔王の聖域”を発動するとともに、レティシアも漆黒の翼を展開した。続けてギフトカードから長柄の槍を取り出して戦闘態勢を取る。

 

「ハッ、こっちも望むところだ……と言いたいところだが、割り込んどいて仕切ってんじゃねぇよ」

 

十六夜は獰猛な笑みを浮かべて重心を落とし、いつでも全力で動き出せるように四肢へと力を込めた。それに合わせてジャバウォックとベルゼブブも再び戦闘の構えを取る。

 

「これは俺達が売って、ベルゼブブ()が買った喧嘩だ。手を出すんならーーーお前らから潰すぜ」

 

場の空気が張り詰め、緊張が最高潮に達し……一際(ひときわ)大きな雷鳴を合図として戦場は再び動き出した。

 

 

 

 

 

 

十六夜はベルゼブブとジャバウォックの間を突っ切るようにして男鹿へと肉薄する。

必然的にベルゼブブを無視する形となるが、この場で最も速く動けるのが十六夜であるため止められるわけがない。十六夜の約十倍の速さである雷ならば当てられるが、わざわざ対戦相手である男鹿を庇うために落とす理由もなかった。

 

「グッ……」

 

男鹿は十六夜の拳を()()()()()()()()()、その威力に思わず唸る。それでも受けきった十六夜の拳を掴み、彼の動きを止めたところでレティシアが“龍の遺影”に打撃性を加えて強襲した。流石に鉄壁の皮膚を持つレヴィアタン以外へ斬撃性を魔力強化した影を振るうつもりはないのだろう。

十六夜は強引に男鹿の拘束から抜け出し、影を打ち落としながら一度下がる。後退した瞬間を狙ってベルゼブブが攻撃を仕掛けようとしていたが、それはジャバウォックによって遮られた。彼としては古市との簡易契約により十六夜を助けたというのもあるが、個人的には自分より十六夜に向かったベルゼブブが気に入らないというのもあるかもしれない。

さらに追撃してくる幾筋もの影を掻い潜って十六夜は再度接近し、今度はカウンター気味に放たれた男鹿の拳を防いだ。“火龍誕生祭”で戦った時に比べれば桁違いに力が増しているが、それでも力は十六夜の方が上である。十六夜は拳の威力にも唸ることなく乱打戦へと持ち込んだ。

 

「半月もしねぇうちに随分戦闘力が上がってんじゃねぇか‼︎ この巨大紋章、まだ使い慣れてねぇだろうに何時まで保つんだ⁉︎」

 

「少なくともてめぇらをぶっ飛ばすまでは保つから安心しな‼︎」

 

以前の男鹿ならば十六夜の攻撃を()なしていたが、今は不完全ながら受け止め、受け止めきれない場合は往なして渡り合っている。

そこへレティシアが右側から割って入り、槍を大上段に構えて振り下ろした。レヴィアタン戦では複数人が入り乱れていたため自重していた彼女であったが、今は色々と条件が違うのだ。

そんなレティシアの攻撃は十六夜に一歩退かれることで回避される。

 

「レティシア、割って入るんならお前も容赦しねぇぞ」

 

十六夜は一時的にレティシアへと標的を変えた。十六夜と男鹿の間に振り下ろされた槍を回避した分、二人の距離が開いて余裕が生まれたからだ。

そう判断して十六夜は躊躇することなくレティシアへと一歩踏み出す。

 

「なッーーー」

 

しかし踏み出した瞬間、十六夜はバランスを崩して前のめりに倒れそうになった。泥濘(ぬかるみ)に足を取られたわけではない。何かに躓いたのだ。

レティシアが振り下ろした槍でそのまま横殴りにしようとしているのに対し、十六夜は防御姿勢を取りつつ一瞬だけ足元に目を移して躓いたものを確認する。

 

 

 

そこでは小さな“蠅王紋(ゼブルスペル)”が自己主張するように浮かび上がっていた。

 

 

 

十六夜には恩恵を無効化するギフトがある。それは魔力とて例外ではない。しかし、無効化する=効かないというわけではないのだ。身体に対して直接作用する“縛紋”は効かないだろうが、紋章に足を引っ掛けるだけなら可能なのである。

だが、十六夜はレティシアに槍で殴り飛ばされながらも小さな引っ掛かりを覚えていた。

 

(……らしくねぇな。何かあんのか?)

 

十六夜から見た、というか誰から見ても男鹿はあんな小細工でサポートするような性格ではない。そう考えるとレティシアの割り込み方も主張が強かったように思える。普段のレティシアならば男鹿とは逆にサポートに徹するのではないだろうか。

と、姿勢を立て直しながら考えていた傍らで古市が吹っ飛んでいくのが視界の端に映った。十六夜が危惧していたように、ベルゼブブ相手に単独で戦い続けるには無理があったようだ。

 

「……やっぱ()めだ」

 

そんな、十六夜に聞こえるか聞こえないくらいの声量で男鹿の呟きが聞こえてくる。

 

「レティシア、お前はジャバウォックの相手をしとけ‼︎」

 

男鹿はそうレティシアに告げると、彼女に殴り飛ばされた十六夜と古市を殴り飛ばしたベルゼブブへ向かって走り出した。

 

「辰巳⁉︎ 待て、打ち合わせとーーーもう何を言っても無理か。あまり無茶はするなよ‼︎」

 

男鹿を止められないと判断すると、レティシアも古市へ向かって飛翔する。止まらない以上、レティシアが男鹿のために出来ることは可能な限り早く古市をリタイアさせるしかない。

高速で低空飛行していくレティシアは槍を腰だめに構え、既に殴り飛ばされた状態から立ち直っているジャバウォックへと一直線に突進する。

 

「ーーーお前も俺を楽しませてくれるのか?」

 

飛翔の推進力を合わせたレティシアの槍は、ジャバウォックによって片手で受け止められた。

それでも彼女は構わず押し通そうとしたのだが、掴まれている穂先から槍を持ち上げられて振り回されることとなる。

 

「くっ」

 

咄嗟に槍から手を離したレティシアは空中で姿勢を制御し、打撃性を付加した影を走らせながら距離を取る。

 

「フンッ」

 

ジャバウォックは身体を反らすだけで近距離からの襲撃を避け、距離を開けたレティシアに向けて槍を投げ返してから魔力を込めた掌を向けた。槍ごと彼女を吹き飛ばすつもりだ。

 

「……あ?」

 

しかし掌から魔力が放たれることはなかった。

訳が分からず訝しげに自身の手を見ているジャバウォックに対し、投げ返されただけの槍を受け止めてからレティシアは口を開く。

 

「無駄だ。辰巳の領域下にいる以上、辰巳以外の魔力は発露できない」

 

恐らく男鹿以上の魔力の持ち主でなければ魔力を発露できないだろう。まだ実戦経験が乏しいため確証はないが、少なくとも魔力を直接行使する魔界の悪魔は肉弾戦や武具でしか戦えなくなる。

だがレティシアの言葉を聞いてもジャバウォックはどうでも良さそうであった。

 

「出ないなら出ないで構わん。直接殴り倒せば済む話だ」

 

確かにジャバウォックの言う通りである。元々ジャバウォックは肉弾戦を得意としており、今のやり取りでレティシアの大まかな戦闘能力を把握したのだろう。

そしてレティシア自身も彼我の力量差を感じたはずだ。単純な戦闘力では敵わないということを。

 

「ーーー仕方ない。あまり()()は使いたくなかったのだが……」

 

何を思ったのか、レティシアは槍をギフトカードに仕舞って手ぶらとなった。

ジャバウォックは疑惑の視線をレティシアへと向けていたが、すぐに変化が起こる。

 

 

 

レティシアの背中。そこから彼女は黒い翼を展開しているのだが、その上からさらに()()()が展開されていった。

 

 

 

黒と白で二対四枚の翼を背負ったレティシアは、その場でゆっくりと浮き上がる。

そして次の瞬間にはジャバウォックの腹部へと足を深々と突き刺していた。

ジャバウォックとて幾ら速くても見えなかったわけではないが、急激な速度の変化に全く反応できなかったのだ。

 

「悪いが、これは私もまだ加減できない。全力で行くぞ」




対消滅エネルギーという単語をこの小説内では誰も使っていないので魔力増幅法と言っていましたが、味気ないので名称を付けました。

そしてレティシアの白翼は、原作で鷹宮の王臣No7.である月島零遠の“灰色の羅針盤(イリーガルルーレット)”と同列のものとなります。
何故に彼だけがあのような特殊技を会得していたかは未だに私には謎です。

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