子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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皆さん、明けましておめでとうございます‼︎
本当は大晦日に向けて書いていたのですが、新年一発目となりました。

サブタイは【後編】となっているのですが、男鹿・十六夜・ベルゼブブの戦闘はまだ終わりません。もう一つの戦闘に決着がつきます。

それではどうぞ‼︎



“乱地乱戦の宴”・最終決戦【後編】

レティシアの制止を無視して十六夜とベルゼブブに突っ込んだ男鹿は、まず近くにいた十六夜へと標的を定めた。

男鹿は走りながら速度を落とさず跳躍し、十六夜の頭部目掛けて左脚のハイキックを繰り出す。

 

「んなもん効くかよ‼︎」

 

そんな男鹿の蹴りを十六夜は片手で受け止め、そのまま腕を振るって弾き飛ばした。

弾き飛ばされた男鹿はすくざま空中で斜めに紋章を出して着地し、

 

 

 

落雷が男鹿を直撃した。

 

 

 

もちろん男鹿が高い位置にいたから偶然落ちた、というものではない。ベルゼブブが雷を操って落としたのである。魔力の発露ではなく“魔王の聖域(ゼブルサンクチュアリ)”の範囲外からの攻撃だったために落とせたのだろう。

複数人の敵が入り乱れて戦う中では弱いものから狙うのが道理。二人のやり取りを見てベルゼブブは男鹿の方が弱いと考えたようだ。それでなくとも十六夜には一度打ち消されているので、男鹿を雷で狙ったのは妥当な判断と思われる。

 

 

 

だが、その程度でやられるようならばここまで勝ち抜けるはずがない。

 

 

 

「〜〜〜ッ、があああぁぁぁあああ‼︎」

 

男鹿は雷の直撃を食らったにも関わらず、全身の皮膚を引き裂かれながらも真っ向から雷を受け止めて意識を保っていた。しかもその雷を放電させるようなことはなく、帯電させることで身体を覆うように紫電を迸らせている。

 

「ゼブルーーー」

 

そして次の瞬間にはベルゼブブの真上へと移動していた。明らかにこれまでの男鹿の速度を……いや、十六夜の速度すらも超えている。まさしく雷の速さだ。

 

「ーーーブラストォォッ‼︎」

 

その一撃も落雷と同等の凄まじいものであった。雷鳴を轟かせ、周囲の空気を焼き尽くしながらベルゼブブへと落ちていく。その一撃で帯電した全てを放電してしまったのか、男鹿の全身を迸っていた紫電が霧散していく。

しかしベルゼブブも然る者。落雷に匹敵する男鹿の一撃を、左腕を雷で焦がしながらも片手で防いでしまった。

そんな左腕を振り上げて“魔王の咆哮(ゼブルブラスト)”を防いだベルゼブブを見て、防御が薄くなった左側から回り込んで攻撃を仕掛ける十六夜も抜け目がないと言える。瞬時に懐に入り込み、その場で回転して遠心力を加えた後ろ回し蹴りを脇腹に叩き込んだ。

十六夜渾身の蹴りが初めてベルゼブブにクリーンヒットしたーーーように見えたが、彼の表情がそれを否定している。

 

(クソッ、読まれてたか)

 

蹴り抜いた十六夜の足に伝わる、人を蹴ったという感覚に違和感があった。脇腹に蹴りが入る寸前、ベルゼブブは蹴りの速度に合わせて自ら右側に跳ぶことで衝撃を可能な限り抑えたのだ。

即座にそれを理解した十六夜は受け身に回ったベルゼブブへと攻撃を繋げるチャンスだと考え追撃しようとしたが、攻撃に移ろうと防御への意識が薄れた瞬間を狙って紋章を蹴りながら高速落下してきた男鹿の踵落としをギリギリで防いだ。

踵落としを放った男鹿は先程と同じように弾き飛ばされることなく十六夜の腕を足場として跳躍し、再び空中で紋章へと着地してから一気に後退する。そして十六夜とベルゼブブの真上に位置する場所から外れると腕を頭上へ振り上げ、

 

「魔王光連殺ッ‼︎」

 

振り下ろすと同時に巨大紋章の輝きが増し、光の筋が連続して二人へと降り注いだ。しかも今回は第一予選の時とは異なり集中砲火である。

精密爆撃のごとく撃ち込まれた光の奔流が収まった後も巻き上げられた土砂が二人の姿を覆い隠していたが、雨風に晒されて土砂はすぐに晴れた。

 

「チッ……」

 

「意外と厄介ですね……」

 

姿を現した十六夜とベルゼブブは、重症ではないが多数の傷を負っていた。二人とも“魔王光連殺”が放たれたのを見て第一予選の光景から迎撃することを選んだのだが、見るのと体験するのでは別物であることとシチュエーションの違いから悪手となったのだ。

“魔王光連殺”は幾筋もの光線状の魔力を天空に輝く巨大紋章から放出する技である。これが第一予選のように広範囲へ一筋ずつ放たれていたならば迎撃という選択は正解であっただろう。

だが連続して重なる幾筋もの魔力が迎撃した魔力の一筋に隠れるように一直線上にあるため、続く魔力の光線に対する遠近感覚を狂わされたのだ。さらに視界を眩ませるように輝きを増した巨大紋章も迎撃のタイミングを狂わせる要因の一つである。

しかし同時に“魔王光連殺”の弱点もはっきりした。太い魔力の光線を上空から落とすという性質上、男鹿自身の周囲、特に今回のような真下は攻撃できないのだ。

男鹿は紋章から地上へと跳び降りながら二人に向けて悪態を吐く。

 

「厄介はこっちの台詞だ。あんだけぶち込んで食らったのは二・三発じゃねぇか」

 

十六夜とベルゼブブは遠近感覚・タイミングを狂わされた中、最初の方に放たれた一・二発を受けただけで残りの迎撃を合わせてきたのだ。

三人とも全身に傷を負ってはいるが、まだまだ戦闘の支障にはなりにくい小さなものばかりである。三人の激闘はまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

「ーーークククッ。全力で行く、か」

 

レティシアに蹴り飛ばされたジャバウォックは笑いながら起き上がった。どうやら大きなダメージは与えられなかったようだ。

 

「その白い翼、使いどころに注意しろよ?簡単に終わられたらつまらんからな」

 

「……言われなくても承知しているさ。そちらこそ私に攻撃を当てられるよう努力することだな」

 

ジャバウォックの抽象的な忠告に、レティシアも口角を上げて強気に言い返す。奥の手と言っても過言ではない彼女の白翼だが、その性能はピーキーなもので扱いが難しいのである。

レティシア自身が口にしていたようにこの白翼は()()()()()()()()()。ONかOFF、そして何よりも最高速度しか出せず直線でしか飛べないという制御できていない力なのだ。

考えてみれば当たり前のことだが、レティシアが王臣となったのは二週間前であり、そのうち王臣としての力を使用したのは“黒死斑の魔王”とのギフトゲーム中と“魔遊演闘祭”に向かうまでに男鹿と行った修行の五日間だけである。

その短期間で初めての魔力をコントロールし、他の恩恵や武具に魔力を通して実戦で使えるレベルまで仕上げたのは流石だと言えるだろう。だが修業中に突如発現した白翼をコントロールする時間まではなかったのだ。こればかりはどうしようもなかったのである。

レティシアは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 

「ーーー行くぞ‼︎」

 

白翼を羽ばたかせ、一直線にジャバウォックへ向かって飛翔する。その速度は優に音速を超えており、もしかすると第一宇宙速度にまで達しているかもしれない。

しかしジャバウォックも最初は無防備に一撃を受けてしまったものの、最高速度を知った今ではしっかりと見切った上で迎撃姿勢を取っていた。

 

「……ッ‼︎」

 

レティシアは迫る拳を前に白翼を止め、慣性で進む身体を黒翼で無理矢理に上方へと修正することでジャバウォックの拳は空を切る。

頭上を取ったレティシアは改めてギフトカードから槍を取り出し、白翼の爆発的な瞬間加速を伴って振り下ろした。

改めて槍を取り出すくらいなら仕舞う必要はなかったのではないかと思うかもしれないが、槍を持った状態では白翼を使用した際の空気抵抗で飛行姿勢が崩れてしまうのだ。槍を持って白翼の加速を行う場合、少しでも複雑な動きはできなくなる。

 

「ぐぅ……‼︎」

 

ジャバウォックは辛うじて両腕を重ねて槍を受け止めたが、白翼の推進力は黒翼の比ではない。黒翼の推進力で突進された時は片手でいなせていたのに、今は足腰に力を入れて地面に膝をつかないように耐えていた。

レティシアは瞬時に白翼から黒翼へと切り換えて姿勢を制御し、両腕を上げてガラ空きとなった腹部へと蹴りを放つ。

 

「そう何度も食らうか」

 

ジャバウォックは負荷の弱まった槍を片手で支えながら、その蹴りをもう片方の手で掴み取った。

今度は槍ではなく直接足を掴んでいるため簡単には抜け出せない。レティシアが抜け出そうと反撃するよりも早く、ジャバウォックは掴んでいる彼女の足を振り回して地面に叩きつけた。

 

「ガッ……⁉︎」

 

叩きつけられたレティシアは苦悶の表情を浮かべ、口からは強制的に空気が漏れた。その衝撃に思わず槍を手放してしまい、手の届かない遠くへと放り出してしまう。

だがそんなものはお構い無しに、ジャバウォックはさらにレティシアを振り回して再び地面へ叩きつけようとする。

 

「ハァッ‼︎」

 

レティシアは短く呼気を吐くと、叩きつけられる前に白翼を使用して力尽くで拘束を振りほどき、そのまま一気に上昇した。

泥濘(ぬかるみ)に叩きつけられて身体中泥塗れであったが、強い雨風に晒されて泥は少しずつ落ちていく。

そんな中、彼女は軽く息を整えながら今の攻防について考えていた。

 

(もう白翼での直線的な動きは通用しないか。肉弾戦も少々厳しい、となると……やはり勝つためには()()を狙うしかない)

 

頭の中でシミュレーションを終え、眼下にいるジャバウォックを見下ろした。

ジャバウォックも油断なく見上げており、二人の視線は自ずと交差する。

 

「ーーー来い」

 

ジャバウォックの呟きが雨風の音で聞こえるかは疑問だったが、レティシアには確かに聞こえた。

その呟きに応えるようにして黒翼を羽ばたかせ急降下する。白翼の速度が通用しない以上、突っ込むスピードを速くする必要はない。ジャバウォックの指摘通り、使いどころを見極めることが大事なのだ。

さらに今度は影を幾筋にも分かれさせて身体の周囲に漂わせる。腕二本と足二本で肉弾戦に勝てないのならば、それを補えるだけの手数を増やせばいいと考えてレティシアは影を展開した。

二人の距離が近付き、再び激しい攻防が繰り広げられる。

 

ジャバウォックの拳や蹴りが放たれるのに対して、レティシアは瞬間的に白翼を発動して紙一重で躱していく。

攻撃を躱したレティシアは一つ一つの打撃に威力を乗せるべくすぐさま黒翼で姿勢を整えて反撃に移るが、ジャバウォックはその翼の切り換えから反撃するまでの短い間に攻撃に使った手足を引き戻して迎え撃っていた。

白翼の速度で回避するレティシアを捕らえるべく隙を見て彼女の手足を掴み取ろうとするジャバウォックだったが、その隙を埋めるようにしてレティシアは打撃性を付加した影を走らせて襲い掛からせる。

 

そういったやり取りが数手、十数手と行われていくが、もちろん二人とも全ての攻撃を完全に凌げているわけではない。

やり取りの開始となる初撃を紙一重で躱すレティシアも単発ではなくコンビネーションで来られた場合には防御もしくは被弾することがあれば、翼を切り換えて攻勢に出られる前に迎撃姿勢を整えていたジャバウォックも威力を削って速度を重視した打撃や影を併用された場合には迎撃が間に合わないことがあった。

 

それでも互いに決定打となる一撃を与えられることはなく一種の均衡状態を保っていたのだが、このまま続けば肉弾戦を得意とするジャバウォックにいずれ軍配が上がる可能性の方が高い。

加えて今はまだ大丈夫なものの、もし男鹿がやられて“魔王の聖域(ゼブルサンクチュアリ)”が解除されれば王臣紋による魔力供給がなくなりレティシアの勝ち目は消えることとなる。

 

(長引くだけ勝機は薄くなる……次の打ち込みに勝負を賭ける‼︎)

 

レティシアはジャバウォックから一度距離を取り、間を置かずに白翼を発動して突っ込んだ。これまで黒翼の速度で突っ込んでいたため急激な速度変化で隙を突けるかもとレティシアは一瞬考えたが、やはり同じ手がそう何度も通用する相手ではなかった。ジャバウォックはこれまでと変わらずカウンターの一撃を繰り出してくる。

 

その一撃を避けるべくレティシアは白翼を止めーーー()()()()()()()()()()()()()

 

超高速で一撃を躱してずれた飛行進路を、さらに白翼の停止と発動を繰り返して修正することでジャバウォックへと突っ込んでいく。

ジャバウォックは今度こそ本当に虚を突かれたようで、完全な無防備を晒すこととなった。

 

今までレティシアが白翼の連続使用をしなかったのは、この一瞬を作り出すための布石……というわけではない。もちろんそれもあるが、それだけではなかった。最初に述べたように、この白翼はまだコントロールできていない力である。連続使用したことそのものがこれまでになく、はっきりと言って彼女にもできる確証はなかったのだ。

それでもレティシアがそれを実行に移したのは必要に迫られたからであり、さらには実戦を通して白翼の使用に慣れてきたからでもあった。“実戦での経験こそが最も修行になる”とはよく言われることだが、彼女もまたジャバウォックとの戦闘の最中(さなか)に成長していたのである。

 

しかしそれは切り換えができるかどうかの話であって、姿勢を整えられた上で有効な攻撃を放てるかどうかは別問題だ。今も白翼の連続使用に振り回されて姿勢が崩れており、とても威力を乗せた打撃を放てるようには思えない。

それでも構わずレティシアは拳ーーーではなく、()()を振りかぶった。

それは力まずに速さを追求しただけの一撃であり、姿勢が整っていようとダメージを与えられない、当てることだけを考えて威力を無視した一撃である。

 

異様さを感じたジャバウォックは遅れながらも防御を取ろうとしたが、機先を制するようにレティシアが影をジャバウォックの両腕に集中して叩き込むことで防御すらさせない。

確実に当てられる状況を整えたレティシアは強烈な平手打ちを食らわせーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぶべらッ⁉︎」

 

簡易契約が切れた証拠とでも言うべきか、ジャバウォックからは考えられないような情けない声が発せられる。

 

「ちょ、レティシアさん‼︎ ティッシュを狙うのは反則ですって‼︎」

 

「勝負事で弱点を狙うのは当然だろう」

 

完全に古市の口調と雰囲気に戻っているのを確認したレティシアは翼と影を引っ込めた。

 

「さて、もう勝敗は決まったようなものだ。大人しく降参するならばこれ以上は何もしないが……どうする?」

 

「こ、降参しなかったら何されるんですか?」

 

「なに、コミュニティの同士相手に酷いことはしないさ。気絶させるだけだ」

 

怖々と訊いてくる古市を安心させるように、レティシアは表情を和らげながら平手打ちで殴り飛ばした距離を詰めていく。

徐々に詰められた距離は遂になくなり、レティシアは尻餅を着いたままの古市を見下ろす形となった。

視線で返事を促された古市は、観念して溜息を吐きながらその言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降参しません。()()の勝ちですから」

 

 

 

古市の予想だにしない答えを聞いてレティシアが思考を巡らせる前に、彼女の首筋へと鋭い衝撃が加えられた。

 

「なッ……⁉︎ いったい、何……が……」

 

レティシアの意識が遠のいていく中、後ろから誰かに支えられたのを感じながら彼女は気を失った。

 

 

 

 

 

 

「危なかったねぇ、古市君」

 

「いやもう本当に。ジャバウォックとの契約を切られた時は焦りましたよ」

 

レティシアの後ろから首筋に衝撃を加えた人物ーーーレヴィはぐったりとしている彼女の身体を支えながら古市と会話していた。

レティシアの敗因はただ一つ、古市がレヴィと契約しているという情報を知らなかったことだ。そのことを知っていればあそこまで無防備に接近することはなかっただろう。その結果レヴィが自身の後ろで実体化するのを見逃すこともなかったはずである。

レティシアの負けが判断されたのか、レヴィの腕の中からその姿が搔き消えた。ベルフェゴールによって会場へと転送されたようだ。

 

「私もちゃんと戦いたかったけど、この空間じゃ満足に戦えないからなぁ」

 

レヴィは手を翳して空中から地上を照らす巨大紋章を見上げる。

彼女の戦闘は魔力攻撃が主であり、肉弾戦はあまり得意とは言えない。そんな彼女が魔力を発露できない空間で戦うのは不利でしかなかった。

 

「ま、こっちの戦いは終わったんだし後はゆっくり観戦といきますか」

 

「レヴィさんが不利な状況であっちに参戦するのもなんですしねぇ」

 

二人して向ける視線の先には、今大会の最強を決めるための激闘が続いている。

その行く末を見届けるべく、古市とレヴィは決着の時を待つことにしたのだった。




レティシアと古市(ジャバウォック)・レヴィの戦いはこれにて決着!
レティシアは勝負に勝って試合に負けた、という感じですね。

残る第三章の予定は、次話で三人の決着・次々話でエピローグ、となっています。
ただ、学校が始まってしまうので次の投稿はもしかしたら一ヶ月以内を越えてしまうかもしれません……。

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