子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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うわぁ、前の投稿から三ヶ月以上も経ってるよ……ホントお待たせしました。
もう少し早く投稿できると思ってたんですけどね、ちょっとずつ書き溜めていたところをひと段落したんでまとめて書き上げました。

それではどうぞ‼︎


アスタロトの思惑

フルーレティと別れてアスタロトに連れられてきた男鹿が辿り着いたのは、森の中に開けた畑のような場所であった。それも境界門を使用しての移動であったため、箱庭のどの辺りにいるのかすらよく分かっていない。

 

「畑……にしちゃあ荒れてんな。もう使ってねぇのか?」

 

農耕など全く詳しくない男鹿だが、目の前の畑は雑草がぼうぼうと生えていて大きな動物の足跡のようなものも残されており、素人目にも放棄された畑であろうことが分かる。

 

「そうや。色々あって今は使わんくなった畑なんやけど、男鹿君にこの畑を再利用できるよう耕してもらおう思ってな」

 

「ふーん。なんか新しく野菜でも育てんのか?」

 

「ま、用途はあとで教えるとして。早速ギフトゲームに移ろうか」

 

アスタロトは男鹿への説明を省くと、虚空から現れた羊皮紙につらつらと今回のギフトゲームについての詳細を記載していく。

 

 

【ギフトゲーム名 “テリトリーの開拓”

・プレイヤー一覧:男鹿辰巳、カイゼル・デ・エンペラーナ・ベルゼバブ四世

 

・ゲームマスター:アスタロト

 

・クリア条件:畑を再利用できる形に耕すこと。

 

・敗北条件:上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

“七つの罪源”印】

 

 

「これは一つの契約書みたいなもんや。男鹿君が仕事をしてくれたら、僕は報酬を与えるっていうな」

 

ギフトゲームとは言ってしまえば箱庭の法そのものだ。箱庭においてこれ以上の契約は存在し得ない、絶対遵守の力である。

ギフトゲーム以外での口約束やただの契約書であれば、幾らでも反故にする方法はあるだろう。“七つの罪源”における参謀役を務めるアスタロトは、コミュニティを不利に陥れる可能性のあるそれらを未然に防ぐため、コミュニティの発展当初から約束事や話し合いにギフトゲームを利用することが多かった。

 

「なぁ、この“再利用できる形に”ってのは具体的にどんなことをすりゃいいんだ?」

 

先程も言ったが男鹿には農耕の知識などほとんどない。仮に“苦土石灰(くどせっかい)を撒いて土壌の酸性値をコントロールしつつ堆肥や肥料を加え、東西方向へと畝を長く作っていってください”、などと菜園作りにとって一般的なことを言われても彼にはチンプンカンプンである。

 

「あぁ、別に小難しいことはせんでええよ。あっちの納屋に鍬とかの道具があるから、雑草とか残ってる作物諸共に土を柔らかく掘り返しといて。あ、作物とか欲しかったら残ってるやつ好きに収穫してもええから」

 

そう言ってアスタロトが指し示す場所には、畑とは別に柵で覆われた木製の小屋があった。今言ったように農耕の道具を保管したり、当時は収穫物を保管したりする納屋の役割を持っていたのだろう。

ただ土を掘り返すだけの力仕事なので確かに男鹿の要望通り頭は使わないのだろうが、だからといって男鹿は楽観する気には全くなれなかった。何故かというと、

 

「……一応訊くけどよ、この畑のデカさは?」

 

「なぁに、たったの二五〇〇m2だけや。機械とか使(つこ)うたらあっという間やで」

 

「……機械を使わずにやるには面倒そうだってのは分かった」

 

端的に言って一人で道具を使って人力のみで耕すには広すぎるのだ。アスタロトの言うようにトラクターなどが使えれば別だが、小さな学校のグラウンド程度はある畑を人力で耕そうと思えば単純に労力がいる。

男鹿は溜め息を吐きつつ気持ちを切り替え、取り敢えず指示された納屋へと農具を取りに行くことにした。納屋の中には鍬や鎌、鋤と言った基本的な農具だけでなく柵などを整備する掛け矢など様々な畑を作るための道具はあったものの、やはりと言うべきか全て人力の道具である。

 

「う〜ん……まぁこの振り下ろすやつでいいだろ」

 

と言って持ち出したのは無難に鍬であった。まぁ土壌を掘り返すだけなのだから鍬で正解なのだが、男鹿としては畑仕事=鍬という風に覚えていたものを連想しただけである。道具の効率や使い分けなどは何も考えていない。

鍬を持って出てきた男鹿にアスタロトは笑みを浮かべながら言う。

 

「じゃ、早速お願いするわ。僕はその辺におるからなんか訊きたいことがあったら呼んでな」

 

アスタロトはそう言いながら畑から離れて森の中へと姿を消していった。訊きたいことがあったら呼べと言っていることから遠くには行っていないのだろうが、男鹿には訊きたいことなど特にないので居なくても問題はない。

男鹿は柵を作っている支柱の一つへと上着を掛け、袖をまくりながら畑仕事に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ようやく半分ってとこだな。ちょっと休憩するか」

 

「アイ」

 

畑仕事を開始してから数時間。知識や技術などいらない力仕事というだけあって男鹿一人でも順調に進んでいた。最初は慣れない鍬の使用で調子が出なかったものの、一辺五十mの一列が終わる頃には慣れてきて速度も上がっていった。この調子であれば残る半分もさらに早く終わることだろう。

鍬をその場に置き、畑仕事でかいた汗を袖で軽く拭う。少し喉も渇いてきたので近くに川でもないかアスタロトに訊こうと辺りを見回したところで、男鹿は自分に近づいてくる存在に気付いた。

 

「なんだあいつら?ゴリラ……いや、猿か?」

 

それは両腕が異常に発達した猿のような生き物であり、身体は茶色い毛ではなく赤茶色の鱗で覆われている。大きさは人間よりも一回り大きく、見た限りでは五体の群れで行動していたようだ。

 

「……あぁ、なるほど。あいつらが畑のもんを食い漁ってたんだな、多分」

 

此処に連れて来られた時に動物の足跡のようなものもあったことだし、連想するのは男鹿でも難しくなかった。その猿達は威嚇するように唸り声を上げながらジリジリと距離を詰めてくる。

 

「おら、あっち行け。仕事の邪魔すんじゃねぇよ」

 

『……お前が今回の守り手でいいんだな?』

 

シッシッ、と手で追い払う動作をしながら睨みを利かせると、意外にも威嚇していた猿達は大人しくなり話し掛けてきた。言っている意味は男鹿にはよく分からなかったが、話が通じるのであれば手間が省けるとばかりに言葉を返す。

 

「なんだ、話せんのか。だったら話は早ぇ。俺はこの畑を掘り返すのに忙しいから何処(どっ)か行け」

 

『……何も聞かされていないのか?まぁいい』

 

何やら聞き取れない大きさの声でブツブツと呟いている猿の一体を見つめながら返事を待っていると、呟きを止めた猿が男鹿に向けて片腕を突き出してきて、

 

 

 

『お前が守り手で間違いなさそうだ』

 

 

 

爆音とともに男鹿の身体が吹き飛ばされた。

 

「ガッ……⁉︎」

 

ただの猿と思っていた男鹿にとっては(まさ)に不意を突かれる形となり、油断していたこともあって何をされたのかすら分からなかった。

吹き飛ばされた男鹿の身体は畑から楽々と飛び出し、木を一本へし折った後に二本目の木と衝突して漸く動きを止める。

 

「〜〜〜ッ、んだよ今のは」

 

木に打ち付けられた背中ではなく何時の間にか衝撃が入っていた腹部を摩りながら立ち上がった男鹿の目線の先には、先程まで自分がいた位置に拳を突き出した形で立っている猿がいた。どうやら高速で移動したあの猿に腹部を殴られたらしい。

そうやって分析していられたのも束の間。後ろに残っていた四体の猿も片腕を此方に突き出してきたので、男鹿は否応なしに戦闘態勢を整えて迎え撃たなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

「……お、漸く始まったか」

 

畑から少し離れた場所にある比較的高い木の上、そこからアスタロトは男鹿と猿ーーー龍猿(ドラゴンエイプ)の戦闘を窺っていた。窺っていた(・・・・・)、ということはつまり、この戦闘は起こるべくして起こったということだ。

そもそものギフトゲーム名、“テリトリーの開拓”で表記されている“テリトリー”とは、“領土・領地”という意味合いではなく“縄張り”という意味合いで使用されている。もっと言えば、畑を耕すだけのギフトゲームで敗北条件など設定する必要はない。

このギフトゲームを仕組んだアスタロトは、当然ながら龍猿の存在を認知している。でなければこのようなルールは作れない。では何故男鹿に詳しい説明もせずに“畑を耕せ”としか言わなかったのかというと……ただ単に男鹿の実力を生で見たかったからである。深い理由など特にない。

強いて挙げるならば、大魔王の関係者ということから“七つの罪源”と関係を持つ可能性が高い男鹿の実力を知っておきたかったというところか。自分達が動くことで不利益を招くような状況などに陥った場合、少しでも関係性があって協力を仰げる強者が外部にいる方が都合がいい。コミュニティがどのような状況下に置かれても大丈夫なように対応策を練ってコネクションを築いておくのも参謀の務めだ。

ただし男鹿の実力自体は“魔遊演闘祭”の決勝戦でベルゼブブ相手に証明しているし、男鹿だけでなく“魔遊演闘祭”に招待された“ノーネーム”とのコネクションもある程度築けていると言ってもいい。それでも改めて確認しよう思ったのは、実際に不測の事態に陥った場合の対応も見ておきたかったからだ。不意打ちでやられる程度ならそれまで、ということである。

 

「龍猿一体やったら男鹿君の方が強いやろうけど、複数の龍猿相手にどう戦いを展開していくかは楽しみやな」

 

アスタロトは“魔遊演闘祭”の戦闘から大まかな男鹿の実力を把握しているため、その上で龍猿との戦力差を冷静に分析していた。

龍猿は龍の因子による堅牢な鱗から生み出される耐久力、猿の因子による俊敏で身軽な身のこなし、加えて龍翼の代わりに得た独自の推進力発生器官は肉弾戦にこそ真価を発揮する。何よりも森の中という環境からして龍猿の得意フィールドだ。単体の戦闘力が多少劣っていたとしても簡単に補えるだろう。その上で数も揃っている。

圧倒的に龍猿有利な条件が揃っている森の戦場で、男鹿と龍猿の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

先程の不意打ちとは違い戦闘態勢を整えて龍猿の一挙手一投足に注意していた男鹿は、龍猿が高速移動して攻撃に移行するまでの変化を正確に捉えることが出来ていた。龍猿達の腕から薄く湯気のようなものが漏れ出たかと思えば、一瞬で爆発的な量の蒸気が噴き出してまるでジェットエンジンのようにその身体を突き動かしていたのだ。

男鹿は腕を突き出して飛んできた一体を躱し、まずは攻撃に転じるのではなく残る四体に注意を払って様子を見ることにする。連続して攻めてくるかと思い警戒しての行動だったのだが、最初に突っ込んできた龍猿以外は男鹿を囲むようにして周囲に展開していた。

 

(こいつら、妙に戦闘慣れしてやがんな……)

 

ただ闇雲に突っ込んでくるだけならばそれぞれ返り討ちにする男鹿なのだが、龍猿達は先に男鹿を取り囲むことで動きを制しつつ連携の取りやすい陣形を作り上げている。ただ襲い掛かる獣ではなく、明らかに多対一を想定した戦い方だ。

 

「何だってんだよ、いきなり……。よく分からねぇが、取り敢えずぶっ飛ばす‼︎」

 

深く考えることを止めた男鹿は、一番近くにいた龍猿目掛けて駆け出した。囲まれたからといって全体を警戒するあまり守勢に回ってしまえば相手の思うツボだ。それよりも各個撃破して包囲網を崩す方が優先である。

瞬く間に龍猿の一体へと肉薄すると、不意打ちのお返しとばかりに容赦なく拳を振るった。龍猿の得意な森での戦闘だけあって跳躍して木の上へと躱されたが、男鹿は振るった拳と反対の手に雷電を纏わせてさらに追撃を掛ける。

 

魔王の咆哮(ゼブルブラスト)ッ……‼︎」

 

龍猿が跳躍して拳を躱した直後、空中で身動きの取れない龍猿へと狙いを定めて雷撃を放つ。だが普通は身動きの取れない空中で龍猿は片腕を横に突き出し、その腕から蒸気を噴出させることで方向転換して雷撃も躱した。

その間に他の龍猿も黙っているいるわけがなく、斜め後ろから龍猿の一体が迫ってくる。男鹿は身体を回転させながら肘打ちで推進力を発生させている腕を弾いて逸らし、そのまま遠心力を利用して胴体に蹴りを叩き込んだ。

 

「んだよ。随分硬ぇじゃねぇか、っと‼︎」

 

間断なく仕掛けてきた別の龍猿の攻撃を避けつつ、男鹿は蹴り飛ばした龍猿を見て言葉を漏らす。確実に蹴りを入れたはずだが、龍猿は受け身を取ると即座に体勢を立て直していた。どうやらもっと魔力を高めなければただの蹴りではあまりダメージを与えられないらしい。

現在対峙している龍猿の攻撃の隙間を縫って反撃するが、龍猿は発達した腕を盾のように構えながら攻撃を受けつつ後退していく。男鹿がそれを逃すまいと追い縋ろうとしたところで、他の龍猿が上から襲い掛かった。蒸気の噴出音を轟かせながら高速で落下してくる様はまるで隕石のようであり、直撃こそしなかったものの墜落した地面を破壊して粉塵を巻き上げる。

 

「チッ」

 

巻き上げた粉塵は男鹿の視界を遮り、龍猿達の姿を覆い隠してしまった。視界を確保するべく粉塵から抜け出してもよかったが、周囲を囲まれている現状ではどの方向であっても抜け出した瞬間を狙われてしまうだろう。しかし視界を遮られて姿を見失っているのは龍猿達も同じはずだ。ならば下手に動くよりも粉塵が晴れるのを待った方が先手を打たれることもなく堅実である。

そう思って無駄に動かず待ちの構えを取っていた男鹿だったが、微かな風の不自然な流れを粉塵の動きから捉えて振り向けば龍猿が拳を振りかぶっている姿が目に入った。

 

「ッ‼︎」

 

龍猿は視覚だけではなく嗅覚も頼りに男鹿の位置を特定したのだが、気配を消して蒸気を噴出させずに忍び寄った龍猿の拳は蒸気の推進力を得ていない分だけ威力も速度も落ちている。咄嗟の反応ではあったが行動できた男鹿は、身体を捻って拳を受け止めると足腰に力を入れて踏ん張った。

衝撃を受け切ったところで腕を掴んで振り回して地面に叩きつけてやる、そう考えながら衝撃に堪えていたところで拳を接触させた状態から蒸気の爆発が引き起こされた。

予想外の力が加えられた男鹿は堪え切れずに足が宙に浮き、蒸気の推進力そのままに吹き飛ばされてしまう。その勢いで粉塵から弾き出された男鹿だったが、そこで待ち構えていた龍猿の一体に着地する間もなく打ち上げられた。

 

「グッ⁉︎」

 

碌に防御もできず龍猿達の連携された攻撃を受けた男鹿は、抵抗もなくされるがままに空中に投げ出される。

しかし龍猿達の攻撃はまだ終わらない。男鹿が投げ出された先には両手を組み合わせて振り上げている龍猿の姿があり、タイミング良く振り下ろされた両手で思いっきり地面に叩きつけられ再び粉塵を巻き上げた。

 

『……やったか?』

 

戦闘中は言葉を発することもなく集中していた龍猿達だったが、確かな手応えを感じて呟くように仲間との確認を取る。確実に手傷は負わせただろうが、だからと言って彼らも男鹿がこの程度で終わる相手だと過小評価している様子はない。この短時間のやり取りでただの人間ではないことは十分に理解していたからだ。

 

「ーーーてめぇら、調子に乗ってんじゃねぇぞ」

 

その評価を裏付けるかのように粉塵の中から響いてきた声を聞き、龍猿達は改めて戦闘体勢を整えた。

やがて粉塵が晴れて姿を現した男鹿は頭から叩き落とされたために頭部から血を流し、何故かスキットルのような水筒を口元に咥えている。龍猿達から見ればそれだけの変化だが、男鹿から発せられる圧力が明らかに強くなっているのを彼らは肌で感じていた。

 

「こっちは仕事の続きをしなくちゃなんねぇんだ。早ぇところ終わらせんぞ」

 

さらに魔力を高める男鹿の圧力を受けた龍猿達は、先程以上に気を引き締めて立ちはだかる相手を倒すべく戦闘を再開した。




龍猿は他の漫画から幻獣のモデルとして使わせていただきましたが、知っている人は何人くらいいるんですかね?

次回の投稿ですが、夏の長期休暇を使って八月中にもう一回くらいは投稿したいとは考えているものの、休み明けも忙しいのでどうなるかは未定です。
申し訳ありませんが、これまで通り気長に待っていただけたらと思います。

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