今回はみんなの戦果報告、男鹿の手に入れた“神壌土”の説明……ではありますが、ダラダラと解説するのもアレなのでパパッと行かせてもらいます‼︎
それではどうぞ‼︎
倒した龍猿達も叩き起こして全員で畑仕事を再開した男鹿は、戦闘前に数時間で半分しか進まなかったところを一時間程度で終わらせた。それでも朝から北側へと向かって東側に帰って来たのは昼過ぎである。
腹を空かしながらも漸く本拠に帰ってきた男鹿を出迎えたのは、玄関前で仕事をしていたレティシアであった。
「お帰り。随分と汚れているな。風呂の準備をするから昼食の前に入ってくるといい。服も洗濯するーーー辰巳、微かに血の匂いがしているが怪我をしたのか?」
男鹿の姿を見て苦笑気味に話し掛けていたレティシアの表情が一転、心配そうに見つめる眼差しへと変化する。龍猿にやられた頭部の出血は洗い流していたが、戦闘で動き回って血が飛び散り僅かに匂いが残っていたのだろう。吸血鬼である彼女は特に血の匂いには敏感であった。
「別に大した傷じゃねぇよ。もう血も止まってるしな」
出血直後や戦闘中は止血する暇もなかったが、龍猿を降した後に近くの水場へとアスタロトに案内してもらい、血やら汗やらを洗い流してタオルで出血部位を押さえておけばすぐに出血は収まった。頭部の怪我は派手に血が流れやすいものの、すぐに収まった辺り本当に大した怪我ではなかったのだろう。
「……まぁ大事に至らなかったのなら良かったよ。それで、ゲームの期日は明日だが戦果は得られたのか?」
レティシアも微かにしか血の匂いを感じ取れなかったため、過度に心配する必要はないと考えて別の話題に切り替えた。怪我もそうだが、収穫祭参加を賭けたギフトゲームで男鹿の戦果が芳しくないことも気にはなっていたのだ。
「おう、なんか凄そうなのは手に入ったぞ。俺にはあんまよく分かんねぇけど」
「そうか、では風呂の後にでも詳しく聞かせてもらうとしよう。どうやら汗も掻いたようだし早く流してくるといい」
「あぁ、そうさせてもらうわ」
風呂の準備をレティシアに任せて一旦別れ、男鹿は新しい着替えを取りに自室へと戻る。準備自体はすぐに終わるとのことだったので着替えを持って浴場へ向かっていると、その途中で玄関の方に歩みを進める耀と
「あ、辰巳も帰ってたんだ。今帰ったとこ?」
「そういうお前は今からまた出掛けんのか?朝も出掛けてたろ」
「うん。収穫祭には全日参加したいから、少しでも多く戦果を挙げないと」
普段からあまり感情を表へと出さない耀にしては随分とやる気に満ちた言葉である。何が彼女をそうさせるのかは知らないが、どうしても収穫祭に参加したいようだ。
「ふーん。ま、頑張れよ」
しかし考えたところで男鹿にその理由が分かるわけもない。男鹿は会話もそこそこに切り上げて再び浴場へと歩みを進めるのだった。
男鹿と擦れ違うように本拠から出てきた耀は、その際に気になったことを思い返していた。
(……辰巳から血の匂いがした。それだけ危険なギフトゲームに参加してたってことなのかな?)
レティシアに血の匂いを嗅ぎ取ることができたのだから、さらに五感の鋭い耀であれば同じように嗅ぎ取れても不思議ではない。血の匂いがしたからといって危険だったとは限らないが、怪我をする可能性が高い大きなギフトゲームに参加していた可能性は高いと推測していた。
(ーーー大丈夫。私だって今回は本当に頑張った。辰巳にも、他の誰にも負けない)
耀は現時点での実力において男鹿に劣っていることを自覚しているーーーというより主力陣と比較して自分を過小評価している節があるものの、今の彼女の瞳には何時になく強い意志が宿っている。
その意志を表すかのように期日ギリギリまで耀は戦果を挙げるべく街へと繰り出していく。
★
翌日の昼食を取り終えた後、収穫祭に滞在する日数を決めるゲームに参加していた一同で戦果報告のために大広間で集まっていた。やはり鷹宮は参加する気がなかったのか姿が見えず、黒ウサギも“サウザンドアイズ”へと出向いているためこの場にはいない。
勝敗を審査するのはゲームに参加していないジンとレティシアであり、報告を受けているそれぞれの戦果を口頭で述べていく。ただし十六夜も男鹿同様にギフトゲームの参加を拒否され続けて先程なんとかクリアしてきたばかりなので、まだ戦果を報告しておらず彼を除いた戦果の発表となる。
まずは飛鳥の戦果だが、牧畜を飼育するための土地の整備と山羊十頭を手に入れたそうだ。派手ではないが生活を成り立たせて豊かな日常を送っていくためには重要な戦果だと言える。
次に古市&レヴィの戦果だが、契約関係なのもあって二人で取り組み、新たな水樹を手に入れて水路の拡張を行っていた。箱庭に来て初日に手に入れた水樹は屋敷と別館に直通している水路しか満たしていなかったので、これから必要になる農園区へと水路を繋げて田園を整えたのである。
さらにヒルダの戦果だが、今回のゲームの発端とも言える“長期間の主力不在”という問題を受けて主力陣と年長組数人分の通信機を魔界から取り寄せていた。日常的にも利便性は高く、何より魔王との戦いや本拠の防衛が儘ならなくなった際に救援を求めることができるのは大きい。
続いて耀の戦果だが、なんと彼女は“ウィル・オ・ウィスプ”主催のゲームに招待されて炎を蓄積できる巨大キャンドルホルダーを無償発注したそうだ。それに伴って本拠内で炎と熱を恒久的に使えるようになり、炎を使う消耗品や労力も必要なくなった。さらにその労力をそのまま農園区に割くことができるため、負担なく今後のコミュニティ拡大を進めることもできる。
最後に男鹿の戦果だが、“七つの罪源”に乗り込んで農作物の成長を促進させることのできる“神壌土”を獲得していた。その促進比率は農作物次第で数倍にも昇り、かつ質も落ちるどころか向上するという土壌の中では箱庭でも一級品の代物である。飛鳥や古市が整備した農園区とは区別し、特殊栽培の特区専用にして霊草や霊樹の量産化を狙ってもいいかもしれない。農園区における使用効果は絶大だ。
報告されている戦果を全て聞いた十六夜は、一同の顔を見回してニヤリと笑う。
「いや、意外だったぜ。金銭を賭けた小規模のゲームが多い七桁で、中々大きい戦果を挙げたみたいじゃねぇか。ヒルダも外界から取り寄せるとは考えたな」
「別にギフトゲームで戦果を挙げなければならないというルールはなかったからな」
「それで?かなり上から目線だけれど、十六夜君はどんな戦果を挙げたのかしら?」
そんな十六夜に飛鳥は鋭い視線を向けた。その視線を受けた十六夜も、先ほどクリアしたばかりでまだ受け取っていない戦果を取りに行くため席から立ち上がろうとし、
ガチャ、と大広間の扉が開かれた。
十六夜は立ち上がろうとした身体を止めて開いた扉へと目をやり、十六夜以外の一同も誰が入ってきたのかと扉の方を見る。扉の前には姿の見えなかった鷹宮が立っており、全員の視線を集めていることなど微塵も気にしていない様子でスタスタと歩いてくる。
「忍さん、どうかしましたか?」
「戦果を持ってきた。特に細かい期限は決めていなかったはずだが」
ジンが入ってきた鷹宮に問い掛けたのだが、どうやら彼も戦果を挙げてきたようだ。確かに十六夜は“前夜祭まで”と期日しか決めていなかった。
「へぇ、鷹宮も参戦か。興味ないっつってたのにどういう心境の変化だ?」
「別に何だっていいだろう。いつでも参加していいと言ったのはお前だ」
十六夜の言葉を聞き流しながら鷹宮が懐から取り出したのは、掌大の青いクリスタル。昼間だからよく分からないが薄っすらと光を放っており、透き通っているように見えるが中は水のような何かで満たされている。
「綺麗な石ね……」
「これは?」
机に置かれたクリスタルを見た飛鳥は感想を零し、耀も彼女の隣から覗き込みつつ鷹宮に訊く。一見すると何の変哲もないクリスタルだが、戦果と言って出してきたものがただのクリスタルなわけがない。耀の質問に鷹宮は淡々と答えた。
「“塊魂石”。龍の角を媒体にして魂の欠片を注ぎ込んだ代物だ。十二時間以内であれば死者を蘇生させることができる。肉体が残っていなければ使用できないが、同時に肉体の損傷も全快だ」
あっけらかんと言われた鷹宮の説明に全員が唖然とし、改めて机の上に置かれた“塊魂石”に注目する。龍の角自体そう簡単に手に入れられるものではないが、死者蘇生のギフトともなると希少価値は桁違いだ。
「要するにこの石っころは“世界樹の葉”っていうことか?」
「“世界樹の葉”?北欧神話に登場する世界樹のことか?あれに蘇生薬となるような伝承はなかった気がするが……」
「レティシアさん、ゲームのアイテムなんで深読みしなくて大丈夫ですよ」
若干どうでもいい会話が繰り広げられたものの、全員の“塊魂石”への興味は尽きない。箱庭のルールによって消滅後に再召喚されたペストという実例はあるが、そのレベルの奇跡でなければ死者を蘇らせることは難しいのだ。
「それで、今の順位はどうなっている?」
色々と聞きたそうにしている一同を無視して鷹宮は話を進める。それによって話す気はないのだろうと短い付き合いで悟った一同は、一先ず“塊魂石”の話は先送りにすることにした。話す時は話す、話さない時は話さない。この彼の対応にも慣れたものだ。代わりに十六夜が鷹宮の疑問へと返す。
「俺の戦果報告待ちだ。今から受け取りに行くぜ」
「……何処へだ?」
「“サウザンドアイズ”にさ。黒ウサギも向かっているなら丁度いい。主要メンバーには全員聞いておいて欲しい話だからな」
含みのある十六夜の言葉に鷹宮以外も首を傾げる。その様子を眺めながら十六夜は今度こそ椅子から立ち上がり、それに続く形で立ち上がった一同も大広間を後にして“サウザンドアイズ”の支店へと向かうことにした。
★
噴水広場を抜け、都市部に流れている水路の橋を越えて“サウザンドアイズ”の支店に向かう一同。辿り着いた店先ではいつもの女性店員と葵が店前の掃除をしており、十六夜達の顔を見た女性店員は嫌そうな顔をしていた。
「……また貴方達ですか」
「あら、みんなで来るなんて珍しいわね。今日はどうしたの?」
嫌そうな顔をしている女性店員に代わって葵が応対する。“サウザンドアイズ”で働いている葵も“ノーネーム”お断りの規則は知っているが、彼らとは知らない仲ではないし白夜叉の一声でどうせ通されるのだからと要件を訊いた。
十六夜は要件を伝えて白夜叉にも話を通していることを伝える。それを確認するために葵が店内に戻ろうとしたところで店内から白夜叉の声が掛かり、入店許可を得た一同は暖簾をくぐって店内に入った。
いつものように中庭から座敷に向かった一同だったが、障子の向こうから聞こえるあられもない女性の声に足を止める。
聞き慣れた黒ウサギの声と馴染みのない女性の声。二人分の悲痛な声が響き渡る中、頭の痛くなりそうな阿保っぽい性欲丸出しの台詞で二人に襲い掛かる
「「黙れこの駄神ッ!!!」」
ついにキレた二人の怒声とともに、竜巻く水流と轟雷が障子を突き破ってきた。ついでに白夜叉も吹っ飛んできたため、先頭にいた十六夜は彼女の小柄な身体を足裏で受け止める。
「てい」
「ゴバァ‼︎ お、おんし、飛んできた美少女を足で受け止めるとはどういう了見だ‼︎」
「いや、あんた少女って歳でも中身でもないだろ。つか何をやったら黒ウサギに金剛杵を使わせるほどーーー」
十六夜の言葉が途中で切れる。水煙の向こうに見える黒ウサギ達の姿に、思わず言葉を無くしたのだ。
少しして再起動した十六夜がバッと水煙を腕で払うと見通しが良くなり、黒ウサギ達の姿が見えるようになった後ろの一同もしばし唖然として動きが止まってしまう。
「うおおおおぉぉぉぉ!!! 黒ウサギさんに白雪姫さん‼︎ なんてけしからん格好をしてぶべらッ⁉︎」
「うるさいぞキモ市」
訂正。一同が唖然としている中、此処にもいた
そのやり取りで全員が動きを取り戻し、その中で初めに飛鳥が疑問を口にする。
「……着物?」
「えっと、ミニスカの着物?」
「いいや、ワンサイズ小さいミニスカの着物にガーターソックスだな」
十六夜が言う通り、黒ウサギと古市に白雪姫と呼ばれた女性が着せられていたのは身体のラインが出るように小さく着付けられた股下までの着物だった。加えて肩から胸までを大胆に開いて肌を露出させており、さらに花柄レースのガーターソックスという統一感も何もない衣装ではあるもののそこには変態が発狂しても不思議ではないエロさがある。
「黒ウサギ、お前ついにそこまでの露出狂に……」
「違っ、ていうか元から軽い露出狂みたいな言い方はやめて下さい‼︎」
「そうだぞ小僧‼︎ それでは黒ウサギ殿はともかく、我まで変態みたいではないか‼︎」
「白雪様まで黒ウサギを変態カテゴリーに入れるような言動を⁉︎」
「つーか、あんた誰だ?」
そしてエロとは無縁である男鹿は黒ウサギ達の格好を見て少し引いていた。その反応を見た黒ウサギと白雪姫も必死に誤解を解こうと声を上げる。
混沌と化しつつあるこの場において、はぁあ、と深い溜め息を吐いた最後尾のレティシアが黒ウサギ達の前に立つ。
「二人とも、取り敢えず着替えなさい。特に黒ウサギ。そんな全身濡らした格好では、」
「「何ッ⁉︎ 黒ウサギ(さん)が濡れ濡れだと(だって)!!?」」
ーーーズドオォォォォン!!! と、ギャグパートでなければ死んでいてもおかしくない轟雷が白夜叉と古市を貫いたのだった。
次回でようやくアンダーウッドに行けますかね……?
なんと鷹宮も収穫祭参加決定戦に参戦してきました。まぁ参戦自体は予想されてた方も多いとは思いますが、その理由が明かされるのはまだまだ先の予定となっております。