子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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あけましておめでとうございます‼︎ 今年の投稿一発目となりました。今年もよろしくお願い致します‼︎
いよいよ舞台はアンダーウッドへ(ただし物語が大きく動くとは言っていない)

それではどうぞ‼︎


戦果報告後の出来事

白夜叉と古市を金剛杵で焼き焦がした後、いつもの服装へと戻った黒ウサギと白い生地に雅な花柄を施した着物に着替えた白雪姫。そして状況が飲み込めずにいた“ノーネーム”一同は、混沌から回帰しつつある空気の中で白夜叉の話を聞いていた。

 

「実は今の服は新しく造る施設で使う予定の正装での。ちょいと東区画下層の発展に“階層支配者”の活動として協力しようと思ったのだが、何処から手を付けたものかと悩んでおった時に十六夜から提案があったのだ。“発展にはまず、潤沢な水源の確保が望ましい”とな」

 

この辺りには街中に水路が張り巡らされているのだが、実のところそれらは使用料を払える中級以上のコミュニティしか使えない。そのため東の七桁の外門では都市外にまで水を汲みに行く組織が多く、斯く言う“ノーネーム”も水樹を手に入れるまでは数km離れた川へと子供達がバケツを持って汲みに行っていたものだ。

 

「そこで大規模な水源施設の開拓を行うことを決めた白夜叉の手伝いっていう名目で、その水源となるギフトを手に入れるためのギフトゲームを見繕ってもらったんだよ。ま、古市とレヴィが独断で“世界の果て”に向かった後のことだがな」

 

白夜叉から引き継いだ十六夜の言葉に、一同の視線が自然と古市とレヴィに集まる。今回の収穫祭参加を賭けたゲームで新たに水樹を手に入れてきた二人だったが、どうやら“ノーネーム”にある水樹と同様に“世界の果て”へと赴いて勝ち取ったものらしい。

注目された古市とレヴィは“世界の果て”へと向かうことになった経緯を話すことにした。

 

「いや、逆廻も言ってましたけどこの辺じゃ大きいゲームってあんまりないですから……だったら農園区の発展に必要な水路を充実させられないか、そのためにもう一つ水樹を手に入れられないかって考えたんですよ」

 

「で、子供達に話を聞いたら逆廻君と男鹿君が“世界の果て”で手に入れたっていうから私達も向かうことにしたんだ。まぁ普通に行き帰りするだけでも丸二日掛かっちゃったから、思っていた以上に大変だったんだけどねー」

 

箱庭から“世界の果て”に伸びる街道は途方もない距離がある。さらに道中は森林を横断せねばならないため、規格外の身体能力でもなければ初見で辿り着けるような人物は下層ということもあってあまり多くない。

加えて森に住む魑魅魍魎の類いが口八丁にあの手この手でゲームに参加させようとしてくるので、それを躱しながら進んだりと余計な時間を食ってしまったのだ。最終的には敢えてゲームに参加することで返り討ちにし、報酬として道案内をさせたので以降は絡んでくる輩も減ったため結果オーライではあったが。

 

「なに、其奴ら二人は其処の小僧どもと違って殊勝な態度だったからな。普通に水樹相応の試練を与えてやったわ」

 

と、此処で白雪姫が割って入る。何を隠そう彼女こそが“世界の果て”にあるトリトニスの大滝に棲んでいた蛇神なのだ。神格保持者にとって人間に変幻することは造作もないとのことであり、とある理由によって人化して箱庭へとやってきていた。

 

「え、男鹿や逆廻の知り合いって分かった途端に水柱を叩きつける内容に決めたような……」

 

「普通に水樹相応の試練を与えてやったわ」

 

「ア、ハイ」

 

明らかに私怨からの八つ当たりが見て取れる試練内容だったが、白雪姫が頑なに認めようとしないため気圧された古市はぎこちなく返事を返す。まぁそこは流石に神格を保有する主催者の一人、十六夜と男鹿がクリアした試練以上のものは課していないので言っていることは間違っていない。

 

「ていうか何で白雪ちゃんはこんな所にいるの?その水源施設で使うギフトを逆廻君に渡せばよかったのに……何か別件?」

 

「いや、特に別件というわけではないのだが……」

 

そこで問われたレヴィの疑問に白雪姫は顔を逸らしながら歯切れ悪く返す。

その反応を不思議に思っていると、白夜叉がニヤニヤとしながら代わりに答えてくれた。

 

「その水源となるギフトの代わりに連れてこられたのが白雪なのだ。ぶっちゃけると十六夜に隷属させられたのよ。まだまだ修行不足だのう」

 

そう。白雪姫が箱庭へとやってきていたとある理由というのが、十六夜に隷属させられたことによる水源施設への貸し出しだったのだ。

これによって白夜叉が十六夜に提示したゲームはクリアということになるのだが、

 

「ちょっと待ってください」

 

ここで古市がストップを掛けた。その表情は真剣そのものであり、その様子を見ていた周囲の一同も何事かと訝しんでしまう。

そんな周りの反応など露知らず、古市は愕然としながらとんでもない事に気付いてしまったという面持ちで確認を取る。

 

「逆廻が白雪姫さんを隷属……?それはつまり、逆廻が白雪姫さんにあんな事やこんな事をしても合法であると……?」

 

その確認を聞いた一同は一瞬にして空気を弛緩させた。古市の性格を考えれば気になるところではあろうが、せめて思うだけにして欲しいものである。

 

「まぁそういうことになるな。あんな事やこんな事や、あまつさえそんな事まで合法ってことだ」

 

もはや表現が抽象的すぎてどんな事を想起しているのかは分からないが、十六夜の言葉で古市は雷に撃たれたような衝撃を受けていた。むしろ実際に黒ウサギから轟雷で貫かれた時よりも気持ち的には衝撃を受けていた。

 

「ふぉおおッ‼︎ どうして男鹿や逆廻ばっかりそんな美味しい役割なんだよッ‼︎ このムッツリ野郎どもがッ‼︎」

 

「おいおい、ふざけんなよ。俺はムッツリなんかじゃねぇ、オープンエロだ。そこを履き違えてもらったら困るぜ」

 

「どっちでもいいわ。つーか古市、何処(どっ)から俺が出てきた。訳分かんねぇ事に巻き込んでんじゃねぇ」

 

その衝撃から戻ってきた古市は立ち上がるとともに雄叫びを上げ、十六夜が見当違いな反論をしているのを男鹿が仕方なくツッコんでいる。

当然ながら女性陣の視線は言うまでもなく冷めているものの、箱庭組は隷属関係にある程度の理解を示しているため苦笑の割り合いも大きかったりする。

 

「……で、逆廻のクリア報酬は何なんだ?」

 

そして全くの無関心を決め込んだ鷹宮は白夜叉に先を促した。これ以上放置していたら話が進みそうもないと思ったのだろう。

 

「おお、そうだな。“ノーネーム”に託すのは前代未聞であろうが……まぁ他のコミュニティも文句は有るまいさ」

 

白夜叉がパンパンと柏手を打つと、光とともに一枚の羊皮紙が現れた。そこに虚空から取り出した羽根ペンでサインを書き込むと、リーダーであるジンに瞳が向けられる。

 

「それでは、ジン=ラッセル。これはおんしに預けるぞ」

 

ジンは何故十六夜ではなく自分にと思ったが、白夜叉にコミュニティのリーダーが管理するものと言われて手渡された。

受け取った羊皮紙の文面に目を通した直後、ジンは衝撃で硬直したまま動かなくなってしまった。先程の古市とは異なり真面目に驚いているようだ。

 

「こ、これ、まさか……⁉︎」

 

「どうしました、ジン坊ちゃん?」

 

ピョンとジンの後ろに回り込んだ黒ウサギも、その文面に目を通すと驚愕して動きを止めてしまった。

再起動を果たして動き出したジンであったが、その声音は驚愕を表すように少し震えている。

 

「が、外門の利権証……‼︎ 僕らが“地域支配者(レギオンマスター)”⁉︎」

 

外門利権証とは、箱庭の外門に存在する様々な利権を取得できる特殊な“契約書類”のことである。“境界門”の起動や広報目的のコーディネートなどを一任され、“境界門”を無償利用できる権利や使用料の納付金などが得られる。外門の装飾がそのまま地域の格付けとなるため最も力のあるコミュニティに与えられるものであり、その影響力から“地域支配者”と呼ばれるそうだ。

 

「あぁ、なるほど。逆廻が前に言ってたのはこの事だったのか。相変わらず知らないうちに色々と考えてんなぁ」

 

落ち着きを取り戻した古市はふと“魔遊演闘祭”へと赴く前に十六夜が言っていたことを思い出した。噴水広場前にある虎の彫像を撤去させると言っていたが、外門利権証の利権を行使することを考えていたのだろう。

しかし“ノーネーム”ではその外門に飾るための旗印がない。地域の格付けともなる外門が無印では異論を唱える者も現れるだろうが、そこで十六夜は異論を抑えるために白夜叉と話をつけたのだ。水が豊富とはいえない地域で水源の無償提供をしているのだから、幾ら“ノーネーム”であっても自分達の利益を潰すような文句をつけても損しかない。白夜叉が“文句は有るまい”と言ったのにはそういった意図もあった。

だがそれらの起こり得る問題に対しての話が進んでいく中でも、黒ウサギは俯いたまま微かに震えているだけで一向に再起動を果たそうとしない。

 

「……いつまで黙っているつもりだ?黒ウサギ、貴様にとっても不満や不都合のある結果とは思えないが」

 

そんな黒ウサギに対してヒルダは声を掛けるが、それに反応することなくゆっくりと立ち上がった黒ウサギは十六夜の方へと近づいていく。

何時にない黒ウサギの反応に十六夜も何か問題があったかと心中で考えるものの、黙って詰め寄られるような原因がまるで思いつかない。

 

「ーーー……っ」

 

と考えていたのだが、ガバッ‼︎ と黒ウサギが胸の中に飛び込んできたことで流石の十六夜も面食らって思考が停止してしまった。

 

「凄いのです……‼︎ 凄いのです凄いのです‼︎ 凄すぎるのですよ十六夜さんっ‼︎ たった二ヶ月で利権証まで取り戻していただけるなんてっ……‼︎ 本当に、本当にありがとうございます‼︎」

 

ウッキャー♪ と奇声を上げてクルクルと十六夜にぶら下がる黒ウサギ。どうやら直前までの沈黙は喜びに感極まっていたらしい。

またもや古市が“逆廻の奴ッ、羨まけしからん‼︎ 黒ウサギさんの感触を堪能しやがってぇ‼︎ ”と騒ぎ立てるが、当の彼女はそんな欲望に狂った慟哭すら気にならないほど喜んでいる。

そしてその様子を座敷の後ろで静かに控えていた飛鳥と耀は、落胆したように顔を見合わせてから改めてはしゃぐ彼らへ視線を向けて見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、“ノーネーム”では小さな宴の席が設けられていた。普段振る舞われないような料理の数々が並べられ、年長組とともに乾杯をして大いに盛り上がった。

しかし楽しかった宴も終わり、自室へと戻った耀はその盛り上がりとは裏腹に溜め息を吐いて視線を落としている。

 

「三毛猫。私は収穫祭が始まってからの参加になったよ。残念だけど、前夜祭は御預けだね」

 

『……そうか。残念やったなお嬢』

 

物寂しそうに報告する耀に、それを聞いた三毛猫は静かに相槌を返す。

収穫祭参加を賭けたゲームの結果だが、彼女は四位としてオープニングセレモニーまでの前夜祭の期間を三位の男鹿とともに本拠でレティシアと過ごすことになっていた。一位は組織への貢献度という点から十六夜、二位は戦果の希少価値という点から鷹宮となっており、収穫祭を全日参加できる権利を手に入れている。三位である男鹿との差は本当に僅差であり、今回の目的である農園区の拡大と合致していたというだけでタイミングの差とも言えるだろう。まぁどちらであっても全日参加できないことには変わりない。

ちなみに男鹿や耀と同等の戦果を挙げていた古市&レヴィは二人で取り組んでいたことから同率五位でオープニングセレモニーからの一週間を担当し、華やかな戦果とは言えないが生活を豊かにするための牧畜を寄贈した五位の飛鳥と日常的な利便性や緊急時の連絡網として通信機を確保した六位のヒルダで残りの日数を担当することになっている。

 

「みんな凄いよね。十六夜や辰巳、忍は魔王相手に戦えるだけの実力を持ってる。飛鳥や貴之、ヒルダさんやアランドロンさんは“火龍誕生祭”で起こった魔王のゲームで活躍したし、レヴィさんだって“魔遊演闘祭”で最後まで戦えてた。……でも、私はそうじゃない」

 

“魔遊演闘祭”では色欲の魔王・アスモデウスを相手に鷹宮・飛鳥とともに戦ったが、有効的な攻撃を与えられていたのは二人だけだと耀は思っていた。さらに“火龍誕生祭”で起こった魔王のゲームでは戦う前から病魔に冒され、戦うことすらできなかったのだ。そこに加えて十分な戦果を携え、満を持して臨んだ今回のゲームでさえ結果は四位。気落ちしてしまうのも無理はないだろう。

だが耀が気落ちしていたのはそれだけが理由ではなかった。

 

「それに戦う力だけじゃない。一緒に呼び出された十六夜と辰巳は水を供給して、飛鳥は土壌を整えて土地を復活させた。あとは私が苗を用意して農園を完成させれば、胸を張ってみんなの横に立てるって思ってたんだけど……」

 

そのために一日でも多く収穫祭に参加しようと何時になく頑張ったものの、その想いが届くことはなかった。

“打倒魔王”という目的に掲げて行動している“ノーネーム”として、同じように招待状を受け取った三人や新しく加わった四人の主力陣とは異なり、目に見えて優れた貢献も強さも示せていないことがより一層彼女に自身の力不足を痛感させていた。

 

『……お嬢』

 

三毛猫は両手で膝を抱えて身体を丸くする耀に対して掛ける言葉が見つからず、黙ってその身を擦り寄せる。

彼女と同じ日に生まれてこれまで人生を共にしてきた三毛猫に今できることは、悲しみに暮れる耀の側で落ち着くまでこれまでと変わらず一緒にーーー

 

 

 

 

 

「ーーーでも、だからっていつまでも弱音を吐いているだけじゃ何も変わらない」

 

 

 

 

 

身体を丸くしてから数分。耀は(おもむろ)に顔を上げるとそれまでとは違う確固たる声音で小さく呟き、抱えていた膝を解放して立ち上がる。

 

『え?お、お嬢……?』

 

「ありがとう、三毛猫。私の話を聞いてくれて。ちょっと行ってくるね」

 

唐突な気持ちの切り替えに着いて行けず困惑している三毛猫を余所に、立ち上がった耀は感謝を述べてから三毛猫を置いて寝室を出ていってしまった。

しばらく呆然とその背中を見送っていた三毛猫だったが、ふと我に返ると感極まったように涙を浮かべてホロリと泣く。

 

『お嬢……いつの間にかワシの知らん間に強うなって……』

 

普段から感情をあまり出さず“ノーネーム”の主力の一人を担っている耀ではあるが、中身は最年少である十四歳相応の女の子なのだ。

もちろん一般的な同年代の女の子と比べれば心身ともに強い部類ではあるのだが、現実を思い知って珍しく弱音を吐いていた状態からすぐに立ち直れるほど精神的に成長しているとは三毛猫も思っていなかった。それ故の嬉し涙である。

 

『……せやけど、お嬢を少しでも悲しませた罪は重いぞ。小僧ども……‼︎』

 

しかしそれはそれ、これはこれである。幾ら耀が悲しみから立ち直ったとはいえ、一時(いっとき)でも悲しんでいたことに変わりはない。

耀に続いて寝室を出ていった三毛猫は、彼女を悲しませた人物に落とし前をつけるべく屋敷の中を忍びつつ歩いていく。

 

 

 

 

 

 

翌朝。出発に向けて本拠前に集合していた面々だったが、収穫祭に向かうメンバーのうち一人だけ未だに本拠から現れずにいた。

 

「十六夜君、いったいどうしたのかしら?ちょっと待っててくれって言ったきりなかなか出てこないけど」

 

「YES。しっかりと身形も整えていなかったようですし、十六夜さんにしては珍しいですね」

 

飛鳥と黒ウサギの言う通り、残る一人とは十六夜のことである。彼は自分が楽しめればそれでいいと思っている快楽主義者を自称しているが、だからこそこういう時に遅くなることは珍しい。

そうこうしているうちに十六夜は本拠から出てきたのだが、その格好から違和感に気付いた古市が指摘する。

 

「あれ?おい逆廻、まだ準備が済んでないのか?いつものヘッドホンを忘れてるぞ」

 

しかし本拠前に現れたのはいいが、その頭上には箱庭に来てからずっと着けていたヘッドホンが無かった。黒ウサギが“身形も整えていなかった”と表現したのも同じ理由である。

 

「いや、忘れたんじゃなくて気付いたら無くなってた。ヘッドホンが昨日から見当たらねぇんだよ。それより話がある」

 

無くなったというヘッドホンについても気にはなるが、そう言って十六夜が道を開けると後ろからトランク鞄を引く耀と三毛猫が前に出てきた。

耀は十六夜の隣に立つと顔を見上げ、僅かに小首を傾げる。

 

「……本当にいいの?」

 

「仕方ねぇさ。壊れたスクラップだが、アレがないとどうにも髪の収まりが悪い。本拠に残って少し捜してみるわ」

 

二人の会話を聞いていた一同も状況を把握して顔を見合わせる。つまり十六夜はヘッドホンを捜すために本拠へ残るというのだ。

耀はもう一人の留守番組である男鹿にも視線を向けるが、ヒルダとベル坊に挟まれて二人の別れの挨拶を聞いているだけで特に反応はなかった。元々ベル坊にせがまれただけで乗り気ではなかったので、順位的には下である彼女が全日参加できることに興味はないのだろう。そのベル坊も特には気にしていないようである。

彼女はそれからもう一度だけ視線を戻して十六夜を見上げ、ふっと小さな華が咲いたように柔らかい微笑みで礼を述べた。

 

「ありがとう。十六夜の代わりに頑張ってくるよ」

 

「おう、任せた。ついでに友達一〇〇匹ぐらい作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだからな。俺としては、そっちの方が期待が大きいぜ?」

 

「ふふ、分かった」

 

耀は十六夜に向かって元気に手を振り、三毛猫とともに飛鳥達の元へと駆け寄っていく。

全員が“境界門”へと歩き出したのを留守番組で見送っている中、一匹だけ振り返った三毛猫に対して十六夜は周囲に気付かれないよう小さく頭の動きだけで先を促した。それを確認した三毛猫も黙って集団の後方を着いていく。

そのまま彼らの姿が見えなくなるまで見送った後、残った十六夜に男鹿とレティシアは疑問を投げ掛ける。

 

「珍しいな。てめぇがこういったイベント事を譲るってのは」

 

「ヘッドホンならば残った我々で捜すことも出来たのだぞ?なにも外門利権証を手に入れてまで勝ち取った順番を放棄せずとも……」

 

「あぁ、ヘッドホンが見当たらねぇってのは本当だが無くなったってのは嘘だ。多分出てこねぇと思うから手間掛けて探す必要はないぞ」

 

二人の疑問の答えとしては少しズレた内容ではあったものの、あっけらかんと言い放たれた十六夜の回答は男鹿とレティシアをさらに不可解にさせるものだった。

 

「あ?さっき本拠を捜すっつってたじゃねぇか。捜さねぇんだったら何で残ったんだ?」

 

「……見当たらないが無くなったわけではない。それはつまりーーー」

 

「そう深く考えんなって。たとえ本当に無くなったんだとしてもたかが素人の作ったヘッドホンだ。捜すほどの価値は一銭もねぇよ」

 

なおも追及する二人を躱すため何とは無しに言った十六夜だったが、その言葉にレティシアは反応を示す。

 

「……()()()()()()?まさか、知人が作った物なのか?」

 

その発言にむっと眉を寄せるレティシアと、何処に眉を寄せる要素があるのか分からず首を傾げる男鹿とベル坊。

十六夜は面倒臭そうな表情をしていたが、追及を逸らすには丁度いいと判断してその反応に乗っかることにした。

 

「……昨日の続きだ。故郷についての話、聞きたくないか?」

 

「む……そうだな、是非聞きたいところではある」

 

明らかにヘッドホンの件の追及を逸らしていることはレティシアにも分かっていたが、本人が納得していて話そうともしない件について敢えて追及する必要もあるまい。そう思い直した彼女は、自分の興味を満たせる話題でもあったことから話を合わせることにした。

“昨日の続き”というのは男鹿にはよく分からなかったが、二人の間では通じているようなので黙っておくことにする。

 

「よし、だったら先に朝食の用意を頼むぜ。どうにも腹が減ってテンションが上がらねぇ。ついでに男鹿の世界の話も聞くことにするか」

 

と、そうして黙っていたら男鹿にも話が振られてきた。

 

「俺のいた世界の話だぁ?別に面白いもんなんて何もねぇぞ?」

 

「馬鹿言え。悪魔の実在している世界が面白くないわけないだろ。むしろ興味津々だぜ」

 

十六夜はヤハハと軽快に笑いながら本拠の中へと戻っていき、男鹿とレティシアも彼の要望に添って朝食を摂るべく食堂へと向かうのだった。

 




アンダーウッドには行きました、前回から嘘は吐いていない(言い訳)。
白雪姫の試練は番外編でユニコーンが先を越されたと証言していましたが、あのユニコーンが神格保持者の一撃を耐えるまたは打倒するレベルの実力があるとは思えないので別物のゲームだと判断しました。水樹を幾つ持っているのかは分かりませんが、少なくとも古市達が手に入れた二つ目は持っていたことにします。

本当はお風呂シーンに男鹿をぶっこんで、恋心から赤面するレティシアとかバッティングして動揺する男鹿とかその状況を煽って楽しむ十六夜とか面白おかしく書きたかったのですが……なんか展開に違和感があったので没にしました。
原作とは違う耀の行動心理や行き先・十六夜と三毛猫のやり取りの意味など、この日の夜の全貌と合わせて何時か番外編とかで書いてみたいものです。

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