やっと現実で一段落ついた……というと忙殺されていたように聞こえますが、ちょっと空いている時間に新作を投稿してました。すみません。
今回から舞台はアンダーウッド‼︎ しかし今回はあんまり山部分はありません‼︎
それではどうぞ‼︎
七七五九一七五外門、“アンダーウッドの大瀑布”フィル・ボルグの丘陵。
“境界門”を使用して南側へと来た“ノーネーム”一同を出迎えたのは、樹の根が網目模様に張り巡らされている地下都市と清涼とした飛沫の舞う水舞台であった。
「す、凄い‼︎ なんて巨大な水樹なの……⁉︎」
「うぉっ、ホントにデカいな。何百mくらいあるんだ?」
「だねぇ。うちの水樹があの大きさになるにはどれくらいの時間が必要なんだろう」
「“アンダーウッド”の水樹は全長五〇〇m、樹齢八〇〇〇年とお聞きします」
「「ほえ〜……」」
張り巡らされた樹の根は遠目でも確認できるほどに巨躯の水樹から伸びており、河川を跨ぐ形で聳えて枝分かれした太い幹から滝のような水を放出している。
「飛鳥、下‼︎ 水樹から流れた滝の先に水晶の水路がある‼︎」
丘陵から眼下を覗き込んだ耀が飛鳥の袖を引きながら歓声を上げていた。彼女のテンションは何時もより高く、忙しなく彼方此方へと注意が向けられている。
「飛鳥、上‼︎」
「春日部、気持ちは分かるが少し落ち着け」
下に続いて今度は上を見上げた耀にヒルダも軽く声を掛けておいたが、あまり効果はなさそうだ。彼女の視線は遥か空の上を飛んでいる何十羽という角の生えた鳥を捉えている。
「あれは……鹿の角かな?聞いたことも見たこともない鳥だよ。黒ウサギは知ってる?」
「え?え、ええまぁ……」
「……?黒ウサギさん、あの鳥がどうかしたんですか?」
珍しく熱っぽい声を上げる耀に、少し困ったようにしている黒ウサギ。その様子を不思議に思った古市が疑問を投げ掛けたところで、旋風とともに懐かしい声が掛けられた。
『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』
巨大な翼で激しく旋風を巻き上げて現れたのは、“サウザンドアイズ”の鷲獅子である。もちろん古市にとっては初めての鷲獅子との邂逅なので、突然現れた巨体にビビりまくっていた。
「久しぶり。此処が故郷だったんだ」
話し掛けられた耀は鷲獅子ーーーグリーの言葉に返事を返す。どうやら収穫祭で行われるバザーには“サウザンドアイズ”も参加するようだ。彼も護衛として
一通り耀と話したグリーは黒ウサギ達にも視線を向け、翼を畳んで前足を折る。
『“箱庭の貴族”と友の友よ、お前達も久しいな』
「YES‼︎ お久しぶりなのです‼︎」
「お久しぶり。前は言葉が分からなかったから改めてよろしくね」
「よろしくお願いします」
話し掛けておいてなんだが、“箱庭の貴族”として言語中枢を与えられている黒ウサギだけでなく飛鳥やジンまで自然に挨拶を返してきたことでグリーは思わず呆気に取られてしまった。
『……驚いたな、私の言葉が分かるのか。以前は通じていなかったようだが、そちらの新しい者達のギフトか?』
黒ウサギ達から目を離したグリーは、初対面であるヒルダ達へと顔を向ける。
顔を向けられて古市は少しばかり緊張したが、それ以外の四人は当然のように物怖じなどしていない。
「そのようなものだ。まぁあまり深く考えずに話が通じることを理解していてくれればいい」
ヒルダが疑問に答えてからそれぞれ顔合わせと挨拶を済ませると、グリーは嘴を自分の背に向けて一同に乗るよう促す。
『此処から街まで距離がある。もし良ければ私の背で送っていこう』
「本当でございますか⁉︎」
『あぁ。だがこの人数となると私の背でも少しばかり窮屈だぞ。それでも構わないならいいが、耀以外に飛べるものはいないのか?』
グリーの身体は巨体ではあるものの、流石に八人もの大人数で乗るとなるとギリギリだろう。それでも良ければ送っていくと言う辺り、獣の王と呼ばれて誇り高い鷲獅子の中でも穏和で親しみやすそうな性格である。
しかし飛ぶ能力を持っているのは耀しかいない。好意を無碍にするのは気が引けるものの、アランドロンに送ってもらうのが無難で安全だと一同が考えたところでヒルダが口を開く。
「ふむ、ならばアランドロンに送ってもらうのが手っ取り早いが……見知らぬ土地で別行動を取って問題を起こしてもあれだな」
そう言いながらヒルダが取り出したのは、上半分が赤色で下半分が白色の境目中央にボタンが付いたボールだった。分かりやすく言うとポケットなモンスターでも捕まえられそうなボールである。
「出てこい、
彼女がそのボールを地面に投げると、赤い光とともに中からグリーと同じくらいの大きさである怪鳥ーーーアクババが奇声を上げながら姿を現した。というかまんまモンスターボールであった。
「私とアランドロンはアクババに乗っていく。レヴィアタンの実体化を解けば五人くらい余裕を持って乗れるだろう。では早速向かうとーーー」
「「ちょっと待った……‼︎」」
何事もなく話を進めていくヒルダに黒ウサギと古市が待ったを掛ける。それはそうだ。常識人であれば誰だって突然の状況に会話を止めるだろう。
「何ですかヒルダさんこの怪鳥は⁉︎ もしかして今までずっとさっきのボールに入ってたんですか⁉︎」
「何と言われても……アクババだが?それに時折ボールからは出していたぞ。食事も摂らさなければならんし、世話を手伝ってくれる子供達やレティシアは知っているからな」
興味津々でさっそく話し掛けている耀を余所にアクババを指差して問う黒ウサギ。
外に出ていたとは言っても基本的にはボールに入っていたため、日銭を稼いだりして何かと忙しい主力陣は見る機会がなかったのだ。食事時は同じ時間のため屋敷の外と中ですれ違っていたことも要因の一つである。
「っていうかアクババってそんな風に飼ってたんですか?男鹿の家で見たことなかったからてっきり魔界で飼ってるものだと……」
「アランドロンの転送方法ではアクババの巨体は魔界から転送できんだろう。必要な時に呼び出せるよう飼育しておかなければ意味がない」
転送玉やヨルダのような転送方法であれば話は別だが、アランドロンの場合は割れた身体の中に入るというものなので彼以上の大きさのものは簡単に転送できない。
魔界から転送するだけならアランドロン以外の転送方法で行えばいいが、そうなると日本の一般家庭で巨体のアクババを飼育しなければならなくなる。モンスターボール擬きは飼育するにも連れ歩くにも優れた優良商品なのだ。
「ほら、三人ともそろそろ行きましょう。グリーさんを待たせるのも悪いわ」
問答を続けている三人に対して飛鳥が声を掛ける。グリーは大人しく待ってくれているが、いつまでも待たせておくのは失礼だろう。一先ず話は後回しにして耀、ヒルダ、アランドロン以外はお言葉に甘えて背中に乗り込まさせてもらった。
耀は全員が乗り込むのを待っている間に先程の鹿の角が生えた鳥について訊いていたのだが、グリーが言うにはペリュドンという人間を殺すことを呪いとして定められた殺人種の幻獣らしい。“あとで警告とともに追い払いに行かねばな”とグリーが予定を立てているうちに全員の乗り込みが完了する。
それを確認したグリーは翼を羽ばたかせて旋風を巻き起こし、巨大な鉤爪を振り上げて獅子の足で大地を蹴った。
「わ、わわ」
瞬く間に外門から遠退いていくグリーに、耀は慌てて毛皮を掴み並列飛行する。
短期間で付いてこれるようになった耀へとグリーは称賛を送り、補足に黒ウサギが補助としてブーツに風天のサンスクリットを刻んでいるという情報を話していた。……その傍らで同乗者が大変なことになっていることも知らずに。
激しい風圧を全身に受けたジンと古市は飛び立ってすぐに振り落とされ、胴に括り付けた命綱が絡まり固まって宙吊り状態になっている。そんな二人のような醜態を晒さないように飛鳥は歯を食いしばって手綱を握り、黒ウサギに抱えられた三毛猫は風圧でもがき苦しんでいた。そんな中でただ一人涼しい顔をしているのは鷹宮だけであり、あろうことか腕と脚を組んで横向きに座っている。
アクババに乗ったヒルダ達も置き去りにしており、それに気付いた耀が慌てて減速するように頼む。
「グ、グリー。後ろが大変。速度落として」
『む?おお、済まなかった』
一気に速度を緩めて街の上空を優雅に旋回してくれたことで、髪を乱れさせて肩で息をしていた飛鳥も少し余裕が出来たのだろう。何事もなかったかのように平然としている鷹宮へと恨めしげな視線を向けた。
「……どうして貴方だけ何ともないのかしら?」
「……魔力を使って身体を固定し、風圧も調整していたからだが?」
面倒臭そうに返答した鷹宮の言葉に、それを聞いていた黒ウサギも興味を引かれて振り返る。
「はー、忍さんの魔力はそのようなことも可能なのですね。それは皆様にも使えなかったのですか?」
「可能だ」
「だったら次からは私達にも使いなさい‼︎ 魔力を消費するのでしょうけど、ちょっとくらいなら問題ないでしょ‼︎」
「……善処する」
至近距離で大声を上げられた鷹宮は顔を顰め、これ以上騒がれては敵わないといった様子で飛鳥の言い分を受け入れていた。
そうこうしているうちに地下の宿舎へと辿り着いたグリーは、背中に乗っていた一同を降ろす。アクババに乗ったヒルダ達が合流するのも律儀に待った彼は、ペリュドンを追い払うために再び旋風を巻き上げながら去っていった。
「では私達も“主催者への挨拶にーーー」
「あー‼︎ 誰かと思ったらお前、耀じゃん‼︎ 何?お前らも収穫祭に、」
「アーシャ。そんな言葉遣いは教えていませんよ」
宿舎の上から声を掛けてきたのは、“火龍誕生祭”で開催された“造物主達の決闘”の決勝戦の相手ーーー
“ウィル・オ・ウィスプ”の少女アーシャとカボチャ頭のジャックだった。
実は耀が手に入れた炎を蓄積できる巨大キャンドルホルダーだが、“ウィル・オ・ウィスプ”製の備品であれば炎を同調させることが可能なのだ。それでこの機会に炎を使用する生活必需品を一式発注しており、お互いに良い関係を築いていたりする。
またもや知り合いとの遭遇でそれぞれ会話に花が咲くものの、切りの良いところでジャックが話を切り出した。
「ヤホホ。それでは我々は今より“主催者”にご挨拶へ行きますが……どうです?此処で会ったのも何かの縁ですし、“ノーネーム”の皆さんもご一緒というのは」
特に断る理由のない“ノーネーム”一同はその誘いを受けることにし、荷物を宿舎に置いて大樹の中心にある収穫祭本陣営まで足を運ぶのだった。
★
網目模様の根を上がって地表に出た一同は、見上げても頂上がよく見えない大樹を前に口を開けて呆けてしまう。
「……黒ウサギ。この樹、五〇〇mあるって聞いたけど、私達が向かう場所ってどの辺り?」
「中ほどの位置ですね」
「……マジっすか?」
耀の問いに黒ウサギが返し、その答えに古市は辟易とする。いや、声に出していないだけで古市以外も面倒臭そうな表情を隠し切れていなかった。
そんな空気を感じ取ったジャックが明るく言葉を発する。
「ヤホホ‼︎ 心配には及びません。本陣まではエレベーターがありますから、さほど時間も労力も掛かりませんよ」
そう言うジャックに促されて麓まで来ると、そこには木造のボックスーーー水式エレベーターが設置されていた。それに乗り込んでものの数分で本陣営まで移動することが出来、本陣入り口の両脇にある受付で入場届けを出す。
そこで受付をしていた樹霊の少女が“ノーネーム”の名前を聞くと、ハッと顔を上げて飛鳥へと視線を向けた。
「もしや“ノーネーム”所属の、久遠飛鳥様でしょうか?」
「えぇ。そうだけど、貴女は?」
「はい、私は“火龍誕生祭”に参加していた“アンダーウッド”の樹霊の精霊の一人です。飛鳥様には弟を助けていただいたとお聞きしたのですが……」
その言葉で飛鳥と黒ウサギは“黒死斑の魔王”と戦っていた時に助けた参加者の少年を思い出して声を上げる。
確信した受付の少女が腰を折って礼を述べるのを見て、招待状を送ってくれたのはこの少女のコミュニティであると思い訊いてみた。
予想通りに樹霊の少女は首肯したが、その際に別の人物の名前も出てきてその名前に一同は驚いた。
「サラ……ドルトレイク?」
その性に聞き覚えがあった飛鳥が不思議そうに首を傾げる。他の一同も同じく聞き覚えがあり、古市がジンに向かって問い掛ける。
「ジン君、ドルトレイクって名前は確か“サラマンドラ”の……」
「え、えぇ。サンドラの姉、長女のサラ様です。でもまさか南側に来ていたなんて……」
「意外だったかな?ジン=ラッセル殿」
聞き覚えのない女性の声が聞こえて振り返ると、途端に熱風が大樹の木々を揺らした。その発生源は空から現れた女性が放つ二枚の炎翼である。
「サ、サラ様‼︎」
「久しいな、ジン。会える日を待っていたぞ。後ろにいる“箱庭の貴族”殿とは初対面かな?」
姉妹であるサンドラと同じ赤髪を長く靡かせ、健康的な褐色の肌を大胆に露出した軽装の女性が炎翼を消して舞い降りた。
サラは一同の顔を一人一人確認すると、口元に僅かな笑みを浮かばせて仰々しく
「“アンダーウッド”へようこそ、“ノーネーム”と“ウィル・オ・ウィスプ”。下層で噂の両コミュニティを招くことが出来て、私も鼻高々といったところだ」
「……噂?」
「あぁ、しかし立ち話もなんだ。皆、中に入れ。茶の一つも淹れよう」
手招きしながら本陣の中へ消えていったサラに、怪訝な表情を浮かべるも招かれるままに大樹の中へと入っていく一同であった。
しばらくお留守番組の出番はなしですね。早く巨人族が攻めてくるのを待ちましょう。
それと鷹宮の魔力ですが、少しだけ独自解釈入ってます。詳細は……うん、それも巨人族が攻めてきた辺りで判明すると思います。