最近は新作の方を優先して執筆しているのですが、こっちも筆が乗ってくる展開なので出来るだけ早く上げていけるように頑張っていきたいと思います‼︎
それではどうぞ‼︎
“アンダーウッド”収穫祭本陣営。貴賓室。
一同がサラに招かれた貴賓室は大樹の中心に位置しており、窓から外を覗くと“アンダーウッド”の地下都市が見える。
自らお茶の配膳を終えた彼女は席に座ると、一同へと座るように促した。
「では改めて自己紹介させてもらおうか。私は“一本角”の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いている通り、元“サラマンドラ”の一員でもある」
“
“一本角”、“二翼”、“三本の尾”、“四本足”、“五爪”、六本傷”によって構成されており、サラは“一本角”の頭首であるとともに“龍角を持つ鷲獅子”の議長でもあるらしい。
「それで、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック。彼女はやはり来ていないのか?」
「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので。此処は参謀である私から御挨拶を」
「そうか……北側の下層で最強と謳われる参加者を是非とも招いてみたかったのだがな」
サラとジャックの会話に出てきた“北側最強の参加者”という称号に、以前から聞き覚えのあった飛鳥と耀の口から言葉が漏れた。
「北側最強って……」
「確か、ウィラ=ザ=イグニファトゥス……だったかしら?」
その呟きを聞いて隣に座っていたアーシャが不思議そうに訊いてくる。
「なんだよ、お前らもウィラ姉のこと知ってたのか?」
「いえ、間接的に見たことがあるとでも言えばいいのかしら……」
「アスモデウスさんが戦ってる時に変身してきた」
本人は知らないが偽物ならば知っているという微妙な表現に飛鳥が口籠っていたところで、耀がばっさりと真実を告げた。
アーシャは自分達のリーダーが有名だと言うことを誇らしそうにしていたが、思わぬ名前が出てきて思考が一瞬フリーズする。
「アスモデウス……って色欲を司る“罪源の魔王”の一人か⁉︎」
「ヤホホ……これは驚きましたねぇ。彼らが下層に降りてくるとしたら……あぁ、そう言えば“魔遊演闘祭”がありましたか」
「彼らのコミュニティには“七つの罪源”から招待を受けるほどの人材もいるのか?……だとすれば“ペルセウス”や“黒死斑の魔王”を下したというのも納得だな」
男鹿や鷹宮のことを知っているジャックはすぐに事情を理解したが、噂でしか“ノーネーム”のことを知らないサラは驚きを隠せないでいた。
しかしそれが本当ならば噂の内容にも得心が行くというのが彼女の感想でもある。“魔王を倒すコミュニティ”としてその実績を打ち立ててきたということは真実なのだと。
「少し礼をするのは遅れたが、故郷を離れた私にも言わせてくれ。……“サラマンドラ”を助けてくれてありがとう」
「い、いえ……」
突然のサラからの感謝にジンは狼狽えていたが、事実なので否定せずに感謝を受け入れることにした。同士の手柄を誤魔化す必要もない。
下げていた頭を上げたサラは、屈託のない笑みで収穫祭の感想を求めて歓談に入った。議長としては主催する祭りの評価を訊いておきたいところだろう。
その後も色々と話をしていたのだが、“ブラックラビットイーター”なる対兎型最恐プラントの存在を知った黒ウサギが怒りを浮かべて飛び出していったことで挨拶はお開きとなった。
“ノーネーム”のメンバーも彼女に首根っこを掴まれて連れ去られ、流石に全員は無理だったのでヒルダとアランドロンはアクババに乗って彼女を追い掛けている。残ったのはサラ、ジャック、アーシャ、それと黒ウサギを追い掛けていかなかった鷹宮のみであった。
「……そろそろ本題を話せ。議長であるお前がわざわざ“ノーネーム”を招待した理由についてだ」
「……ほぅ、君は中々に察しが良いな。一人残ったのもそれを聞くためか」
鷹宮とサラの会話に“ウィル・オ・ウィスプ”の二人ははて?と視線を交わしている。二人は特にこれ以上の話す内容について心当たりがなかったのだ。
鷹宮に促されて幾分真剣な顔になったサラは、三人に用件を伝えることにする。
「今宵、夕食時にもう一度来て欲しい。そして他の“ノーネーム”のメンバーにも伝えてくれ。十年前に“アンダーウッド”を襲った魔王ーーー巨人族について、相談したいことがあると」
★
“ブラックラビットイーター”を葬り去って日が暮れるまで収穫祭を見学した“ノーネーム”一同は、宛てがわれた宿舎に帰って来て各々の部屋で寛ぐことにする。
「前夜祭はどちらかと言えばギフトゲームの参加登録期間といった感じでしたね。バザーや市場が主体みたいでしたし」
「色んなギフトゲームに登録したけど、特に“ヒッポカンプの騎手”は私の得意分野だから楽しみだね」
「土地柄もあって至るところに水もありますから、本当にレヴィさんの独壇場かもしれませんよ」
一時解散して自室に戻った古市とレヴィは、備え付けられている椅子やベッドに腰掛けて今日一日のことを振り返っていた。
ヒッポカンプとは“海馬”と呼ばれる幻獣であり、背ビレや水掻きを持った水上や水中を駆けることのできる馬のことだ。その背に乗って行われるレースとなると、水の三態を操れるレヴィの魔力とは相性抜群である。
だがレヴィは古市の評価を聞いて首を捻っていた。
「う〜ん。確かに有利に戦えるとは思うんだけど、同系統のギフト持ちで肉弾戦に強い人がいたら微妙かもね」
「あ〜、確かに。俺も肉弾戦は柱師団の真似をしてるだけだからなぁ……レヴィさんだって中・遠距離攻撃主体の戦い方ですし」
“魔遊演闘祭”で十六夜と組んで戦っていた時もそうであったが、レヴィは直接戦闘よりもサポートの方が能力的に向いているのだ。
古市も様々な経験を経て一応戦えるようになってきたが、それも付け焼き刃であるため実力者が相手では渡り合うのは難しい。
古市は未熟さを、レヴィは肉弾戦を二人で補い合っている状態だと言えた。更に古市がティッシュを使えば戦力は跳ね上がるため、意外と隙の少ないコンビとなっている。
「戦闘における課題は幾つかありますけど、まずはーーー」
と、そこで突如として響き渡った激震に古市の言葉は遮られた。椅子に座っていた古市は思わずバランスを崩してずり落ちてしまう。
「ビックリした〜、地震か?」
「……あ〜、残念ながら違うみたい」
「え?」
レヴィの言葉の意味を問い正そうとした古市だったが、それよりも早く宿舎の壁をぶち抜いて巨大な腕が二人の間に現れた。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ⁉︎」
いきなりの出来事に古市は椅子からずり落ちた状態で後退る。下手に立ち上がっていれば巨大な腕で殴られていたのではないだろうか。
引き抜かれた腕によって開けられた風穴から外を確認すると、そこには風穴から全容を確認できないほどの巨躯が此方を覗き込んでいた。
「きょ、巨人……⁉︎」
その巨大な目玉と視線が合った古市は呆然としてしまったが、そんなこと相手にとっては知ったことではない。
古市が無事であることを確認した巨人は、引き抜いた巨腕を再び振るって圧倒的物量で相手を叩き潰そうとし、
「ーーー古市君、さっきの話の続きなんだけどさ」
その巨腕が振りかぶられたところで、巨人の顔を水の球体が覆い尽くした。
突然息ができなくなった巨人は顔の水を振り払おうとするが、水ゆえに形がないため水飛沫が舞うだけで振り払うことは出来ない。
遂には立っていることも出来なくなり、踠き苦しんでいた巨人はその場に崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「ーーー私って戦闘力は“七大罪”の中では下の方だけど、制圧力は“七大罪”の中でも上の方なんだよねぇ」
その手際と何でもないというように平坦なレヴィの声音に、古市は人知れずゾッとしてしまった。
単純な戦闘力なんて目じゃない一方的な倒し方。これまでギフトゲームに則って楽しそうに戦うレヴィしか知らなかったが、観客などいないルール無用の戦いでこそ彼女の真価は発揮されるということを理解した。
恐る恐るといった様子で開けられた風穴から下を覗き込めば、倒れたままピクリとも動かない巨人の姿がある。が、今はそれよりも周囲の状況の方が問題であった。
「他にも巨人が暴れてやがる‼︎ なんなんだ、こいつら……‼︎」
「取り敢えず皆と合流した方が良さそうだね。古市君、行こう」
「はい‼︎」
急いで宿舎の外に出た古市とレヴィだったが、既に地下都市の外壁が崩れ始めている。大樹の根で支えられていなければとっくに崩落しているだろう。
そこで猛々しい咆哮が聞こえてきたかと思えば、再び地下都市を震撼させる衝撃が伝わってきた。その方向は今から古市達が向かう先……そこでは黒ウサギと耀が巨人と戦闘しており、そばには飛鳥の姿も確認できた。
「皆、無事ですか⁉︎」
「こっちは大丈夫よ‼︎ ヒルダさん達は⁉︎」
「分からないけどあの人達なら大丈夫でしょう‼︎」
飛鳥と古市がお互いの無事を確認している間に、金剛杵を取り出した黒ウサギが相対していた巨人を稲妻で焼き尽くしていく。
「皆さんは地表へ向かって下さい‼︎ 外にはもっと多くの巨人族が来ています‼︎ 都市内は黒ウサギにお任せ下さいッ‼︎」
黒ウサギが巨人の一体を倒した瞬間に頭上から間髪入れず三体の巨人が落下してきた。
そのうちの一体が彼女を捕らえるために鎖を投げつけようとしたが、それよりも早くその巨人の顔に水の球体が纏わりつく。他の二体にも同様に水が展開されている。
「黒ウサギちゃんだったら一人でも大丈夫だと思うけど、この地下都市には他にも人がたくさんいるからね。私達も手伝うから手分けして巨人を掃討しよう。手加減しなくていいなら古市君の魔力の使い方の練習相手にもなるし」
「じ、実戦訓練ですか……足を引っ張らないように頑張ります」
「フォローするから安心して戦いなよ」
レヴィの思いつきで古市の修行と化した巨人の襲撃であった。
唐突な提案に古市は怖気付きそうになるが、先程まで戦闘について話し合いをしていたところである。レヴィの言う通り、実戦で魔力の使い方を学べるのならば学んでおいた方がいい。
巨人に対するレヴィの実力を目の前で確認した黒ウサギも、彼女ならば片手間であっても大丈夫だと判断して提案を受け入れることにした。確かに自分は大丈夫でも他はそうじゃないのだ。早期収束を図る必要がある。
「了解しました‼︎ ならば黒ウサギは彼方に向かいますので、レヴィさん達は反対側をお願いします‼︎」
「オッケー。というわけで、飛鳥ちゃんと耀ちゃんは二人で外の援護に向かって。多分だけど鷹宮君も魔力的に上で暴れてると思うから」
「わ、分かったわ‼︎」
レヴィの言葉に飛鳥が承諾すると、耀は旋風を巻き上げて彼女を拾い上げていった。
そもそも崩落気味の地下都市でディーンが暴れたら確実に崩落してしまう。その飛鳥を地表に送り出すためにも耀は必要であり、必然的に二人の役割は地表の援護となるのだ。
飛鳥と耀を地表に見送った三人は、すぐさま行動を起こして巨人の掃討に向かっていく。黒ウサギと別れてすぐ、二人の視界には二体の巨人が暴れている姿が入ってきた。
「じゃ、さっきも言ったけど良い機会だし実戦練習していくよ。とは言っても攻撃しなくていいから、魔力強化した身体能力を使って撹乱と回避をお願いね」
「まずは身体に魔力を馴染ませるってことですか」
古市とレヴィが組んで戦う場合、魔力使用の熟練度もあって古市が肉弾戦を担うことになりやすい。魔力を高めるだけで身体能力も自然と高まるからだ。
レヴィにも近接戦闘の心得はあるものの、まずは古市にも同程度に動けるようになってもらわないと合わせにくいのである。
「そういうこと。あとは余裕があれば私の使う魔力の流れも感じといてね。空気中の水分を伝播させてソナーみたいに使ってるから」
「フルーレティさんと同じ広範囲察知法もお手の物ですか……本当に水は応用が利きますねぇ」
最初に巨人が襲撃してきた時、襲撃されるよりも早くレヴィは巨人の存在に気付いていた。あれは異変を確認するために魔力を使用していたから気付けたのだ。更に空気中の水分を使用しているため消費される魔力量も少ないという利点がある。
「というわけでレッツゴー‼︎」
「本当に危なくなったら助けて下さいよ」
よく分からないうちに巻き込まれた巨人の襲撃だったが、深く考え込んでいる暇はない。
修行と言いながらも迅速に無法者を殲滅するべく、二人は魔力を循環させて高めていくのだった。
ようやく巨人族の襲撃……なんですが、レヴィとの実力差があるため古市の修行相手として選ばれてしまいました。そろそろ彼自身のレベルも上げていかねば。