子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

70 / 71
はい、皆さんお久しぶりです。長らくお待たせいたしました。
もう毎回謝罪から入りそうな感じなので、次回からは不必要な前書きを省いていこうと思います。パパッと本文に入った方が読みやすいと思いますし。
それと今まで「・・・」だったものを「……」に戻そうと思います。もう一つの作品を書いてると「・」がもう違和感にしか感じないので……他の話も徐々に編集していこうと思います。

それではどうぞ‼︎


ルシファーの真価

黒ウサギやレヴィに言われて地下都市から地表へと出てきた飛鳥と耀だったが、開けた二人の視界に飛び込んできたのは正に“恩恵”を用いた戦争だった。弾き合う鋼の音が響き、飛び散る火花が夜の帳を照らし出す。轟々と撃ち合う炎の矢と竜巻く風の壁が弾け合う。文字通りの乱戦が繰り広げられていた。

 

「そ、想像以上の事態ね……‼︎」

 

巨人族の数は精々二〇〇体といったところだが、敵は一人で“アンダーウッド”の住人である獣人や幻獣を束にして相手取っているのだ。身体が大きいというのはそれだけで脅威である。

そこで飛鳥はレヴィが言っていたことを思い出して眼下の戦場を見回した。

 

「そういえば忍君も暴れてるって言ってたけど、この乱戦の中でいったい何処にーーー」

 

「見つけた、あそこ」

 

飛鳥の呟きを拾った耀がある方向を指し示し、彼女もそちらへと視線を向ける。そこには巨人族が三人も集まっており、誰かを囲むようにして足元へと攻撃を繰り出していた。

距離があって囲まれているため飛鳥には分かりにくいものの、耀の言葉が本当ならば中心には鷹宮がいるはずだ。彼女も鷹宮の実力は認めているが、物理的な攻撃力という面では戦闘向きの魔力とは言えないのも事実である。“紋章術”があるとしても巨人族との相性は良くないだろう。

 

「春日部さん、援護に回るわよ‼︎」

 

そう判断した飛鳥は自分を旋風で運んでいる耀に鷹宮の元へと向かうように言ったのだが、それに対して耀は暫し鷹宮の戦っている方向を見据えてから首を横に振った。

 

「……駄目だ、今行ったら巻き込まれるかもしれな(・・・・・・・・・・・)()。そうなったら忍の邪魔になる」

 

耀の言葉の意味が理解できない飛鳥だったが、次の瞬間にはそれが何を意味していたのかを理解する。

先程まで彼女には誰が戦っているのかも分かりづらい状況だったが、鷹宮がルシファーとともに巨人族の頭上へと跳び上がってきたことで飛鳥にも彼らの姿を認識することができた。そして彼女が耀の言葉の意味を理解したのはその後である。

巨人族が浮かび上がった二人を見上げた直後、彼らの頭部がいきなり三体の中心へと引き寄せられーーー首から上を抉り取って巨人族の生命活動を停止させた。糸の切れた操り人形のようにその場で崩れ落ちる。

 

「……今、何が起こったの?春日部さん、知ってるなら教えてくれないかしら」

 

その光景に飛鳥は息を呑みながらも、彼女は自身に制止の声を掛けた耀ならば知っているだろうと考えて問い掛けた。

耀も勝手に話していいものか少し考えていたようだが、見てしまった以上は追求するだろうと判断して彼女の問い掛けに答える。

 

「忍の、というよりルシファーの魔力は引力で相手を引き寄せるもの……なんかじゃない(・・・・・・・)。そう見えるような使い方をしてたってだけで、本来の力は重力(・・)操作(・・)だって忍は言ってた」

 

そう言われると飛鳥にも重力操作という力に思い当たる節があった。“アンダーウッド”に来てグリーに宿舎へと送ってもらった時、鷹宮が高速飛行に対して身体を固定しつつ風圧を調整していたと言っていたのを思い出す。確かに引力のような魔力だけでは成し得ない方法だろう。というよりよくよく考えればルシファーが浮遊していることからして引力だけでは説明できない現象である。

 

「じゃあ今のは……」

 

「多分だけど局所的に強力な重力場を発生させて、巨人族の頭を引き寄せながら圧縮を加えたんだと思う」

 

重力場を作って物質を圧縮する……(さなが)らブラックホールのような技があるのならば耀の選択は正しかっただろう。重力場の影響がどの程度かは分からないが、下手に近付いて援護しようものなら巻き込まれていた可能性だってある。

 

「……あれだったら私達の援護は必要ないわね。寧ろ行動に制限を掛けてしまうかもしれない。今は混乱している下の戦いを手伝いましょう」

 

鷹宮は単独の方が周囲を気にすることなく戦えるだろうと考えた飛鳥は、街の防衛線を見下ろして巨人族の侵入を防ぐことにした。ここで彼を一人戦わせる選択ができるのも実力を認めている証だろう。

二人は鷹宮のいる方向から視線を外し、最も防衛線が崩れそうなところを探して“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”の加勢に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

巨人族三体を屠った鷹宮は動かなくなった巨体には一瞥もくれず、今の自身の戦闘について自己分析していた。

 

(実戦投入したのは初めてだが、やはりあの規模だと魔力消費が激しいな)

 

鷹宮が好む戦闘傾向は徒手格闘に魔力や“紋章術”を組み合わせたものだが、徒手格闘の効果が薄い相手に限っては好みで戦うわけにはいかない。

そして箱庭に来てからはどんな相手とも戦えるように、徒手格闘だけでなくそれ以外の攻撃手段も追求していった。その中でも最高クラスの破壊力を持った技が重力場による物質の圧縮である。

ただしこの技はルシファーと二人掛かりで重力場を形成しなければ相手を戦闘不能になるまで圧縮することはできず、それ以上に重力場を形成するまで時間が掛かってしまう。相手の生死を問わない戦闘で余裕もあったからこそ使用してみたが、巨人族の頭部ほどの大きさの物質を圧縮するために必要な魔力が多いというのが彼の感想だった。乱戦の場では持久戦を想定したペース配分も大切であり、圧縮のみで戦闘不能に追い込むのは燃費が悪いと言えるだろう。

 

「……次か」

 

雄叫びを上げながら駆けてくる巨人族を見据えた鷹宮は、先程の戦いから戦闘方法の修正を加えつつ応戦しようとしーーーそれよりも早く巨人族の首から鮮血が飛び散った。

駆ける勢いのまま反応することなく絶命した巨人族は前のめりに倒れ込む。そして彼は巨人族の首筋に伸びた蛇蝎の連接剣の根元へと視線を向ける。そこには純白の鎧とドレススカートを着て白黒の舞踏仮面を着けた白髪の女性が佇んでいた。

 

「……誰だ?」

 

「…………」

 

仮面の女性は答えず、鷹宮を一瞥してからその場を立ち去る。加勢に来たとかではなく偶々標的にした巨人族が被っただけなのだろう。

彼も彼女が去っていくのを止めたりはしなかった。元から他者に関心の薄い鷹宮だが、巨人族を一瞬で仕留める実力の持ち主として記憶はしても関与する理由がない。そもそも二人は巨人族相手に共闘する必要性を感じていないのだ。各々の判断で動いた方が効率もいいのである。

そうして鷹宮もこの場から立ち去ろうとした刹那、琴線を弾く音がして辺り一帯を濃霧が包み込んだ。急激に視界が悪くなり、踏み出そうとしていた足を止める。

 

(……認識阻害系のギフトか?)

 

鷹宮は取り敢えずといった様子で掌に空気を圧縮させて自分の周りにある霧を晴らそうとしたが、

 

「ウオオオオォォォォーーー‼︎」

 

身の丈ほどの拳が上から降ってきたため回避行動に移った。至近距離まで接近されて気付かなかった事実に推測を確信しつつ、跳躍して拳を回避した鷹宮はそのまま巨人族の巨腕に着地して駆け上がる。

それを巨人族は小蝿を払うようにして弾き飛ばそうと腕を振り回したが、弾き飛ばされる前に再び跳躍した鷹宮は顎下から掌に圧縮していた空気を叩きつけた。

顎をかち上げられ無防備を晒す巨人族に対して鷹宮は落下しながら腕を引き絞り、

 

貰うぞ(・・・)お前の魂(・・・・)

 

紋章を足場に巨人族の左胸を貫通させて心臓へ腕を突き立てる。生温かい感触を無視して左胸から腕を引き抜くと、重さを感じさせない心臓の形をした魂が身体から抜き取られた。

これがルシファーの持つ魔力の真価であり奥の手の一つ、物理的な重力操作とは異なる魂への干渉だ。魂を抜き取られた身体は活動を停止し、死んだようにしてその動きを止めた。ただし魂が他にあるうちは肉体が死ぬことはなく、魂を肉体に戻せば再び身体の活動は再開される。が、鷹宮は魂を抜き取るとともに心臓を破壊しているので、戻す前に治療しておかなければ活動が再開された途端死ぬことになるだろう。

ここまでの説明を聞くと手間を掛けて殺しているだけのように聞こえるが、この能力が奥の手とされる所以は別にある。鷹宮は取り出した魂を自身の身体に取り込んだ。

 

「オオオオッォォォォーーー‼︎」

 

そこへ新たな巨人族が巨剣を持って襲い掛かる。斬るというよりも押し潰すような物量による理不尽な一撃。魔力強化された肉体であっても直撃を受ければ死は免れないだろう。

それを鷹宮は真正面から受け止めた(・・・・・・・・・・・・・・・・)。振り下ろされる巨剣の側面を両手で挟み込んだのである。

 

「フンッ‼︎」

 

更に受け止めただけでは止まらず、両手で挟み込んだ巨剣を振り回して力尽くで巨人族の体勢を崩しに掛かった。思わぬ反撃に呆然としたまま為すすべもなく倒された巨人族は、続く鷹宮の踵落としで頭蓋を砕かれて絶命する。

これこそが魂に干渉する最大のメリット。相手の魂をーーー霊格をそのまま取り込むことで自身の霊格に上乗せすることが出来るのだ。巨人族の霊格を直接取り込んだ鷹宮の膂力はまさに巨人族そのものである。

当然ながら制限もあり、相手と霊格の差が大きければ魂を取り込むことは出来ない。いや、取り込むこと自体は可能なのだが過剰な霊格によって肉体()に負荷が掛かるのだ。その負荷は下手をすれば命を落としかねないほどである。取り込む魂の数を重ねるのも同様である。

しかし巨人族の霊格一つならば支障なく戦えるだろう。今度こそ標的を探すべくこの場を立ち去ろうとした鷹宮だったが、

 

「ーーーGEYAAAAaaaa!!!」

 

幻獣達の雄叫びが辺りから響き渡り、呼応するかのように数多の旋風が巻き上がった。それによって認識を阻害していた霧が晴れ、好都合とばかりに踏み出そうとしたところで、

 

「……もう終わりか」

 

霧が晴れた先の巨人族は既に全員が事切れていた。鋭利な刃物で頭・首・心臓を的確に裂かれ、一体残らず屍と化していたのだ。しかもその殺害痕には見覚えがある。

 

(……仕事の早い女だな)

 

鷹宮は先程一瞬だけ相見(あいまみ)えた女騎士を思い浮かべながら、標的を探すためではなく宿舎へと戻るために足を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「死ぬ……ホントに死ぬ……」

 

「大袈裟だなぁ、人間そう簡単には死なないって」

 

地下都市の巨人族掃討を担当していた古市とレヴィは、宿舎への帰り道を歩いていた。レヴィは平常通りにしているのだが、古市はげんなりとした様子の重い足取りである。

巨人族の襲撃によって突発的に始まった古市の実戦訓練は、笑顔を浮かべたレヴィのスパルタ指導によって精神的に参っていた。

巨人族の攻撃を不恰好ながら避け続けている古市に対し、レヴィは古市を放置して他の巨人族を相手していたのである。もちろんすぐに助けられる間合い以上離れることはなかったが、意図的に古市が相手をしている巨人族は仕留めにかからなかったのだ。それどころか巨人族の攻撃を避けきれず当たりそうになったら、

 

「はい、アウト〜。常に相手の攻撃を予測しながら動かないと駄目だよ〜」

 

と言いつつ水撃を巨人族……ではなく古市へと撃ち込んで攻撃の軌道上から弾き出すのである。巨人族の一撃に比べればダメージは無いに等しいのだが、ずぶ濡れにされて地面を転がされるため格好はボロボロとなっていた。

その場を掃討し終えると場所を移動して同じことの繰り返しである。更に回数を重ねることで少し回避に余裕が出てくると、

 

「戦闘中は周囲に気を配りながら戦ってね〜。いつ不意を突かれるか分からないよ〜」

 

と言いながら巨人族の攻撃の合間に水撃を撃ち込んでくるため、後半は巨人族とレヴィへ半々に警戒する古市なのであった。

ちなみにレヴィは水撃を撃ち込むと同時に古市が相手していた巨人族を仕留めていたため、彼は一度も巨人族の攻撃を受けてはいない。ボロボロなのは全てレヴィの攻撃によるものである。

 

「随分と小汚くなったものだな。ボロ雑巾そのものではないか。その様では先が思いやられるぞ」

 

「そうだねぇ……あとで組み手でもしよっか?」

 

「マジでもう勘弁して下さい……」

 

そして掃討中に合流したヒルダから更に精神的な追い討ちが掛けられ、それを受けたレヴィが真剣に組み手の実施を考え込む。流石に疲労困憊で洒落にならないので平伏しそうな勢いで拒否する古市であった。

と、巨人族が暴れて残骸と化した宿舎が見えてきたところで中から瓦礫が吹き飛ばされる光景が目に入ってくる。

 

「なんだ?」

 

「彼処って……確か耀ちゃんの部屋じゃない?」

 

安全を知らせる鐘の音が響き渡っていたことから地表の巨人族も撃退できたことは分かっていたが、鐘の音からあまり時間が経っていないことを考えると撃退し終えてすぐに耀は戻ってきたのだろう。

いったい彼女は何をしているのか疑問に思っていたその時、勢いよく瓦礫を吹き飛ばしたことでバランスを崩した耀の部屋が更に崩落した。

 

「……まぁ瓦礫が微妙なバランスを保っていたのならば崩れるのは道理だな」

 

「いやいや、冷静に分析してる場合じゃないでしょう⁉︎」

 

中から瓦礫が吹き飛ばされたということは何か作業をしていたということであり、少なくとも中に耀がいることは間違いないのだ。古市は慌てて崩落した部屋へと駆ける。

 

「春日部さん、大丈夫⁉︎」

 

急いで部屋の中を確認すると、そこには耀だけでなく飛鳥の姿もあった。ただし二人とも床に倒れこんでおり、耀は気を失っていて飛鳥は腕から血を流していることから無事とは言えない。

 

「久遠さん、怪我してるじゃないか‼︎」

 

「わ、私のことはいいわ。それよりも先に春日部さんをお願い」

 

「分かった‼︎」

 

飛鳥に言われて耀を抱え上げた古市は、緊急の救護施設として設けられた区画へ走っていった。実戦訓練の成果もあって魔力強化された身体能力をフルに利用している。

 

「飛鳥ちゃん、いったい何があったの?」

 

古市に続いて遅れて部屋に入ってきたレヴィとヒルダが残った飛鳥に問い掛けた。しかし彼女はその問い掛けに首を横に振る。

 

「分からないわ。急に春日部さんが表情を青ざめさせて駆け出したと思ったら、部屋に戻って瓦礫をーーー」

 

説明している途中で瓦礫に目を向けた飛鳥の言葉が途切れた。不思議に思ったレヴィとヒルダも瓦礫に目を向けてその意味を理解する。

耀が倒れこんでいた瓦礫のそばには此処にあるはずのないものーーー十六夜のヘッドホンに付いていたトレードマーク、炎のエンブレムが落ちていたのだった。




鷹宮&ルシファー強化その1、“重力操作”と“霊格の取り込み”です。ルシファーが浮いているところ、魂を取り込んだ王臣の力が増幅したことから自己解釈させていただきました。
こんな感じで他の皆も強化していきますのでよろしくお願いします‼︎

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。