子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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各々の気持ち

緊急の救護施設として設けられた区画に運ばれた耀が目覚めたのは、彼女が運び込まれてから幾許(いくばく)かの時間が経過した頃だった。

 

(…………私……)

 

彼女は寝起きの頭で現状を理解しようと意識を覚醒させていく。その甲斐あって耀は気を失う前の出来事をすぐに思い出した。後頭部で鈍い痛みを訴えているタンコブも記憶を掘り起こした一因だろう。

何故か耀の鞄から出てきた十六夜のヘッドホン。身に覚えのない彼女はヘッドホンを見つけた瞬間に混乱したものの、その混乱が収まる前に巨人族の襲撃を受けたため考える暇もなく戦場へと駆り出されたのだ。

そして巨人族を退けた後、崩壊した宿舎へと戻ってきた耀は瓦礫の下からヘッドホンを探すために瓦礫を風で吹き飛ばした。それが古市達が遭遇した場面であり、宿舎を更に崩落させてしまった原因でもある。

 

「あら、気が付いた?」

 

彼女が現状を思い出しているとベッドを仕切るカーテンの向こうから飛鳥が現れた。その後ろから古市とレヴィも顔を覗かせており、三人は目を覚ました耀を見て表情を明るくしている。

しかし飛鳥の腕に巻かれた包帯を見た耀は深く息を呑んだ。

 

「飛鳥、その腕……」

 

「あぁ、これ?軽く擦ったぐらいよ。気にしなくていいわ」

 

飛鳥は何でもないように言っているが、耀の覚えている限り彼女は巨人族の襲撃を無傷で乗り切ったはずだと記憶している。加えて崩落に巻き込まれたはずの自分は頭を打っただけの軽傷という事実……飛鳥が身を挺して助けてくれたということに耀が気付くには十分だった。

 

「……飛鳥」

 

「それより春日部さん。コレについて説明してくれる?」

 

そう言って飛鳥が差し出したのは、十六夜のヘッドホンに付いていた炎のエンブレムである。後ろにいる二人も神妙な顔をしているところを見るに、全員ヘッドホンが壊れたことは知っているのだろう。

責められると思った耀はベッドの中で小さく蹲る。その様子を見ていた古市は彼女に問い質した。

 

「春日部さん……君が逆廻のヘッドホンを持ち出したのかい?」

 

「……違う。けど、私の鞄の中に入ってた」

 

「耀ちゃんは鞄に入れた覚えってないんだよね?」

 

「ない」

 

続くレヴィの問い掛けにも耀は即答で否定する。流石に準備をしている時にヘッドホンが入っていたら気付くはずだ。

耀の話を聞いた飛鳥はこれまでの話から今回の要点をまとめていく。

 

「ということは春日部さんが荷物をまとめた後に、犯人は十六夜君のヘッドホンを持ち出して荷物の中に紛れ込ませたってことよね。……これが可能なのは?」

 

「……私?」

 

「春日部さん以外でっ‼︎」

 

苦笑いしながら言い直す飛鳥に、耀は微塵も疑われていないことを嬉しく思った。少し元気を取り戻した耀はゆっくりと身体を起こす。

 

「そう言われても……私以外でそんなことが出来るのはーーー」

 

と、話している途中で思い当たる相手がいたのか、耀の言葉が止まった。だが彼女としても思い至った可能性を信じられないらしく、目を見開いて思い至った相手の名前を告げられずにいる。

だが彼女は苦虫を噛み潰したような顔になった後、

 

「……飛鳥。そのエンブレム、貸して」

 

「え?どうしたの急に」

 

「犯人の匂い。残ってるかも」

 

「あ、まだ確認してなかったんだ」

 

それこそ真っ先に確認していると思っていた古市は思わず口から零していた。耀の嗅覚は野生動物に匹敵するというのに、それを活用することさえ忘れるほどパニックになっていたらしい。

飛鳥からエンブレムを受け取った耀は、それを自身の鼻へと近付けて匂いを嗅ぐ。

 

「……どう?」

 

「……うん。やっぱり残ってた」

 

耀のギフトによって犯人が特定できたまでは良かったものの、彼女は推測が確信に変わったことで再び表情を硬くした。

と、その時に再びカーテンが開く。次に現れたのは二一〇五三八〇外門の噴水広場にカフェテラスを持つ鉤尻尾の店員と、その店員の腕に抱えられた三毛猫であった。

 

「どうもですよー常連さん‼︎ 向こうの方で打ち拉がれていた三毛猫の旦那さんを連れてきましたー‼︎」

 

『うおおおおい‼︎ そんな暴露は必要ないやろ‼︎』

 

店員の言葉を聞いて何やら慌てている三毛猫を余所に、耀はベッドの上から悲しそうな顔で三毛猫に問い掛ける。

 

「三毛猫……どうして……?」

 

彼女の問い掛けは抽象的なものだったが、その問い掛けによって話を聞いていた三人も事情を察することができた。十六夜のヘッドホンを持ち出し、それを耀の鞄に紛れ込ませたのは三毛猫の仕業なのだろう。

問われた三毛猫はバツが悪そうにしながら耀の問い掛けに答える。

 

『そ、それは……お嬢が余りにも不憫やったから、仕返しにって……』

 

「三毛猫ちゃん、それは駄目でしょー」

 

三毛猫の告白にレヴィも思わず嘆息を零してしまった。何か気に食わないことがあったとしても、同じコミュニティの同士に対する行動ではないだろう。

それを三毛猫も冷静になって理解したからこそバツが悪いのである。何より思惑とは裏腹に耀を悲しませてしまっており、その持ち出したヘッドホンも壊れて取り返しのつかない始末。打ち拉がれたくもなるというものだ。

そして更に続けられる三毛猫の言葉を聞いた“ノーネーム”一同は目を丸くした。

 

『で、でもアレやで?自分で言うのもなんやけど、金髪小僧はワシがヘッドホンを持ち出したことは知っとるで?』

 

「え?」

 

全員が思わず三毛猫を凝視する。三毛猫がヘッドホンを持ち出したことを十六夜が知っているとはどういうことか。

代表して古市が三毛猫に疑問を投げ掛けた。

 

「三毛猫、どういうことだよ?」

 

“アンダーウッド”へと出発する前、十六夜はヘッドホンが見当たらないから捜すといって本拠に残ったのだ。だが三毛猫の言っていることが本当ならば、楽しみにしていた収穫祭の全日参加を辞退してまでヘッドホンを捜すと言った十六夜の言葉は嘘ということになる。本気で捜しているのならばヘッドホンを持ち出した相手を特定しておいて放置するということはあり得ないだろう。

 

『どういうことも何も、ヘッドホンを持ち出した夜に本人から問い詰められたんや。ヘッドホンを持ち出してどうしたいんやってな』

 

三毛猫の話を聞く限り、どうやら十六夜はヘッドホンがなくなったと気付いた瞬間には三毛猫を特定していたらしい。彼が本拠内を探し回っていれば誰かしら気に掛けていたはずである。

そうして問い詰められた三毛猫は持ち出したことを白状したというが、仕返しということでヘッドホンを隠した場所までは教えなかったという。その際に持ち出した理由まで聞かされた十六夜は収穫祭の順番を譲ってやる、約束を保証するためにヘッドホンは返さなくていいと言ってきたそうだ。

当然のように三毛猫はその提案を訝しんだが、十六夜が言うには耀が収穫祭に全日参加する方が旨味があるとのことらしかった。旨味というのは幻獣の友達を作ってこいと言っていた通り、“生命の目録(ゲノムツリー)”を強化する機会が多いということだろう。恐らく言わなかっただけで耀だけでなく三毛猫の想いも汲んでいるはずである。

 

「でもなんで逆廻君だけなの?全日参加っていうことなら鷹宮君もでしょ?」

 

三毛猫の話を聞いたレヴィは純粋に疑問に思ったことを口にした。彼の仕返しは私怨もいいところなのだが、だからこそ十六夜だけに標的を絞った理由が分からない。まぁ私怨ゆえに判断は三毛猫の匙加減次第なので、単純に収穫祭参加を賭けたゲームで一位となった十六夜を狙っただけかもしれないが。

そのレヴィの疑問にも三毛猫は意外な答えを返してきた。

 

『いや、根暗の兄ちゃんにも仕返ししたろ思っとってんけど……お嬢の修行を見てくれとったし、恩を仇で返すのもなんやから止めたんや』

 

「修行?」

 

それを聞いた皆の視線が今度は三毛猫から耀へと移る。

耀は全員から注目されていることもそうだが、密かに修行していたことが思わぬ形で発覚してしまって居心地が悪そうだ。

 

「春日部さん、貴女も修行してたの?」

 

「う、うん。今回のギフトゲームで自分の力不足を痛感させられたから……強くなりたくて忍に修行をつけてくれないか頼んだの。忍は自分の修行の相手としてならって承諾してくれた」

 

“魔遊演闘祭”以降、特に使用頻度の高い鷲獅子のギフトを使いこなすため日常的に旋風をコントロールするという特訓をしていた耀だったが、何を隠そうその特訓をするに至るまでに助言をもらったのが鷹宮なのである。

“魔遊演闘祭”で一緒に戦ったことや戦闘力が高いというだけでなく、アスモデウスとの戦いで見せた考察力や力の使い方が巧いといったことも師事した理由であった。ルシファーの魔力が重力操作であることを耀が知っていたのも修行中に教えられていたからだ。ちなみに修行を開始したのは修行を頼んだ直後、つまり収穫祭前の夜中である。

 

「つまりお互いに良かれと思って動いた結果、今回の巨人族襲撃が最悪の形で合わさっちまったってわけか……取り敢えず逆廻には事情を説明して謝るしかないな」

 

古市の言う通り、壊れてしまったものは嘆いても仕方がない。巨人族の襲撃など予想していなかったわけだし、わざと壊したわけでもないのだから誠意をもって謝るしかないだろう。

しかし耀は三毛猫の飼い主としての責任、そして何よりヘッドホンを預けてまで順番を譲ってくれた十六夜に対して謝るだけで済ませたくなかった。

 

「うん、確かに謝る必要はあるんだけど……謝るだけじゃ駄目だ。何とかしてヘッドホンを直したい。……皆、勝手を言って悪いと思うんだけど手伝ってくれないかな?」

 

「ええ、喜んで」

 

遠慮がちに協力を求めてきた耀に、飛鳥は考える間もなく即答で協力を受け入れた。古市、レヴィも彼女と同じく首肯で了承を返す。

そんな三人の反応を受けて耀も口元を綻ばせた。ベッドから降りて気持ちを一新し、皆でヘッドホンを直す方法を探るためにもう一度宿舎へと急ぐことにする。

 

 

 

 

 

 

「諦めましょう」

 

「無理だよ」

 

「逆廻君の機嫌を取る方向で」

 

それが宿舎の瓦礫下から出てきたヘッドホンの残骸を見た飛鳥、古市、レヴィの感想だった。

ヘッドホンは辛うじて炎のエンブレムを残しているだけで、外装の全てが無慈悲なまでに粉々に砕けていたのだ。幾ら耀が直したいと願ったところで、そうそう都合のいいことはなかった。ここまで壊れているものを自分達で直すには無理がある。

 

「でも……機嫌を取るって、どうやって取るの?」

 

「そうね……第一候補としては、ラビットイーターを黒ウサギとセットで贈」

 

「るわけないでしょうこのお馬鹿様‼︎」

 

スパァーン‼︎ と背後から黒ウサギのツッコミが炸裂した。黒ウサギとジンはサラに呼び出され、それに同伴する形でヒルダ、アランドロン、鷹宮も収穫祭本陣営で巨人族襲撃の事情を聞いていたのだ。同じくジャックとアーシャも一緒に帰ってきたらしい。

 

「全くもう……耀さんっ、詳しいお話は三毛猫さんよりお聞きしましたよっ‼︎ どうして黒ウサギに相談してくださらなかったのですか⁉︎」

 

黒ウサギは耀へ詰め寄ると肩を掴んで激しく揺さぶりながら問い詰めた。そもそものヘッドホン持ち出しが起こった原因として、収穫祭の滞在日数を決めるギフトゲームで耀が上位を勝ち取れなかったことが起因する。その弱音を聞いた三毛猫が行動を起こしたのであり、相談していれば問題が起こることはなかったかもしれない。

 

「で、でもゲームで決めるっていう約束が」

 

「ゲームは所詮ゲームでございますっ‼︎ 相談してくだされば十六夜さんだけでなく、黒ウサギ達だって耀さんを優先的に参加させました‼︎ ましてや()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、黒ウサギはまるで気付いておりませんでした……‼︎」

 

「……ん?戦果を誤魔化す?」

 

「黒ウサギちゃん、どういうこと?」

 

彼女の言葉に疑問を抱いた古市とレヴィが口を挟んだところ、耀が手に入れた炎を蓄積できるキャンドルホルダーは飛鳥と二人で勝ち取った戦果だったのだと説明された。本陣営からの帰り道にジャックが事情を知らず話してしまったらしい。

半泣きになりながら語った黒ウサギに対し、飛鳥は堪らず前へ出て弁明した。

 

「ち、違うのよ黒ウサギ‼︎ 春日部さんに話を持ち掛けたのは私で……‼︎」

 

「違う。私が悩んでいたから飛鳥が気を遣ってくれて、」

 

「……いえ、そんな気を遣わせたのは黒ウサギにも責任がございます」

 

彼女達は三者三様に頭を下げる。結果論ではあるものの、今回のことを機に彼女達の心境は変わったことだろう。十六夜のヘッドホンが壊れてしまった問題はあるが、ある意味ではこれで良かったのかもしれない。

 

「別に不正を働いたわけではないのだから気にする必要はないと思うのだがな」

 

「だよねぇ。戦果を横取りしたのならまだしも、二人とも合意の上なわけだし」

 

「まぁ黒ウサギさんの言う通り、嘘を吐くくらいなら相談すればよかったのにって思うのはありますけどね」

 

彼女達とは対照的に外野はあっさりしたものであった。実際に古市とレヴィは協力して戦果を挙げているのだから、その内訳にまで口出しするつもりはない。更にヒルダもアランドロンの転送能力を借りて魔界から通信機を取り寄せている。彼らからすれば耀は使える手を使ったに過ぎないという認識なのだろう。

頭を下げ合っている彼女達の元へとジンが歩み寄っていった。その視線は粉々に砕けたヘッドホンへと向けられている。

 

「ヘッドホンを直すのは難しそうですね……でしたら他の方法で手を打つしかありません。僕から代案がありますので聞いてもらえませんか?」

 

彼の言う代案を聞こうとしたその時、緊急を知らせる鐘の音が“アンダーウッド”に響き渡った。

何事かと警戒を露わにする彼らの元へ、網目模様の樹の根から慌てて飛び出してきた樹霊の少女が現状を伝える。

 

「大変です‼︎ 巨人族がかつてない大軍を率いて“アンダーウッド”を強襲し始めました‼︎」

 

ーーー直後、地下都市を震わせる地鳴りが一帯に響いた。




今回は裏話というか、“アンダーウッド”出発前の原作とは違う反応に対する説明会でした。
そろそろ留守番組を呼び出してストーリーを進めたいところです。
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