まさかの“あの人”も少し出てきます。
それではどうぞ‼︎
コホンと咳払いをした黒ウサギは気を取り直して全員に切り出した。
「ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をしないと。この水樹のこともありますし」
「“サウザンドアイズ”?コミュニティの名前か?」
「Yes。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです」
「ギフト鑑定というのは?」
「ギフトの秘めた力や起源などを鑑定することデス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
同意を求める黒ウサギに十六夜、飛鳥、耀は複雑な表情で返す。
男鹿に関して言えば、早乙女禅十郎・斑鳩酔天との修行で一通り把握しているのでぶっちゃけどうでもいいと思っている。
そうこうしている内に蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記された旗の商店“サウザンドアイズ”に着いたようで、片付けをしている女性店員にストップをーーー
「まっ「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」
かける事も出来なかった。
「なんて商売っ気の無い店なのかしら」
「ま、全くです‼︎ 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて‼︎」
「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は「お邪魔しまーす」ま、待ちなさい‼︎ まだ話の途中です‼︎」
女性店員を完全スルーして店に入ろうとする自由な男鹿に対して女性店員は入り口を塞ぐように立つ。
「別にいいじゃねぇか、ちょっとぐらい遅くてもよ」
「そういうことではありません‼︎ ウチは“ノーネーム”お断り「いぃぃぃやほおぉぉぉ‼︎ 久しぶりだ黒ウサギィィィ‼︎」
「きゃあーーー・・・‼︎」
黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に突撃され、街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。
男鹿達は目を丸くし、女性店員は痛そうな頭を抱えていた。
「・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?ならオレも別バージョンで」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
真剣な表情の十六夜に、真剣な表情で言い切る女性店員。
二人の真剣さに対してどうでもいい内容であった。
「し、白夜叉様⁉︎ どうして貴方がこんな下層に⁉︎」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに‼︎ やっぱりウサギは触り心地が違うのぅ‼︎ ほれ、ここが良いかここが良いか‼︎」
黒ウサギを強襲した白夜叉と呼ばれた少女は黒ウサギの胸に顔を埋めてすり付けていた。
「し、白夜叉様‼︎ ちょ、ちょっと離れてください‼︎」
白夜叉を無理やり引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。
くるくると縦回転した少女を、男鹿は同じく頭を掴んで受け止めた。
「何してんだお前は?」
「お、おぉ。受け止めてくれたのは嬉しいが、もう少し優しく受け止めれんかのぉ・・・」
頭を掴まれながら呆れている白夜叉に、一連の流れに呆気にとられていた飛鳥が話しかける。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」
何処までも冷静な声で女性店員が釘を刺す。
それを聞いた男鹿は掴んでいる白夜叉に胡散臭げな目を向ける。
「オーナーってまさか、このガキの事かよ?迷子とかじゃねぇの?」
「し、失礼な‼︎ 迷子などではなく、立派な“サウザンドアイズ”幹部様じゃ‼︎」
男鹿の失礼な物言いに掴まれた手から抜け出しながら反論する白夜叉。
嘘は言っていないがなんとも子供っぽい言い返し方である。
「うう・・・まさか私まで濡れる事になるなんて」
「因果応報・・・かな」
『お嬢の言う通りや』
水路から出て悲しげに服を絞る黒ウサギ。
白夜叉は気持ちを切り替え、十六夜達をみてニヤリと笑った。
「オホン、まぁいい。話があるなら店内で聞こう」
「よろしいのですか?彼らは旗も持たない“ノーネーム”のはず。規定ではーーー」
「なに、身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」
オーナーにそう言われればどうしようもなく、仕方なく店内へと入れる女性店員なのだった。
★
「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」
招かれた場所は香の様な物が焚かれた、個室というにはやや広い和室であり、白夜叉は上座に腰を下ろす。
「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
投げやりな言葉で流す黒ウサギ。
その隣で耀が小首を傾げる。
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」
そう言って黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれて七つの支配層が形成されており、その図を見た他のみんなの反応は、
「・・・超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」
「白夜叉、この店にバームクーヘンねぇの?」
身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。
軽食を摂ったのに男鹿はまだ食べ足りないのか、白夜叉にバームクーヘンを要求している。
「悪いが置いとらんの。だがその例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合い、強力なギフトを持った者達が住んでおるぞーーーその水樹の持ち主などな」
白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?」
「いえいえ。この水樹は十六夜さんと辰巳さんがここに来る前に、蛇神様を叩きのめしてきたのですよ」
白夜叉の質問に黒ウサギが自慢げに答える。
「なんと⁉︎ クリアではなく直接的に倒したとな⁉︎ ではその童達は神格持ちの神童か?」
「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし。逆になんで辰巳さんは神格を持っていないのか不思議なのですが・・・」
黒ウサギの言い回しに疑問を覚える白夜叉。
「む、それはどういうことだ?その童には何かあるのか?」
「辰巳さんが言うには背中のベル坊さんは“蝿の王”ベルゼブブの息子だそうなのですよ」
神格とは種の最高のランクに体を変幻させるギフトを指しており、ベルゼブブは悪魔の中でもトップクラスの悪魔である。黒ウサギの疑問も分からなくはない。
黒ウサギがそう言うと白夜叉の顔にもさらに疑問が浮かんでいる。
「“蝿の王”の息子だと?あやつに息子など・・・いや、異世界から来たベルゼブブの息子ーーーもしや自称大魔王だったあやつかの?」
その独り言とも言えぬ言葉に男鹿は驚いていた。
「大魔王のことを知ってんのか?」
「あのアホのことだろ?」
「あぁ、間違いなさそうだな」
どんな人物なのかは知らないが、二人の認識に話を聞いていた他のみんなは苦笑している。
「その自称大魔王様というのはどういった方だったのですか?」
「自称大魔王といっても魔王としての力は強大だったのだが、いかんせんテキトーな奴での。他の世界の、テレビゲームとやらに興味をもったというだけで箱庭を出ていったアホじゃ」
白夜叉の言っていることは正しく、もう一人の息子である焔王ともどもよくゲームで遊んでいる。最初の疑問である神格については、白夜叉曰く“まだ幼く力を扱いきれていないからではないか”とのこと。
話が逸れていたが少しずつ戻ってきたので十六夜は気になっていたことを質問する。
「話が逸れちまったが、白夜叉はあの蛇と知り合いだったのか?」
「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ」
それを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。
「へぇ?じゃあお前はあの蛇より強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の“
“最強の主催者”ーーーその言葉に問題児達は一斉に瞳を輝かせた。
「そう・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
「最強か。そいつは興味があるな」
「アイダブッ‼︎」
この場に集まった問題児達の剥き出しの闘争心に気付き、白夜叉は高らかと笑い声をあげた。
「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え?ちょ、ちょっと皆様⁉︎」
それを聞いて慌てる黒ウサギを右手で制した白夜叉は、着物の裾から向かい合う双女神の紋が入ったカードを取りだして壮絶な笑みを浮かべた。
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている。しかし、ゲーム前に一つ確認しておくことがある。おんしらが望むのは“挑戦”かーーーもしくは“決闘”か?」
今日はここまで‼︎
次はお待ちかねの白夜叉のギフトゲームです‼︎
書き溜めの進行具合によって今週中に投稿するかもしれません。
ではまた次回に‼︎