いや、ポケモンとスパロボ楽しかったんで、つい……
アグスタ二階ホール。今回の会談で使用する為に抑えられた部屋は簡単なパーティなら開けそうな程の広さのそこに設置された椅子に腰を下ろし、レジアスはテーブルを挟んで反対側の椅子に腰かける老婆、ミゼット・クローベルを見やっていた。人の良さそうな笑みを浮かべる薄紫の長髪を三つ編みに纏めた彼女は、レジアスが苦手とする相手の一人だった。
「久しぶりに会ったのに、そんなに怖い顔してどうしたの?」
「……この顔は元からです」
「若い頃はもっと可愛らしい顔してたじゃないレジィ坊や」
「坊やは止めていただきたい」
一体何十年前の話ですかと言いたくなるのを飲み込んで、変わりにため息をつく。全く持って、ミゼットを寄こした本局連中が恨めしい。そんなに自分の発言力があがる事が気に入らないのか、地上を軽視するのかと今すぐにでも吠えたいところだ。
「別に本局だって地上を軽視しているわけじゃないのよ。ただ……こちらも手一杯なのは理解しているでしょう?」
「ええ。
皮肉どころか直球の言葉にも、老婆は笑みを崩さない。
「まぁ、取り扱う事件の規模とかそういうのもあるからね。優秀な子には……どうしても、ね。私としても今の環境が良とは思ってないけど、どうしようも無いのが現状なのよ」
本当に申し訳無さそうに言うミゼットに、レジアスは不満を隠そうともせず鼻を鳴らした。彼女の言葉は紛れもなく本音なのは伝わるが、はいわかりましたと納得できる訳もない。
「故にアインヘリアルが必要なのです。人手が無いのなら、それを補う物を欲するのは当然でしょう。現にこちらでは怪獣という災害への対処も求められているのですから、ね」
暗にそんな事も理解できないのかと、ミゼットの傍らに控えている反レジアス派であろう局員達を軽く睨んで見せれば悔し気に表情を歪めた。これは思ってたよりも溜飲が下がるなと、秘書官として会議の内容を記録しながらオーリスはそんな事を思っていた。
(それはそれとして、喧嘩売りすぎないでよね)
ただでさえ直球で物事を言い過ぎるんだからと、内心ヒヤヒヤしながらオーリスは黙々と仕事を続ける。ホテル外部にて、ガジェットの襲撃が確認されたと報告を受けたのはその直後の事だった。
ガジェットは現在三種の機体が確認されている。カプセル状の形態をし、最も多くの目撃、出現が確認されているⅠ型。全翼機のような形態をした航空機タイプのⅡ型。ボール状をした大型のⅢ型の三種である。ホテル周辺にて確認されたのはⅠ型と三型の二種。合計で数十機程の大群が迫りくるそれを、最前線で食い止めんと奮戦するシグナム、ヴィータの二名。そして、守護獣と呼ばれる存在である水色の体毛を持った狼。ザフィーラによりそのうちの大半は文字通りの意味で薙ぎ払われていく。
「これは出番無いかもねぇ……」
等とスバルがぼやいたせいかどうなのか。ホテル前で防衛ラインを引き、ガジェット群を文字通りの意味で薙ぎ払っていくシグナム達の奮戦を見学状態であった彼女等の前に、突然数機以上のガジェットが出現した。地面に浮かび上がった魔法陣から湧き上がるように出現するそれは、見る者が見ればすぐにわかる手品。
「転送魔法!?」
「近くで、誰かが召喚魔法を使ってるんです! 召喚士は優れた転送魔法の使い手ですから!」
その気になれば自分でも同じ事は出来ると言わんばかりに、召喚士である少女キャロ・ル・ルシエが断言する。彼女が言うなら間違いないとスバル達も異を唱える事は無く、即座に目の前に現れたガジェット群への対処へ移行していった。
ホテルの外でガジェット群と警備にあたっていた機動六課の戦闘が始まった事は、当然ギンガにも伝わっていた。外の警備を担当している機動六課。スバル達の事が全く心配ではないと言えば嘘になるが、ガジェット程度の相手であればそうそう遅れは取る事は無いだろう。万が一の事があろうとも、外には六課の副隊長であり、はやてが個人的に保有する戦力たるヴォルケンリッターが控えている。これは最早、怪獣や宇宙人が出てこない限りは心配はいらないと言っていいだろう。
【なんて言ってると、出てくるんだよな】
「タイガ、煩い」
揶揄うような言葉に辛辣にツッコミを入れるのと、廊下の奥から二人組の女が歩いてくる事に気付くのはほぼ同時だった。どちらもホテルの従業員の制服を着用しており、ホテル内を歩き回っているのは不可解ではない。この奥が、レジアスとミゼットの会談会場であり従業員であっても立ち入りを厳しく制限されているという一点を除けばであるが。
「すいません。この奥は警備の関係上、管理局により立ち入りを制限させていただいているのですが」
そして、正式な手順を踏んで通る従業員がいる場合は警備担当の自分にも必ず連絡が来る手筈になっている。故にギンガは警戒を解く事なく静止の言葉を告げて、従業員に扮した女性二人が廊下を蹴って彼女へ飛び掛かるのは同時。女性二人は明らかに人間ではなく、壁や天井を蹴り、不規則な動きを持って一気にギンガとの間合いを詰めていく。ギンガといえど、初見で見切るのは難しいであろうその動きに戸惑い、反応が遅れる……という事は無かった。
【右斜め上と左前方! 時間差で来るぞ!】
彼女に見切れずとも、彼女の中にいるタイタスがその動きを見切りって的確な助言をするのだから。
「ッ!」
指示通りに身体を動かすだけで良かったのだ。
ギンガはその通りの動きを行い、二人の女性の攻撃を紙一重の差をもって回避すると共にカウンター気味に手刀を叩き込む。人体急所である首筋への一撃を受け、一人は完全に意識を失い床へと倒れこむ。だがもう一人は辛うじて踏み止まり。
「ッ!!」
思わぬ反撃にら懐から取り出した拳銃型のデバイスを構えようとするのだが……それよりも早く、銃口を向けるよりも先にギンガの手が伸びて相手の手首を掴む方が早い。そのまま腕を極められれば、後はもうどうしようもない。
「ぐっ!? は……はなっ!?」
悲鳴を上げる相手を他所に、ギンガは側頭部に一撃を叩き込む。脳震盪を起こした女性はそのまま意識を失い、擬態を維持できなくなったか宇宙人としての姿を晒したまま倒れ伏す。
【やはり擬態だったか】
「タイタス、見抜いてたの……?」
【彼女達の擬態が未熟だっただけだ。さて、ここに宇宙人が潜り込んできたとなると】
現状を認識するが早いか、ギンガはタイガキーホルダーを握りしめた左手でタイガスパークのレバーを降ろすと共に廊下を駆けだした。向かう先にあるのはホテルの壁。左右に分かれる廊下の、そのどちらにも曲がるそぶりは見せず全速力で壁に向かい、そのまま激突せんとするかのような行動だが、無論彼女にそんなつもりはない。
「バディ、ゴー!」
タイガスパークの力で光の粒子に変換されたギンガの体はホテルの壁をすり抜けた。そのまま屋外へ飛び出した粒子はホテル上空へと舞い上がり、そこでタイガとしての巨体を再構成。そのまま我が物顔で浮遊するクラゲのような生命体と対峙する。
「何、あれ……怪獣?」
〖いや、あれは円盤生物だな。宇宙怪獣の一種だが……元は侵略用の生物兵器のような物だったと聞く〗
タイタスの言葉を受け、もう一度クラゲを見てみると確かに円盤のように見えなくもないような、そうでもないようなといった感じだ。下部にある口であろう箇所から伸びる一見すると舌のようにも見える数本の触手。肉感的で、グロテクスですらあるそれは見ているだけで気持ち悪い。何より、口の形状からして明らかに肉食だと素人目にも解るのが嫌悪感を更に強くさせる。
〖どっちみち放っておけるか! さっさと片付けるぞ!〗
言うが早いか、牽制のスワローバレットを放ちながらタイガは上空に鎮座するシルバーブルーメ目掛け飛翔。それを迎撃せんと振るわれる触手を避け、バレットで撃ち払いながら空中戦を繰り広げる二つの巨体を確認したティアナは一人焦燥感に駆られていた。
(なんで、こういう時に出てくるのよ!?)
ガジェットだけならまだいい。だが、怪獣や宇宙人が出てきたとなると話はまた別。後者ならまだなんとかなるかもしれないが、怪獣なんて常識はずれは自分達の……否、自分の手に負える相手ではない。隊長陣はその気になれば対抗出来なくはないだろうし、スバルやエリオ、キャロ達程の才能があればなんとか立ち回れはするだろうが、非才な凡人たる自分には無理な話。今回ははるか上空にて巨体同士の空中戦を演じているから手の出しようはないが、それでもそこにいるという事がティアナの焦燥感を煽り立てる。
「ティア! ちょっと、どうしたの!?」
「……何でもない! エリオ、キャロ、二人は後方に下がって! スバル、フォーメーションで一気に決めるわよ!」
「へ……あぁ、了解!」
一瞬遅れたスバルの返答に僅かに苛立ちを覚えつつも、彼女はそれを飲み込んで即座に指示を出す。その言葉を受けてハッとなったように顔を見合わせたエリオとキャロであったが、すぐに我を取り戻すとその指示に従って後方へと下がる。それを見送った後、改めて前方に浮かぶガジェット群を見たティアナは大きく息を吸い込む。
(大丈夫。あれぐらい、私にだって!)
脳内で思い描く理想像を実現させる為、一か八かの賭けに出る事を決意して、ティアナはクロスミラージュを力強く握りしめた。
外で行われる激しい戦闘とは打って変わって静まり返ったホテル内。宿泊客全員を避難させ、後は残っている者がいないか見回っている少数の従業員と会談やオークションの警備にあたっている局員がいるだけ。そうして周囲に誰もいない事を確認したホテルの従業員は、制服を脱ぎ捨ててその本性を露わにした。
「さてさて、ここまでは計画通り」
スラっと伸びた手足を持った縦長の頭部を持つ宇宙人、スラン星人はしめしめとばかりに誰もいない通路を歩く。この先にある倉庫に保管されているオークション出品の為に持ち込まれたお宝の山が眠っている。管理局が危険性無しと判断した物とはいえロストロギアには違いなく、出すとこに出せば高値で売れる。ヴィランギルドの下っ端も下っ端である彼にとって、舞い込んできた今回の仕事は久々の大仕事かつ、超簡単な仕事……の筈だった。
「何が、計画通りなのかな?」
突如背後から伸びてきた鎌状の魔力刃が、スラン星人の首元に突きつけられていた。
「っ!?」
「外の騒ぎに便乗して会談を狙う……と見せかけて、本命はこっち。
淡々と言葉を紡ぐ鎌の持ち主。フェイトがオークション会場に入城する為のドレス姿のまま、バルディッシュだけをデバイスモードに展開してスラン星人の動きを止めてみせていた。
「な、何故それを……っ!?」
「執務官なんてやってると、他所の世界で悪さしてる宇宙人の相手も良くするんだけど……スラン星人は、結構縁があって……ねっ!」
スラン星人の別名は高速宇宙人。文字通り、凄まじい高速で動く事の出来る種族であり、首もとに刃を突き付けられた状況からの脱出は余裕である。ましてや、人間の反応速度では決して追い付けない速度での動きなのだから。しかし、スランの目論みは彼の動きに見事反応してみせ、その腕による一撃をバルデッシュで受け止めたフェイトによって外れることとなった。
「なにぃ!?」
「ごめんね。私もスピードにはちょっと自信があるの」
そのままスラン星人の腕を弾き、がら空きになった胴体に素早く蹴りを叩き込む。たかがミッド人相手と舐めきっていた事を認識し、本気の速度を持ってフェイトへ襲い掛かる。流石に一瞬反応が遅れたフェイトが咄嗟にバルデッシュを振るうが間に合わず、脇腹に叩きつけられたスランの回し蹴りで悲鳴と共に壁に叩きつけられ、そこでスラン星人の攻撃は強制的に止められてしまった。
「な、なにぃ!?」
何故なら、その全身に魔力で編まれた鎖が絡み付いていたからだ。
「言ったでしょ。スラン星人には縁があるって」
故に対処法はいくらでもある。次元世界中で宇宙人による犯罪を管理局が認識し、取り締まりを本格的に始めたころより、執務官として様々な事件に関わっていたフェイトも宇宙人を相手にする事が多くなり、高速戦闘を得意とする彼女はそのせいもあって高速宇宙人たるスラン星人の相手をする機会が多くなっていたのだ。
「ち、ちくしょう! 管理局の、めっ! ぎゃあああああ!」
悪態を付こうとした矢先、バルデッシュから放った非殺傷設定の電撃魔法を浴びて悲鳴と共に気絶。バインドで雁字搦めになったままゴロンと床に転がるスラン星人を見て、フェイトはふうと息を吐いた。
「……あ、このドレス……」
≪激しく動いたせいで大分傷みましたね。レンタル品だったはずですが≫
「…………やっちゃたなぁ」
間違いなく買い取りか弁償確定。怒られる事は無いにしても、はやて達にいらぬ仕事を増やしてしまった。そんなため息をついて、フェイトは念の為にとスラン星人に更にバインドを重ね掛けて、宇宙人犯罪者確保の連絡をするのだった。
ホテルアグスタ上空。シルバーブルーメの下部から伸びる触手をスワローバレットで迎撃しながら、タイガは空を駆ける。隙あればホテルまで触手を伸ばさんとするのは、やはりレジアス達の命を狙っての事なのか。それとも自分がウルトラマンであるという事がバレて、何者かが差し金た刺客なのか。または単なる偶然というか、この海月怪獣の本能なのか。
「何が狙いなのよ、この怪獣は!?」
顔らしい部分も見当たらず、何を狙っての事なのか理解できずに苛立ちのままギンガは吐き捨てる。不意に伸びてきた触手に殴打されるもどうにか空中で踏ん張ってみせて、すぐに加速して上昇。どこまでも伸びてくるシルバーブルーメの触手を体を捻って避け続け、それが間に合わないモノは光線で迎撃しての繰り返しにいい加減タイガも苛立ちを覚え始めたようだ。
【考えるだけ無駄だ! そんな事より怪獣リングを使え!】
そんなタイガの物言いに少しカチンと来るが、確かにその通りだと深呼吸をして冷静になってからタイガスパークのレバーを下げる。ギンガの左の指にヘルベロスのリングが嵌められた。
《ヘルベロスリング、エンゲージ!》
【ヘルスラッシュ!】
放たれた赤黒い刃がシルバーブルーメの触手をまとめて斬り飛ばす。流石に痛覚はあるのか表情こそ読めず、声らしい声も出さぬシルバーブルーメが怯んだように激しくその巨体を揺らす。その隙にギンガは更にタイガスパークから怪獣リングを呼び出した。先日、ギャラクトロンを撃破した際に入手した二つ目のリングだ。
「ついでに、これよ!」
具体的にどんな力があるのか解らないが、とにかく戦闘の役に立つという事だけは直感的に理解する。それになにより
《ギャラクトロンリング、エンゲージ!》
インナースペース内にギャラクトロンの電子的な叫びが響き、ギンガを介してタイガへとその力が付与される。
【モンスビームレイ!】
突き出された左腕の先に魔法陣が展開され、そこから放たれた虹色の破壊光線がシルバーブルーメの巨体を下部の口らしき器官より貫き、内側から爆散させた。
「ふぅ……終わった、かな?」
【地上の方も、大分片付いた】
タイタスの言葉にギンガも地上へと目を向ける。今いるのは遥か上空300メートルあたりといったところだが、それでも地上にいる人々が全員特定できるぐらいにハッキリ見えるのだから、ウルトラマンの視力はとんでもないなと今更ながらに認識する。
眼下の地上で行われている戦闘はほぼ終了しており、最後のガジェットを撃破し終えたヴィータが相棒たる鉄槌型ガジェット、グラーフ・アイゼンを肩に担いで軽くこちらを睨みつけている。敵意を向けているというか、さてあっちはどうしたもんかと思案しているだけのようにも見えるが、余計なトラブルを起こすのも勘弁だと思ってギンガは変身を解除してホテル内に戻ろうとした矢先。
「……あれ?」
誰もいないホテルの裏側で、独り泣いている見知った少女の姿を見た。
ホテル裏。戦闘も終わり、最早警備の必要もないそこにティアナは一人立っていた。
今日の自分は最悪だ。ここで結果を残さなければ六課に来た意味がない。そう思ってやれる事をやろうとしただけだ。自分のキャパシティを超える無茶であった事は自覚している。それでも上手くやれるだけの自信は……あるにはあった。
(でも、凡人の私にはあれしかない……あれしかなかった!!)
自分のキャパシティを遥かに超えるだけの魔法を行使した結果、数発の魔法が制御を離れて暴走。前線から戻ってきたヴィータが間に合ってなければ、スバルに殺傷設定の魔法が直撃するという最悪の事態になっていた。結果は後方に回されて今回の作戦からは実質的に外されてしまった。
「私は……何やってんのよ……っ!」
まさに最悪の結果。悪夢なんてもんじゃない。間違いなく自分の夢は遠のいた……下手をすれば道は閉ざされてしまう。それだけは絶対に嫌だ。今回の事で即刻という事だけは無いだろうが、少なくとも評価は大きく下がるに違いない。それにスバルまで巻き込んでしまった。最悪に最悪の上塗りであり、ティアナの脳内は後悔と焦りと苛立ちと様々な感情で文字通りの意味でグチャグチャだった。
〖おやおや、随分と悩みの中にいるようだね〗
不意に声が聞こえてきた。直に脳内に響き渡るような気味の悪い、それでいてとても通る声にティアナは反射的にクロスミラージュの銃口を向ける。そこにいたのは、仮面と拘束具を身に着けた異形の男。おどけたような仕草で両手を上げてみせる。
〖おっと失礼。驚かせたかな? 私は………いや、見た目通り怪しいが敵ではない〗
「……な、なんなのよ、アンタは?」
〖私か? そうだねぇ……君の悩みを解消する為に来た者、とでも言おうか〗
フフフと笑みを零す異形の男。油断なく突きつけられるクロスミラージュの銃口に臆する事無く、異形は言葉を続ける。
〖君は、今迷いの中にいるんだろう? 正確には嫉妬……才能に恵まれた周りと凡人でしかない自分の差を思い知った、といったところだろう?〗
「っ!?」
見事に言い当てられたそれに押し黙るティアナ。異形は仮面で隠れた顔に同情の色を浮かべながら言葉を続ける。
〖君の気持ちはよく解るよ。私も、似たような経験があってね……どれだけ努力をしても報われず、どれだけ苦悩しても周りの誰一人として理解しようともしない。いやはや、
忌々しく、どこか物悲し気に吐き捨てる仮面の異形にティアナは困惑した。彼の言葉は、まるで魔法にでも掛けられたかのように心に響くからだ。そんな彼女の様子を察してか、異形はフッと嗤いながら甘い言葉を囁き続ける。
〖ティアナ・ランスター。君に選択肢は二つある。このまま何の成果も出せず、無為な努力を続ける日々を送るか……破滅する事を覚悟の上で、強大な力を手にするかだ。無論、力を手にしても使いたくないというのならそれでいい……おっと、これでは選択肢は三つか〗
ククッと嗤う異形。決して信じてはならない、手を取ってはならない相手だと本能が訴える。それでも、耳を傾けてしまいたくなる彼の言葉から、ティアナは離れようとは思えなかった。
「あ、あなた……一体……」
〖おっと失礼。先に名乗らないのは礼儀に反したね〗
そういって、仮面の異形は大袈裟に芝居がかったお辞儀をした。
〖私の名はトレギア。君の願いを叶えにやってきた〗
それはとても甘美な、悪魔の囁きのような名乗りだった。
次回リリカルBuddyStrikers
第六話 風の覇者