リリカルBuddyStrikers   作:やまさんMK2

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お待たせしました


第六話 風の覇者 Apart

 深夜の廃棄都市区画。基本的に無人であり、深夜ともなればよほどのモノ好きでもなければ誰も足を踏み入れない場所。万年人手不足の管理局も実地訓練や昇進試験の会場にするなどで定期的に人を入れているが、それでもフォローしきる程ではない。故に犯罪者の隠れ家的に使われる事が多くなるのも必然であった。

 

「うっわ……」

 

 そして、犯罪現場になる事が多くなるのもまた当然である。目の前に横たわる亡骸の有様に思わず声を上げて目を背けてしまったギンガに、108部隊の先輩にして上司のラッド・カルタスはため息交じりに諭す。

 

「おいおい、そういう声出すなよ。お前だって長いだろ」

「すいません。でも、流石にこれはちょっと……」

「……俺だって我慢してるんだ」

 

 目の前の亡骸。まるで干からびたミイラのような、青白くなり果てた肌をした男性を横目で見やる。年齢は見た目では解らない程に干からびたそれは、一目で犯人が人間ではない事を物語っている。

 

「同じ状態の被害者、これで4人目でしたっけ?」

 

 込み上げてくる吐き気を堪えながら、記憶している事件の情報を思い返す。最初の被害者が発見されたのは数日前。丁度ホテル・アグスタでの警備任務にあたっていた頃だった。そこから立て続けに被害者が発見され現在に至る。

 

「あぁ、全身の血を抜き取られている。文字通り、一滴残らずな……他の部隊も捜査を続けているが、手掛かり無しだ。ちなみに被害者は本局が追ってた違法魔導師だとさ。こりゃ、本局の連中が黙って無いだろうな」

108(うち)はともかく、レジアス中将とか不機嫌になりそうですねぇ」

「機嫌取っといてくれ。オーリス秘書官のお気に入りなんだろ?」

「はいはい。私は使いっぱしり(お気に入り)ですよ」

 

 カルタスの言葉にちょっと皮肉っぽく返す。正体知られて以来、色々こき使われたりもしているのだから愚痴ぐらい許してほしいと思いながら、ギンガはもう一度被害者を見やる。

 一滴残らず血を抜き取る等、人間業ではない。そういう用途の魔法なんて物は少なくとも管理局が把握している限りは存在しない。ならば宇宙人の仕業かと思えば、そちらの線でも有力な容疑者は全く出てきていないという。

 

「ナカジマ。お前、そっちの方面強い奴と知り合いなんだろ?」

「え? あ、あぁ~……後で聞いてみますね」

「何なら一緒にその情報屋の処に行くか? 俺にも紹介してくれよ」

「あ~……ちょっと気難しいところあるから、私一人の方が都合良いんですよ」

 

 その情報屋が自分の中にいるウルトラマンだなんて、口が裂けても言えないのである。度々同僚や先輩の捜査官から紹介しろしろ言われて、誤魔化さないといけないという気苦労が増えたのは最大の誤算だった。

 

【ふむ……全身の血液を一滴残らず、か】

 

 そうやってカルタスをはぐらかしている最中、タイタスが何か心当たりがあるかのように呟いた。別の捜査官と話し込み始めたカルタスの傍からそれとなく離れ、周りに人気が無い事を確認してからギンガはタイタスに話しかける。

 

「タイタス、心当たりでもあるの?」

【あぁ……ギンガ、被害者の致命傷は解っているのか?】

「えっと……ちょっと待って」

 

 待機状態のブリッツキャリバーを使って管理局のデータベースにアクセス。一連の通称吸血殺人事件に関係する捜査情報を引き出す。

 

「えぇと……首筋に丸状の傷口が二つ、ね。検死の結果だとどちらも脳と心臓にまで到達してたって……」

 

 それを聞いて、ギンガの眼前に浮かぶタイタスは困ったように天を仰ぎ見た。

 

【やはりアイツか……これは厄介な事になったぞ】

 

 

「うわぁああああああああっ!」

 

 タイタスの言葉に嫌な予感を感じるのと、悲鳴が響き渡るのは同時だった。

 

「今の……っ!?」

【この近くにまだ潜んでいたか!】

 

 即座にバリアジャケットを展開し、悲鳴のした方向へブリッツキャリバーを走らせる。ギンガがそこで到着すると、すでに何人かの局員が杖型のデバイスを構えた状態で何かへ向け、攻撃魔法を乱射している状態だった。後方で支援に回っている女性局員の傍へキャリバーの車輪を滑らせ、状況を問う。

 

「一体どうしたんです!?」

「あれですよ! 見た方が早いですって!」

 

 ほとんど悲鳴のような声に従って、視線を向ける。

 

「な、何……あれ……っ!?」

 

 そこにいたのは、気味の悪い見た目をしたボールの群れ。その数、軽く数えて十数のそれが意志を持つ生き物のように不規則な動きで空を舞い、局員に襲い掛かっていた。

 

 

 

 

 

 ギンガがタイタスから知り得た情報は、オーリスを通して地上本部にあげられ、そこから捜査に参加する全部隊に――ギンガとウルトラマンの事は伏せた上で――共有される。被害者の一人に本局が追っていた違法魔導師がいた事もあり、本局の部隊も急遽捜査に参加。ミッドチルダに展開している本局所属の部隊のいくつかが捜査に駆り出され、機動六課もそんな部隊の一つだった。

 

「で、地上本部から渡されたデータにあった最有力容疑者……と言うか容疑怪獣が、これ」

 

 六課所有のヘリ。その後部デッキにて、なのはが空中に表示したモニターに映し出されるのはグロテスクな見た目のボールだった。

 

「怪獣……っていうか、ボール……ですよね、これ?」

 

 エリオの疑問の声になのはも小さく頷き、言葉を続ける。

 

「吸血ボールっていうそうだよ。見た目はこんな感じで、大きさはだいたいソフトボールと同じぐらい」

「ボール一つ一つは大した脅威じゃないそうよ。ただ、数が無数としか言いようがないそうでね。実際、地上部隊の魔導士が昨夜からいくつも発見して対処してるけど……」

 

 なのはの言葉を引き継いだ金髪の女性、六課の医務関係を一手に引き受けるシャマルが一瞬だけ言葉を詰まらせ、重たい口を開く。

 

「100以上は撃破してるけど何処からともなく湧いて来て、逆に被害者も出てるそうよ。死傷者は昨夜だけで三十名以上。管理局の人間だけで、ね。民間人含めた被害は……表に出てない未確認もいるかもと思うと想像したくないわ」

「クラナガン全域に非常事態宣言が出されて、民間人は外出禁止。この状況も長くは維持できないし、レジアス中将は今日明日中には解決しろってあちこちに激飛ばしてるって話」

 

 シャマルの口から出された被害に顔が青くなるのと同時に、こんな状況であればレジアスがそうなるのも無理はないと、テレビ越しでしか見たことが無いスバル達にも理解できる。そうして、一刻も早くこの事件を解決しなければならないと気を引き締める。何せ、クラナガンにいる全局員が動員されている大規模捜査なのだから。

 

「今回の任務は大きく分けて二つ。地上部隊に協力して、吸血ボールを見つけ次第片っ端から撃破する事。それと、ボールの本体を見つけ出す事」

「本体、ですか?」

「小さいボールは所謂端末みたいな感じらしくてね。それらを統括して指示を出す本体のボールが何処かにいるって話だよ」

「本体の特徴は?」

 

 すかさず質問を投げ掛けるティアナ。

 

「見た目はさほど変わらないそうだけど……一目でコイツだって分かるぐらいに大きいらしいよ。大きさは成長度合いによって変わるそうだけど、小さくてもサッカーボールぐらいはあるって」

 

 そこで言葉を一度区切って、深呼吸をしてからなのはは改めて指示を出す。

 

「エリオとキャロは先行して捜査に加わってるシグナム副隊長と、ティアナは私と……スバルは、ヴィータ副隊長が一緒に108部隊の応援に回ってるから、そっちに合流して」

「え……あの、どういう」

「昨夜、ボールに襲われた部隊が108だからよ。人的被害が多くて、捜査員が足りないって」

 

 何故にそんな指示をと疑問を言い切る前に、シャマルがその真意を代弁した。

 

「ちょっ! それ、大丈夫なんですか!?」

「大丈夫、落ち着いて。ナカジマ三佐は隊舎にいたし、現場にいたギンガも無傷だから」

「あ、そ、そうですか……良かったぁ……」

 

 ホッと息を吐いて、思わず立ち上がってしまっていたスバルは腰を下ろす。

 そんな様子に思わず笑みを浮かべながらも、なのははすぐに表情を切り替えて指示を出した。

 

「フェイト隊長は、地上本部に寄ってから合流する手筈になってるからそのつもりで。じゃ、みんなしっかりね」

 

 

 

 

「捜査員7名が殉職。4名が負傷、入院……ボロボロだな。お前がいながら」

「他の皆もいたのに、変身出来る訳無いでしょ……」

 

 昼時も終わった事もあり、人気が無い地上本部の食堂にて、オーリスの言葉に愚痴で返しながらギンガはわざとらしくため息をついて彼女を横目で睨む。本来ならギンガも捜査に加わって街中をあちこち走り回っているのだが、その最中にオーリスから呼び出しを受けてお邪魔しているのである。理由は昨夜の報告に対する形式上のお説教……という訳でもない。宇宙怪獣であると判明したが、ミッドの衛星軌道上は管理局が網を張っており、そう簡単に掻い潜れる物ではない。それをどう掻い潜ったをオーリスに調べてもらったのだ。

 

「とりあえず、頼まれていた件だが……やはり数日前に大気圏外から飛来する物体が観測されてた。反応も小さく、観測班も軌道上に浮かぶデブリか何かだと認識したようだが……」

 

 上司に雑用を頼むのってどうなんだろう? と双方ともに思わなくも無いのだが、形はどうあれ色々と奇妙な繋がりが出来た上、オーリス視点でもギンガをこき使っているという自覚はあるのでこの程度の雑務は引き受けているのである。

 

【間違いなくそれだな。実際、引力に捕まって落下するデブリに紛れ込んだのだろう。その程度の知性はあるはずだ】

 

 オーリスの言葉にタイタスが頷く。なお、彼はオーリスの目の前でスクワットの真っ最中なのだが、ギンガはそれを意識的に無視した。オーリスには彼の姿が見えないのが幸いしたと言えるのかもしれない。目にしたらどんな反応をするのやら、想像するだけでちょっと笑えて来るのだがそれも必死で意識の外へ追いやっておく。

 

「それに紛れてきた、で多分間違いないとタイタスが」

「……あぁ、そうか。私の声も聞こえているのだったな。しかし、まさか宇宙から直接怪獣が来る上に、ここまで狡猾に立ち回るとは」

 

 それほどの知性のある怪獣がいるとは思わなかったと、言葉にせず愚痴るオーリス。今までミッドチルダに出現した怪獣は基本的にどこからともなく現れては本能のまま暴れまわるか、ヴィランギルドの宇宙人が裏で操っているかの二択であり、そこまで知性を働かせる種が存在するなど思わなかったのも無理はないだろう。

 

「この見た目ですからね。知性があるなんて、私も最初は信じられませんでしたよ」

 

 ギンガが表示したモニターに映し出される吸血ボール。グロテスクでいかにも生物的な見た目のボールに、そこまでの知性があるとは初見では誰も思わない。

 

「それで、本体の居場所は? そっちの目途はつかないのか?」

「そっちは全然。タイガがいうには、クラナガンのどこかにはいる……だそうです」

「……この星(ミッド)のどこか、と言われないだけマシと思うべきか」

 

 タイガ曰く、同種のボールが彼の宇宙にある地球にも飛来した事があり、その時に地球にいたウルトラマン――タイガの故郷で教員をしているらしい――が戦った時の経験とデータを講義で教えてもらっていたとの事である。ウルトラマン程の存在がわざわざピックアップするような怪獣なのかと思うとゾッとするし、それと直に戦わねばならないのかと思うと肩がずっしりと重くなる。思わずため息が出そうになった時、軽くオーリスがギンガの肩を叩いた。

 

「あまり気負い過ぎるな。お前達が一番の切り札には違いないが、今はアインヘリアルもある」

「……はい。それじゃ、私もそろそろ捜査に戻ります」

「あぁ、頼んだ。……この事件が終わったら、甘い物でも食べに行く?」

「良いですね、やる気でました」

「なら、また後で連絡するわ。渡したい物もあるから、しっかりやってね」

 

 別れ際にそんな約束をするようになる程度に気安い関係になれたのはちょっと意外だ。そうして、軽く手を振って別れると完全に友人に対するそれをしあって、二人はそれぞれの仕事へ戻っていく。

 

「へぇ……ホントに仲良いんだ」

「へっ!? フェ、フェイトさん!?」

 

 そんな食堂の出口で、ばったりとフェイトと出会った事でギンガの決め顔は一瞬にして崩れたのだが。

 

「な、なんでここに……?」

「捜査の打ち合わせだったり、細々とした雑用で。六課も全員出動で手一杯だからね」

 

 地上本部に用事があったついででもあったのだが、実際に現在六課はフル稼働中。今回の事件捜査の為、休暇中だった隊員も含めて忙しなく動いており、手一杯なのも事実なので彼女が引き受けたという形である。

 

「しかしま、ギンガがオーリス秘書官と仲良いってホントだったんだね。ちょっと意外」

「え、えぇ……まぁ。色々ありまして」

 

 実際話すようになるまで、生真面目でお堅いだけの人という印象が強かったオーリスにフェイトもそういう印象を抱いでいたのだろう。実際、六課を査察に来た時は常に不機嫌そうというか、厳しい表情をしていてその時ぐらいしかまともに顔を合わせていないフェイトが、オーリスをそういう人と認識していても不思議はなく、ギンガに対して――実年齢よりも若く見えるぐらいに――柔らかい表情を見せているのが、意外だった。

 

「話するようになると、結構可愛いところもある人ですよ」

「へぇ、そうなんだ。まぁ、私は……というか、六課は目の敵にされてるから無理かなぁ」

 

 ただでさえ本局とは色々とやりあってるレジアスの娘だけあって、オーリスも六課に向ける目は厳しい。正確には、単に仕事として厳しい目を向けているだけで、彼女自身はレジアス程こちらに思うところはないという事は、フェイトを初め六課首脳陣全員が理解している事ではある。のだが、正直仲良くできる日が来るとはあんまり思っていないのも事実である。

 

「ところで、何の話してたの? 108も捜査で色々忙しいと思うんだけど……」

「あ、あぁ~……別件で頼まれてる事があって、その報告ついでに私も雑用に駆り出さた感じでして」

 

 実際は呼び出し喰らったという事実上のサボりみたいなもんである。真実を言う訳にもいかず、嘘をついてでも誤魔化さねばならないという少しばかりの罪悪感を飲み込む。フェイト達ならば、バレたところで下手に言いふらしたりはしないだろうけれど、本局の人間には絶対に言うなとレジアス直々にキツク言われたからには、地上所属としては守らないとである。

 

【立場的には3割ぐらい、あのオッサン直轄部下みたいになってるよな】

(タイガ、五月蠅い)

 

 そんな会話が目の前の後輩の内側で行われている事に当然気付かず、フェイトはギンガの表向きの返答に頷いた。

 

「私は一度隊舎に戻るけど、ギンガは?」

 

 途中までで良いなら送っていくよと暗に示すそれに、ギンガも頷こうとして――

 

『捜査中の部隊から緊急入電! 吸血ボールの大群に襲撃を受けている模様! 付近の部隊、およびすぐに動ける者は応援に向かってください! ポイントは……』

 

 喧しいぐらいのサイレン音と共に本部全体に響き渡ったその放送に、緊張が走った。それと同時にフェイトのバルデッシュにも通信が入っており、応答していた彼女が目を見開いて「解った! すぐ行く!」と珍しく声を荒げている。それだけで、襲撃された部隊に誰がいるのかは理解出来た。

 

「ごめんギンガ!」

「解っています。フェイトさんは早く応援にいってください」

 

 そうして返事もそこそこに、というよりギンガの言葉も聞こえているかどうか怪しいといった感じに足早に廊下の奥へと消えていくフェイト。この突き当りに屋外テラスがあるから、そこから飛んでいくつもりなのだろう。となれば、自分は……自分達はどうしたものかと軽く周囲を見渡して、人目を避けれそうな場所を探す。わざわざ陸路やウイングロードを使用するより、タイガに変わった方が遥かに早いのだから。

 

 

 

 

 運が良いのか悪いのか、どちらかでいえば後者だとなのはは内心で滅多にしない舌打ちをした。ティアナと共に地上に展開中だった部隊に合流した矢先、吸血ボールの群れがどこからともなく湧いて出たのだ。そのまま戦闘に突入し、片っ端からボールの迎撃を行っているが。

 

「数、多すぎでしょ!!」

 

 苛立ちを隠さずに叫ぶティアナの言う通り、とにかく数が多い。いくら撃ち落としても湧いてくる。レイジングハートも撃墜数が100を超えてからは数えるのを止めるどころか喋る事すらせず、完全になのはのサポートに全力を傾けている。お陰でなのはは空中で撃破数を稼ぎつつ、地上で他の捜査官達と共に戦線を維持しているティアナにも意識を傾ける事ができているが……。

 

(このままだと、何時まで持つか……)

 

 速射性と連射性に優れる魔法、アクセルシューターでとにかく数を落としていく。収束砲を撃つのに十分な魔力は周囲に充満しているが、この状態ではチャージする暇すら惜しい。

 

(いっそ、あれを狙うのも手だけど……)

 

なのは格好睨む視線の先には、巨体な吸血ボールが宙に浮かんでいた。大きさはボールなんて名前が詐欺としか思えぬ程。大型の輸送ヘリとほぼ変わらぬ巨大さのそれが、一体この街の何処に潜んでいたのか。一体どれほどの犠牲者をもってここまで成長したのか、考えたくもない。

 距離としてはほんの十数メートル。フェイトやシグナムならば一秒未満で間合いを詰められるし、なのはにとっては得意な間合いと言えるロングレンジではあるが、その十数メートルの間に無数の小型吸血ボールが浮かんでいる。それら全てが本体にとって矛であり盾。こちらの血を吸おうと組み付こうとするのは勿論、一つ一つが一種の機雷のような特性もあるのか砲撃を受ければ爆発を起こし、それに巻き込まれた他の小型ボールが爆発し、その爆発のせいで味方を巻き込むどころか街の被害が拡大しかねない。

 

(見た目以上に狡猾。本能的なものかどうかはともかくとして……こちらの打つ手を的確に潰してる!)

 

 これがゲームであれば、イライラの余りにコントローラーを投げつけてしまいそうなぐらいに嫌な布陣を敷いている。切り札の収束砲を撃てば、小型ボール諸共に本体の大型ボールを撃ち落とす自信はあるが、魔力を収束する為の時間が足りない。正確には、時間を稼げるほどの戦力が味方にいない。自分を含めて、身を護るだけで精一杯なのだから。

 

(せめて、後一手!)

 

 後一手でも打つ手があればどうにかなる。そんな無い物ねだりを嫌でもしたくなって、その一手は遥か上空から唐突に降り注いだ。魔法とは違う光線の雨あられ。それが的確に小型ボールを撃ち落としていく。何事かと空を見上げれば、そこから姿を現すのはウルトラマンタイガ。見慣れた50メートル級の巨体ではなく、人間の成人男性と大して変わらない大きさで現れたそれに、なのはも含めた皆が呆気にとられ、それを余所にタイガはスワローバレットで吸血ボールを複数まとめて撃破していく。

 

「……はっ! 皆! 今のうちに体制を立て直して!」

 

 突然の乱入者に呆気にとられたが、真っ先に我に返ったなのはの声で局員達は攻勢に打って出る。ウルトラマンが前に出て、その圧倒的戦闘力を持って状況を覆しつつあるのだからこの流れに乗らないという選択肢は無い。

 

「……チッ」

 

 ただ一人、小さく舌打ちをした拳銃型デバイスを持つ少女には誰も気付かなかった。

 

〖だぁ! くっそ! ホントに数多すぎだろ、コイツ等!!〗

 

 当然それに気付いていないタイガは、悪態を吐きながらスワローバレットでボールを撃墜しながら着実に本体との距離を詰めていた。本体の成長に合わせて数を増やしていくと聞いていたが、ここまで増えるなんてどこまで成長したというのか。

 

〖ギンガ! ギャラクトロンリングを使え!〗

「ええ!」

 

 モンスビームレイの貫通力をもって、小型ボールの群れに風穴を開けようと言う狙いを察して、タイガスパークに収納していたリングを指にセット。その力を読み込み、解放する。

 

〖「モンスビームレイ!」〗

 

 魔法陣から放たれる虹色の破壊光線。それは狙い通りに小型ボールの群れに風穴を開けた。そこが狙い目だとなのは達も理解し、余裕のあるものがそこから本体目掛けて砲撃。タイガもとりあえずダメージを与える事を優先し、両腕を突き出して最小限のチャージで済む光線を放つ。

 

〖ハンドビーム!〗

 

 赤色をした光線が真っ直ぐに大型の本体へ直撃。それに続いてなのは達の砲撃し、本体は怯んだかのようにその巨体を激しく揺らし、狂ったかのように激しくビームを乱射し始めた。

 

〖何っ!? くっそっ!〗

 

 咄嗟に巨大化したタイガは、その巨体を背にして地上にいる局員達の盾となりそれを防ぐ。

それによって局員達への直撃こそ免れたが、周囲のビルの上層が破壊され、その瓦礫が降り注いだ。それらはそれぞれが咄嗟に展開した防御フィールドによって防がれ、結果的に怪我人は出なかった、が……。

 

〖クソッ! 逃げられたか!〗

 

 忌々し気に吐き捨てるタイガ。彼の目の前から、吸血ボールの本体は跡形もなく消え去っていた。流石に消耗したのか、胸のカラータイマーも赤く点滅を始めていた。

 

【すでにかなり成長していた。見つかっていない被害者が相当いるのだろうな……】

「考えたくないんだけど……成長しきったら、どうなるわけ?」

〖ある程度を超えると、他のボールと合体する。そうなるとかなり厄介って話だ〗

「……最悪って事ね」

 

 そうなると仕留め切れなかったのは痛いなんて話じゃない。そもそも、ボールの状態でもあんなに厄介だなんて思わなかった。眼下でとりあえずの脅威が去ったとばかりにその場に座り込む局員達や、そんな彼らを見ながら一安心とばかりに息を吐くなのは。彼女はこちらに感謝のしるしとばかりに手を振ってくれている。それを確認して、ギンガはタイガを促してその場を飛び去った。適当なところで変身を解き、粒子状となったギンガが誰もいない無人の路地裏で実態を取り戻す。全身にけだるさと、受けたダメージによる痛みが残ってこそいるがさほど問題はないだろう。

 

「さて、と」

 

 何をするにも、一旦捜査を行っている適当な部隊に合流しなければならない。足早に路地裏を出ようとして。

 

【おいおい、何あの程度の相手にてこずってんだよ?】

 

 不意に聞こえた声に足を止める。ギンガだけでなくタイガとタイタスも反応する。この頭の中に直接響くようで、念話とは違う感覚のこれはまさかと思うよりも早く、ギンガの目の前に青い粒子状の光が集まっていく。

 

【やっぱ、俺がいねぇとお前ら全然駄目ってか?】

【フーマ!】

【お前もこの星に来ていたか!】

「え……もしかして、そういう事?」

 

 二人の反応で察して、無意識に青い粒子へとタイガスパークを向ける。粒子は吸い込まれるようにギンガスパークへと吸収され、ギンガの手の中でタイガ達のそれと酷似した、それでいて丸みを帯びた形状のキーホルダーへ変化する。

 

「やっぱり……ウルトラマン、なんだ」

【俺の名はフーマ。風の覇者、ウルトラマンフーマだ。よろしくな嬢ちゃん】

 

 吸血ボール騒ぎで忙しい最中に、まさか三人目のウルトラマンが来るとは。ギンガは呆気に取られ、自分の中に当たり前のように居候を決め込む宣言をした彼に対して「よ、よろしく……」と間の抜けた返事をするほかなかった。




今回の怪獣、果たしてどいつなのか解りますでしょうか? というか、出してる怪獣の紹介的なの別個で作った方がいいですかね?

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