リリカルBuddyStrikers   作:やまさんMK2

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第一話 光になった日 Bpart

 その日、フェイトは十年来の親友である高町なのはを連れ立ってクラナガン中央に聳える高層ビル群。時空管理局地上本部を訪れていた。新たに設立される新部隊、機動六課関連の細々とした書類仕事。諸々の手続きでどうしても地上本部に出向く必要があったからだ。

 

「とりあえず、本格スタートまでにやらないといけない面倒事はこれで全部だよね」

「うん。後は何もないし……あったとしたら、それは八神部隊長の責任です」

「なら、あっても全部押し付けちゃおっか。デスクワークは部隊長の仕事だもんね」

 

 冗談めかしていうなのはに、フェイトも笑って返す。ここにはいない親友、八神はやての夢であった新部隊設立の為にあれこれ手伝える範囲の事はやり終えている。後は全部、上司の責任で問題ないだろう。

 

「フェイトちゃん、お昼まだだったら一緒にどう?」

「いいね。ちょっと前にシグナムから教えてもらった美味しい食堂があるからそこに……っ!?」

 

 不意に、巨大な地響きで大地が揺れた。明らかに地震ではなく、何かが叩き付けられたかのようなそれに他の局員達も何事かとざわめく。窓辺にいた局員の一人が「な、なんだあれ!?」と叫び、そちらへ顔を向けると、炎が立ち上った燃える街並みと、空より降り立った一体の巨大生物の姿があった。

 

「誰だよ、街中で召喚魔法なんて使ったの!?」

「馬鹿か! あんなの、違法魔導師でもそうそうやらかさねぇって!」

「何ぼさっとしてる! 出られるヤツはさっさと出ろ! 付近の部隊にも出動要請だろ!」

 

 クラナガンの治安維持及び防衛を一手に担う地上本部といえども、唐突に出現した巨大生物相手に流石に戸惑いを隠せず、指示を出す上官の声を受けても動きが悪い者がちらほらと見受けられる。このクラナガンにいて、あんな巨大生物を目撃する等まず機会もないことなのだから、それはいくらか仕方のない事なのかもしれない。

 

「なのは!」

「うん。お昼はまた今度、だね!」

 

 その喧騒を余所に、一目散に外へと飛び出したなのはとフェイトはそれぞれの相棒たるデバイス、レイジングハートとバルデッシュを起動。一瞬でバリアジャケットを見に纏って飛翔する。本局所属の自分達が飛行許可を得る事も無く地上本部のお膝元であるクラナガンの空を飛ぶなど、ハッキリ言って問題行為なのだが、あの惨状を目撃していてそんな悠長を言っていられる状況ではない。

 

(はやてちゃん、立ち上げ前から迷惑かけて、ホントゴメン!)

 

 恐らくというか間違いなく、何らかの形で負担を被る事になってしまう親友に心の中で全力で謝罪しながら、二人は巨大生物……怪獣目掛けて空を舞う。

 

「アイツ、四年前の奴の仲間かな?」

「どうかな……見た目全然違うけど」

 

 四年前、自分達も救助活動に参加した空港災害時に現れた怪獣の事が、嫌でも脳裏を過る。何故今になってまた現れたのかと、嫌でも思案せずにはいられなかった。

 

 

 

 

「スバル……スバル! スバル返事して! スバルッ!!」

 

 恐怖に駆られて妹の名を叫ぶ。目の前にある崩れた瓦礫の山。それから自分を庇って、下敷きになってしまったのではないか。いくら()()()()()()()だと言っても、こんな瓦礫の下敷きになってしまったら……頭の中に嫌でも浮かんでくる最悪の結果を振り払うように、ひたすらに妹の名を叫ぶ。

 

『ギン姉……大丈夫。無事だよ』

 

 デバイスを通じて聞こえてくる妹の声。

 

「スバル! 良かった……待ってて、すぐに助けるから!」

『私の事は後。まず、メモールちゃんを安全な処に連れてってあげて』

「あ……」

 

 その言葉に、自分が腕の中に抱えていた小さな命の事を思い出す。妹が瓦礫の下敷きになったという衝撃で、すっかりと頭の中から抜け落ちていた。煙を吸い込み、息苦しそうに咳をする少女への罪悪感と、いくらなんでも迂闊すぎる自分の拙さに怒りにも似た情けなさを覚える。

 

『先にその子の安全確保。ギン姉しか出来ないんだから、しっかりやって』

「……解った。すぐに助けに戻るから、ちょっとだけ我慢してて」

 

 思っていたよりも、妹は立派だ。災害救助を担当する部隊にいるからというのもあるだろうが、この状況で自分よりも落ち着いている。そんな彼女を誇らしく思うと共に、己の不甲斐なさを反省。今は、自分のやるべきことをしっかりとやらなければならない。

 

「げほっ……げほっ……」

「ごめんね、メモールちゃん。すぐに安全な場所に連れてってあげるから!」

 

 魔力で組み上げた空を走る道。ウイングロードを伸ばし、その上を疾走して炎と煙に飲み込まれ、怪獣が荒れ狂うエリアを離脱するギンガ。両腕に抱きしめたメモールの身体の、その命の重さをしっかりと体に覚えさせながら、怪獣が暴れる街に妹を一人残して行く事への罪悪感を振り払って、空の道を疾走する。

 それを、待機状態の破損したデバイスでどうにか起動させたレーダーで確認して、スバルは安心したように息を吐き出した。

 

「もぉ……ギン姉、私の事になるとすぐ取り乱すとこ、全然変わんないなぁ……」

 

 小さい時から、そういうところは本当に変わってない。空港災害に巻き込まれた四年前から、一気に酷くなったような気がする。あの時は自分が迷子になって姉とはぐれたというのもあるので、よく考えなくても自分のせいではあるのだが。

 

「ゲホッ、えほっ……」

 

 瓦礫の山の下。文字通り下敷きになったスバルが息苦しそうに苦笑しながら自分の状態を再確認。手足の感覚はちゃんとある。完全に潰されて悲惨な事になっているわけでは無さそうだが、身動きは取れない。おまけに瓦礫の隙間から漂ってくる炎の熱と煙で呼吸は苦しいし、どうにか動かせた右手でポケットの中からデバイスを取り出せば、破損してバリアジャケットの展開が不可能になっていると最悪中の最悪だ。レーダーと通信が出来ただけマシといえる壊れっぷりなので、贅沢は言えないが。

 

(あぁ、これ……ちょっと、ヤバいかなぁ……)

 

 あまり時間が残されていない事に言い知れぬ不安を覚えながらも、スバルの脳裏に浮かぶのは姉が無事に少女を連れてこの場を離れた事への安堵と、今ここにはいない親友を初めとした大事な人々の事だった。

 

 

 

 

 ウイングロードで空を駆け抜けながら、ギンガの横目に移るのは怪獣によって蹂躙される街の光景。ついさっきまで妹と二人で休日を楽しんでいただけなのに、何故このような理不尽に直面せねばならないのか。血がにじむ程に唇を噛みしめながら、ギンガは腕に抱くメモールに目線を移す。

 

「…………」

 

 怯えている様子もなく、ぼんやりとした視線を泳がせたままではあるが小さな手でしっかりとギンガにしがみく少女。まずはこの子の安全をしっかり確保する事が先決。スバルからも叱咤されたそれを再確認し、適当な場所はないかと視線を動かしていると、こちらに向かって飛行する二人の魔導士の姿が見えた。それぞれ白と黒のバリアジャケットを纏った、見間違えるはずもない自分とスバルの恩人達。

 

「あれは……フェイトさんに、なのはさん!?」

「ギンガ……?」

 

 二人もまさかギンガと顔を合わせるとは思っていなかったといった様子で、三者ともに空中で静止する。

 

「ギンガ、どうしてここに……? その子は?」

「偶然居合わせたんです! すいません、この子を安全な場所までお願いします!」

「へ、えっ!?」

 

 有無を言わさず、半ば押し付けるようにフェイトへメモールを手渡した。反射的に受け取りながらも呆然とするフェイトを尻目に、ギンガはメモールの頭をそっと撫でる。

 

「少しの間、このお姉さんと一緒にいて。後で必ず迎えにいくから」

「……解った」

「ちょ、ちょっと!? この子誰!?」

「ヴィランギルドに拉致されてたみたいです! お願いします!」

 

 それ以上言う事は無いとばかりに会話を打ち切り、頭を深々と下げてからウイングロードをUターンさせて、ギンガは巨大怪獣の暴れるポイントへと戻っていく。怪獣目掛けて飛んで来たらヴィランギルドに拉致されていた女の子まで出てくるなんて、ちょっと情報量が多すぎてパンクしそうである。そんなわけで彼女の背中を呆気に取られたように数秒眺めた後、ハッと二人も我に返った。

 

「なのは、ギンガをお願い。なんだか様子がおかしかったし……私はこの子を、適当な救助隊に預けてくるから」

「解った。任せて」

 

 互いに頷くと共に、フェイトは元来た空路を取って返し、なのははギンガの後を追うように空を駆けながら、彼女へと念話を繋げる。

 

《ギンガ、焦ってるみたいだけど落ち着いて。何があったの?》

《スバルが、スバルがまだあそこにいるんです! 助けに行かないと!》

《スバルが……っ!?》

 

 驚くと共に、ギンガの焦りの訳も理解する。四年前の縁もあり、色々と彼女を気にかけていたらしいフェイトを通して面識はあった。偶然仕事先で一緒になった事もあり、その際に彼女の人となりはある程度把握はしているつもりだった。とても妹を大切に想っている優しいお姉ちゃんという、自身も故郷にいる姉を思い出すぐらいには理想的に姉をしていると子だと。

 

《解った。でも、一人でなんて無茶だよ。私も協力するし、さっきの子を救助隊に預けてからフェイトちゃんも戻ってくる》

《なら、アイツを引き付けてください! 私はスバルを!》

《ちょっ!?》

 

 静止を無視し、一気に加速していくギンガの背中を見やって、なのはは彼女の父と交流のあるはやてから聞かされていた話を思い出す。ギンガは捜査官として優秀。普段もかなり落ち着いている性格だというのに、妹が絡むとそれが嘘みたいに直情的になると。実際に目の当たりにするのは初めてだが、まさかここまでとは。

 

「全くもぉ。後でちょっとお説教、かな!」

 

 でも、自分の家族が今まさに死にかけようとしているとなれば、自分も落ち着いてられないだろうから気持ちは解る。言葉とは裏腹に彼女の心境に理解を示しながら、なのはは数発の魔力弾を怪獣、ヘルベロスへ向けて発射。こうなれば、しっかりと囮役をやってみせようではないか。

 

 

 

 ポリポリと、煙と炎に巻かれた惨状には不釣り合いな咀嚼音がする。

 白黒の服に身を包んだ青年は、崩れたビルの一室。数分前までは賑わっていた飲食店だったそこで、奇跡的に無事だった椅子に腰かけてスナック菓子を頬張っていた。周囲の惨状もあいまって、一種の異様さすら感じさせるほどに呑気な様だ。

 

「ふぅん。この星の魔導士とやらも中々やるじゃないか」

 

 自らが呼び寄せた怪獣、ヘルベロスの攻撃を掻い潜って的確に攻撃を撃ち込んでいく白いバリアジャケットの魔導士。蟻と恐竜なんて例えすら可愛いほどの体格さを物ともせず挑む姿は、彼から見てもほんの少しばかり見惚れそうになるほどに勇ましく、愚かしい。それでも、思っていた以上に戦えてみせているのは拍手を送ってやっても良いかもしれない。やがて空陸に魔導士が数だけ揃えてゾロゾロと姿を見せる。流石に一人に全部押し付けるような連中ではないかとその蛮勇を称え、青年は鼻で嗤う。

 

「頭数だけ揃えて、ぞろぞろぞろぞろ。どこの星も人間ってのは変わらない」

 

 数だけ揃えようが、この星の人間がどれほどの力を持っていようがヘルベロスには敵わないだろうと青年は確信している。あの白い魔導士と同等か、それ以上のレベルの者が揃うなら話は別かもしれないが、それすらも青年にとってはどうでも良い事だった。

 そうして、そんな白い魔導士とその他大勢には対して興味も無いとばかりに視線を外し、彼が注視するのはヘルベロスの横をすり抜けて真っ直ぐに地上へ降りようとしている紫髪の少女。

 

「甘いなぁ……甘すぎる」

 

 そう簡単に目的を達成されちゃぁ、面白くないじゃないか。

 青年は空になったスナック菓子の空き袋を放り棄て、指を鳴らす。それに呼応するようにヘルベロスが雄叫びを上げ、視界から外れている筈の紫髪の少女を尻尾で吹き飛ばした。

 

 

 

 

 怪獣が振るった尻尾がギンガの身体を打ち据えて、弾かれたパチンコ玉のようにビルの壁へと叩き付けた。壁を砕き、何かの会社が入っていたらしきオフィスのデスクをいくつも巻き込んで、反対側の壁まで叩き付けられてようやく、彼女の身体は止まった。壁に体がめり込み、吐血する程の衝撃がギンガを襲う。

 

「か、は……っ!」

 

 全身が痛い。痛いなんてものじゃない。咄嗟に展開した防御障壁越しにでもあっさりと吹き飛ばされ、バリアジャケットも破損。意識が飛んでないというより、気絶した瞬間に激痛で強引に目覚めさせられている感覚。完全に怪獣の視界から外れていたはずなのに、何故自分を的確に狙ってきたのか。そんな当然抱くべき疑問すら、苦痛の彼方へと消えていく。

 

「ま、だ……うご、け……っ!?」

 

 それがどうしたと激痛が走る体に鞭打ち、壁から体を引きはがすもすぐに膝が地に着いた。見れば両足に装着しているローラーブーツ型デバイスが、ギリギリ履物として機能するかどうかといったレベルにまで破損している。足も折れてこそいないが出血がひどい。今すぐにでも妹を助けに行きたいのに、それを許さないと言わんばかりに。

 

〖グギャゥウウウウウウウッ!〗

 

 耳障りな雄叫びと共に、怪獣による蹂躙の音と対抗している魔導士達の悲鳴のような声が聞こえてくる。あんな文字通りのバケモノの相手にした事がある魔導士なんて、管理局全体を数えても何人いるか。ただでさえ人手不足に嘆いている地上部隊となれば、それこそゼロかもしれない。あんなのが暴れていては、救助活動すらろくに行えていないだろう事は想像に容易かった。

 

「なんで……っ!」

 

 聞いているだけで苛々する。どうして何もかも上手くいかない。単に妹を助けたいだけなのに、なんで邪魔をする。

 

「なんで、こんな時に限って!」

 

 苛立ちが叫びとなって木霊した。

 脳裏に浮かぶのは四年前、姉妹揃って巻き込まれた空港災害。あの時も、あんな化け物が、怪獣が現れたせいで大災害になった。はぐれたスバルを探す為に恐怖を押し殺して探し回り、崩落に巻き込まれて死ぬ寸前だったところを姉妹共々に助けられた。今度は、誰も助けになんて来る余裕はないだろう。エースオブエースですら、未だにあれを引き付けるのに精いっぱいだ。

 

【どうする? お前一人なら、助かるぞ】

 

 声が聞こえた。

 確かに、今すぐここから逃げたって誰も文句は言わないだろう。仕方が無いと、あんなのを相手に戦うのは君の実力では無謀なのだからと。実際に立ち向かって一撃のもとに敗北し、軽くはない傷を負ったのだから当然の判断。

 君には、あれに届く力は無いのだから。

 

「うるさい! 黙って!」

 

 そんな戯言を、絶叫で否定する。

 

「さっきから声だけで偉そうに……っ! アンタに! アンタに何が解るのよ!」

 

 最早止められぬとばかりに、八つ当たりの自覚すらも無いまま感情のままに叫ぶ。

 

「私は! 私は妹を、スバルを何があっても守るの! もう二度と、大切な人を失うのは嫌なの!」

 

 果たして、今までの人生でこれほど感情を爆発させた事があっただろうか。心の底から敬愛する母を理不尽に奪われた時以来か。全身に走る激痛を強引にねじ伏せて、最早歩くのにも邪魔なローラーブーツは強制解除。素足で破片まみれの床を踏みしめ立ち上がる。こんな理不尽に屈するものか。大切な人を奪わせてなるものか。あんな悲しみを少しでも減らす為に誰にも味合せないために、父の反対を押し切って管理局員の道を選んだのだから。

 

「誰がなんて言ったって、私は! 諦めてなんか、やるもんか!」

 

 これ以上ないぐらいに感情を吐き出し、何もかもを蹂躙する理不尽へ立ち向かう為の一歩を踏み出した。

 

【お前の覚悟、受け取った!】

 

 そして、その答えを待っていたとばかりに声の主は喜びに満ちた叫びをあげた。

 ギンガの体から飛び出すのは無数の光。それが彼女の眼前で一か所に集まり、形を持つ。

 

「え……?」

 

 角を持った能面のような顔の意匠が彫られた銀色のアクセサリー。キーホルダーであろうそれが、ギンガの眼前で宙に浮かんでいる。そして察した。時折聞こえていた声の主は、このキーホルダーなのだと。ずっと前から、自分と共にあった誰かがそこにいるのだと。

 

「あなた、一体……」

【話は後だ! 妹や他の人達を助けるんだろ?】

 

 ギンガの右手首に光が集まり、銀と金の装飾が施されたブレスレットが装着される。それが再度光を放ったかと思えば、一瞬で宝玉のような物が取り付けられたガントレットへと変化し、彼女の右腕にしっかりと取り付けられた。

 

【その手で俺を掴め!】

 

 何が何だかさっぱりわからない。だが、不思議と信用できるという確信があった。以前もこんな事があったような、そんな気がする。だからこそ、彼女は迷わず右手を伸ばしてキーホルダーを掴み取る。

 

【俺とお前は一心同体。俺がお前で、お前が俺だ!】

 

 そして、少女は光になった。

 

 

 

 

 眩い光が、地獄と化した街を包み込む。とにかく人気の無いエリアに怪獣を誘導せんと必死に砲撃を行っていた魔導士達も、怪獣すらもそれに目を奪われ動きを止める。続けて吹き荒れるのは何か巨大な物が地面に降り立ったような振動と、それによって引き起こされた突風。お地上にいた魔導士達は振動でバランスを崩して転がり跳び、空を飛ぶ者達は突風で吹き飛ばされながらもなんとか墜落せぬよう必死に自分の体を操作する。

 

「くっ!? な、なに……っ!?」

 

 ヘルベロス相手にどうにか戦えていた数少ない魔導士であるなのはと、少し前に駆け付けたフェイトもまたその突風に煽られる。地面を紅く染めていた炎が全て消し飛ぶほどのそれと共に、光はやがて人型へと変わっていく。全長50メートルはあろう巨大な人型へ。

 

「あれって……四年前の……?」

 

 当時、空港を襲った怪獣を相手に空を駆けていたなのはが思わずつぶやいた。忘れる筈もない。あの時、突如として現れたのは間違いなく今こうして現れた巨人だ。

 赤と銀の肉体。胸部に装着された青いプロテクター。その中央にある丸状の宝石のような物。頭に二本の角を持った巨人は、ゆっくりと立ち上がる。その手にはいつの間に助けたのか、瓦礫の下敷きになっていたままだった民間人。負傷しても救援の余裕がなく、その場に取り残されていた管理局員達の姿があった。

 

「え……?」

 

 巨人の手の中。防御フィールドのような膜につつまれた人々はゆっくりと空へ舞い上がり、少し離れたビルの屋上へと降ろされる。同時に膜は消え去り、人々は何が起きたのかと不思議そうに巨人を見やる。助けられた人々の一人、スバルもまた瓦礫の下で死を待つだけだったはずの自分が、何時の間に助けられたのかと困惑しながらも、助けた存在であろう巨人にその視線を奪われていた。

 

「助けて……くれたの……?」

 

 記憶に鮮明に焼き付いている四年前に見た巨人の姿と、目の前にいる赤い巨人の姿が重なる。どこか懐かしいような気すらするのは、そのせいだろうか。いや、それ以上にスバルにはあの巨人に親しみ以上の何かを、幼い頃よりずっと一緒にいる誰かの姿までもが重なって見えていた。

 

「……ギン姉?」

 

 まさかと思いながらも、口から出た姉の名前。見るからに男性的な体つきの巨人が姉の筈が無いのに、不思議と重なって見えたのだ。そのつぶやきが聞こえていたのか、巨人の視線が自分の方を一瞬向いたかと思えば、すぐにそれは怪獣を相手にしていた空戦魔導士達へと向けられた。

 

「!?」

 

 その一部始終を見ていたなのはを初めとする魔導士達は、不意に自分達へと目線を向けた巨人に思わず身構える。だが、巨人は静かに頷くだけだった。まるで、さっきの人々を頼むとでも言わんばかりに。信じれないといった様子の魔導士達から目線を外し、巨人が向き直るは怪獣。獰猛な唸り声をあげながら威嚇してくるそれに対し、巨人は身構える。

 

〖シェアッ!〗

 

 そして、雄叫びと共に巨人はヘルベロスへと駆け出した。迎え撃つとばかりに尻尾を振り回す最凶獣。巨人はその殴打を跳躍して回避。一跳びではるか上空へ舞い上がった巨人は何度も体を捻り、真っ直ぐに右足を突き出して怪獣の頭へと跳び蹴りを突き刺した。

 

〖グギャァアア!〗

 

 悲鳴をあげて倒れる怪獣。巨人はすかさず馬乗りになり、追い打ちを仕掛けんとするが怪獣の角から放たれた電撃のような光線の直撃を受け、逆に吹き飛ばされる。

 

〖グアッ!〗

 

 すでに半壊していたビルが巨人の下敷きとなり、完全に崩壊。怪獣は立ち上がり、背中の甲羅から伸びる無数の棘を発光させて射出する。暗雲から吐き出されていた破壊の雨はこれだったのかと魔導士達は察すると共に、明らかに巨人を狙っていながらも無造作に撃ち放たれたそれが周囲に与える被害を察するまでもなく、反射的にそれぞれが砲撃魔法を持って迎撃に移る。

 

「これ以上、街を焼かせるな!」

 

 魔導士の一人が叫び、それを合図に他の魔導士達と砲撃を集中させ一発を迎撃。しかし、ざっと数えても数十はあるそれを着弾までに果たして撃ち落とせるだろうかと不安が過る。そのすぐ近くでなのはとフェイトがそれぞれの魔法を持って怪獣の棘を迎撃する。これの迎撃その物はそう難しくはないが。

 

「数が多すぎる!」

 

 この場にいる空戦可能な魔導士は、なのはとフェイトを合わせても十人に満たない。それで街へ降り注ごうとしている破壊の棘を、全て迎撃するには頭数が決定的に足りなかった。

 それでも諦めるものかとなのはは自身の相棒たるレイジングハートと共に、展開できる最大数の魔力弾を一斉射。だが、数が足りない。全て迎撃するには手数が足りない事を嫌でも思い知らせんとばかりに、迎撃を免れた棘が降り注ぎ―――

 

〖デヤッ!〗

 

 ―――巨人が左手を垂直に、右手をそれに対し水平に構え十字を構えて放ったエネルギー弾が、残りを全て迎撃した。

 

「あの巨人……」

 

 なのはの視界の先で、巨人は再度ヘルベロスへと突撃。今度は真正面から跳び蹴りを決めて怯ませてから、手刀を叩き込もうとしてヘルベロスの両腕から伸びる刃上の棘に受け止められる。痛みを訴えるように手首を振りながらも、負けじとその胴体へ連続して拳を叩き込み、どうにかその巨獣を抑え込もうとする様をみていたなのはも、腹を決めたとばかりにフェイトへ声を掛ける。

 

「フェイトちゃん!」

「解った!」

 

 親友の考えを察し、フェイトは即座にその場を離れてヘルベロスの左側面へ。なのははその位置から、レイジングハートを構える。それを見て二人の考えを察したのか、単なる偶然か。巨人は怪獣に真正面から組み付き、その動きを可能な限り封じてみせる。

 

「レイジングハート、一発で決めるよ」

〈了解しました〉

 

 巨人はこちらの味方。その行動で確信したなのははレイジングハートの切っ先に魔力を集中。狙うは、巨人と組み合うヘルベロスの右目。

 

「ディバインバスター!」

 

 大気を切り裂く轟音と共に桃色の魔力砲が放たれ、ヘルベロスの右目に直撃する。

 

「ハーケンセイバー!」

 

 全く同じタイミングで放たれるのは雷を纏ったフェイトの一撃。鋭い刃の如きそれがヘルベロスの左目を切り裂いた。

 

〖ギャァアアアアアアア!〗

 

 目という全生命体共通であろう急所への一撃に悲鳴を上げ、怯むヘルベロス。すかざず、巨人の拳が顔面に叩き込まれ、流れるように放たれた回し蹴りが下顎を砕く。よろけるように後ずさるヘルベロスが悪あがきとばかりに両腕の刃から紅い光輪状の刃を放つも、巨人が振るった鉄拳によりあっさり弾き返され、自らに直撃。

 畳みかけるように、巨人はガントレッドが装着された右腕を天へ掲げた。再度両腕を空へ突き出し頭上で交差させ、脇を締めるように腰へ落とす。そして右の拳を握ったまま開いた左手に押し付け、Tの字に構えて正面へ向けたガントレットから眩い光の光線が放たれた。光線はヘルベロスの胴体へと吸い込まれるように着弾し、それを受けたヘルベロスは短い唸り声の後、力無く倒れ込み爆散。

 

「や、やった……のか……?」

 

 空戦魔導士の一人が呟く。巨人は爆散する怪獣から飛び出した光の塊のような物を掴み取ると、そのまま飛翔。あっという間に空高く舞い上がっていく様に一瞬呆気に取られながらも、フェイトがバルディッシュへ指示を出す。

 

「バルデッシュ、追跡できる?」

〈一瞬で索敵範囲外へ移動したようです〉

「そう」

 

 駄目元で聞いてみただけだったので、期待はしていなかった。それでもあの巨人がどこへ消え去ったのか、果たして何者だったのかというヒントすらつかめないもどかしさ、不満を表情から隠すことなく、フェイトは思考する。

 

(なんで、またあの巨人は現れたの……? 一体、誰なの?)

 

 

 

 

 空へと飛び立っていったはずの巨人は、光の粒子となって再び地上へと降り立っていた。あらゆるレーダー、魔法による探知を最初から存在しないかのようにすり抜け、ヘルベロスの尻尾でギンガが叩き付けられたオフィスの中へ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

 

 粒子が人型となり、現れたのは巨人ではなくギンガ。肩で息をし、思わずその場に崩れ落ちる。声に言われるままキーホルダーを手に取った瞬間、全身が光に包まれたかと思えば、一瞬で巨人へと……彼へと変わっていた。その間、彼の体内であろう異空間らしき場所にいたのだが操縦をしていたわけではない。自分を構成する自我や精神だけがその空間で形を成していたのだと理解できる。五感全てが彼と繋がり、あの怪獣を攻撃する感触も、反撃を受けた際の痛みも、その全てを彼女も感じていた。安直な表現ではあるが、変身していたとしか言いようが無かった。

 

「な、なんだったの……ホント……」

 

 仰向けに倒れ込んで、荒く吐き出す息と共にプロテクターでガードされながらもしっかりとある事が解る胸が上下する。痛みと疲労がごちゃ混ぜになった感覚に襲われる体は、もう少し休めないという事を聞いてくれ無さそうだ。

 

【どうだ、俺の力は!】

 

 そして、自信満々に聞こえてくる彼の声も今は本気で鬱陶しく聞こえる。

 

【やっぱ、この星は俺がいなきゃダメって事だな】

「ちょっと……あなた、ホントになんなの? さっきから上から目線で偉そうだし……」

【誰が偉そうだよ、誰が】

「あなた以外に、誰がいるって……きゃぁっ!?」

 

 どうにか上半身を起こし、なんとなく声が聞こえてきた方に顔を向けると、そこに彼はいた。

 身の丈は自分とほぼ変わらないサイズに縮小され、無数の粒子が寄り集まってるような半透明の体になっているが、確かにそこにいた。

 

【おい、悲鳴あげる事ないだろ? さっきまで、お前がこの姿だったんだから】

「え……あ、あぁ……そっか。ごめん、まさか顔見せるとは思ってなかったから……」

 

 そういえば、さっきまで彼になっていたのは自分だ。理屈は色々と解らないし、明らかに魔法以外の力が働きている不可思議な現象。少なくとも、その筋の専門家ではない自分ではいくら考えてもさっぱり解らない事だろうとすぐ様に思考を放棄する。そして、とりあえず今一番気になる事を問うた。

 

「それで、あなた一体誰なの? なんか、私の事は一方的に知ってたみたいだけど」

【え? あ~……そういえば、お前とこうして会話するの初めてだったな】

 

 わざとらしく咳払いをして、彼は名乗った。

 

【俺はタイガ。ウルトラマンタイガだ!】

「うる……とらまん?」

 

 やはりというか、聞き覚えの無い名前。明らかに人間離れした姿に、ミッドチルダをこの星と呼ぶあたり、恐らく宇宙人であろう事は間違いない。それが、なんで自分の事を知っているのか。なんで自分の中にいたのか。色々と聞きたい事は山ほど出てくるが―――

 

「ギンガ!」

「ギン姉!」

 

 ―――聞き覚えのある二人の声。なのはと、彼女に抱えられてビルに空いた穴から飛び込んできたスバルの姿が視界に飛び込んできて、それらの疑念は一旦頭から消え去った。

 

「スバル! なのはさんも……」

「ギン姉!」

 

 駆け寄って、姉の胸に飛び込んできた妹を受け止めた拍子にバランスを崩して床に倒れ込む。その様子を見ながら、苦笑するなのは。

 

「ちょ、ちょっと……スバル、痛い。痛いから……お姉ちゃん、怪我してるから……」

「えっ!? あ、ごめん!」

 

 あわあわしながら姉の体から退く妹の様に、安心を覚えて笑みを浮かべる。

 

「フェイトちゃんから伝言。ギンガが助けた子、ちゃんと保護してるから後で会いに行ってあげてって」

「はい。ありがとうございます」

 

 スバルの肩を借り、どうにか立ち上がる。

 ふらつく体を支えてくれる妹に感謝しながら、改めて実感した。

 

(助けた、のよね……私が……)

 

 正確にはタイガと名乗った彼と一緒に。イマイチ実感のわかなかった処のあるその事実を、スバルの体温が補足していく。彼女の命も、共に救助されたと聞く人々も皆助けたのは自分達なのだと。

 

【俺とお前が救った命、だな」

「……そう、ね」

 

 ようやく実感を得たそれに、自然と笑みがこぼれた。

 

「ところでギンガ。今回の無茶とか諸々については、ナカジマ三佐に全部報告してるからね?」

「お父さん、すっごく怒ってたよ」

「…………はい、ごめんなさい」

 

 それはそれとして、後ほどお叱りは免れないという事実も重くのしかかるのだった。




次回リリカルBuddyStrikers

第二話 赤い靴の女の子
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