リリカルBuddyStrikers   作:やまさんMK2

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ダイナゼノン、めっちゃ面白いっすね


第三話 トレギア Apart

 ツルク星人による病院襲撃事件から二週間。メモールは精密検査の結果がいまだ出ていないながら、管理局員の保護下の元にある事という条件付きで退院が許され、当然のようにギンガがその保護担当となった。というより、彼女以外には不自然なぐらいに心を開こうとしないのでギンガ以外になりようがなかったというのもあるのだが。

 

「本格的に部隊始動したって聞いたけど、どう? もう慣れた?」

『毎日なのはさん達に扱かれまくって大変だけどねぇ。初出動も無事に終わったし、なんとかやってるよ。ギン姉こそ、メモールちゃんの保護担当になったんでしょ? フェイトさんから聞いたよ』

「うん。とりあえずの保護観察者って感じだけどね。フェイトさんも補佐してくれてるからなんとかやってる」

 

 ソファーに腰かけた自分の膝を枕に静かな寝息を立てるメモールの頭を撫でる。夕飯を食べて入浴した後、眠気に負けてそのまま眠ってしまったのだ。彼女の検査結果はともかく、身元に関しては全く解らないという事が解った。正確に言えば、最初から身元が存在しない。何者かに生み出された人造生命体。それが、メモールという少女だった。

 

「私以外に愛想無いのはどうにかして欲しいけど……フェイトさんには、どうにか挨拶程度はしてくれるようになったわ」

『聞いてるよ。すっごく嬉しそうだった』

 

 病院でガン無視を決め込まれたのに比べれば、かなりの進歩である。それでも色々世話を焼き、ギンガが困ってる事は無いかと暇を作っては度々通信を入れてくれて相談に乗ってくれたり、差し入れを持ってきてくれたりと大いに助かっている。彼女も出自に色々あったらしく、メモールの境遇に思う処があるのだろう。

 

「今度、ちゃんとしたお礼をしないとね。フェイトさん、忙しいのにこっちにも時間を割いてくれてホント助かってるから」

『あたしからもちゃんとお礼言っとく。あ、そうだ! 明日の夕方にはギン姉のデバイス出来上がるから持ってくってフェイトさんから伝言あったんだった』

 

 スバルに預けたリボルバーナックルは修理自体終わっているそうだが、それと一緒に新デバイスも作って寄こしてくれるとの話を受けたのは先週の事。なんでも、スバルや他の面々の為に新型デバイスを開発していたのでついでにどうかという話で、ギンガの分も作ってくれるというのだ。

 

「思ってたより早いのね。もう少しかかると思ってたわ」

『あたしのマッハキャリバーの姉妹機になるって言ってたからね』

 

 つまりスバルとお揃いか。それはそれで魅力的だなと思うと共に、同僚達からシスコン呼ばわりが酷くなりそうで……いや、別にそれは良いか。事実だし、今更だし。

 

『っと、そろそろ寝ないと。じゃ、ギン姉。おやすみ』

「えぇ、おやすみ。スバル」

 

 通信を切って、ふぅと息を吐いて天井を見上げる。

 視界に入り込んだ時計が差す時間を見れば、深夜と言っても良い頃合い。話し込んですっかり遅くなってしまった。父の計らいで暫くは自宅待機。こちらでやっても問題の無い程度の書類仕事をこなしていれば良しという事になっているし、ギンガ自身()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが、それを差し引いても寝るべき時間である。

 

「んん……ふわぁ……?」

「あ、起こしちゃった? ごめんね」

「ぅ……ねむ、ぃ……」

 

 ちょっとした振動で目を覚ましたメモールだったが、完全に眠気から解放されたわけではなく瞼は今にも閉じられようとしていた。そんな様に苦笑しつつ、ギンガはメモールを抱き抱えてソファーから立ち上がる。

 

「それじゃ、ベッドにいこっか? こんなところで寝たら風邪引いちゃうもんね」

「ん……」

 

 ギンガの腕の中、再び眠りの中へ落ちようとするメモール。姉と慕う相手に体を預け、安心しきったのなら最早後は意識を手放すだけとばかりに瞼を閉じる。

 

お姉ちゃん……

 

 今にも消え入りそうな声で、少女は呟く。

 

ずっと、一緒にいてね……

 

 本当に、なんでここまで懐かれたのやら。自分でも疑問に思うが、それでも悪い気は一切無い。それどころか素直に嬉しいとさえ感じてしまう。我ながらチョロイと言うヤツかな、なんて苦笑しつつ、ギンガもメモールの頭を撫でて、しっかりと頷いた。

 

「うん。ずっと一緒にいてあげる……」

 

 ぼんやりとだが考えていた事。彼女を、このまま引き取って正式に家族になる事を父に相談してみようと決意する。きっと反対はしない。スバルも妹が出来ると喜んでくれるだろう。

 

「母さんだって、賛成してくれるでしょ?」

 

 リビングの棚に飾ってある家族写真。四人で撮った数少ないそれに写る母、クイントに問いかける。もし母が生きていたら、きっとこの子を引き取る事に賛成してくれる。そうと決めれば、明日から早速動こう。精密検査の結果を待てというなら、問い合わせて催促するまでだ。

 

(まずは父さんを説得しないとね)

 

 万が一。決してあり得ないだろうけど、本当に万が一でも反対されれば管理局入りを相談した日以来の大喧嘩になるのは間違いないだろうなと苦笑しつつ、寝室の扉をそっと開ける。メモールをベッドに入れて、その隣に自分も入る。一人用の物に二人で横になると狭いなんてものじゃないが、こうして密着して寝ていると、幼い頃にスバルと一緒に寝ていたのを思い出して良い気分だ。

 

「おやすみ、メモール」

 

 新しくできた妹の名を優しく呟いて、ギンガもそっと目を閉じた。ベッドの下にこぼれ落ちた鱗には、最後まで気づかぬまま。

 

 

 

 クラナガン廃棄都市区画。

 人も寄り付かぬ……時折、時空管理局の魔導士達が訓練に使う廃墟の街。その一画に立つ廃ビルの屋上で、白黒の服を着た青年がクラナガン中央に聳える地上本部を心の底からつまらなさそうに眺めていた。

 

「時空管理局、ねぇ? たかが人間がここまでの組織を持つとは……いやはや、世界は広い」

 

 遠い昔に捨て去った故郷の連中は、この世界とこの世界の人間と、この組織を見たらどう思うのだろう。やはり、喜ばしく感じるのだろうか。少なくとも疎ましく思う事は無いだろう。能天気なぐらいに、人の善性と可能性と言う物を信じ、そればかりを見ていた連中なのだから。

 それはそれとして、この街はまさに混沌といえる。一見して綺麗で美しい街だと言うのに、すぐ傍にあるこの廃墟は見て見ぬふりをして都合の良い時だけ利用して。正義と法の守護者を謳う組織のお膝元はミッド人、異世界人、宇宙人が混在し、ヴィランギルド等の存在もあって治安は決して良くはない。管理していると嘯く様々な次元世界においても問題は山積み……あぁ、実に好みの世界だと青年は嗤う。

 

「是非とも見せてくれ。お前達の言う、正義とやらが何をどう裁くのか」

 

 青年はくるりと背後へ向き直り、そこに立つ一人の男性に指輪を手渡す。黄金の仮面のような物を付けた龍のようなロボットをあしらった、銀色の指輪だ。

 

「これは君への選別だ。目的を果たせることを、祈っているよ」

「感謝します。霧崎さん」

 

 男性は一礼すると飛行魔法を発動させ、その場を飛び去った。それを見送って、つまらなさそうに鼻で嗤って青年は、霧崎は大きく体の仰け反らせて、もう一度時空管理局地上本部を見やった。

 

「さて、私もそろそろ動くか」

 

 旧交を温めにいくには、丁度よい頃合いだろう。

 

 

 

 翌日、仕事の関係で一晩隊舎で寝泊まりして昼近くに帰宅した父、ゲンヤは気味が悪いぐらいに笑顔を浮かべて昼食を用意してくれていた愛娘に、やれやれといった様子でため息をついた。

 

「ったく、準備が良いっていうか……なんていうか」

 

 上着を背もたれに駆け、椅子に腰を下ろす。そうして、言われなくても解ってるとばかりに自身のデータ管理用端末からギンガの物へとデータを送信する。

 

「これって……」

 

 受け取ったデータを表示する。そこにあるのは、養子縁組やらその他諸々に関係する資料データだ。すでにゲンヤの名前は書かれており、メモール本人の承諾やら役所との面接やらなにやらと言った事務関係を終わらせればよいだけの段階である。

 

「そろそろ言い出すと思ってたからな。後の面倒くさい手続きはお前がやっとけ」

 

 流石我が父。自分の考えを読んだ上で、色々手を回してくれていたのか。

 一気に目が輝き、ご機嫌取りようの笑顔から本物のそれへとギンガの顔が変わった。

 

「ありがとう! お父さん大好き!」

「へいへい。解ってると思うが、精密検査の結果出てからじゃないと申請は通らねぇぞ」

「解ってるー!」

 

 大喜びして、ギンガはリビングを飛び出していった。間違いなく、メモールに報告に行ったのだろう。娘の予想通りの反応を照れ臭そうに見やってから、茶碗に盛られた白飯を頬張る。外食も悪くないが、家で食べる方が美味くて良い。ギンガの料理の腕も、亡き妻に迫る勢いで追い越すのも時間の問題と言ったところか。

 

「ま、娘の一人や二人ぐらい増えても問題ねぇぐらいには稼いでるしな」

 

 地上部隊でそこそこの地位にいるのは伊達ではない。なんだかんだと、管理局員はそれなりに高給取りなのである。女所帯なのも今に始まった事じゃないしなと思いつつ、口に運んだ焼き魚も良い感じに火が通って、塩が効いていて旨い。外で食べようと思ったのを止めて正解だったなと、改めて感じるゲンヤだった。

 

 

 

 部屋にいなかったので庭に出ると、やはりメモールはそこにいた。

 小さい頃、一度だけ家族で出かけたキャンプの時に使っていた折り畳み式の椅子を引っ張り出して、庭の片隅で腰かけて足をぶらぶらさせながら読書中である。ちなみに読んでいる本はスバルの部屋にあった漫画本である。

 

「メモール、ちょっといい?」

「……ん?」

 

 最初はどこにいくにしても、何をするにしてもギンガにピッタリ引っ付いて離れなかったが、最近は家の敷地内であれば一人でいる事も増えてきた。無論、家の中にギンガがいる事が前提の話であるが、それでも大きな進歩。見た目から推定した年齢4~5歳。少し甘えん坊が過ぎるところがある気もするが、このぐらいの歳ならそういうものだろう。

 

「さっきね、お父さんからも提案があったんだけど……メモール、正式に家の子になる気あるかな?」

「……?」

 

 質問の意図が解らないのか、首を傾げるメモールに思わず笑みをこぼしながら、ギンガは言葉を続ける。

 

「えっと……養子縁組って言ってね。ここにずっといられるようになるっていうか、私達が本当に家族になるって事なんだけど……」

「ずっと……? お姉ちゃんと、ずっと一緒にいていいの?」

「うん。正式にそうお願いしようってお話。メモールが良いならだけどね」

 

 ギンガの言葉を脳内で咀嚼して、その意味を理解したメモールの顔がみるみる笑顔になっていく。初めて出会った頃と比べると、表情も本当に豊かになった。

 

「うん……お姉ちゃんと、ずっと一緒にいたい」

「オッケー。それじゃ、ずっと一緒に居られるようにお願いする方向で話進めておくねっとぉ!」

 

 椅子から飛び出し、ギンガに抱き着いたメモール。思わず尻もちをついてしまうが、嬉しさを体全体で表現してくる様子に自然とこちらも笑顔になる。

 

「ずっと、一緒……」

「うん。ずっと一緒。私だけじゃなくてお父さんも、スバルも、メモールとずっと一緒にいてくれるよ。家族になるんだからね」

「ん……嬉しい」

 

 ぎゅうっと抱きしめてくるメモールの指が、ギンガの肩に食い込む。

 

「っ……」

 

 思わず表情を強張らせてしまうほどの痛みが、ギンガに走る。子供の力は日に日に強くなっていくものだとは思うが、それでも不自然が過ぎる力だ。精密検査の結果が中々こないのはこれに関係した何かのせいなのだろうか。人造生命体だからと流すには、いくらなんでもだ。

 だが、関係ない。ちょっと力が強いぐらいがなんだ。それぐらいの不自然さなんて気にもならない。第一、それを言い出すと自分とスバルはどうなるという話なのだから。

 

「……お姉ちゃん?」

「何でもない。あ、そうだ……家族になるお祝いに、新しい靴とか買いにいこっか?」

 

 服は自分やスバルが幼い頃に使っていた服がいくつか残っていたのと、保護した時にいくつか購入しているのだが、あまり出かける事も無いだろうと靴だけは買っていなかった。メモールが今履いている赤い靴も、元から若干の痛みが目立っていたのでそう遠くないうちに限界が来るのが間違いない。

 

「うん。買い物、一緒に行く」

「それじゃ、いこっか。お父さん、ちょっとメモールと一緒に買い物行ってくるね!」

 

 リビングでのんびり昼食を取るゲンヤに声を掛けて、返事を受け取ってからギンガはメモールを地面に下ろす。

 

「ついでに夕飯の買い物もしないとね。今日はメモールが食べたい物、作ってあげる」

「お姉ちゃんが作ってくれるなら、なんでも……っ」

 

 不意に、メモールの体が揺らめいてギンガの元へ崩れるように倒れ込む。

 

「ちょ……メモール、大丈夫?」

「うん……大丈夫」

 

 熱が無いか、メモールの額に手を当てるが特に異常はない。顔色も悪くなく、目が虚ろいているという事も無く、何かの拍子で眩暈がしただけという事だろうか。

 

「お姉ちゃん……買い物、いこ? 私、平気だよ」

「そう……? なら、いこっか。ただし、ちょっとでも気分が悪くなったようならすぐに家に帰るからね」

「ん」

「素直でよろしい」

 

 メモールの手を掴み、繋いで歩きだす。目指すは、クラナガン一の規模を誇る大型のショッピングモールだ。庭に何枚かの鱗が落ちていることに、最後まで気づかぬまま気付かなかった。

 

 

 

 次元の海に浮かぶ時空管理局本局。フェイトは六課通信主任にして執務官である自身の補佐官も務めるシャリオ・フィニーノ。シャーリーの愛称で呼ばれる彼女と共に、そこの情報解析室で先日の出撃で破壊した敵機の残骸解析を行っていた。六課の設備では出来ない高レベルの解析も、ここでなら行えるのだ。

 

「ガジェットドローンの解析、隅々まで完了。やっぱりというか、宇宙人の技術は一切使われてない……フェイトさんの読み、珍しく外れましたね」

 

 眼鏡のズレを直しながら、シャーリーが後方から画面をのぞき込むフェイトに声をかける。フェイトは小さく頷きながらも、安心したようにふぅと息を吐いた。

 

「正直、外れてホッとしてるよ。ガジェットを造ってるのが本当にアイツなら、宇宙人と……ヴィランギルドと深い取引してるってなると本当に厄介だから」

 

 何年か前からミッドや他の次元世界で出現が確認されている無人戦闘兵器。基本2メートル前後のそれらは魔法の発動を阻害するAMF(アンチ・マギリング・フィールド)を標準装備し、一体一体の戦闘力はそこそこ程度ではあるが、どうしても魔法に頼っての戦闘になる魔導士にとってはある種の天敵だ。その行動目的は具体的には不明だが、管理局が厳重に管理補完する指定遺失物。ロストロギアのある処には必ずと言って良いほどに出現する。

 

「ジェイル・スカリエッティ。アイツがギルドと……ゾリン辺りと組んでたら最悪処の話じゃない」

 

 そのガジェットドローン絡みの案件における最重要容疑者として浮上しているのが、ジェイル・スカリエッティという男であった。様々な違法な実験に手を出している科学者で、フェイトが個人的に長年追っていた広域指名手配中の次元犯罪者。破壊したドローンの残骸に、彼のイニシャルであるJ・Sの文字が刻まれていたという冗談みたいな理由で容疑者に浮上したが、彼の自己顕示欲の強さを知る者であれば決して無視はできない証拠であった。

 

「六課はロストロギアの捜索と保守管理が目的ですし、嫌でもドローンとはぶつかりますからね。その上、ヴィランギルドの相手までってなると……ちょっと厄介じゃすみませんものね」

「だね。これから先そうなる可能性までは、否定できないけど」

 

 ヴィランギルド絡みの案件は、本局でも取り扱ってはいるがクラナガンで起きた事件はやはり地上本部やそちらに所属する陸士部隊が担当するのが基本。六課では一応取り扱わないことにはなっているのだが、こちらの抱える案件と関わる事があれば話は別。フェイトは勿論、なのはやはやてを初めとした六課の幹部陣はともかくとして新人で構成されているフォワードメンバーには、まだまだ荷が重いというのが皆の共通認識だった。

 

「ヴィランギルド相手だと、命のやり取りになる可能性も結構高いですしね」

「殺人とかの重犯罪者相手になると、ほぼ確実にね」

 

 病院でギンガとメモールを襲い、その過程で局員二名と病院の警備員一名を殺害したツルク星人がその良い例だ。ああも明確な証拠があり、更に殺人未遂の現行犯ともなればその場の判断で処断する事すら許される。無論、可能な限り逮捕する事が推奨されているが下手な違法魔導師よりも危険な上、実際に逮捕を試みて返り討ちにあい、命を落とした局員も決して少なくないのだ。

 

「ともかく、ギルドとの明確な繋がりは現状出てこなかったってだけでも一安心だよ」

 

 とりあえずレベルではあるが、それだけでも良しとしよう。不安要素は残っているが

 

「じゃぁ、悪いんだけど後はお願いできるかな? ギンガに新型デバイス渡してくる予定があるから」

「そういう名目で、噂の子に会いに行くんですね。解ります」

「シャーリー……」

「冗談ですよ、冗談。それじゃ、ブリッツをお願いしますね」

 

 ジト目で睨んでくるフェイトを軽く流し、手を振って送り出すシャーリー。彼女、こんな性格だったっけ? と思わずにいられないフェイトはため息とともに彼女へ背を向けた。制服のポケットに仕舞いこんでいる紫色の宝石。ギンガの為に開発されたデバイス、ブリッツキャリバーだ。

 

「さて、君のご主人様に会いに行こうか」

 

 フェイトの言葉に反応して点滅する宝石。それを再度ポケットに仕舞って、入れ替わりに金色の三角形型の待機状態をした相棒たるバルデッシュを取り出し、通信機能を起動する。数回のコールの後、モニターが宙に展開されて映し出されるのはギンガの顔。

 

『はい、ギンガです。フェイトさんどうしました?』

「ギンガ、今からそっち行こうと思うんだけど大丈夫かな?」

『あ~……実は今、メモールと買い物に来てまして。家に戻るまでもうちょっと掛かるかなって』

「買い物?」

『えぇ。父の方で話を進めてくれてて、メモールを正式に引き取る事になったんです。家族になるお祝いに、新しい靴買いに来てて』

 

 ギンガの言葉に、フェイトの顔も自然と笑顔になる。考えうる限り、最高のゴールじゃないか。

 

「そっか。そうなら、二人が家に帰ってる頃に行く事にするよ。家族の時間を邪魔しちゃ悪いしね」

『すいません。せっかく時間作ってくれてるのに』

「いいよ、気にしないで。私が好きでやってる事なんだし。それじゃ、また後で」

 

 通信を切って、本局の廊下を歩く。ブリッツキャリバーをご主人様に会わせるのが少し延期になってしまったのは申し訳ないが、家族水入らずを邪魔してはいけないので仕方ない。むしろ、この空いた時間を利用して自分もメモールに何か祝いの品でも買っていこう。本局内の売店もそれなりの規模はあるし、ちょっと寄っていくかなんて考えていると廊下の向こう側から一人の女性が歩いてくるのが見えた。

 

「あぁ、丁度よかった。本局にいたのね」

「母さん?」

 

 フェイトの義母にして管理局総務統括官のリンディ・ハラオウン。以前は次元航行艦の艦長を務める程の人だったが、今は内勤に回っている。仕事で会う事はもう殆どなく、特に用事もない筈の母が自分を探しているようだったのは、少し不思議だった。

 

「母さん、どうしたの?」

「フェイト。あなた、ヴィランギルドから保護した女の子の事……知ってるわよね?」

「え、メモールの事? 今、知り合いの陸曹が保護してるけど……私が補佐につくって形で許可も貰ってる」

 

 フェイトの言葉を聞いて、リンディの表情は険しくなる。

 

「……あんまり良くない状況ね」

「……母さん? どういう事?」

「いえ、そのメモールという子の精密検査結果ね。実はそっちに送る前に本局にあがっていたの。担当が同期の子で、あなたの名前を見たからって私に教えてくれてね」

「え?」

 

 それは可笑しい。いくらヴィランギルド絡みでも、保護した子供の精密検査結果を本局に上げるなんてあり得ない。少なくとも、保護観察担当であるギンガやその補佐を申し出ている自分に一切話を通さずなんて事は絶対に。

 

「母さん……一体、何が?」

「そうね……あなたも無関係じゃ無いものね」

 

 小さく息を吐いて、リンディはフェイトに告げる。

 

「あなた達が保護した子供は、本局の方で預かる事になる。というより……第8研究施設に送られる事が決まったそうよ。すでに回収部隊も向かってるって聞いたわ」

「は……? 第8って、研究施設とは名ばかりの場所じゃない!? なんでそんなところに!?」

 

 フェイトも一度そこを目にした事はあったが、一言で言えば最悪を通り越した場所。無人世界に建造されたそれは、手が付けられない物を放り込むゴミ箱という表現意外に言い表しようがない。常駐する職員も居らず、半ば放置されるも同然の場所なのだ。

 

「その子の危険性を鑑みると、そこしかない。そう判断されたみたいね」

「危険性? ちょっと産まれ方が違うってだけで、そんな事は!」

「……私も話を聞いた時はあり得ないって思ったけど、ね」

 

 そういって、リンディはフェイトの目の前にモニターを表示する。そこには本局に上がっていたメモールの精密検査結果が詳細に書き記されており、それを読み進めるフェイトの顔は憤りを通り越し、理解出来ないといった物へ変わっていった。

 

「…………え? なに、これ」

 

 

 

 

 

 ショッピングモール内にある靴屋にて、ギンガはメモールのサイズに合う靴の中からどれが良いかと物色していた。どうせなら可愛い物を買ってあげたいなと思うが、やはり彼女が良いと言う物が一番であろう。

 

「メモール、何か気になったのある?」

 

 ギンガの言葉に反応するように棚に飾られている様々な子供靴を見やって、やがて一つの物を指さした。

 

「それ……」

 

 小さなリボンが付けられた女の子向けの赤い靴。ギンガがそれを取ってあげて、試しに履いてみるように促し、メモールも言われるままにそれに足を通す。サイズはピッタリで、良く似合っていた。

 

「……これがいい」

「そう? 赤好きだねぇ」

「ん」

 

 正直、他の色の靴を履いてみてもいいんじゃないかなとか思うけれど、メモールが嬉しそうにうなずくのを見ると仕方ないかなという気になる。値段も思ってたより張るけれど、許容範囲内だ。店員を呼んで決済してもらい、タグも外してもらって、このまま履いていってしまう事にした。家から履いてきた方の靴は店で貰った袋に仕舞って、メモールと手を繋ぐ。

 

「さて、それじゃぁ晩御飯の買い物して帰ろ」

「ん……お姉ちゃんの作るご飯、美味しくて好き」

「そう? ありがと」

 

 そう言われると作る甲斐もある。なら、メモールの為に今夜は腕によりをかけて作るしかない。さて何を作ろうかと脳内で様々なメニューを想い描いている最中だった。不意に、手の中からメモールの感覚が消えた。どうしたのかと顔を向けると、胸を抑えて踞っているではないか。

 

「メモール!?」

 

 すぐに駆け寄ると、苦し気に息を吐きながら唸る様が見えた。やはり家を出るときの眩暈は何かあったという事か。判断ミスを悔やみながら、ギンガはメモールに声を掛ける。

 

「大丈夫!? すぐに病院に……」

「う………ゥゥ……ッ」

 

 ギンガの声に反応して、顔を上げたメモール。その顔を見て、ギンガは驚愕に目を見開いた。愛らしかった顔に、いくつもの鱗がくっついている。否、皮膚を突き破るようにして、鱗が生えてきているのだから。

 

「お、姉……ちゃん……」

「何これ……っ」

 

 見たことも聞いたこともない症状。病気か何かだとは思うが、素人目にも異様としか思えないそれに、モールの他の客達も何事かと好奇の目を向けてくる。ともかく、この場を離れて病院に行くべきだ。そう判断してメモールを抱き抱える。

 

「ちょっと我慢してて。すぐ病院に」

「ギンガ・ナカジマ陸曹、ですね」

 

 そこへ何人かの男達が駆け寄ってきた。全員私服姿だが、自分の名前と階級を言い当てたところから管理局の人間だろうか。それを証明するように、一人が局のIDを提示した。本局所属の魔導師のようだが、何故こんなところにいるのだろうか。

 

「そうですが……何か用ですか? 見ての通り、急いでいるのですが」

 

 腕の中のメモールの、苦しそうな息遣いが聞こえてくる。苛々を隠そうともせず睨み付けてくるギンガに、局員の男性は口を開く。

 

「それを、直ちにこちらへ引き渡していただきたい。後はこちらで対処します」

 

 それを聞いて、イチイチ聞いてやろうと思ったことを後悔した。メモールに視線を向けてそれ扱い。対処って何だ。子供を病院に連れていくぐらい、自分で良いじゃないか。

 

「は? 何を言ってるんですか? 病院に連れていくところなので、これで失礼します」

「事態は一刻を争う。すまないが、貴女も拘束させていただく」

「なっ!?」

 

 残りの男達の一人が、バインドを発動させてギンガの体を拘束。その拍子にギンガの腕からこぼれ落ちたメモールにも問答無用でバインドが掛けられ、男達の手で持ち上げられる。

 

「目標確保。直ちに転送ポイントへ移送する。すでに変化が始まっているようだ」

「ちょっと! 何して……っ! メモールが何したって言うのよ!?」

「抵抗の恐れがあった為、ナカジマ陸曹の身柄も拘束。緊急事態につき、状況説明は後程……」

「話聞きなさいよ! メモール! メモールを放して!」

 

 バインドで四肢を拘束され、身動き取れないままメモールの名を叫ぶ。局員の男達にか抱えられ、モールの外へと運び出されていくメモールの目にも、遠ざかっていくギンガの姿が映し出される。

 

「お……ネ、エ……ちゃ…………ァァァァ」

 

 それが少女の不安を煽り、皮肉にもトリガーを引かせてしまった。無自覚のまま抑え込んでいた最後のトリガーを。

 

「やだ……お姉、ちゃん………やだ、ヤダ……ヤダァァァァァァッ!!!」

 

 メキメキと生々しく痛々しい音立てながら、メモールの体が変わっていく。全身に一気に鱗が生え、体が膨張して、自身を抱えていた局員達を腕の一振りで薙ぎ払い、ドスンと重たい音を響かせて通路へ落ちる。

 

「え……? メ、モール……?」

【ギンガ! あの子は人間じゃない!】

 

 呆然とするギンガの脳内に、タイガの声が響く。そう言えば、今日は一言も喋ってなかったなと、眼前で変わっていくメモールに対する現実逃避を走らせる思考に、彼の声も現実を突き付けた。

 

【怪獣だ!】

 

 そして、少女の体が内側から弾けとんだ。

 モールの天井が、壁が、床が崩れて、人々の悲鳴が崩壊の音に書き消されていく。数多の人々巻き込みながら、少女は変わった。

 

〖ヤダアアアアアアアアアアアアッ!〗

 

 全身を青白い鱗で包み込んだ、50メートル級の怪獣の姿へと。

 

 

 

 

 

「ハハハハハハ! 素晴らしい! 実に私好みの展開だ!」

 

 モールから少し離れた位置にある立体駐車場で、白黒の服を着た青年が、霧崎が笑う。まるで無邪気な子供のように、ギンガとメモールに与えられた悲劇を嗤う。必要ならちょっとばかりの演出をしてやろうと思ったが、勝手に引き金を引いてくれた事には感謝しかない。

 

「さぁ、君はこれからどうするのかな?」

 

 怪獣の出現を察した人々の悲鳴が、町中に響き渡る。まるで、この世界に怪獣の居場所等存在しない。受け入れる事などあり得ないと言わんばかりの拒絶反応。ついさっき、己の本性を現すのと引き換えに、瓦礫の下敷きにして幾つかの命を奪ったであろう大罪を犯したモノへの、例え何の罪を犯していなくとも、人間の理解を越えた存在価値であると言うだけで明示されていたであろう当然の反応。

 

「これがこの世界の答えだ。世界の法と正義を守る管理局の一員として、怪獣はやっつけないとねぇ。それとも……法と正義に背いて、その怪獣を守るのかな?」

 

 崩壊したモールの中、奇跡的に瓦礫の下敷きにならずに済んでいるだろうギンガへ問いかける。目の前で怪獣化して、人々の命を奪ってしまったモノを果たしてどうするのか。

 

「選ぶのは、君だ」

 

 その笑顔は、まるで悪魔のようだった。




正直言うと、このクロスSS書こうと決意した時
真っ先に思いついたのがこの話でした
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