リリカルBuddyStrikers   作:やまさんMK2

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風邪引いてダウンしてました

ウルトラマントリガー楽しみすぎますね


第三話 トレギア Bpart

 見せられたデータを、フェイトは信じる事が出来なかった。内容を理解する事を、心が拒んでいたという方が正しいかもしれない。そこに記されていたのはメモールの精密検査の結果。端的に言えば、彼女は真っ当に生まれた命ではない。ある目的の為に作られた人造人間。その目的とは簡単に言えばテロ。それも爆弾テロの類に近いと言えるだろう。

 結論を言えば、メモールは人間をベースに宇宙生物の遺伝子を組み合わせ、怪獣化するように設計された人造生命体。時間経過で怪獣への変化が始まるようになっており、街中にいてもおかしくなく、小さな子供という外見から周りの警戒も緩み、更には優しく声を掛けてもらって例えば管理局の施設等に容易に潜り込むことだって出来る。そこで怪獣化をしてみようものなら……という話だ。

 

「こんな、事……よく平然と……っ!」

 

 目を通すだけで腸が煮えくり返る感覚になるのは、流石に初めてだった。こんな物を作り出した。いや、そもそも思いついたヤツが目の前にいたとすれば、自制が効く自信はフェイトにもない。

 

「これらの結果を見て、上は多少強引かつ、非人道的であっても止む無しって判断したみたいね」

 

 淡々と、それでいて辛そうに口にするリンディにすら軽く苛立ちを覚えそうになるほど、今のフェイトは怒りでどうにかなりそうだった。そうならなかったのは、今もなおメモールと一緒にいるギンガの事が脳裏に浮かんでいたからだ。

 

「ごめん、母さん! 私、ミッドに戻る!」

 

 踵を返し、駆け足で転送ポートへと向かうフェイト。どうにも嫌な予感がしてならない。そんな焦りが、彼女の足を動かしていた。

 

 

 

 彼は、正直言って今回の仕事は乗り気ではなかった。データを見て納得だけはしたが、それでも見た目はごくごく普通の幼い少女。それを本当の妹のように可愛がる陸士部隊所属の女性陸曹から引き離し、無人世界の隔離施設で放り込むなんて、仮に一章遊べるほどの金額を積まれたとしても断りたいのが本音だった。

 それでも引き受けたのは、ミッドチルダでここ最近起きる怪獣騒ぎによる住民達の不安の声を直に聞いているから。彼自身は本局勤めであるが、ミッドに暮す妹夫婦からその手の話を聞いていたから。仕方ないと割り切り、女性の恨み言は全て自分が引き受けて、何なら好きなだけ殴られ魔法を撃たれの覚悟だってしてきた。可能な限り穏便に、事情を説明して必要なら本局にだって連れていって根気よく説得して、この任務を遂行する予定だった。

 

「な、なんで……こんな事に……!?」

 

 標的が怪獣変化の兆候を見せ始め、強引でも止む無しと力尽くで二人を引き離した結果が、眼前で起きる最悪の結果。少女は怪獣化して大暴れし、モールは半ば壊滅。連れてきた同僚や部下達も皆瓦礫の下敷き。運よく逃れた者も負傷は免れず、彼自身も瓦礫に挟まれて身動きが取れないでいた。

 

〖グギュァアアアアアアアッ!〗

 

 耳をつんざくような雄叫びと、無茶苦茶に振り回される巨獣の腕や尻尾。それによって更に崩れ落ちていくモール。己の焦りから生まれた行動を後悔しながら、彼は防御魔法を全力で展開する。自身だけでなく、周囲にいる部下達や一般の客を一人でも多く守る為に。

 

 

 

 

「メモール……? え……? なんで、怪獣に……?」

 

 ギンガは目の前で起きている事が信じられなかった。バインドは解けたが、それでもその場から動けない。メモールが怪獣へと姿を変え、モールを破壊しながら市街地へと進んでいく。彼女は、人間の筈だ。何で人間が怪獣になるのか。悪い夢でも見ているのか、そうだきっと夢だと思考が現実から逃げ始める。

 

【何してるギンガ! 変身だ!】

 

 怒鳴るようなタイガの声に、ようやくギンガは現実に引き戻され、視線を落として右腕のタイガスパークを見やる。怪獣が出たなら、タイガに変身して戦わなければならない。だが、果たして自分は戦えるのか。

 

「でも、あの怪獣は……あの子は……」

【解ってる。倒すんじゃなく止めるだけだ。それに、俺達以外に誰があの子を止められる?】

 

 そこまで言われて、ギンガはようやく顔を上げた。タイガの言う通り、自分以外に彼女を止められる者はいない。深呼吸して決意を決め、タイガスパークを起動させた。

 

 

 

 

 巨体(ウルトラマンタイガ)が地面に降り立った衝撃で、停まっていた車が数台空へと舞い上がって、重力に従って地面に落下し無残なスクラップと化していく。だが、そんな物をイチイチ気に掛ける余裕など在りはしない。そもそも、最初から目に入っていない。

 

「メモール!」

 

 ギンガの瞳には、怪獣となって今にも暴走しそうなほどに興奮しているメモールの姿しか映っていないのだから。

 

〖グ、アァアアアアアアアッ!〗

〖まずは大人しくさせる! いいな!?〗

「攻撃はしないで!」

〖努力はする!〗

 

 興奮状態で突っ込んでくるメモールを正面から受け止める。二体の巨大が激突した衝撃で周囲のビルの窓ガラスが粉砕され、建築年数が古いビルに至っては壁面にひび割れすら走らせる。室内の様子など見るまでも無いだろう。ただ正面から受け止めただけで、それ程の衝撃と破壊をもたらす巨体に恐れを抱きながら、守ってくれる巨体に感謝しながら逃げ惑う人々。そんな物はお構いなしに、巨獣は荒れ狂う。

 

「落ち着いて、メモール! 私よ! ギンガよ!」

〖ギャァアアアアアアッ!〗

 

 道路が粉砕される程の踏み込みで更に体当たりを仕掛けるメモールに、一瞬の均衡の後に後方へ弾かれるタイガ。何とか踏ん張って倒れる事は無かったが、その隙に振り回された尻尾の殴打を防ぐ事は出来ずに横っ面に叩き付けられたそれで吹き飛ばされ、何棟かのビルを巻き込んであえなく地面に倒された。

 

〖グァッ! くっそ、コイツ!〗

 

 再びの尻尾の一撃が来るのを確認し、反射的にスワローバレットの構えを取りそうになるも、何かが邪魔しているかのように腕が思うように動かず、再度襲い掛かる尻尾の一撃を地面を転がる事で避けるにとどまった。

 

「攻撃しないでって言ったでしょ!?」

 

 内側(インナースペース)から響くギンガの声に、タイガは思わず舌打ちをしかけた。彼女の気持ちも事も解るが、一切攻撃せずに止めるにはかなり厳しい相手だという事は解っているはずだ。無論、彼女の中でメモールとの交流の一部始終を見ていたタイガだって、可能ならメモールを助けたいとは思っている。

 

〖そうは言ってもな!〗

 

 予想外なのは、ギンガがここまで自分の動きに大きな影響を与えるという事だった。光線を放つどころか構えすら取らせないとは。タイガスパークを介して一心同体となっているとはいえ、こうまで強く影響されるなんて思ってもいなかった。正直、たかが人間と舐めていたのは否めなかったギンガへの評価を上方修正するには十分だった。

 

〖って、言っても仕方ないか!〗

 

 それ故に、彼女に付き合う事に不愉快さは一切無い。再度突撃してくるメモールの巨体を正面から受け止め、その勢いのまま地面に引き倒して押さえつける。

 

〖これぐらいは勘弁してくれよ!?〗

 

 とりあえず動きを止めなければどうしようもないと、やや乱暴な方法なのは気に入らないが暴れまわる子供を抱き抱えるのとは訳が違う。少なくとも見た目は巨大な怪獣なのだから、どうやっても多少はこういった手段に訴える事になる。光線を撃ってないだけマシだろう。

 

「メモール! 落ち着いて! 私よ、お姉ちゃんよ! 解るでしょ!?」

 

 後は呼びかける以外に、やり方なんて思いつかない。届いている事を信じて、ただただひたすらに妹の名を呼び続ける。

 

「ちゃんとここにいるから! どこにも行かないし、あなたを誰にも渡さないから! だから落ち着いて!」

〖ウ、ウゥゥウウッ!〗

 

 興奮して手足を、尻尾をジタバタと振り回す巨体を何時まで押さえつけられるか。どちらかといえばパワーよりもスピードに自信がある方なタイガとしても、長時間押さえつける事は無理だと早々に悟っていた。

 

〖ギンガ、あまり長くは……〗

「解ってる!」

 

 催促するタイガに焦りと苛立ち混じりに返して、ギンガは少女の名を叫び続ける。

 

「ずっと一緒にいるから! 落ち着いて! メモール!」

 

 届いているのかいないのか。狂ったように唸るメモールに、ギンガは諦めず何度も呼び掛ける。暴れ続けるメモールを、タイガが押さえ付けられていられる限界も近づいていく。このままではジリ貧で追い詰められ、否応なしに倒す羽目になってしまうかもしれないという最悪な結末すらあり得てくる。

 

〖ウ、グァアアアアアッ!〗

 

 遂に振り解かれ、大きく口を開けたメモールがタイガの右腕に噛みついた。

 

〖グゥアッ!?〗

「あうっ! ぐっ……ぅ!」

 

 右腕に深々と突き刺さる鋭い牙。それをすぐさま引き抜く、ような事はせずにギンガは苦痛に耐えながらもメモールへ言葉をかける事を止めなかった。

 

「大丈夫だから……怖くないよ。メモール」

〖ウ、ウゥゥゥ……ッ〗

 

 そこまでして、ようやく落ち着いてきたのかメモールの唸り声から興奮の色は消えていく。タイガの右腕から口を離し、その場で蹲って、今度はすすり泣くような声を出し始める。

 

〖グゥ……ウグゥゥゥ……〗

 

 声帯が人間の声を発せるようになっていないのか、怪獣の唸り声で幼子のようにすすり泣くという少しばかりシュールな光景が展開される。タイガはやれやれと言った様子でメモールの頭をそっと撫で、泣き止むまで付き合ってやるかと構える。どうせ、ギンガはそのつもりなのだろうし。

 

「メモール、追いついた?」

〖ゥゥ……ギュゥ……〗

 

 タイガの中から聞こえるギンガの声は聞き取れているらしく、小さく頷く。

 それを見てホッと胸を撫で下ろすギンガ。見た目は怪獣になってしまっても、やはりこの子はメモール。自分の妹であり、何も変わっていないのだと確信して、間を置かずに次の問題が襲い掛かる。

 

「……タイガ、メモールを人間の姿に戻せる?」

 

 いくらなんでも、怪獣の姿のままでいさせるわけにもいかないだろう。

 

〖無理だ。俺にそんな力はない。それに……多分だけど、この子はこっちが本来の姿といってもいい。下手をすると、もう二度と戻せない可能性だって……〗

「そんな……どうにかならないの!?」

 

 一応、どうにかできるかもしれない方法は思いついてはいる。だが、おいそれと使える方法ではないし、何よりもギンガに多大な迷惑と負担を掛けてしまう。

 

〖ウ、ゥゥゥ……ッ!〗

 

 唸るように泣くメモールの頭をそっと撫でながら、その様をとても辛そうに見ているギンガの姿を認めて、タイガは意を決してギンガに提案した。

 

〖ギンガ。暫くの間、この星を離れる事になっても構わないか?〗

「え? どういう、事?」

〖メモールを俺の故郷、光の国に連れていく。そこでならもう一度人間の姿に戻すことだって、出来るかもしれない〗

「ホントなの!?」

 

 もし本当なら、夢のような話だ。

 

〖だが、俺の故郷はこことは別の次元にある宇宙だ。それに連れていっても、メモールを本当に人間の姿に出来るかどうかも正直解らない。それでもいいか?〗

 

 別の次元へ向かうとなると、確かに相応の時間はかかる。タイガの口ぶりからして、次元を越える手段はあるようだが、それでも数日と言わず数週間。下手をすれば数か月から数年はこの地を離れる事になるのかもしれないと、暗にその口ぶりから察する事は出来た。

 

「……いいわ。行きましょう」

 

 それでも、メモールの為ならばと躊躇いはすぐに消え去った。父や妹、同僚達には多大な迷惑をかけてしまうし、メッセージの一つも残せずに旅立つのは心苦しいが、それでもメモールの為ならば構わない。

 

 

 

 そんな様子を、市販のチョコレートを頬張りながら霧崎がつまらなさそうに眺めていた。

 

 

 

 咀嚼音と共に、銀色の包み紙の中にあった板チョコの最後の一欠けらが頬張られる。

 口周りに付いたチョコを懐から取り出したティッシュで拭い、包み紙と共に放り棄てて、霧崎は鼻を鳴らした。

 

「甘い。甘いなぁ……」

 

 眼前で繰り広げられるお涙頂戴(茶番劇)に、霧崎は心底つまらなさそうに嗤った。まさに誰もが望んだハッピーエンド。彼女達はこの星を飛び立って、光の国で治療を終えた後にミッドチルダに戻って家族そろって幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。そんな()()()()()()()()()()()()()()()じゃないか。

 

「チョコレートより甘い!」

 

 霧崎の手に、六角形をしたデバイスが握られていた。それの頂点に当たる位置にあるボタンを軽く押すと、それが中間部分から左右に展開。青黒い仮面のような形状となり、霧崎は不敵に嗤いながらそれを顔にかざす。丁度、鼻の位置となるグリップ部分のボタンを押すと共に仮面(トレギアアイ)の力が解放。彼の体を一瞬で黒紫の光が煙のように包み込み、その姿を本来の物へと変えていく。

 

〖フフフ……〗

 

 50メートル級の青い巨体を包み込む拘束具。顔に張り付いた青黒い仮面から覗く鋭く紅い眼光。見る者が見れば、悪魔のようにすら見える巨人が闇を纏いながらその姿を現した。

 

〖お前は!?〗

〖やぁ、久しぶりだね。ナンバー6の息子〗

 

 軽く手を振る仮面の巨人、トレギアにタイガは迷うことなくスワローバレットを放つ。それを片手でいとも簡単に弾きながら、トレギアはやれやれと首を振る。

 

〖久しぶりに会ったってのに、随分なご挨拶だな。礼儀がなってないんじゃないか?〗

〖ほざくな!〗

 

 口はやや悪いし、やや好戦的な気性をしているとはいってもタイガが姿を見た途端に問答無用で攻撃を仕掛けた事にギンガは驚きを隠せなかった。だが、眼前にいる仮面の巨人から感じる禍々しさは、そうさせるに十分だと思わせる物だ。

 

〖ギンガ、気を付けろ。アイツは相当にヤバい奴だ〗

 

 それを補足するかのような手短な説明。タイガがそういうのならば、本格的な付き合いが始まってからまだ長くはないが、それでも信じるに値する相手だと実感している。故に、ギンガもトレギアに対して油断せずに睨みを利かせる。

 

〖何をしに現れやがった!〗

 

 トレギアに怯えるメモールを守るようにその前に立ち、タイガは忌々し気にトレギアを睨みつける。

 

〖君に会いに来た……と言ったら?〗

〖ふざけるな!〗

 

 地面を蹴り、トレギアに飛び掛かるタイガ。その攻撃をわざと大袈裟に身体を動かして避けて、続けざまに繰り出されるタイガの拳の連撃を全て軽々と避けてみせる。わざわざ大袈裟に動いて、隙だらけになってみせるように。

 

〖おいおい、どこ狙ってる?〗

〖舐めやがって!〗

「タイガ! ちょっと、落ち着いて!」

 

 今度はタイガが興奮しすぎだ。因縁浅からぬ相手であろう事は理解できるが、それにしてもこれは異常なまでに熱くなりすぎで、最早キレているといっても過言ではない。ここまで熱くなっていると、勝てる戦いにも勝てなくなってしまう事を解っていない筈もないだろうに。

 

〖全く、狙いの付け方すら解らないお坊ちゃんだったとは〗

 

 わざとらしく大袈裟に肩を竦ませてから、トレギアは右手を持ち上げる。その掌に、僅かにエネルギーが集中して。

 

〖そら〗

 

 軽く右手を突き出し、そこから放たれた稲妻の如き光線がタイガを吹き飛ばした。

 

〖ぐぁああああああっ!?〗

 

 ビルを数棟巻き込んで倒れるタイガの巨体。瓦礫に埋もれながら、痛みに悶えるタイガの(インナースペース)で、ギンガもあまりの激痛に目を見開き痙攣したかのように全身を震わせていた。

 

「あ、が……はっ!」

 

 タイガとリンクしたギンガにもダメージはダイレクトに伝わり、胸から全身を駆け巡った激痛に呼吸が一瞬止まる。戦いの中でダメージを受けた事など一度や二度ではなく、多少の痛み

にも耐性はついていたが、それでもあまりの激痛に全身の感覚が消え失せる程だった。

 

(な、に……アイツ……強、すぎる……っ!?)

〖グ、ウゥ……ッ!〗

 

 無様に地面に倒れ伏すタイガに、トレギアはやれやれとでも言いたげに肩を落とした。まさか、あの程度の攻撃でカラータイマーが点滅する程のダメージを受けるとは。

 

〖全く、最近の若い奴はだらしないね。それじゃ、もう一度鍛え直してくるといい〗

 

 トレギアの両腕から放たれる白黒二色の稲妻の如き光線。トレラアルティガイザーが、タイガへ迫る。回避も防御も出来ず、直撃は免れない。この一撃を受ければ間違いなく死ぬ。少なくとも、タイガと一体化しているギンガは助からないと直感的に悟るが最早どうしようもない。トレギアに取っては軽くいなし、突き飛ばす程度だったであろう一撃で全身が痺れ、まともに動く事すらままならない。

 

「……っ!」

 

 逃れようのない死。インナースペース内でギンガは呼吸すら忘れ、迫りくるそれから目を逸らす事も出来ずに、ただただそれを受け入れるしか無かった―――

 

〖「お姉ちゃん!」〗

 

 ―――彼女達を庇うように、青白い鱗に覆われた巨体が立ちはだからなければの話だが。

 

「……え?」

 

 目の前で、白黒の稲妻にその巨体が貫かれた。肉片と鱗が内側からはじけ飛び、口からは悲鳴にすらならない絶叫が吐き出され、ゆっくりとその巨体が……メモールの体が崩れ落ちていく。

 

〖なっ!?〗

「あ、あぁ……っ! メモール、メモール!」

 

 反射的に手を伸ばす。膝から崩れ落ちていくメモールも、視界の片隅で捉えたそれに自らの手を伸ばして。

 

〖オ、ネ……ェ……チャ……〗

 

 指先が掠る事すら許されず、その腕は地面に落ちて。

 怪獣(少女)の体は、それを合図にして爆発した。

 

「メモールゥーーーーーーーーー!」

 

 弾け飛ぶ肉片すらも焼き尽くされ、彼女がここにいたという証の一切を消滅させるかの如く、容赦なく少女だった物を焼き尽くしていく爆炎。その向こう側で、悪魔は嗤う。ギンガのリアクションが、まるでツボに入ったコメディの一幕だったかのように。

 

〖ク、クハハハハハハ! おいおいおいおい! 大袈裟すぎるだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉は、ギンガの頭から冷静さを消すには十分すぎる程だった。

 何かがキレる音がはっきりと聞こえて、頭に血が上るという言葉を体感として覚える。ギンガの思考がトレギアへの敵意と殺意に染まるまで、一瞬もかからなかった。

 

「たかが……怪獣……ですって……?」

〖真実だろう? 実際、この星の治安組織はあれを問答無用で排除にかかったじゃないか〗

「あの子は、人間よ……それを、よくも…」

〖フン。タイガ君、君は随分とお優しい人間を入れ物に……おっと失礼。()()()()()()()()()()()()

 

 戦いの最中で冷静さを失ってはならないという最後の自制心も、自分と妹達への侮辱(その一言)で完全に崩壊した。コイツは、どこまで人の神経を逆撫でしてみせるのか。生まれて初めて、心の底から湧き出てくるドス黒い感情がギンガを完全に支配した。

 

「その……口をぉ……閉じろォォオオオオオッ!」

 

 コイツに対して、慈悲も何も必要ない。彼女をよく知る家族や友人であっても別人に見えるであろう程に、その顔が憤怒に歪む。緑色の瞳が金色に変色して、インナースペース内に魔力とは違うエネルギーが荒れ狂う嵐のように放出される。

 

〖ウォオオオオオッ!〗

 

 それは、元よりトレギアへ浅からぬ因縁のあるタイガに力を与えるには十分であった。タイガスパークを介したリンクには、そういった効果もあるらしいとは聞いていたが、それは思っていた以上にタイガの力を増強させ、一挙一動全てが普段のそれを遥かに超えた物となっていた。

 

〖フン〗

 

 しかし、トレギアはそのタイガの攻撃を全て余裕で避けてみせた。両腕を後ろに回して組んで、一切反撃しないから好きなだけ撃って来いよと言わんばかりのその態度に二人の思考は更に怒りに染まり、次第に大雑把になっていく攻撃を、更に余裕をもって、欠伸でもしそうなぐらいにのんびりとした動きでトレギアは避け続ける。

 

〖どこ狙ってる? 動かずにいてやろうか?〗

〖こぉんの野郎ぉ!〗

 

 スワローバレットを放つも、それをわざわざ大袈裟な動きで避けるトレギア。最初から牽制として放ったそれに期待等しておらず、すかさず間合いを詰めて打撃を仕掛けるが、最初から見切っていたとばかりに軽く避け、カウンターの蹴りを逆にタイガの腹部へ叩き込む。

 

〖グッ! んのぉ!〗

「舐めるなぁああああっ!」

 

 即座にその足を掴み、力任せに振り回して投げ飛ばす。

 

〖おぉっと〗

 

 しかし、トレギアは投げ飛ばされたわけではないとばかりに器用に空中で姿勢を整え、音もなく地面に着地してみせる。そうして、おもむろに左腕を持ち上げて手首に視線を落とす。腕時計で時間をチェックするような素振りを見せると。

 

〖あぁ、すまないがそろそろ時間だ〗

 

 等と言いながら、おどけるように左手首をトントンと指で叩く。まるで、そこに腕時計を巻いているからちょっと見てみろよとでも言いたげに。

 

〖残業は、しない主義でね〗

 

 その言葉に、その態度に、タイガとギンガの血管が更に派手な音を立ててブチ切れた。

 こいつは、どこまで人を嘲って、ふざけた態度を取り続けるんだ。

 

〖「ふざけるなぁあああああっ!」〗

 

 怒号と共にストリウムブラスターを放つ。空気を引き裂くような音と共に真っ直ぐ向かってくるそれに対し、トレギアは回避も防御もせず、仕方ないなとばかりに両腕を大きく広げその一撃を受け止めた。真向から直撃をもらったその巨体が閃光に飲まれ、大爆発を起こす。

 

〖ぐぅっ!?〗

 

 カラータイマーを激しく点灯させる程に力を消費したタイガも、爆風に思わず片膝をつく。

 しかし、手ごたえはあった。倒せてはいなくとも、相応のダメージは与えている筈だ。

 

〖フハハハハ……〗

 

 その確信は、上空から聞こえてきた笑い声にかき消された。青空にぽっかりと穴を開けたかのような暗雲の下で、トレギアは全くの無傷で空に浮いていた。

 

〖何っ!?〗

「嘘……でしょ……」

 

 インナースペース内のギンガは、その有様に膝から崩れ落ちた。先の一撃は、怒り任せに解き放った自分の魔力すらも上乗せされ、怒りという感情を持ってタイガとリンクしたが故の最大の一撃だったと彼女もなんとなくではあるが理解していた。それを受けてもなお、あの巨人には掠り傷一つ負わせられていないのだ。

 

〖今のは中々骨のある良い攻撃だった。将来が楽しみだね〗

 

 皮肉を込めた言葉で、トレギアは嗤う。今のお前達の攻撃では、何をどうしようとも自分には傷一つ付ける事は出来はしないと言っているも同然。先の両腕を大きく広げたポーズは、文字通り喰らってやるよという挑発だったのだ。暗雲の中、不気味で悍ましい魔法陣が展開される。

 

〖では、この世の地獄で……また会おう〗

 

 スゥっと、トレギアは魔法陣に吸い込まれ溶けるように消えていった。同時に暗雲も消え失せて、入れ替わりに灰色の雲が一気に空を覆っていく。

 

「アイツ……何なのよ……」

 

 突如現れ、圧倒的な力で自分達を蹂躙し、メモールの命を奪っていった仮面の巨人。自分達に敗北と無力さを与えるだけ与えていったアイツは、なんだというのだ。

 

〖ヤツの名は、トレギア〗

 

 その疑問にポツリとタイガが答えた。彼の脳裏に浮かぶのは、ミッドチルダへ流れ着くよりも前。肉体を失った直接的な原因のある戦いだった。

 

〖俺は前にもアイツと戦って、負けた。その時、俺の仲間達もアイツに……っ!〗

 

 タイガの悔し気な、恨みが籠った言葉がギンガの心の中にすぅっと入っていくのを感じた。

 そうか、彼も私と同じ。というより、私も彼と同じになったんだと、自分でも気味が悪いぐらいに、冷静にそれを受け止めていた。

 

 

 

 フェイトがミッドチルダに帰ってきた時には、全てが終わった後だった。

 戦いの跡地であったモールとその周辺は壊滅状態。崩落に巻き込まれた死傷者が運び出され、怪我で呻く者や愛する者を失って泣き叫ぶ者であふれかえり、それらに対応する救急隊員や管理局員が忙しなく動き回っている。

 

「……ギンガ!」

 

 そんな中で、フェイトはようやく探していた少女を見つけた。

 

「ギンガ!、 良かった、無事……で………」

 

 自然と浮かんでいた笑顔は、一瞬で消え失せた。

 

「……フェイトさん」

 

 光の消えた暗い目で、感情が全く籠っていない無機質な声で、自分を見上げる彼女は果たして本当にギンガなのかと疑ってしまうほどに、別人に見えてしまった。

 

「ねぇ、フェイトさん。メモール……何もやってませんよね?」

「……え?」

「本局の人が来て、強引に私達を引き離したんですよ。そのせいでメモールがあんな事になって……ねぇ? 何が、どうなって、あんな事になったんです?」

 

 本局所属のフェイトを責めている訳ではなく、ただ本局所属の知り合いがそこにいるから聞いてみただけといったトーンで、淡々と問うてくるギンガに思わずゾッとする。

 

「教えてくださいよ……じゃないと……なんで、メモールが殺されなきゃいけなかったのか………何にも、解んないじゃないですか……」

 

 今にも泣きだしそうな程に声は震えているのに、目尻に涙が溜まる事も無く、彼女の中で様々な感情が混ざり合って処理が追いついていないのだと理解するまで、少しばかりの時間を要して、フェイトは何も言わずに彼女を抱きしめた。

 

「ごめん……何も出来なくて、力になってあげられなくて……ごめん……っ!」

 

 すすり泣くフェイトの声を聴きながら、ギンガの目からようやく涙が一粒零れ落ちた。彼女の感情をせき止めていた何かが決壊するまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

「……フフフ」

 

 その様子を、とてもとても面白そうに、とてもとても楽しそうに、霧崎が嗤ってみている事には誰も気が付かなかった。

 

 

 

 

 





次回リリカルBuddyStrikers

第四話 賢者の帰還





次回はスカっとする話になる予定です
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