リリカルBuddyStrikers   作:やまさんMK2

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ぐだぐだしてたら終わってしまったGW



第四話 賢者の帰還 Apart

 ―――誰か、誰か、お願いします

 

 

 闇の中で、声だけが響く。

 誰にも届かず、聞こえる事の無い、それを理解しながらも諦めきれず、声の主は悲痛なまでに喉を潰す事とも厭わず叫び続ける。

 

 

 ――誰か、あの人を止めてください。誰か、私の言葉を聞いてください!

 

 

 それは決して、誰にも届かない虚しい願いの筈だった。

 

 

 ――話を聞かせてもらえないか?

 

 

 闇の中、声の主の願い聞き届けたのは一人の賢者だった。

 

 

 

 

 

 機動六課隊舎。昼時の食堂はいつも賑やかではあるが、その賑やかさの何割かを担っているスバルの明るさが鳴りを潜める事で、普段よりもどことなく暗い雰囲気が漂っていた。最も、隊全体が暗くなるほどではなく、彼女と行動を共にする事の多いフォワードメンバーのみであるが。

 

「じゃぁ、ギンガさん今日から仕事復帰なの?」

「うん……私は止めたんだけど、ね」

 

 親友にして相棒であるティアナ・ランスターの言葉に頷き、スバルは小さくため息をつく。メモールの一件から五日。彼女の身に降りかかった悲劇はスバルにも知らされ、隊長陣の計らいで特別に休みをもらったスバルは一度実家に戻って、深く傷ついた姉の様子を見に行ったのだが。

 

「無理してるのバレバレっていうか、なんか……ちょっと怖かったって、いうか……」

 

 実家に戻ったスバルを出迎えたのは、変わらぬ様子のギンガであった。正確には無理していつも通りに振る舞っている姉である。見ていて辛いほどにいつも通りで、自分に心配を掛けさせまいとしているのかと思ったが、そうではないと気付いたのはすぐだった。思い切って「メモールの事……その、なんて言えば……」と切り出した瞬間。ほんの一瞬だけだが、ギンガの目の色が変わった。

 

 ――スバルも、メモールの事……忘れないでいてあげて

 

 声色はいつもの優しい姉のそれだったし、目元も見慣れた愛情にあふれたそれだったのに、その直前にほんの一瞬だけ見せたのは、何も映さず、底の見えない真っ黒でどす黒い感情に染まった瞳だった。

 

「なんていうか……ギン姉が、ギン姉じゃなくなっていくような……そんな感じが、さ」

「……考えすぎ、じゃない?」

 

 ティアナも何度かギンガに会った事はあり、正直シスコン過ぎやしないかと思わなくもないぐらいに妹を溺愛している彼女が、スバルをここまで不安にさせる筈が無いと確信している。故に、スバルの不安も話に聞いたメモールという怪獣化した少女の一件で、必要以上に心配してしまっているからだと結論付ける。

 

「あのギンガさんが、アンタをそんな不安にさせる訳ないじゃない。その……メモールって子の事、整理つけるのに時間かかってるだけだって」

 

 ティアナも似たような経験はある故、ギンガの気持ちも少しは解るような気はしていた。間違っても本人に言う気はないし、自分自身も偉そうに言える程に整理をつけているわけではないけれど。

 

「うん……ありがと、ティア」

 

 とりあえず、これでこの話は終わろうという意思表示として、スバルは親友へ頭を下げた。そんな彼女の様子に、ティアナは内心不満を感じながらも話を続ける事を止めた。こうなったスバルは、梃子でもこの話題を続けようとしないからだ。

 

「あ、そうだ! 午後の訓練、ヴィータ副隊長とシグナム副隊長相手の模擬戦でしたよね? 僕、ちょっと試したいフォーメーションの提案があるんですけど!」

 

 重たくなった空気を強引にでも変えようと、六課フォワード陣唯一の男であるエリオ・モンディアルが明るく務めるように声をあげた。これ幸いとばかりに他の面子もそれに乗っかり、とりあえずではあるが重たい空気の払しょくはされつつあった。

 

『……であり、地上本部としては明らかな敵対行為を見せない限り、ウルトラマンに対しては静観する事になった』

『本局の意見としては好意的に受け入れ、場合によっては対話の検討もとありましたが』

『それはあくまで本局の意見だ。実際に対応していない連中に何が解る!』

 

 テレビから聞こえてくる男の威圧的な声に、皆の視線が集まる。そこに映し出されているのは管理局の制服に身を包んだ大柄の男性。地上本部の実質的な代表を務めるレジアス・ゲイズ中将。彼の歯に衣着せぬ言葉が飛び交う定例の記者会見中継である。

 

『このクラナガンの治安を守る者の務めとして、得体のしれないモノをそう簡単に受け入れられるわけもない。明らかな敵対行為を見せたと判断した場合、我らは容赦なくウルトラマンも排除の対象とみなす!』

「おーおー、随分とまぁ苛立ってんな。あのオッサン」

 

 スバル達とは別の席でその中継を横目に見ていた赤毛の少女。機動六課スターズ小隊副隊長であるヴィータが呆れたように言葉を漏らす。見かけは十歳前後の少女であるが、これでも六課の人員では上から数えた方が早いぐらいに年長者である。

 

「でもま、レジアス中将の意見も解るっちゃ解るね。いくら無限書庫で見つかった記録があるから言うても、正体不明の存在には違いないんやし……」

 

 はやての言葉に少し驚いたように、ヴィータは彼女へ視線を投げた。まさか、彼女がレジアスを擁護するような意見を口にするとは思っていなかったからだ。

 

「はやて。あのオッサンの事嫌いじゃなかったっけ?」

「思う処はあるけど、別に嫌っとらんよ? 正直、同じ立場におったら私も似たような対応しとるやろしなぁ……」

 

 無限書庫で発見されたウルトラマンに関する資料は六課にも回され、その全てに目を通した結果、ウルトラマンは人類の味方だと信じるに値するだけの物はあったのだが、レジアスと同じ立場で物を考えねばならないとなると、そう易々と信じ切れないよなと彼女としても思うのだ。地上本部と一部隊の差はあれど、部下を率いる立場としてはである。

 

「確かに……直に見たわけではないが、あの戦闘力の矛先がこちらに向いたらと思うとゾッとしますしね」

 

 それに同意の声をあげたのは、桃色の長髪をポニーテールにまとめている女性、シグナム。六課ライトニング小隊副隊長であり、ヴィータや今は席を外している二人と共にはやてを守護する騎士でもある彼女も、ウルトラマンにある意味で脅威を感じる者の一人だった。

 

「あくまで最悪の場合、やけどね」

「無論です。ですが、あれの目的が解らない以上は……どうしてもそっちも頭を過りますよ」

「そうなんよねぇ……」

 

 ため息をついて、皿の上に残ったサラダにフォークを刺す。それを口に運び、よく噛んで飲み込んでから、はやては天井を見上げながら呟いた。

 

「せめて、まともな会話が出来ればええんやけどなぁ」

 

 

 

 

「ふん、何がウルトラマンだ。腹立たしい!」

 

 記者会見を終え、自身の執務室に戻ったレジアスはソファーに乱暴に腰かけながら吐き捨てる。クラナガンの平和を守り、治安を維持しているのは自分達地上本部所属の者達だと自負している彼にとって、ウルトラマンという得体のしれない存在を許容しなければならないのは不満でしか無かった。

 

「ですが、現状こちらに対する敵対行動は見せておりませんし」

「救われた者達もいる、だろう? そんな事は解っている」

 

 娘にして秘書のオーリス・ゲイズの言葉にも苛立ちを隠さず、それでいて声のトーンを若干落して、ふぅと息を吐く。

 

「それでいて、ウルトラマンはこのミッドのどこかに人間の姿で紛れている可能性もあると……ヴィランギルドだけでも面倒だと言うのに」

 

 正直言って、レジアスは宇宙人が嫌いである。別に差別するつもりはないし、罪を犯すことなく静かに暮らすのなら勝手にしろというのが本音である。だが、実際にヴィランギルドという宇宙人の犯罪者集団がこのミッドで、クラナガンで好き放題しているという事実が彼には腹立たしかった。それに加えてウルトラマンだ。無限書庫からの情報で、あれも宇宙人であるらしい事は当然ながらレジアスの耳にも届いていた。

 

「本局としては、ウルトラマンとの友好関係を築きたいという声もあるようで……こちらにも協力要請が来るのは時間の問題かと」

「実際に被害を目の当たりにしてない連中の物言いなど放っておけ。あんな馬鹿デカイ奴らが現れるだけで、一体どれだけの被害をこちらが被ってると思っている!」

 

 50メートル級の巨体が街中に出現する。たったそれだけでも、街に与える被害は甚大だ。仮に建造物の倒壊は無かったとしても、巨体が踏みしめた道路は使い物にならなくなり、その周辺に住まう人々、商売を営む人々の生活基盤を破壊し尽くすのだ。それらの被害を受けた人々の借り住まいの提供やらなにやら、全て地上本部の裁量で行わねばならない。本局も支援は行ってくれているが、それも全体を通せば微々たるレベルである。地上本部よりも遥かに多額の予算を持っていくくせにケチ臭い連中だと、我が侭かつ八つ当たりだと自覚しつつも思わずにいられない。

 

「……最も、怪獣対策の一環という名目でアレの運用許可が次の陳述会を待たずに緊急承認される見通しなのは朗報だな」

 

 唯一朗報と言えるのは、兼ねてより準備を進めていた巨大魔力攻撃兵器(アインヘリアル)運用承認が、想定したよりも早く下りる見通しが立った事だろう。管理局は数多の次元世界で起きる犯罪に対処するという関係上、慢性的な人材不足だ。その上、本局の抱える事件は規模の大きなものが多く、優秀な人材を多く配備し、時には地上からも引き抜いていくために地上本部の人手、戦力不足は慢性を通り越して深刻化の一途を辿っている。それを補うために建造を薦めていた魔力攻撃兵器は、そこにあるだけで抑止力となるとレジアスは期待していた。

 すでに二基を建造。今まで未使用だったのは、流石に時空航行艦にも搭載できない固定砲台を一存で運用は出来ず、本局に運用承認を求める手続きをせねばならなかったからだ。過剰戦力であると反対意見を持つ者が多い本局側とは長らく政治的小競り合いを続けていたが、この度ようやくの決着であった。

 

「流石にここまで怪獣出現が連続すれば、渋り続けるわけにもいかなくなった……という事でしょう。先日出現した怪獣……人間の子供に擬態していたそうですが、本局側の対応の失敗が出現の原因でもあったと報告を聞いています」

「ふん。その穴埋めのつもりか」

「その面もあると思います。市民にも大勢の犠牲者が出てしまいましたから、単に作戦責任者の降格処分等では世論が納得しない、という判断かと」

 

 そういう政治的意図を軽蔑するような事は無い。むしろ、いかなる理由であってもこちらの利になるのなら良いとレジアスは頷く。怪獣による犠牲者を一人でも減らす為に、この地上の未来を守る為に必要なのはウルトラマンではなくアインヘリアルであると示さねばならない。そして結果を残す事が、犠牲者に対し自分が出来る最大限の追悼だとレジアスは確信している。

 

「地上の治安を守っているのは本局の連中でも、あんな得体のしれん不確定要素でもない。我々なのだからな」

 

 地上本部を率いる者としての自負を感じさせる父のありように、オーリスは尊敬の視線を向けながらも、少々呆れてすらいた。幼い頃よりクラナガンの治安を守る事に心血を注ぐ父の背中を見て育ち、同じ道を志した。けれども、実際に秘書として彼の仕事を支えていると度々思うのだ。

 

(少しばかり、視野が狭すぎるのよね……お父さんは)

 

 実際に口に出す事は無いが、その頭の固さにはたまに呆れるし、うんざりもする事も多くなってきた。ウルトラマンという不確定要素の登場と怪獣出現の連続で苛々しているのは解るが、それでももっと落ち着いて欲しい。少なくとも、アインヘリアルをウルトラマンに向けて撃つのはあまりよろしくないと、オーリスは考えていた。

 

「……そういえば、その擬態していたという子供の出所は?」

「ヴィランギルド絡みという事以外は何も。人造生命体であるという事以外は普通の子供とみなされ、地上部隊所属の陸曹が保護していたそうですが」

「ふむ……これからは、そういう事態も増える可能性を危惧すべき、か?」

 

 さて、その人造生命体だという子供は一体どこの誰が作ったのか。レジアスの脳裏に浮かぶのは一人の男。何を考えているのかさっぱりわからないイカれた科学者。アイツならその手の物を作っていてもおかしくは無いだろうが……。

 

「何だと!?」

 

 そんな思考に耽っていると、その隣で通信端末のコールを受け取ったオーリスが突然悲鳴のような声をあげた。

 

「どうした?」

 

 普段から冷静で、不愛想気味ですらある娘の珍しい有様に少々驚きながらも、上司である自分が動じる訳にいかんだろうと普段通りの態度を心掛けて。

 

「建造中のアインヘリアル三号機に、怪獣が突如襲撃を!」

「なんだとぉ!?」

 

 報告の内容は、流石に動じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 虹色の閃光で所々骨組みが剥き出しになったままのアインヘリアルが破壊され、建造に携わっていた作業員が悲鳴諸共に爆炎に飲み込まれる。それを成すのは、純白の装甲に全身を包み込んだ竜を連想させる怪獣。否、巨大ロボットだった。

 

「ひ、ひぃぃ!?」

 

 崩れてきた鉄骨に足を挟まれ、身動きの取れない作業員を金色のバイザーで覆われた無機質な赤いカメラアイが捉えた。一人の生き残りも見逃さないと言わんばかりに、左手の指先にある主砲を向け、容赦なく放たんと―――

 

〖シェェヤァ!〗

 

 ―――それを、突如空から飛来した巨人の跳び蹴りが妨害した。

 

「ウ、ウルトラ……マン……?」

 

 助けに来てくれたのかと安堵し、作業員は意識を手放した。

 竜のような巨大ロボットと対峙するウルトラマンタイガ。たまたま外回りで近くに来ていたギンガが、ロボットの出現と破壊行為を目撃して変身し、駆けつけたのだ。

 

〖コイツ、ギャラクトロンの改造機(MK-Ⅱ)か!?〗

「ギャラクトロン……? 知ってるの?」

〖あぁ、かなりの強敵だ!〗

 

 ギャラクトロンと呼ばれた機械竜が重たい駆動音を響かせながら、地面を踏みしめてタイガへ迫る。対し、タイガも正面から突っ込んで挨拶代わりにその頭部目掛けて、拳を叩き込む。ガゴォンッと甲高い音と共にギャラクトロンの頭部が僅かに震えたが、それだけ。

 

〖「かったぁ……っ!?」〗

 

 逆にこっちの拳が、あまりの堅さにダメージを受けた。連動してギンガの拳にも痛みが走り、思わず悲鳴がハモる。当然全く持ってダメージを受けていないギャラクトロンは、両腕に装備された肘まで伸びる鋭い刃を持って、タイガを斬りつける。

 

〖グァッ!?〗

「っぁあ! こ、んの……そうくるなら!」

 

 タイガスパークのレバーを入れ、収納されていたヘルベロスリングをギンガの左中指に実体化させる。

 

《ヘルベロスリング、エンゲージ》

 

 指輪に秘められし怪獣の力が解放され、タイガの両腕に赤黒いエネルギーの刃が纏われる。ヘルスラッシュを両腕に纏い、ギャラクトロンの刃と切り結ぶ。ぶつかり合い、鍔迫り合う度に激しい火花が飛び散り、すぐにタイガが押し切られた。

 

『グゥ!?』

「なんて、パワーなのよ! コイツ!」

 

 力押しでは勝ち目が無い。そう理解して後方に大きく飛び退いて構えるは、持てる技の中で最も破壊力のある必殺の一撃。

 

〖ストリウムブラスター!〗

 

 T字に構えた両腕から放たれた光線が、ギャラクトロンに直撃する。一切の防御行動をとる事無く吸い込まれた一撃は、ギャラクトロンの白い装甲を抉り、吹き飛ばす……という事は無かった。

 

「嘘……効いて、ないの……っ!?」

 

 爆炎の中、無傷の白い装甲を見せびらかすように姿を現したギャラクトロン。確かに直撃した筈なのに、装甲に焦げ目すらもついていない。その事実に驚愕するギンガの様子を金色の仮面の奥に光る紅いカメラアイが、静かにタイガを睨みつける。

 

〖邪魔をするな……っ!〗

〖何!?〗

「喋った……きゃぁあっ!?」

 

 左指から放たれた光線が、タイガの足元に着弾。爆炎に怯みながらも、咄嗟にバリアを展開して未だ逃げきれていない作業員達を庇う。そうして、目くらましとなっていた爆炎が修まると、ギャラクトロンの巨体は消えていた。

 

 

 

 

〖ギャラクトロンは、かつて全宇宙の知的生命体抹殺を目論んだ巨大人工頭脳、ギルバリスと共にあちこちの宇宙で暴れまわった厄介な奴だ。アイツ等の手で、数え切れないほどの惑星が滅ぼされたって話だ〗

「何それ……とんでもないヤツね」

 

 変身解除し、アインヘリアル破壊に巻き込まれた作業員達の救助活動を手伝って、それも一段落したところでギンガは救助された人々から離れたところで、破壊の痕跡を調査しながらタイガからギャラクトロンに関する情報を聞いていた。聞けば聞くほど、相手にしたくない奴だなというのが正直な感想である。

 

「もしかして、そのギルバリスがこの次元に?」

〖いや、それはない。ギルバリスは別の宇宙で、ジードってウルトラマンに完全に破壊された。本拠地のサイバー惑星クシアも共に消滅してる。今日戦った奴は、あちこちの次元にばら撒かれてた個体を誰かが操ってるんじゃないか〗

 

 親玉がいるという心配はしなくていいのは助かるが、それでもギャラクトロンはとてつもない強敵だ。単純なパワーだけなら、あの忌々しい仮面野郎(トレギア)よりも上なのは間違いなく、ストリウムブラスターの直撃すら耐えきった堅牢な装甲を破るのは、正直至難の業だ。次に戦えば、正直勝ち目はあるのかどうか嫌でも不安を覚える。

 

「となると、ギャラクトロンを操ってる誰かを抑えた方が早いかしら……?」

 

 あの時聞こえた「邪魔をするな!」という男性の声。この声の主を見つけ出せれば話は早い。となると、その目的は果たしてなんなのかという話なのだが。

 

「失礼。陸士部隊の者か?」

 

 不意に声を掛けられ、顔を向ける。そこに立っているのは、青い制服に身を包んだ女性の管理局員。見れば、ちらほらと応援に駆け付けた局員達の姿もあるのでその一人だろうか。それにしては、少しばかり偉そうな態度をした人だなと思うが。

 

「え、はい。そうですが……あの、あなたは?」

「……あぁ、すまない。防衛長官秘書のオーリス・ゲイズ三佐だ。レジアス中将の代行としてこの現場の確認に来た」

「失礼しました! 陸士108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です」

 

 本当に偉い人だったのか? というタイガの突っ込みを無視して敬礼する。地上本部のトップがレジアスなら、その秘書でこうして現場視察等の補佐も積極的に行う彼女は実質的なナンバー2と言っていい存在と思っていい相手だ。

 

「108……? この辺りは管轄では無いだろう?」

「はい。外回りの最中、怪獣の出現を確認しまして……救助活動の手伝いぐらいはと思い、駆けつけました」

 

 嘘は言ってない。

 ウルトラマンに変身して怪獣と戦って、なんとか追い返しましたって部分を抜いただけだ。

 

「そうか、ご苦労」

「ところで……私に何か御用でしょうか?」

「いや、ギャラなんとかとブツブツ言ってるのが聞こえてきたので気になったのだが」

 

 どうやら、タイガとの会話を聞かれてしまったようだ。おまけにタイガの声は自分にしか聞こえないので、ブツブツ独り言言ってる女と思われてしまっている。

 

「あ、あぁ……あの怪獣の名前、ギャラクトロンっていうそうなんですよ」

「何故そんな事を知っている?」

「捜査の過程で知り合った宇宙人から、軽く聞かされたのを思い出しまして、はい」

 

 嘘は言ってない。

 実際、ウルトラマンという宇宙人から聞いた話なんだから。宇宙人の知り合いというか、顔見知りの情報屋もホントにいるので問題は一切無いはずだ。

 

「ほう……つまり、お前はあの怪獣に詳しいと?」

「詳しい、とまで言えるかどうかは解りませんが……108は宇宙人関連の案件も多く扱ってますので、それなりに知識はあると自負します」

 

 それなりどころか、色々知識を持ってる宇宙人が自分と一体化しているのだ。そういう意味では一種のチートみたいなものである。下手に話すと、今回みたいに誤魔化すのが面倒くさい事になるけれど。

 

「そうか…………使えるな

 

 そんなギンガの内心など知る筈も無く、ボソッとそう呟くとオーリスはギンガを正面から見据える。

 

「ナカジマ陸曹。頼みたい事がある」

 

 そういって、オーリスは人目を気にするように周囲を窺って、ギンガにだけ聞こえるように呟いた。

 

「捜査を手伝ってほしい。全責任は私が持つ……あまり、表立って動けないので内密にという事になるが」

「え? あの……それって、どういう……?」

 

 まさかの展開に、ギンガは目を点にして問いかけてしまった。オーリスはレジアスの秘書として様々な現場に赴く事は多いだろうが、捜査といった仕事は基本的に行う事のない立場の人間だ。内密に動くなんて事は珍しい事でもないのかもしれないが、それでも自分のような下っ端捜査官に手伝いを頼むなんて。

 

「私の独断で動いているという事だ。中将も当然動いているが、私の事だけは外してくれてな……全く、こんな時にだけ親バカ発揮しないでほしいものだわ」

 

 愚痴るオーリスの様子に、ギンガは合点がいったように頷いた。強面で強権的で、色々と黒いうわさも絶えない人物だが、レジアスもやはり人の親という事か。そもそも、秘書官が捜査に参加なんて事自体まずあり得ないので、外されるのは当然な気がしなくもないけれど。というより、この場には中将の使いで来たと言ってたけれど、もしや嘘なのか。

 

「で、どうだ? 協力を頼めるか? 無論、断ってくれても構わんが」

「いえ、協力するのは構いませんけど……オーリス三佐がわざわざ内密に動くほどの事なのですか?」

「……犯人の狙いがお父さ……中将だからな」

 

 そういって、オーリスは懐から小型の端末を取り出す。手早く操作し、宙に浮かぶように小さなモニターを表示させた。

 

《これは、復讐だ。正義の名の下に行われた悪に対する当然の報いだ!》

 

 端末から呼び起こされたのは、一人の男による犯行声明だった。ギャラクトロンによるアインヘリアル破壊の映像を背景に、バリアジャケットに身を包んだ男が怒りを全身から放つように、恨み節を続ける。

 

《お前達の偽善のツケは必ず支払わせる。最も大切な者を奪われる苦しみと絶望を、キサマも味わえ……レジアス・ゲイズ!!》

 

 これ以上ない、解りやすいぐらいの犯行声明である。顔を丸出しにしている事から、捕まる事も覚悟の上という事か。レジアスを名指しで狙う事を、顔出しで宣伝するなんて逮捕してくださいと言っているような物だ。

 

「これはまた……直球ですね」

「あぁ。アインヘリアル破壊と共に、これが各種ネットワークを通じて配信された。劇場型犯罪でも気取るつもりか……」

 

 その上、父を名指しで狙っている事もあってオーリスは忌々し気に吐き捨てる。怪獣を使役している犯人なのは間違いなく、声明内容からして彼女にも魔の手が及ぶ可能性を考慮して、捜査に直接かかわらない立場であっても今回の件には一切関与するなと厳命されはしたが、それで大人しく引き下がるような気性をオーリスはしていなかった。要するに父親が心配でたまらなく、ただ待っているなど出来なかったという事か。同じく父を管理局員に持つ身として、ほんの少しだけれどギンガにも彼女の気持ちは解るような気がした。

 

「それで、この男に心当たりは? 中将に相当な恨みがありそうですが」

「私は見覚えが無い。中将はあの言動だからな……恨みを買ったであろう相手には心当たりがありすぎる。最も、幸いにも犯人は顔出しの犯行声明を出してくれたから、特定はそう難しく無いだろう。部下に情報を流すように言ってあ……噂をすれば」

 

 端末に通信を告げるコールが鳴り響く。オーリスが通信を開くと、モニターに緑色の長髪をした女性が映し出された。

 

『どうも、オーリス三佐』

「早かったな」

『中将にバレないように動くの、大変だったんですからね?』

「解っている。次の給与査定は期待しておけ」

 

 あ、これは聞かなかった事にする方がいい会話ですねと、ギンガは眼前で行われる二人のやり取りに関して、三猿を決め込む事にした。

 

『ところで、ホントにいいんですか? 中将に知られたら……』

「構わん。中将にバレたら私に手伝わないと解雇すると脅されたとでも、何とでも言えばいい。全責任は私に押し付けろ」

『……免職になったら、ホントに恨みますよ』

 

 部下の小言を聞き流し、さっさと解った事を言えと視線で促すオーリス。

 わざとらしくため息を零して、部下の女性は言葉を続けた。

 

『映像の男はレント・クジョウ。年齢は32歳……元首都防衛隊所属の一等空尉です』

「元首都防衛隊……退局者か? 全く、元とはいえ管理局員が怪獣を使って犯罪とは……」

『いいえ、彼の名を見つけたのは……殉職者リストです。彼は……』

 

 オーリスの部下はそこで一度言葉を区切り、周りに軽く目配せするような素振りを見せて、聞こえないように小声で伝えてきた。

 

『八年前に全滅した……グランガイツ隊の隊員ですよ』

「……っ!」

 

 殉職した筈の局員。八年前に全滅したグランガイツ隊の所属。このワードで、オーリスの中で何かが繋がったのか、露骨なまでに動揺を見せていた。それはギンガも同じく、目を見開いて開示された情報を脳内で繰り返す。

 

(グランガイツ隊って………母さんが所属してた……)

 

 秘匿任務中に殉職した母、クイントの事件と今回の事件はまさか繋がっているのか。父も独自に行っていた捜査を半ば中断し、真相は闇に葬られたも同然だった母の一件に迫るチャンスが舞い込んできた事に、ギンガも動揺を隠す事は出来なかった。

 

 

 

 同時刻、クラナガン市街地。該当モニターで繰り返し流されるギャラクトロンの破壊活動と、それを操る男の犯行声明の映像を見やる一人の男がいた。人目を避けるようにフードを目深く被り、厚手のコートの上からでもはっきりと解る鍛え上げられた肉体の持ち主は、深刻な表情を浮かべて画面の中を男を見上げる。

 

「クジョウ……何故お前が……」

 

 男の名はゼスト・グランガイツ。本来なら、この場にいる筈のない……とっくに死んだはずの人間だった。




ギン姉主役の利点はStS本編には言うほど絡んでこなかったキャラなので、かなり自由に動かせる事ですね
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