蒸気世界に置ける農家の在り方。
如何にして電気は衰退したのか。
機械仕掛けの獣が闊歩する世で農家に拘る意味とは。
(尚、短編な為全然書けてなかったりする。杯終了後に続くかもしれない)
その地は時折降り注ぐ灰や汚染物質で固まり、安物の砂糖菓子の様に硬い。
土壌を指先で突き、硬度を確かめるとあなたは荷台に載せた剣呑な機械を選別する。
素人目にはそれらはあまりにも大きく刺々しい。
しかしそれらはどれもこれもあなたの仕事には欠かせない。
その為あなたは所有物を大切に扱っていた。
スコップ、
それらを形容する言葉は数あれど、全て当てはまらず。
まず目を引くのは巨大な炉であろう。
先端が円匙の皿に当たる様に出来た炉心に火を灯し、併設のタンクに水を補給する。
あなたがへりに片足を乗せつつ引鉄を落とすと硬質な地面がまるで生糸の様に解けていく。
ジェット社Ⅱ式円匙。最高級品の名に恥じぬ性能である。
じゃぐり。独特な音を立てて正方形4a程に荒地を区分けし、火を消す。
あなたが次に持ったモノは最も小さく、しかし最も暴力的な形状をしていた。
腕に装着し、金属のベルトを厳重に幾層にも重ねて固定する。
未だ硬さ緩まぬ土地を闊歩し、対角線の中心に当たる位置で静止。
さながら武術が如く地に手を添え満身の力を込めて振り上げて構える。
完璧な角度を模索し、しかし数秒後に叩き付けた。
荘厳な見た目でこそあれ、それは一言で言えば筒であった。
但し同時に、それは杭でもあった。
衝撃と引鉄に呼応して圧縮された蒸気に射出された巨大な杭は地を衝撃で砕き、堅牢な土の鎧を粉砕する。Ⅰ式の機構は既に時代遅れとの声も多いが労働者にはこのパワーが欠かせない。
足裏で硬さを感じた先と違い、足首までもが容易に埋まる土にあなたは満足気に微笑み、
荷台から拳大の機器を取り出す。
同様にタンクに水を装填し、先の杭打ち機で一際深く沈んだ場所に軽く埋める。
非常にシンプルな仕組みのストリーム社製Ⅲ式調土機。
発生させた蒸気と熱を利用して土壌を農地に適したモノへ変化させ、有毒な成分を緩和させる。
最新技術とはいえ半刻程はかかる、ゆったりと待とう。
あなたは一度荷台へと戻る。
やや古ぼけてくすんだ水筒から僅かに水を流し、手の汚れを隈無く洗い落とす。
汚染された土壌は強靭なあなたと言えど体内に入れたいと望むモノではない。
手を清めて、荷台の冷やし箱から握り飯を取り出す。
尤も米では無く殆どが麦だが__それでもこの時代には大変贅沢な品である。
貴賓街でも無くば白米を食う事は容易くなく、平民ならば年一程が精々だろう。
あなたは貴族でも上等市民でも無いのだが、平民としてはそれなりの生活をしていた。
危険性も高い郊外の荒野に出向く者への危険手当と言うべきか、
あるいは埋葬代の代用だとでも言いたいのだろうか。
少なくともあなたは友人達の数倍の金銭は得ていた。
貴重な天然塩だけで味付けした握り飯は侘しくも美味い。
そんな後ろ姿を呆然と眺める小さな影。
音を立てずそろりそろりと手を伸ばし、最後の握りを掴もうとして、手を掴まれる。
痩せぎすで骨が浮かび、汚い。見咎めるのも当然であった。
あなたは溜息一つ吐き、その手に先程の水を掛けて手拭いで拭った。
折角なら綺麗な手で美味い飯を食うべきだと考えているからだ。
そっと頭を撫でて握り飯を持たせる。
決して許し難いとしたら精々は貴重な種籾を奪おうとする狼藉者。
力を持って横暴を為す様な不埒者だけは別である。
あなたは殺気を感じると同時に幼子を引き倒し、荷台に放り込む。
その衝撃でも握り飯を落とさなかったのは感心すらするのだが。
木立の影から四人。
皆一様に物々しい武器を携えていて、とても作物の買い付けに来たとは思えない風貌であった。
ならば目的は高額な機械と種籾を略奪する事だろう。
しかし、四人は徒歩で貴方には車がある。
急いで機械を回収すれば悠々と逃走することも出来るだろう。
あなたは傭兵でも武人でもない、ただの農家だ。
しかし略奪者には容赦も遠慮もしないと心に決めている。
その上彼らの武器はそこそこの値が付きそうでもある。
あなたの目的と欲求が一致し、
銃を持った二人を優先して排除すべしと断じ、踏み込みと同時に引鉄も落とす。
蓄積された蒸気が指向性を持って噴射され、踏み込みと振り降ろしを加速させた。
あなたはそれ程の抵抗も感じず一人の頭部を叩き割ると刃先を横向きにして再度点火。
蒸気で熱された鉄が傷口を灼き、返り血を防ぐと共に鋭さを保つ助けをする。
故にもう一人の首を引き千切るように吹き飛ばすのも容易かった。
瞬き一つの間に半数を失った盗人は片や戦意を喪失し、片や既に逃げ出していた。
あなたはほくほく顔で屍から武器や装飾を剥ぎ取り荷台に積む。
完全に心の折れた盗人の目の前で手を振ってみるが完全に反応がない。
よく見ると薄汚れているがそれ程悪くない見目をしている女である。
娼館にでも売ったら儲かりそうだ。
そう考えていた刹那、先程片割れが逃げ出した方角から何かが飛んでくる。
若干湿って丸く、重い。
それは身体の一部であり、舞い散った血潮と脳漿が顔を汚す。
即ち、それは生首であった。
郊外が危険な理由は汚染地帯であるに非ず。
楽園の外に法は無い。それは人だけに限らず獣もまた同様である。
ぎしゃぎしゃと身体を軋ませながら人だったモノを貪る巨体。
男二人程の体躯を持つ鋼鉄の蜘蛛であった。
千切れた配線は手負いというより老齢、熟練の捕食者を幻視させ、
半分が欠けた
あなたは身震いした。
結局あなたの持つものは武器ではなく農具であり、ソレを打倒するには苦労する事が想像に難くない。
何よりあのような硬質なモノを撃すれば修理に酷い期間と費用を吸われるだろう。
あなたは逃げる事にした。
あなたはただの農家だ。
例え先程の童子が必死に姉を呼ぶ悲痛な声を聞いても、戻る義理はない。
例え盗人が蜘蛛に今にも襲われようとしても助ける必要はない。
別にあなたは彼女を助けても良い。
無力化した盗人など奴隷も良い所であり、敗北した彼女はつまりあなたの所有物だ。
そしてあなたの所有物を勝手に喰らおうとする蜘蛛は立派な盗人……盗蜘蛛?である。
あなたは力を持って横暴を為す様な盗人を見逃す気がない。
同時に略奪者に容赦遠慮する理由もない。
故に所有物に食いつこうとした蜘蛛の顔面に杭打ち機を叩き込むのを躊躇う必要はない。
硬質な外郭を叩き割って尚勢いを失わない杭は電脳の最深を深々と穿ち、沈黙させる。
代償として打ち込んだ農具をも破砕しながら。
あなたは砕けた杭打ち機を見て今日一番の溜め息を吐き、車から降ろした幼子と女を見比べる。
まじまじと見れば良く似ている。
つまり幼子も盗人の一味であったという事であり、更に深く溜め息を吐く。
あなたは盗人、略奪者に容赦はしない。
敗者の辿る運命は精々が勝者の奴隷になる事か死ぬ事である。
荷台から大振りの刃物を二本引き抜き、あなたは
きょとんとする二人の愚か者に若干面食らいながらも並行して自ら手斧で蜘蛛を解体していくのだ。
そして手振りで示す、『少なくとも機械の金額分は仕事をしろ』と。
同時にあなたは伝える。
自分はただの農家である。
そして少なくとも、所有物はマトモに働く限りは大切に扱うと。
その言葉に慌ただしく作業を開始する元盗人と見様見真似で手伝う幼子。
二人を見てあなたは初めて笑顔を浮かべた。
因みに帰宅後あなたは農具の一つを畑に置き忘れて事を思い出し、
特に意味もなくささやかながら彼女らに八つ当たりするのだが、それはまた別の話である。
続き書けそうではあるんだよね色々と。