こんなタイトルですがしばらく主人公は戦いません
私は生まれ変わった。
といっても心機一転心を入れ替えてリフレッシュしたとかいう訳ではなく、普通に一回死んで生まれ変わったのである。いわゆる転生とかいうやつで。
死んだときの記憶に関してはいつの間にか死んでいたというのが正しいので覚えておらず。ついでに言うと前世の自分がどんなやつだったかは覚えているものの名前や家族構成は靄がかかったように思い出せず。神様に転生させてもらえるような善行を積んだ覚えもない。
過程も理由も不明ではあるが、とにかく転生して一つ確実なのは前世とは性別が入れ替わったこと。俗に言うTS転生とかいうやつで。私の前世はホモサピエンスのオスであったのでつまり今の私はホモサピエンスのメスである。
かねてより、生まれ変わりがあるとしたらば別の性別で生きてみたいと思っていたのは覚えていたので自身が女性であると分かったときは小躍りしたものである。(赤子であったので実際には踊れなかったが)
新たな父母は平凡なサラリーマンと学校の先生であった。幼い子供にしてはかなり大人びた、しかし大人からしたら子供がするにしては異常な思考や行動をとっていたにも関わらず、遠ざけるでもなくしっかりと私を育ててくれた両親には感謝してもしきれないほどである。
そんなこんなで平均的な恵まれた家族の一人娘として新たに生を享けてより15年。私こと田川ムツミは二度目の中学生生活を終え最寄りの私立高校[春ヶ咲学園高等学校]へ進学することになったわけである。
◇◇◇◇◇
唐突ではあるが私は顔がいい。ステレオタイプな文学系少女な見た目をしていて、スタイルも悪くない。ただし、「絶世の」とか「傾城の」とかいう接頭辞がつくほどの美少女ではなく。探そうと思えばわりといるタイプの美人、すなわち「量産型美人」であると私は思っている。
しかし。しかしだ。世の中の美人という人種の大半はこの量産型美人な訳で、二次元でよくあるクラス一の美少女だとかファンクラブができるほどの美人だとか道を歩けば10人中10人が振り返るような超絶美人なんかはほとんどいないことは前世の経験より明らか。それこそ二次元の中以外は。
つまり量産型美人な私は十分すぎるほど勝ち組な訳で。運が良ければクラス一の美少女となれるのではないのかというアホみたいなことを考えていた。
しかし。入学式当日。早めに家を出て学校に着き、教室を確認して、後ろのドアから教室に入ったところで私は己の見通しがいかに甘かったかを知ることになった。
扉を開けた私の目に飛び込んできたのは、教室の一番後ろの左隅の席の一つ隣に座る少女。腰のあたりまで伸ばされた、絹糸のような金の髪は陽光を反射して淡く輝いていて。ちらと見えた横顔はおよそヒトの顔とは思えないほど完璧な造形をしている。吊り目がちの瞳は彼女の気の強さを表しているようで。有り体に言ってしまえば彼女は「絶世の」美人だった。
彼女は本を読んでいたが、それを含めてなお声を掛けるのを強く躊躇わせる幻想的な空間を作り出していた。
何秒、いや、何分ほど経っただろうか。しばらく呆然として彼女を眺めていたが、私に気づいたらしく、本を閉じ、髪を押さえながら、こちらを向いて彼女から声を掛けてきた。その仕草一つ一つが、また育ちの良さを滲ませていた。
「あら、こんにちは。貴女もこのクラスの方かしら?」
透き通った、いつまでも聞いていたいと思わせるような声が耳朶を打つ。
「っうん、そうだよ。も、ってことはあなたはクラスメイトなわけかぁ。一年間よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
とりあえずそれだけを交わして私も席に着いた。と同時に深呼吸。それにしてもすさまじく緊張した。まさか相手が美人すぎて見惚れるとは思ってもいなかった。まるでゲームの中から飛び出してきたようであった。それにしても、あれほど美しい神の造形のごとき顔をした人間がこんな私立高校にいるのは少し引っかかる。まあ立ち居振る舞いからしてこのあたりの企業のお嬢様か何かだろう。
「そういえば名前聞いてなかったな...」
まあ、名前ならこの後自己紹介の時間くらいあるだろう。そのとき覚えればいい。
そうして私は彼女のことを一旦頭から追い出して、鞄から本を取り出して読み始めた。
◇◇◇◇◇
入学式も終わり、やってきたのはクラスでのホームルームの時間。担任と副担任の話の後、クラスメイトの自己紹介の時間となった。
「こんにちは!ええと、弥生中から来ました藍田メグミです!これから一年よろしくお願いします!」
と、出席番号1番の愛嬌のある子が元気よく自己紹介を終える。2番、3番、と続いていき、私の番を経て、ついに紹介前にも関わらず注目を集めていたあの超絶美少女の番となった。
「こんにちは。二条サヤカです。愛染中学校出身です。これからよろしくお願いします」
そう言ってお辞儀をひとつ。それだけで皆が呆けたような顔になる。私も事前に声を聞いておかなければそうなっていただろう。それほどの声だったのだ。彼女の声は。
数秒ほどして次の人が復活し、そのまま自己紹介タイムは終了した。先生から翌日の予定について連絡の後、解散の流れとなった。
ちらと二条さんの方を向けば早速男女問わず大勢のクラスメイトが彼女に群がっていた。人気者は大変だね、なんてことを独りごちながらこの後の用事のために私は教室から出た。
が、私と同じタイミングで教室から出てきた人物が一人。確か、二条さんの隣に座っていた人だ。名前は...
「えっと、渡邊くん、だったよね」
まさか話しかけられるとは思っていなかったのだろう、彼はびくり、とわずかに体を震わせてこちらを向いた。
身長は170センチを超えているだろう。前髪は伸ばされていて目に掛かっている。整ってはいるが、特徴のあまりない顔をしている。というより、彼の纏う雰囲気も相まって恐ろしく印象に残りづらい。
「あー、そうだけど。田川さんだっけ。何か用?」
彼─渡邊レイジはこれまた印象に残りづらい声で返してくる。
「いや、特に用とかはないよ。ただ、まだみんな教室に残ってるのに出て行ったから。何でかなって思って」
「...別に。早く帰りたい気分だったから。それに、それ言ったら田川さんもじゃん」
「私はこの後用事あるから。顔出さなきゃいけないところがあるんだよ」
「へえ」
心底興味ありません、といった風に返された。まあ別に構わないけど。
そんなこんなで彼と二、三言交わしていると生徒昇降口に着いた。
靴箱から靴を出してスリッパと履き替える。渡邊くんとはここで分かれることになるだろう。なので、彼の方を振り返って別れの言葉を一言。
「じゃあね、渡邊くん。また明日」
「...ん」
彼が片手を上げて返答したのを見届けてから、私は駆け出した。
さて、さっさと