春ヶ咲学園に入学してから一週間と少し経ったある日の昼休み。
この一週間はとにかく各種説明、授業の準備に追われていた。
けれども、入学してすぐに行われた学力確認テストも難なく熟したし、体力テストは言わずもがな全種目で最高評価を叩き出した。身体測定では身長が少しだけ伸びていて地味に嬉しかった。体重?それは機密だ。私も乙女の端くれだからね。
他には大量の各種オリエンテーションを受けさせられた。その中でもいっとう驚かされたのは、生徒会の権力の強さのこと。私もかつて普通の県立高校で生徒会役員を務めていたことがあった。そこでやった仕事など文化祭、体育祭、クラスマッチの運営と学校誌の編集と発行くらい。生徒会室も空き教室に机をいくつか運び込んだだけ。まかり間違っても予算を握っていたり学校を裏から支配していたりしていたわけでは無かった。私立の高校でもあまり変わることは無いと考えていた。
それがこの学園ではどうだ、詳細は省くが、生徒会は絶対的な権限を持っている。予算なんてその最たるものだ。この分だと学校の運営側との癒着的なものもあったらそれはそれで面白そうだな、なんて益体も無いことを考えていたら学校紹介がいつの間にか終わっていた。ちなみに生徒会長さんは二条さんにも劣らぬほどの美人だった。聞けばファンクラブもあるとか。すごいな。
他には、部活動紹介なんかもあった。文芸部があったから私はそれにした。まあ、見た目がステレオタイプな文学少女だしね。本を読むのも好きだし、書くのはやったことは無いけど楽しそうだな、とは思う。合わなかったら幽霊部員になればいい。
そんなこんなで過ごした一週間。授業密度もそこまで高くなく、まだまだ余裕がある状況の中。そのくらい過ごせば自然と友達の一人や二人はできるもので。
私は一緒にお昼ご飯を食べる友人を獲得したのである。その方が、今私の前の席に座る藍田メグミさんである。彼女とは三日目の体力テストで組んだときに意気投合し、すでにメグさん、むっちゃんと呼び合う仲なのである。不思議と人を惹きつける魅力と愛嬌と活発さに溢れた彼女とは非常に話しやすく、今の私の一番の友人なのである。ちなみにめちゃくちゃ美人である。
「メグさんメグさん、部活はどうよ?」
彼女は陸上部所属である。なので肌が若干小麦色に焼けている。
「んー先輩とかマネージャーのひとたちも優しいし、いい感じだよー。まだあんまり走らせてもらってないけどね。むっちゃんは?」
「まあ、まだ体験入部期間中だしね。あー、ウチの部は基本は本読んでたりするだけだし、年一で出してる会誌つくるときじゃないとあんま話さないんだって。あ、でも友達はいる」
「へー!会誌かぁ、楽しそう!あ、あとその友達に今度会わせて!むっちゃんの友達ならイイ性格してるんでしょ?」
「いや私の友達はイイ性格してるって...まあ、構わんけどね」
「やった!楽しみにしてるね!」
ここで話が一区切りしたので、二人とも弁当を口に詰め込みだす。食べ終わると予鈴まであと少しだったので、お別れして席に戻った。
次は古典なので教科書とノートを鞄から出して準備していると、学食からちらほらと人が戻ってきだした。確かここの学食はおいしいと評判だったから今度行ってみてもいいかもしれないな、なんて思っていると、大集団が教室に入ってきた。中心にいるのは、言わずもがな我がクラスの女神二条さん。彼女は入学以来、瞬く間にクラスの中心人物となり、他のクラスカースト上位陣らと行動をよく共にしている。(といっても他の人たちが二条さんにくっついているだけのようだが)
私が二条さんと話したのは結局入学式前の一幕を除けば一回も無く。私自身が人に積極的に話しかけるような人間では無く、しかも大体メグさんと一緒にいるので、ついぞ今日まで話していなかったりする。
ちなみにメグさんは彼ら彼女らとも何の問題も無くコミュニケーションを取っている。彼女は根本的にコミュ強なのだ。性格が反対の人間は友達になりやすいなんて聞いたことがあるが、メグさんと私を見ていたところ、それは正しいのでは無いかと思われる。
予鈴が鳴る。皆がバタバタと急いで席に着きだした。それとほぼ同時に、教室のドアが開く。すわ先生かと思ったが、入ってきたのは渡邊くんだった。
彼はあまり他人とコミュニケーションを取ろうとしない。二条さんとは授業でペアを作る際に話さざるを得ないし、彼の前に座る六道くんとは事務的な会話をしているのを見る。ただ、初日に話して以来、私は一回も彼と話していないし、彼が他の人物と会話しているのを見たことが無い。昼休みはすぐに居なくなるし、帰宅部なので帰るのも早い。なんだか、まるで人との関わり合いを避けているかのようだ。まあ、それは考えすぎか。
そんなことを考えていると古典の佐藤先生が入ってきた。もう授業が始まりそうだ。さあ、切り替えて集中集中。
ちなみに佐藤先生も超絶美人である。この学校美人多くね?
◇◇◇◇◇
今日も授業が終わって下校の時間となった。相変わらず渡邊くんはマッハで消えて、帰宅部がそれに続いて教室から出て行く。部活がある人間は同じ部の人が固まって出て行く。
ちなみに再び数人を連れて出て行った二条さんは水泳部だが、他の人々は水泳部とは関係ない。人気者はやっぱり大変だな、なんて思いつつ、メグさんに挨拶をして私も教室から出た。向かうのは文芸部部室。さて、今日はユキさん居るかな。そんなことを思いながら西日差し込む廊下を歩いて行った。
結論から言えば今日の部室には誰も居なかった。文芸部は自由参加型の部活なので別に毎日参加する必要はないのだ。かくいう私も既に二回ほどサボった。今日は用事もないから参加しようと思っただけである。
空き教室を利用した部室の中には本棚がいくつかと、ふたつ合わせられた長机。椅子が八つに本がいっぱい。椅子の一つに腰を下ろし、机の上の小説をいくつか手繰り寄せる。ここの蔵書はなかなか多いし、珍しい本もかなりある。誰も居ないのは寂しいが、無聊を慰めるには苦労しない。まあ、切りがいいところまで本を読んでいくとしよう。
そう思って私は手繰り寄せた小説たちの中から一番上にあったものを手に取って開く。面白い本だといいな、なんて思いつつ、本の世界に沈んでいった。
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次回、遂に主人公が戦います