かつてある男がいた。その男は地下水でジメジメと湿り、薄暗がりが延々と広がる洞窟で産声を上げた。複雑にうねり1カンデラの日光もささぬ洞窟の果ての最深部で暮らしている、闇の一族と呼ばれる種族に生まれたのであった。彼の種族、闇の一族は強健でありながらも非常に長命かつ理知的であり、地球生命体の中で最強と言っても過言ではなかった。その種は地上を支配できるだけの力を持っていたが、日光を浴びるとその身が果てる唯一無二の欠点のために彼らが地上に侵食することは無く地下での永住を選択した。地上に出なくても地下に根を張る植物のエネルギーや小動物の血肉のみで生活でき、またもともとその種が平和的であったからだ。そのため地上にいる人類はその種族を神や悪魔として崇め忌むべき存在としその洞窟に一切干渉しなかった。地上生物と闇の種族の関係は利益の一致からその均衡が保たれていた。彼が夢を持つまでは。
彼は物心つくと自分の体の弱点である太陽に強い憧れを抱きまた乗り越えるべき障害として捉え始めた。彼は何度か地上付近にまで赴いたがその度に周囲の人々に小馬鹿にされ、親からは殴られ兄弟たちからは蔑まされた。彼は「なぜこんな場所にいてなんとも思わないのか。なぜ己の弱さを克服しようとしないのか。」と度々反論したが、聞く耳を持つ者は少なかった。いや、一人しかいなかった。
彼もいつしか青年になり、屈強な一人の戦士でありながらも自身を強化するための発明品を作り出す技術者となった。いわゆる天才である。また彼には彼の太陽克服思想に感銘を受け、彼を手助けする一人の友人もできた。そして遂に太陽克服のための目論見ができ地上を目指した時、彼らに闇の一族が立ちはだかった。彼らが太陽を克服することで絶対的な世の支配者となり、他生物の殺戮を防ぐためであった。
彼らは例え血の繋がりがある相手だとしても斬り殺し、自分たちの夢を押し通そうとした。彼らは今後一切夢を妨害されないために二人の赤ん坊以外、闇の一族を残らず殺したのであった。
それから長い年月と試行錯誤を経て夢の奴隷、外道と化した彼は漆黒の髪を靡かせながら黄金色を彩り輝く太陽を背にこう宣言した。
「
だがカーズはジョセフに敗北。地球外、宇宙へと放り出された。その際に肉体は凍り、鉱物と生命の中間の生命体となった。皮肉にもカーズが求めた絶対の安心を手に入れるという夢は鉱物になることで叶えられた。その後考えてもどうすることもできず死にたくても死ねないので考えるのをやめ、永遠とも呼べる永い時間宇宙を彷徨い続けた。いつしか長命であり何千年も生きたはずカーズの年齢よりも宇宙にいる年齢の方が長くなった。
ある日鉱物になったカーズはある惑星の頭上にいた。何億年か前に宇宙に投げ出された時の慣性をそのままに通り過ぎ行くだけであるはずだった。だがその時、惑星から飛び出だした一筋の光がカーズを直撃した。その光は膨大な熱量と地球には存在しないその惑星の生命体に魔力と呼ばれるものを秘めていた。カーズの軌道が変わり、その惑星の重力に徐々に吸い寄せられていく。そして遂にカーズはその惑星の大気圏を突破し、摩擦熱によって紅蓮の如し尾鰭を携えながら地表に衝突した。地表は抉れクレーターとなり、落下付近は衝突時の熱によって白熱した。カーズは地球を追放されてから約10億年。ニール・アームストロング船長のように初めて別の惑星に到達したのであった。
惑星に衝突してからカーズは思考を停止したはずであった。だが魔力と呼ばれる異質なものを浴びたせいか、ゆっくりとカーズの意識は目覚めつつあった。
どこだここは。体の表面に熱を帯びているのを感じる。
宇宙に投げ出されてから思考を停止するまでの1000年間は確かに宇宙空間を彷徨っていたはずだが。
徐々に地球から遠ざかっていていたし、どうやら別の惑星に辿り着いてしまったようだな。
体の80%は鉱物になり、表面を覆っているせいでやはり身動きは取れぬか…。
しかしこのチャンス、カーズは逃さんぞ!!
一度はジョセフ達人間に敗れたが、必ずや奴らを皆殺しにしてやる。
…いや待て。今このカーズがこの状態になってから何年経ったのか分からぬが、ジョセフはもう既に死んでいるに違いない。
思えば、絶対の安心と日光の克服という夢は生と死の狭間にいることで完遂されている。
闇の一族を皆殺しにし仲間の犠牲を払ってまで得た夢の景色は、虚無で無粋で孤独であった。
完璧を求め不老不死になった以上、何をしても茶番や蛇足にしか感じないだろう。
究極がここまで虚しいものとは、夢を見ているときには思いもしなかった。
このまま完璧のまま動けないのだとしたら、…また眠るか。
「お、あったあった~!!やっぱここに隕石が落ちてきてたんだね。」
「すごいな~、まだ燃えてる。」
目は鉱物に覆われているせいで姿形は分からぬがなにか近づいてくる振動音が鉱物越しに伝わってくる。
この惑星には生命がいるのか?
どっちにしろこのカーズにはあまり関係のない話だが。
「もしかしたら魔力災害の一端かもしれないし来てよかったなァ~。」
「よっと。」
向かってくる。大気圏を突破した以上おそらく大きなクレーターが出来ている。
しかも辺り一帯が炎で燃え盛っているはず。なのに向かってくるとは大した奴だ。
「うーん。さすがに燃えてますねぇ。」
「魔力精製・
熱がどんどん冷えていく。これは、液体?
なにもないところから液体を生成したのか。
もしやこの惑星は知的生命体の文明があり、盥か何かで炎を消したのか?
足音から推測するに二足歩行の生物であり数は一体。
たった一体が、ほとんど小惑星となったこの姿が地面に衝突した際の炎が消せるとは。
しかも固有の言語を話している。
どうやら波紋使いと同様、不思議な力を所持しているらしい。
いや地球生物と異なる体内構造である可能性や人類より遥かに優れた技術があるのかもしれぬ。
比較するのは野暮であるか。
「うあッ!!気持ち悪!!この隕石、人の形をしてる!!」
言葉はまだ分からぬが、このカーズを愚弄したことだけは理解できたぞ。
声色から察するにこの小娘、バカにしよって~!!
「え、すっごい!!魔法石だ!!!なんでこの隕石に!?」
「もしかしてさっきの魔力の噴出が天文学的な確率でぶつかったとか?」
「どっちにしろこれがあれば…。」
なんだなんだこちらに近づきよって。
普段であれば、人間が近づいてきたら全身の消化器官で食えるのだが。
表面が鉱物になった以上捕食することが出来ないのが惜しいな。
「く、くぅ~。と、取れないィ~。」
コイツ俺の体の一部を引っ張ってやがる。
俺の体になにか引っ付いているのか?
「この石さえあれば、村を救えるかもしれないのに~!」
「あっ!」
ふんっ!!小娘、俺の体に付いている何かを取れずに勢い余って尻餅をついている。
実にマヌケだな。だが面白い。ちょっとした暇つぶしにはなるだろう。
小娘、取ろうとしているものがよっぽど貴重なものらしいな。
奴が諦めるのが先か。それを取るのが先か。
「絶対、諦めないぞ!!」
俺の体を足場にしながら足を掛けて取ろうとしてやがる!!
コイツこのカーズをなんだと思っているんだ。
「きゃっ!」
はははッ!!!どうやら無理そうだな。
目尻に涙を溜めて、そんなに欲しいのか?
「そうだ首を魔法でぶっ壊して、首ごと石を持ってこう!!」
次はなんだ?空気が振動するのを感じる。
小娘が大きく呼吸するのと連動するように、地面が揺れている。
これはまるで、いつの日か見た波紋と同じ呼吸法!!
まさかこのカーズをぶっ壊す気か!?
だがもし破壊してくれたら、肉片が再生して外に出れるかもしれん。
やれ小娘!!俺を完璧から救ってくれ!!!
「魔力精製・
手から放たれた若紫に光るソフトボールばかりの大きさの塊は俺の首直撃した。
←To be continued...
タイトルそのまんまです。