可愛くて。
スタイルが良くて。
お尻が大きくて。
毎晩ベッドに忍び込んで癒してくれる同居人のくるみ。

そんな話を仲間内でしていて、幼馴染の紗雪《さゆき》に聞かれてからなんだか紗雪の様子がおかしい?

変な質問をしてくるし、『くるみ』のことをやたらとどんな子か聞いてくるし、なんだか前よりも距離が近くなったような気がする。

お弁当を作ってきてくれた? ああ、ありがとう。
えっ、くるみはお弁当を作ってくれないのかって?

作れるわけないじゃん! だってくるみはペットの『コーギー』のことだし!

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可愛くてスタイルが良くてお尻が大きくて毎晩ベッドに忍び込んで癒してくれる同居人(※ コーギー)の自慢話をクラスでしてから、幼馴染の様子がなんかおかしい

「見ろよこのプロポーション! すごくね?」

 

 学校の昼休み、いつものメンバーで集まり俺達は最高に盛り上がっていた。

 それぞれが持ち寄った写真……と言っても、スマホで撮った写真だが。

 それを見て、それぞれ感想を言い合う、もとい自慢し合うというものである。

 

 この集まりにおいて俺は最強だった。

 なんてったって、俺の持つ『写真』の()は一目見た者全てを魅了し得る最強の魅力を持つからである。

 

「うわぁ、やべぇわ」

「いいね〜」

「このくびれとお尻がたまんないわぁ」

「だろだろ? このぷりっぷりのお尻がいいんだよなぁ」

 

 こそこそとオタク同士で集まって写真を囲み和気あいあい。

 そこに集まったメンツは全員がもう、ゆるっゆるのでれっでれな気持ち悪い顔で笑っている。それを指摘すれば「お前もだろ!」と大爆笑。

 

「足が短いのがチャームポイントだよな」

「それ!」

「で? この可愛い子が? お前ん()で毎日帰りを待ってて?」

 

 ニヤリとしたお仲間の顔に、俺もニヤリとして返す。

 

「そう、この可愛くて雑誌に載れそうなほどスタイルがよくて、お尻が大きいこの子が……」

 

 ごくり。

 誰かが息をのむ音がした。

 

「毎晩ベッドに忍び込んで癒してくれるんだよ!」

 

 ドヤ顔で言えば一瞬水を打ったように静まり、次の瞬間仲間達がうめくように声をあげた。

 

「っかー! ほんっとに羨ましい!」

「俺んところはそんなことしてくれないわ〜」

「お前んところツンデレだもんな」

「ベッドで一緒には難易度高いんだよな〜」

 

 仲間内での会話は最高潮! もう盛り上がるに盛り上がり、俺達はテンションが振り切った状態で次々とマシンガントークをしていった。話題はもちろん写真についてである。

 

 この主語を抜いた会話は俺達の中での『とある遊び』の一環だった。

 

 オタクというものは、だいたい好きなものを擬人化してたとえ話をする生き物である。あのお猫様(おんな)は曰くツンデレお嬢様だとか、こっちのお犬様(おんな)は控えめな委員長タイプだが、二人きりになると甘えん坊だとか、そんな風に。

 

 これは、どこまで主語を出さずに擬人化して褒めるか。

 そんな遊びだった。

 

 そんな遊びを、クラスの雑音の中でこそこそと毎日繰り返すのが俺達の日課で……。

 

()()()とのはじめてのベッドインは出会って数分だったわ」

「おま、犬飼(いぬかい)それはやばすぎ」

 

 笑いを堪えながら机に突っ伏した親友にドヤ顔を送る。

 そのときだった。

 

 ガタン。

 

 背後でなにやら音がして振り返る。

 そこには、委員長としてノートを集めるように言われていたんだろう。幼馴染の紗雪(さゆき)が呆然として立っていた。

 

 しかも、集めていたノートをバラバラと足元に落として。

 

「んあ? どうしたんだよ紗雪。ノートめっちゃ落としてんじゃん。ほら、どうしたボーッとして」

 

 しょうがないなあと俺は椅子から立ち上がり、彼女の落としたノートを拾う。しかし、紗雪は微動だにしない。

 

「いや、本当にどうした? お前スリープモードなんてついてたっけ?」

 

 からかい混じりに声をかけるが、彼女はなにも言わない。

 

 いつもなら、「なに馬鹿なことを言ってるんですか」とばかりに赤縁メガネの奥で睨んでくるというのに。いったいどうしたというのか? 

 

「体調でも悪いの? なら保健室今のうちに行っとけよ。付き添いいるか?」

 

 彼女はなにも言わない。

 しかし、じわり、じわりとその大きな瞳に涙を溜めていったかと思うと、顔を盛大に歪めてノートをそのままにクラスから飛び出していってしまった。

 

「え、ノート……ってか、そんなに体調悪いなら無理せずに保健室行けばよかったのに」

 

 俺はしばし様子を見に行くかどうかを迷って、結局ノートを拾って教卓に置いて彼女が次の時間までに戻ってくるのを待つことにした。

 

「いやあれって」

「なに?」

 

 黙っていたメンツが口を開き、首を傾げる。

 

「いやぁ、今すぐ追うべき。幼馴染は大事にするものだぞ。ブランカは嫁に迎えるもの」

「は? いや俺フローリア派だし」

「は? 戦争か?」

「お? やるか?」

「どうどう」

 

 いきなりなにを言い出すんだこいつは。フローリアのほうが見た目が好きなんだから当然そっちを選ぶだろ。

 

「で、くるみちゃんがめっちゃいい女って話だけど」

「いい女だろ〜うちのくるみ! マジ、この世で最高峰のコーギーだと思うね」

「あ、犬飼の負け」

「あ」

 

 そう、この集まりはただの犬好き、猫好きの集まり。

 そして遊びとは、犬、猫をそうとは分からないよう擬人化してたとえ話をし合うというものだった。

 

「うわ〜言っちまった」

「言うまでは優勝だと思ってたのに惜しいな〜」

 

 そんなノリが、仲間内でのいつも通りだった。

 

 しかし、この日を境に幼馴染の様子がおかしくなってしまったのだった。

 ……なぜ? 

 

 ◇

 

「ねえ、犬飼君。この前のその……くるみって子は、その、可愛いんですか?」

「なんだよ紗雪。改まって変なこと聞くな〜、この世で一番可愛いに決まってるだろ!」

「こ、この世で……一番……」

「え、なんでそんなに落ち込んでんの」

「わ、私、可愛い? 私より可愛いんですか?」

 

 まるで口裂け女みたいなセリフだったが、まあそこには突っ込まずに答える。

 

「おま、普通自分で可愛いって言う? まあ、可愛いと思うよ。つーか、くるみとは比べるものじゃねーって!」

「く、比べるほどまでもない……?」

 

 ショックを受けたような顔をして紗雪はまた泣きながらダッシュで帰っていった。

 

 ◇

 

「ね、ねえ犬飼君」

「なに?」

「その、この前言ってたけど、くるみって子と一緒に……住んでるんですか?」

「なに当たり前なこと言ってんだよ」

「当たり前……」

 

 ガーン、と効果音がつきそうなほど紗雪は肩を落とした。え、いや当たり前じゃん? 

 

「いや、ペット(かぞく)なんだから当たり前でしょ」

「家族……ご、ご両親の反対とかは?」

 

 んー、あー、そういやはじめは反対されてたな。

 

「迎え入れる前は反対されてたな、そういや。でも今は家族だし」

「ご両親……公認なんですか……」

「いや、そりゃそうでしょ」

「ううっ」

 

 やっぱり紗雪はじわりと泣き出して走り去っていった。

 あいつ最近情緒不安定だけど大丈夫か? 

 

 というか、最近なんか妙に距離が近いような……。

 

 ◇

 

「犬飼君、あ、あの……これ、お弁当。つ、作ってみたんです。その、今度友達とピクニックに行くので……れ、練習に……だから、その、美味しくできてるか、試していたっ、いただけませんか?」

 

 途中で噛んだり言い淀んだり、なんかすごく緊張しているみたいだ。

 

「いいよ、ありがたい。どうせ昼は用意してないし、購買行こうと思ってたから」

「そ、そうですよね。毎回水曜日は購買行ってるようですし」

「お、よく見てるのな」

「べべ、別に、たまたまですけど!?」

「そーか、ならその『たまたま』で助かったことになるわ。ありがとな」

「ど、ど、どう、いたし……ましぃ……て」

「なんでそんなに動揺してるの?」

「にゃんでもないでしゅ!」

「……」

「……」

 

 盛大に噛みまくったのがよほど恥ずかしかったのか、やっぱり紗雪は走り去っていった。

 

 お弁当はめちゃくちゃ美味しかった。

 

 ◇

 

「あ、あの、犬飼君!」

「お、紗雪……ってまたお弁当練習してきたのか? ま、美味いからいいけどさ」

「ねえ、犬飼君。くるみさんって、その……お弁当とか、作らないの?」

「ん? 作らないよ?」

 

 そりゃコーギーだもん。

 

「あいつの弁当作るのは俺のほうだわ」

「あいつ……すごく親しそう……」

「あいつは俺を癒してくれればそれでいいよ」

「い、癒し……? 意味深なやつなんですか……?」

「え、意味深? なにが?」

「その、えっ、えっ……」

「え?」

「な、なんでもないですぅ!!」

 

 俺が首を傾げながら言葉の続きを促すと、紗雪はまた泣きながら走り去っていった。そのうち夕日に向かってバカヤロー! と叫び出しそうな顔をしていた。いったいあいつになにがあったんだ。

 

 前まではクールぶってお澄ましキャラだった癖に、ここ最近はまるでポンコツメガネキャラだ。

 

 ◇

 

「い、犬飼君……」

「どうしたー? って、なんでそんなくっつくんだよ」

「嫌じゃない?」

「嫌じゃないよ。むしろ役得」

「う、浮気……するんですか……?」

「え、なに、どういうこと」

「これは……浮気ですらないんですか」

「浮気? なにが? え? え?」

「うっ」

 

 また泣いて走り去っていった。

 なにがどうなってるんだ。

 

 ◇

 

「い、犬飼ぐん〝!!」

「なーに?」

「私、犬飼君のことが好きでず! あ! 諦めようと思っで、たん、でずけ……ど! む、無理で……わたっ、わたしっ、幼馴染で、ずっと一緒にいた……犬飼君が諦めきれなくで……! ご、ごめ、なさ……! 犬飼君にはっ、くるみさんがっ、い、いるのにぃ……!」

「えっ」

「うぇ…………ごめ、ごめんなざいっ。私、最低ですよね。だ、だがらっ、せ、盛大にフッてくだしゃ……うぇ……ふぇ……っく……フッてくだざい!!」

 

 ちょっと待てちょっと待て! 

 

「俺も紗雪のこと好きなんですけど!? なんでフラれる前提なんだ!?」

「だあってぇ……! 君にはくるみしゃんがっい、いるっんでしょっ!? ご両親も公認でっ、一緒に住んでて、ベッドで一緒に寝るような仲の女の人がぁ! いるんでしょぉ!?」

 

 ここでようやく、俺はすれ違いに気づいた。

 

「違う! くるみは違う!!」

「違くないもん! だっでいつもいづも、くるみさんの話ばっかりぃ!! すごく魅力的な人で、お尻も大きくて、プロポーションもすごくて……私なんて絶対敵わないもん〝!」

「違う! 誤解だ! ほら! これ! これがくるみ!!」

 

 愛しのコーギーことくるみの写真をスマホに出し、俺は紗雪の目の前に突き出した。

 

「はぇ………………?」

 

 紗雪はそれを見て硬直する。

 そう、前に教室でノートをばらまいたときのように。

 

 そして、みるみるうちに真っ赤になったかと思うと、瞳にじわりと涙を溜めて口元をへの字に歪める。

 

「ふぇ……」

 

 いつものように逃げ出しそうになった彼女の腕を掴むと、紗雪はわずかな抵抗を見せてから大人しくなる。

 

 瞳に溜まった涙は、俺に捕まったことでとうとう決壊してポロポロと流れ落ちていくことになった。

 

「しにたい」

 

 低い声で呟く紗雪に苦笑して、その頭にぽふんと手を乗せる。

 

「犬としての世界一はくるみだけど、女の子として一番は紗雪だよ」

「ばか言うんじゃないですよ、このばか」

 

 けれど、紗雪は嫌がりもせずに受け入れる。

 

「ねえ、紗雪」

「なんですか」

「昔からずっと好きだった。俺と付き合ってくれませんか」

「……いいですよ。その代わり」

 

 彼女は涙目のままふわりと笑う。

 

「くるみちゃん、私にもモフらせてくださいね」

 

 その笑顔は、世界一可愛かった。

 

 ◇

 

「っていうか、いつからペットなんて飼ってたんですか」

「二年前かな」

「くるみちゃんは二歳ですか。なら、私のほうが犬飼君といた期間は長いですね」

「なに張り合ってんだよ」

「別に」

 

 ◇

 

「はわ、くるみちゃんすごいもこもこですね。お尻が本当に可愛いです……悔しい。私もこれくらい可愛かったらよかったんですけどね」

 

 しゅんとした顔で紗雪が呟く。

 

 現在、約束通りに俺の家にご招待した紗雪がお腹を見せているくるみを愛でている真っ最中だ。

 

 幻だとは一応分かっているが、彼女の頭にしおしおと落ち込むようにぺたんとした犬耳が見えた気がした。

 

 吸い込まれるように手を伸ばして、ぽすんと手のひらを優しく乗せる。

 

「最初から言ってるじゃん、比べるものじゃないって」

「はぇ?」

「くるみは家族として可愛い。紗雪は、大好きな幼馴染として、最高に可愛い。好きな女の子として、一番に可愛い。そうやってすぐ落ち込んでしゅんとするところも……」

 

 また逃げ出しそうになった彼女の腕を掴む。本当に、こいつはもう、逃げ癖があるよな。

 

「こうやってすぐ逃げそうになるところも、全部好き」

 

 告げると、紗雪の顔がどんどん赤く染まっていく。

 それと同時に、その目に涙まで溜まっていった。まったく、本当に泣き虫だなぁ。

 

「や、やめてくださいよぉ! これ以上は無理です! 爆発しちゃいます! なんでこういうときに限って君っ、そんなに饒舌に誉めてくるんですか!? 私を殺す気ですか!? も、もう見ないでください! こ、こんなだらしない顔……! 君に見られたくなんてないですぅ!」

 

 顔を隠して叫ぶ紗雪はしかし、くるみをモフる手は止まらない。お前も十分犬好きじゃんって思いつつも、隠そうとして隠しきれない真っ赤な顔の正面に回って抱きしめる。

 

 俺と紗雪の膝の間にはいったくるみは、仰向けになったまま幸せそうな顔をしている。くるみも紗雪を気に入ってくれたみたいでなにより。

 

「い、犬飼くん!?」

「ほーら、これなら真っ赤な顔、俺が見れない」

 

 ぷるぷると小型犬みたいに震える紗雪は、抱きしめられたまま俯いた。その顔をくるみが立ち上がり、ペロリと舐めた。トドメだ。

 

「しょっ、そんなことする犬飼くんなんてっ、だっだいっ……!」

「んー?」

「う、うう……大好きですよばーーーーーか!!」

 

 冗談の『大嫌い』さえ言えないこの幼馴染に、緩む顔が止められない。

 

「俺も泣き虫な紗雪が大好き。お揃いだね?」

「このっ、おばかーーーーー!!」

「うんうん、よしよし。俺は紗雪が大好きな紗雪ばかですよ〜」

「そういう意味じゃないです! 分かってて言ってるでしょう!」

「うん」

 

 抱きしめながら、お互いにお互いの顔を隠す。

 紗雪が真っ赤な顔を隠したいように、俺もだらしなく緩んだ、こんな顔は見られたくなかったから。

 

 その二人分の秘密を知っているのはきっと、この場にいる『くるみ』だけだろう。

 

「くうん」

 

 俺達の間に挟まれたくるみは、得意げに鼻を鳴らしていた。

 

 

 

 めでたしめでたし。

 


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