悠久のS/N   作:Almin

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カローシスさんが幸せだとみんな嬉しい。



悠久のS/N

 

「カローシスさん、今日ログイン早いですね。22時前にログインするのって、平日だと初めてじゃないですか?」

 

「最近、仕事の調子でもいいんですか?」

 

「今日はどこに行きますか?」

 

「そんなところです。……今日は砂漠方面を開拓しようかと」

 

そんな会話をしたのが昨晩のこと。

 

「おはようございます」

 

「「「おはようございます」」」

 

会社に入り、ロビーでティータイムに興じている集団に声を掛ける。あれは確か……経理の藍田さんに開発の多摩さんと水乃さん。

 

5時間も寝たというのに妙に気だるい体を奮い起たせてオフィスへと向かう。

 

 

「おはようございます、社長。お早いですね」

 

オフィスに1人佇む社長に礼を添えて挨拶する。右手の書類束は試作中のゲームの企画書だろうか。

 

「カローシスさんも随分早いね。始業までまだ2時間はあるだろう?」

 

丸めた紙の束を銃口に見立ててこちらへと向ける社長の顔は笑みに満ち溢れていて、まるでイタズラを思い付いた子供のようだ。

 

「津羽目社長ほどではありませんよ……って今何と?」

 

「何でもないよ()()()()()()()

 

「……その名前は何処で?」

 

「昨晩もしやと気が付いてね。今カマ掛けてみたらドンピシャり。ってとこかな」

 

 

「あー……(ヤシロ)長(鳥)(バード)さん?」

 

「頭の回転が早くて何より。せっかくだから続きはロビーで」

 

 

 

「おはよう」

 

「「「おはようございまーす」」」

 

津羽目社長(ヤシロバードさん)がドリンクサーバに100円玉を入れる。接客用かと思っていたのだが、どうも違うらしい。

 

「昨日言い忘れたけど、ロビーは始業前と終業後は自由に使って構わないよ。就業中の休憩は休憩室を使ってね」

 

「承知しました」

 

ミル工程の終了を知らせるランプが灯る。

 

「そう畏まらなくて大丈夫ですよ楼堂さん」

 

香ばしい薫りが何処か懐かしい気がした。

 

「うちの部署はどうです?何か気になることはありませんか?」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

電子音が、ドリップの完了を告げる。

珈琲を手にテーブルへ向かう社長を見て、ここで初めて珈琲がいつの間にか()()()淹れられていたことに気付いた。

 

「どうぞ、座ってください」

 

「頂戴します」

 

珈琲を一口啜り、久しぶりに感じる苦味を噛み締める。

 

「部長から聞きましたよ。無断で残業しようとしていた、と」

 

「その節は申し訳ありませんでした。弊社では残業の事前申請の仕組みが無かったもので、気付けば定時を過ぎておりました」

 

「まだ2日目ですが、進捗はどうですか?」

 

「開発計画基準でしたら、部署進捗125%で進捗進みとなります」

 

「楼堂さんの個人担当分だと170%だそうだね」

 

「おおよそその通りです」

 

……これは、計画が前倒しになると見た。

 

「順調で何よりだね。そのまま頼むよ」

 

「へ?」

 

「ん?」

 

「失礼ですが、開発計画の見直しと前倒しは」

 

「前倒す理由あるかい?進捗進みなんだろう?」

 

「では深夜残業は」

 

「普通残業も無し。定時で十分な進捗だよ」

 

「休日出勤は」

 

「家で休めば?」

 

津羽目社長が形容し難い顔をしている。何かおかしなことでも言ってしまったのだろうか。

 

「あのカ……楼堂さん、普段何時間働いてます?」

 

「……1日8時間ですよ?」

 

「……申告外を含めると?」

 

「……あー、これオフレコですよ?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「……早い日で17時間です。朝5時出社の22時退社」

 

社長が珈琲を飲む一瞬、会話が止まる。

 

 

「36協定はご存知ですよね?」

 

「なんとなくは。ただ、やらないと終わらないですから」

 

私も一口いただこう。どうもカフェインの効きが悪い。

 

「一週間で法定の月45時間を越えるのか……」

 

「申告上はゼロなので問題ありませんよ」

 

「いやそういう問題じゃ……分かったよ。とにかく()()はサビ残無しだから、なるべく定時退社するように」

 

 

◆◆◆

 

「……という事で本人にも言っておいたから」

 

「お世話かけます社長。しかし優秀ですよ彼。初日で分かりました」

 

「なら尚更頼むよ。無理しそうだったら止めるように。いざとなったら()()()()に入れてもいい」

 

「了解しました。あんな逸材、壊すにゃ惜しいですからね」

 

「今のところは借り物だけどね」

 

 

◇◇◇

 

――数日後――

 

「あ、楼堂さん」

 

「才原さん、どうされました?」

 

「部長から伝言。今日の進捗会議は休憩室に変更」

 

「承知しました」

 

休憩室か。初めて行く部屋だな。

 

「なので、一緒に行こうか。場所知らないでしょ?」

 

「ありがとうございます」

 

 

「楼堂さんは、休日の趣味とかは何を?」

 

「……仕事のない日は専らVRです」

 

「もしかしてシャンフロです?私もやってますよ」

 

AR企業でVRの話もどうかと思ったが他に語れる趣味も無い。まあ社長もアレなのでそこまで気にしている社員はいないのだろう。

 

そこから少しシャンフロのモンスターやジョブの話をして、休憩室(会議室)に到着した。

 

休憩室はかなりゆったりとした空間で、広めの部屋にロビーと同じ型のドリンクサーバーが数台と、ラウンドテーブルを囲うようにソファーが配置されていた。

 

「楼堂さん、才原さん、こっちこっち」

 

誘導されるがまま座れば眼前に()()()()()()

 

「あ、いちごミルク嫌いだった?」

 

「いえ、そんなことは」

 

「ここのドリンクサーバーは無料だから、楼堂さんも自由に利用してもらって構わないよ。他にもコーラとか抹茶ミルクとかもあるし、紅茶も何種類かあるよ」

 

言われて見れば、ほとんど珈琲だったロビーのドリンクサーバーとは違い、かなり多種多様で、中には『コーンスープ(コーン粒無し)』などもあるようだ。

 

 

数分してメンバーが全員揃い、進捗会議が始まった。

 

「みんな進捗進みだね。いいじゃないか」

 

結果から言えば十数分の会議の内容はその一言の通りだった。

いちごミルクがやけに甘く感じた。

 

 

――翌週――

 

「楼堂さん、ちょっといいかな?」

 

「部長。お疲れ様です。なんでしょうか」

 

「今日の業務なんだけどね、進みがかなり早くて余裕があるから、別業務を頼みたいんだ。ちょっと来て貰えるかな?」

 

「承知しました」

 

先週確認したので、社内の部屋配置は把握しているが、どこに行くのか部長も申されないので後について歩く他無い。

 

しかし、この先はハードの開発部署が集まるエリアだ。一旦どこへ……

 

「入って」

 

言われるがまま部屋に入ったが、ここは『試験室』の筈だ。

 

「今度スクラップ・ガンマンのアップデートに追加パーツを実装する案がでてる」

 

スクラップ・ガンマン。スワローズ・ネストが発売したばかりの新作ARゲーム。フルダイブVRが覇権を取る昨今、J(シャパン)G(・ゲーミング)E(・エキスポ)での躍進もあって信じられないほど売れていると聞く。

 

「ウチの社員はシステムに馴れきったのが多くてね。是非とも楼堂さんのプレイデータを取らせて貰いたいのさ」

 

なるほど。難易度の調整基準の指標の1つにしたいということなのだろう。

 

「承知しました」

 

「とりあえず今日はノーマルステージのクリアを目指して。そこにスポドリのサーバーがあるから、適宜飲んで熱中症と脱水症状には気をつけて」

 

一礼して部屋を出る部長を見送り、改めて部屋を確認する。メインのAR機器にスポドリサーバ、壁には機器の装着方法が掲示されている。

 

指示の通りに装着して……

 

 

「始めますか!」

 

……………………

 

………………

 

…………

 

……

 

「楼堂さーん?部長にここにいるって聞いたんですけど」

 

「……才原さん。どうされましたか?……はぁ。はぁ。……作業応援ならいつでも承り……はぁ。……ますよ」

 

「あと30分で定時なので呼びに来たんですよー。どこまで進み……え。すごいですね。初日でこれはセンスありますよ!」

 

「あぁ、もう……そんな時間でしたか。通常業務がまるで進んでないな……」

 

「楼堂さん、面白いこと言いますね。まだまだ進捗進みですよ?さ、戻りましょう?」

 

才原さんに手を引かれ、何とか立ち上がるが、足がガクガクと二重に見える。これは明日は筋肉痛……何年ぶりだろうか。

 

 

 

今日もシャンフロが楽しみだ。





「最近カローシスさん早いよな」

「ほう。珍しいな」

「そうそう。しかも平日はログアウトも早いんですよ。日を跨ぐと抜けていくんです」

「土日も最近は連日いるし、元気そうですよ」

「……そうなのか。なら今度誘ってみるとしよう」





気づいたらドリンクサーバーだらけになっていたスワローズネストに合掌
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