怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
翌日
「…昨日の地震ですが、一昨日の震源地からさらに北西に3km程の地点が震源地と思われます。発生から5分後に“空防”の攻撃機がスクランブルしましたが、昨夜時点では巨大生物の痕跡は確認できませんでした。」
盛岡市街を出てしばらく、揺れるトラックの車中で山根は昨夜の件について小杉から諸々の報告を受ける。最も早く現場に着いた空防――航空防衛隊――が怪獣を発見できなかったと言う事は既に地面に潜ってしまった後か、そもそも怪獣とは別件と言うことになる。
「ですが、我々のヘリが偵察を行った所、震源地付近に一昨日のと類似した崩落箇所を発見。今回の地震の原因も巨大生物によるものと思われます。」
彼が陸上防衛隊だからか、小杉は我々の、の部分を強調しながら報告を終えた。山根は報告書にまとめられた崩落箇所の画像を見る。やはり、一昨日と同じように山が内部から突き破れたように崩れている。
「巨大生物の目撃証言はありますか?」
「まだ、その報告はありません。現地で警察が聞き込みをしているとのことなので、合流時に何かしらの情報が得られるかと思います。」
と言うやりとりをしていると、彼らの乗るトラックが山中へと進んでいく。
(そう言えば、この辺りには婆羅陀魏山神と言う神がいたか……)
ふと、山根が現地調査後に資料で調べた事を思い出す。果たして、この事案は婆羅陀魏山神によるものなのか。山根はこれから発生するであろう被害に不安を感じつつも、どのような怪獣が現れるのか期待をする自分を感じていた。
岩屋神社
「明日香。怪我の無いようにね。」
「はーい。お母さん行ってきます!」
昨夜の地震から一夜明けて、神社は平穏な朝を迎えていた。今日は婆羅陀魏山神ゆかりの地を取材する予定だったのだが、小百合らの好意で、神社の裏山にある本殿を撮らせてくれることになったのだ。明日香は旗中達から少し遅れて社務所を出てくる。
『うちの本殿は小さいんですけど、そのすぐ近くに大きな湖があって……子供の頃はよくそこで遊んでたんです。』
旗中は朝食での会話を思い出す。
『湖?この辺りにそんな大きな湖なんて……』
旗中がそう疑問を口にする。確か事前に調べた時はそれらしい場所無かったはずだ。その横では龍女がトーストの角にパクりと食いついている。旗中の疑問に小百合が答える。
『地図には載ってない場所なんです。飛行機からも見えないそうで……しかも、湖には常に霧が出ていて、私共もその全ては分からないのです。』
そう言うや、彼女は僅かに頭を下げてこう言った。
『ですので、皆様にはこの湖も調べて頂きたいのです。東京の門倉様にもこの旨はお伝えしております。』
それを聞いて旗中はうーんと唸る。
『門倉さんがOKなら問題は無いんですけど……それよりも私達に撮らせてしまって良いんですか?掟とか規則に引っかかったり……』
『ええ、本当は本殿に人を近づけてはいけないと言うしきたりがあります。』
旗中の言葉に対して、小百合はあっさりと肯定をする。
『でも、しきたりを守る以上にこの村を残すことが大切ですから。』
そう続けた小百合はいたずらっぽくわらうのだった……
「……それで、その湖はどの辺りにあるのですか?」
龍女の声で旗中は我に返る。彼女は地図(岩屋村謹製)を持って場所の確認をしていた。
「えーとですね……あっ、この地図だとちょうど見切れちゃってますね……」
地図を覗き込んだ明日香がそう言う。
「でも、大丈夫です!道は私がしっかり覚えてますから!では出発…」
明日香の言葉を龍女が手で制する。
「大勢の人達が来てる……感じがします。」
龍女は鳥居の外に視線を向けながらそう言う。旗中達が聞き耳を立てて見ると、かすかに複数らしき車のエンジン音らしきものが聞こえた。やがてエンジン音は段々と大きくなり、その姿を明らかにした。
1番前にいるのは旗中達が昨日乗ってきた魚崎のワゴン車、それに続くのは赤色灯を灯したパトカー、さらにその奥に見えるのは砲塔を持った装甲車が3両程……
明らかに観光客とは思えない車列が神社の前で停止した。その車列の先頭――ワゴン車から魚崎が出てくる。
「明日香ちゃんおはよう。今、小百合さんいる?」
魚崎の言葉を受けて、明日香は挨拶もそこそこに社務所の方へ戻ってしまった。
車列では「降車!」の声の元、装甲車の側面から迷彩柄の隊員達が続々と出てくる。
「魚崎さん、これは一体……」
物々しい雰囲気の中、旗中が魚崎に質問を投げかけた。
「ああ、
魚﨑はそう言った後、間もなく社務所から出てきた小百合の元へ向かい説明を始めた。つまり、地震と鳴き声の正体を防衛隊が探しに来たと言う事か。そう合点のいった旗中が隊員達の方を見ていると、気になる顔が見えた。
「すいません!そちらにいるのは山根先生ではありませんか?」
そう気づいた時には体は行動に移していた。
「はい、山根ですが……」
そう言って山根はこちらへ振り返る。
「始めてお目にかかります。モンスターQ.netの旗中と言います。先生の論文はいつも見させて頂いてます…!」
旗中が握手をしようと手を前に出し、山根がそれに答えようとした刹那、地面を震わせるような鳴き声が辺りに響いた。
「今のは…!?」
「もう現れたのか…!」
旗中と山根がほとんど同時に反応する。
「今の声は神社の奥の方ではないでしょうか?」
龍女が冷静に言う。
「婆羅陀魏様…!」
その言葉に1番大きく反応したのは明日香だった。瞬く間に駆け出すと神社の裏手へと消えていってしまった。
「明日香ちゃん…!くそっ!連れ戻してきます!西部さんはここで待ってて下さい。見つけたら連絡します…!」
「私もお供致します!」
明日香を止められなかった旗中と龍女が同じように裏手へ消えていった。
「小杉さん、人員を回してください。彼らをすぐに見つけないと大変なことになる…!」
山根は本部へと報告するよう指示を飛ばす小杉にそう伝える。
一つの鳴き声で、平穏だった神社は混乱に飲まれていった。
「明日香ちゃーん!何所どこですかー!」
「明日香さーん!」
村の裏手にある柵を越えてしばらく、旗中と龍女は段々と濃くなる霧に囲まれていた。もはや視界もほとんど無くなってきたが、それでも二人は明日香の名前を呼びながら奥へ奥へと進んでいく。
「!貴方様、止まってください。」
急に龍女が旗中を止めた。その鋭い雰囲気に彼は思わず足を止める。それと同時に霧がゆっくりと晴れていく……
「あれは……」
最初に霧の向こうから見えたのは光だった。ゆらゆらと動く三つの光。やがて、ズシンズシンと地響きのような音も聞こえてくる。霧が晴れていくにつれ、外見も明らかになってくる。赤茶けた体色、四つ足歩行、ゾウのような前後に動く耳、そして何より光る目と鼻先の角……
高さは20mから30mもあろう生物。否
「怪獣だ……!」
旗中がようやく声を絞り出し、龍女は何も言わずに正面を見据える。
その赤い怪獣は体に乗った土を振り払いながら、ゆっくりとこちらに向かってきた……