怪獣の方舟~The Earth of Monster~   作:わいえす!

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前置きと言いますか、この回の為に日本を分裂させたと言っても過言じゃないです(真顔)


第8話「赤い怪獣」

宮城県 仙台駐屯地

 

 

日本の南北分裂期、宮城県は数ある最前線の一つとして1個師団が配置されており、再統一後もこの仙台駐屯地には東北方面隊の司令部が置かれている。今、その仙台駐屯地は岩手県で発生している巨大生物に対する作戦司令部が設けられていた。

 

 

「……状況の報告を」

中央に鎮座する東北方面総監が促す。巨大生物が人の手によらないものである限り、防衛隊は災害派遣の一環として人員や装備を運用する事ができ、武器の使用も可能である。その責任を負うのが、今まさに東北方面総監である陸将の彼であった。ちなみに東北方面総監の陸将は世間における中将と同程度である。

「はっ。展開中の普通科小隊が岩屋村付近で巨大生物のものと思われる鳴き声を確認。巨大生物の目視での確認を行うために2個分隊を派遣して捜索に当たっております。特科部隊も3個中隊が展開し射撃準備を完了。機甲科も2個中隊が直ちに出動可能です。また、空防の攻撃機が爆装状態でスクランブル。およそ5分後には現場空域に到達します。また、民間人が付近にいる可能性があり。射撃及び対地攻撃の際は十分注意されたし、との事です。」

幕僚の一人が現状と使用可能な戦力について報告する。総監は分かったと答えると

「巨大生物の捕捉と民間人の保護を最優先。特科部隊は観測機を直ちに離陸させて目標を捕捉。機甲科部隊は北上川沿岸に展開し、巨大生物の進出に備えよ。」

総監の命令を受けて、幕僚達は各々の部隊に指示を出し始める。今回は空振りでないと良いが、と言う嫌な予感を総監は頭から振り払った。

 

 

 

同時刻

 

旗中達は、今まさに怪獣と“対峙”していた。お互いの距離は500m程、あの赤い怪獣にしてみれば旗中達は米粒にも見えない筈だ。しかし、彼(?)は明らかにこちらを認識して向かってきている。このまま、明日香を置いて逃げなければならないのか。旗中がそう思考した時、彼の右手が僅かに暖かくなるのを感じた。そちらへ目を向けると、龍女が彼の手を握っていた。大丈夫。一瞬、こちらへ向けた彼女の目がそう語る。旗中はふぅっと息を吐いた後、怪獣と再度向き合う。

赤い怪獣は大きく吠えた後、四つ足を使って真っ直ぐこちらへ突進してくる。その巨体の為に数百メートルの距離を数秒足らずで駆け抜ける。怪獣が彼らをすり潰そうとした瞬間、龍女は旗中を引き寄せて顔と左前足の間を抜ける。怪獣の牙が彼らの真横を通り過ぎていく。そして、その次の瞬間には左前足と左後ろ足の間から飛び出した。余りの勢いに二人とも吹き飛ばされるように地面を転がる。しかし、無茶な動きをしたお陰か、怪獣は彼らを見失い辺りを見回し始める。旗中達は痛む体を押さえつつ怪獣の様子を窺っていると、

「進二さん。龍女さん。」

後ろから小さく彼らを呼ぶ声がする。振り返ると、2メートル程の高さの祠とその物陰に隠れる明日香の姿があった。

「明日香ちゃん!どうしてこんな無茶を…!」

旗中が近づきながら小さく叱責すると、明日香はばつが悪そうに目を伏せる。

「ごめんなさい……でも、ご神体が気になってしまって……」

旗中はやれやれと息を吐くと、怪獣の方へ向き直す。

「怒るのは後にして、それよりもあの怪獣をどうするか考えましょう。」

龍女が旗中が考えていたことを言った後、旗中と向き合う。

「ここは、私が引き付けます。貴方様は明日香さんを連れて……」

「駄目だ。それは駄目だ。」

旗中はそう言うや龍女の両肩を掴む。彼の悲痛な表情を見て、彼女は息を吞む。

「えーと、それじゃあ私が……」

二人の雰囲気を察してか、明日香が恐る恐る手を上げた瞬間、赤い怪獣の頭部が爆発に包まれた。

 

 

数分前

 

「CP(指揮所)。こちら第1分隊。霧のため待機中。送れ。」

分隊長が神社にいる小杉に無線でそう報告する。旗中達が神社の奥へと入った後、山根も防衛隊の隊員達と共に奥へ入ったのだが、辺りが霧に包まれてしまい動きが取れなくなってしまったのだ。

「明日香ち……先に行った人達は無事でしょうか…」

ふと、横にいるこの村の村長と言う男が心配そうに言う。この魚﨑と言う男も、旗中達が奥へ行ったと知るや飛び出しそうになったのを引き留めて案内人となって貰ったのだ。

「とにかく、この霧が晴れるのを待ちましょう。私達まで遭難してしまったら、助けられる人も助けられなくなります。」

「神社の本殿は常に霧が立ちこめている所なんですが、この辺りは比較的霧が晴れやすい筈です。」

二人がそんなやりとりをする内に霧が段々と晴れてくる。周囲の警戒をする彼らだったが、正面に見えた光景に思わず息を吞んだ。

光る目と角、赤い体色、4足歩行の巨大な怪物が旗中達の正面にいた。これを見た防衛隊員の判断は早かった。

「“84”を左翼に展開!奴をこちらに引きつけつつ、民間人を保護する!」

分隊長は部隊に指示を出しつつ一人の隊員を呼んだ。

「葉山一曹!お前は右翼側から民間人を保護。その後は山根氏らと共に神社まで後退!良いな!」

即座に作戦を立てる彼らだったが、赤い怪獣の方がそれよりも早く動いた。怪獣は二人に向かって大きく吠えたかと思うと、すぐに突進。彼らを土煙と巨体が飲み込んだ。一瞬の出来事に呆然とする彼らだったが、葉山がすぐに気づく。

「…!分隊長!彼らは生きてます!三人目も確認!」

よく見ると、祠らしきものの物陰に隠れようとひているようだった。それを確認した彼らは再度準備に取りかかる。

「分隊長。あの巨大生物の頭部に攻撃を集中して下さい。目や口を狙われたら必ず注意がこちらへ向くはずです。」

山根が分隊長にそう伝えると、彼は分かったと言わんばかりに頷き、無反動砲手へ指示を飛ばす。

「それではお二人は安全な所に下がっていて下さい。……84!!対戦車りゅう弾!巨大生物の頭部!指名!」

「射撃準備よし!」

「射撃用意!撃てっ!」

「後方確認よし!撃てっ!」

分隊長と無反動砲手、両者の流れるようなやりとりの後、大きな土煙を上げて“カールグスタフ”無反動砲が放たれる。砲弾は怪獣の頭部に吸い込まれるように向かい、そして大きく爆炎を上げた。現代戦車を撃破できるかも怪しい84mmでは大きな巨体には傷も付かなかった。しかし、彼(?)を怒らせるには十分だったようで、すぐさま土煙の方へ顔を向けて威嚇するように鳴き声を上げた。この隙を見て葉山は三人の元へ駆け出す。一瞬の内にこの場は巨大生物と防衛隊員の戦場となった。

 

「防衛隊か…!」

爆炎に包まれた怪獣の頭部を見て、旗中はすぐに気づいた。それと同時に複数の銃声が鳴り響く。他の隊員も攻撃を始めたようだ。

「あんた達!こっちだ!」

こちらを呼ぶ声がする。見ると、迷彩服の男が一人、こちらを呼んでいた。

「こんな危険なところに突っ込んで何やってるんだ…!」

「すいません…」

防衛隊員に叱責される旗中達、先程とは真逆の光景に明日香は思わず笑ってしまいそうになる。

「とにかく、これからすぐに神社へ戻って貰うから、私に付いてきてください。」

防衛隊員は咳払いをした後、そう言って彼らを連れて行こうとする。

「あの怪獣はどうするんです?」

「ひとまずはここで足止めして、後は特科か機甲科がなんとか……」

旗中の質問に防衛隊員が答える途中、怪獣が威嚇するように耳を開いた後、その口から赤ともオレンジとも言えない色の熱線が放たれた。その直撃を受けた山の木々は爆発と共に燃え始める。

「マジかよ…」

葉山、とワッペンのついた防衛隊員は呆然と呟いた。

 

 

 

その光景は観測機として飛ばした無人機、そしてそれを通して仙台駐屯地の司令部も目撃していた。

「あれが怪獣か…」

誰かの呟きが流れる。総監は僅かに目を閉じた後、周囲を見ながらこう言った。

「以後、あの赤い巨大生物を敵対的巨大生物に指定。持てる全火力を持ってこれを駆除する。」

了解、司令部内にいる幕僚達の声が木霊した。

 

 

 

一方、岩屋神社では防衛隊員が追い詰められつつあった。最初こそ山という巨体の動きにくい地形と、自らの小ささを生かしたゲリラ的な戦いをする事が出来たが、カールグスタフの弾切れと怪獣からの熱線により形勢が逆転。人的被害こそなかったが、小銃弾が弾切れするか全滅するかの瀬戸際まで行っていた。そんな彼らに朗報が届く。

「葉山一曹が民間人を保護!神社へ向かってきます!」

葉山の動きを見ていた隊員がそう叫ぶ。これを聞いた全員が内心でガッツポーズをした。さらなる命令を飛ばそうとした分隊長は、怪獣がこちらを向いていることに気づいた。まさに絶体絶命。熱線が飛んでくる、そう思った分隊長が散開を指示しようした瞬間、爆音と共に二つの影が頭上を超えていった。

 

エアインテークとレーダーが一体化した機首。主翼の中ほどから可動する可変翼。今やすっかり時代遅れの単発ターボジェットエンジン。ソ連が50年以上前に開発し、北日本が残した“遺産”の一つ、“Su-22M7 フィッター”が自らの存在を示すように飛んでいく。怪獣も飛行機を始めて見たのか、威嚇をするように大きく吠える。地上の防衛隊員達はこの隙を逃さなかった。

「神社方面へ退避!」

分隊長の号令の元、隊員達は瞬く間に安全圏へと後退していった。

 

現場空域に到達したフィッターは、彼らの真上を通過した後に主翼を前進させながら速度を落とし、戦場の外側を旋回する。やがて、地上の1点から赤い煙が上がる。地上部隊が自らの位置を示すために発煙筒だ。2機編隊のフィッターは煙を確認するや1機ずつに分離、地上部隊を射線に入れないよう、怪獣に接近する。煙に注意を剃らされていた怪獣がフィッターの接近に気づくのと、フィッターの主翼付け根にある30mm機関砲が火を噴くのは同時だった。地上部隊の小銃弾よりも威力が高く、無反動砲よりも多くの弾が怪獣の頭部に叩き込まれる。

 

さしもの怪獣も流石に一瞬怯んだが、それでも飛び去った機体に威嚇するように大きく吼えかかる。その間隙を埋めるようにもう1機が射撃をするが、今度は怯むどころか捕まえようと前足を伸ばして飛び上がる。機関砲の射撃は危険と判断した2機はさらに距離を取ってミサイルの発射態勢に入る。機体下部に搭載された照準ポッドからの情報を元に主翼下に装備する“AGM-65F マーベリック”を二発ずつ放った。本来艦船も撃破出来るミサイルだが、怪獣はバランスを崩して倒れ込む、それだけだった。

 

仰向けになっても熱線まで放って撃ち落とそうとする怪獣だったが、さらに別方向から5つ、砲弾がその腹部周辺に着弾する。山の向こう、そのさらに10数㎞の地点にある演習場から放たれた203mmカノン砲――ソ連製の2S7M自走砲、これも北日本の遺産である――からの射撃であった。着弾観測を行う無人機からの情報を元に、残りの2中隊、合計15門が斉射を始める。絶え間なく撃ち込まれる砲弾の雨に怪獣は戦意を喪失したのか、熱線を地面に放ち、そのまま潜っていった。

 

 

 

「すごい……」

この光景を旗中達は驚きとも恐れとも言えない表情で見つめていた。ちなみに、ある意味この元凶とも言える明日香は小百合に抱き留められ気まずそうにしている。

「それにしてもあのトカゲみたいなサイみたいなあいつは一体何だったんだ…」

カメラを片手に西部がそう呟く。急な事態でも仕事は忘れていなかったらしい。

「バラナス・ドラゴン。太古の生物にあんな見た目のがいたはずです。」

ひとまずバラゴンとでも呼びましょう、と旗中が答えるとふっと息をつく。

「婆羅陀魏山神の正体はバラゴンだったとは……」

「違います。」

旗中の言葉を明日香が強く否定する。えっと振り返った二人を見て、彼女はさらに繰り返した。

「あれは婆羅陀魏様じゃありません。」

彼らを強い風が包む。やはり、夏の時期にはそぐわない冷たい風であった……

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