怪獣の方舟~The Earth of Monster~   作:わいえす!

13 / 33
ペースを早めると言う確約(?)は有限実行出来たと言う事で…
子供の頃に思った、怪獣の手に乗ったり触ったりして間近で触れあってみたいよねって回です。


10話「婆羅陀魏山神」

「婆羅蛇魏山神を呼ぶ!?」

小杉が思わず叫ぶ。明日香の話を防衛隊に伝えた山根と旗中達であったが、その内容を聞いた彼らは動揺を隠せない。

「ただでさえバラゴン一体でも駆除出来る可能性が低いのに、さらに巨大生物を一体追加するというのは賛成しかねます。」

小杉がその心情を代弁する。怪獣はかつてスチームローラーと恐れられたソ連軍作戦機動グループと同等かそれ以上と言われる存在である。それが2つに増える事は、彼らにとって悪夢以上の何物でもない。

「ですが、明日香ちゃん達の話を聞く限り婆羅陀魏山神……バラノポーターは長い年月を経て人間との共生を可能にしています。もし、バラノポーターがバラゴンと戦ってくれるなら、これほど強い味方はいないと思います。」

旗中がそう答える。しかし、味方になる可能性よりも敵対する可能性が大きいと考えてるのか、小杉の反応は芳しくない。

「いずれにせよ、別の怪獣がいるという情報は重要です。調査の為に人員を派遣するべきです。」

山根が助け船を出す。旗中は彼という人間がここにいてくれた事に感謝した。

「……分かりました。バラノポーターの件はひとまず上に報告して、調査の護衛として動ける分隊を1つか2つ派遣します。」

山根の言葉を受けて小杉は溜息を吐きながらそう折れたのだった。

 

 

 

「……それで、俺達の隊が行くことになったと」

1時間後、神社裏の山道を歩く中、経緯を聞いた葉山が呟く。バラノポーター調査隊(仮)のメンバーは婆羅陀魏山神をよく知る瀬良親子と魚崎、怪獣の専門家である山根、そして記録係として旗中、西部、龍女の計7人と、それを護衛する防衛隊が分隊が3つの1個小隊となった。そして、怪獣に接近する任務上、先にバラゴンと戦い、旗中達を助けたと言う実績を買われて葉山のいる部隊が選ばれた…となっているが、実際は巫女の護衛と聞いた瞬間に手を上げる部隊が続出、このままだと収拾が付かなくなるので、面識のある部隊として葉山のいた所となったと言う経緯だ。

「何で俺がこんな子守みたいな……」

そう呟く葉山一曹だが、会議の場で彼の分隊長が「葉山はあの巫女さんに惚れてる!」と豪語していた事を知ってるのだろうか…指揮所の外でやりとりを聞いていた旗中と龍女は溢れそうになる笑いをこらえるのに必死になるのであった。 

「それにしても葉山さん。あの装甲車は本当に使うんですか?」

旗中は思い出し笑いの予防も兼ねて気になった話題を振ってみる。この調査隊の最後尾は彼らが最初に乗ってきた装甲車となっている。BTR-80(B)と呼ばれる8輪のその装甲車は、バラノポーターが襲ってきた時に旗中や明日香達を逃がす為のものだ。

「そりゃあんたらにここで死んでもらっちゃ色々とマズいしな。」

今年で25歳と比較的近い年齢だからか、葉山はそうフラットに答える。しかし、その直後に表情をキリッと変える。

「だから、簡単に死ぬなよ。」

そう話す葉山の目は真剣そのものであった。

 

 

「ここです。着きました。」

神社を出て20分か30分。長い山道を抜けるとそこには視界には収まらない程の湖が広がっていた。

「こんな所に、これほど広い湖が広がってるなんて……」

隣の葉山がそう呟く。そう言うのも無理は無い。この湖その広さにも関わらず、地図にも載らず、今まで飛行機や衛星にも発見されずに記録されることが無かった湖なのだ。旗中達3人もその広さと理解不能な事実に二の句を継ぐことが出来なかった。

「それでは、婆羅陀魏様をお呼びします……!」

巫女姿の明日香がそう叫ぶ。それを受けて各々が準備を始める。旗中や西部は明日香達の後ろでカメラを構えつつ、防衛隊員達は襲われても良いように火器の準備を行いつつ、BTRを神社の方向に転回させた。

 

「明日香、私がやっても良いのよ?」

小百合は明日香と視線を合わせるとそう言った。しかし、明日香はゆっくりと首を左右に振って答える。

「大丈夫。私も婆羅陀魏様の巫女なんだから。いつも通り、ちゃんとこなして見せるから。ね?」

「……分かったわ。」

僅かな沈黙の後、小百合は絞り出すように答える。そのやりとりを見る魚﨑の表情が心苦しく見えるのは気のせいだろうか。旗中の心の中に一瞬、そんな懸念がよぎったが、それをすぐに捨ててカメラの向こうに意識を切り替える。明日香の姿は紅白の巫女姿に加え、頭に前天冠と呼ばれる金でできた冠をかぶり、手にはヒカサキと言う木の枝を使った玉串を持っている。先程までの明るい彼女の雰囲気は消え、真剣で、かつどこかへ消えてしまいそうな雰囲気が醸し出されていた。旗中はその姿から湖へとカメラをパン(移動)させる。レンズに映るのは果てしなく広い湖。その姿は波も無く、とても静かでこの下には“婆羅陀魏様”が眠っているとは到底思えない。その思いを察してか、隣にいた龍女がふと呟く。

「居ますよ。この湖には。」

旗中はそれに答えなかった。答えられなかった。今のカメラマンとしての立場以上に、その問いの先を聞きたくなかったからだ。

 

 

「それでは、いきます。」

明日香が顔を両手で叩くと、周囲の人間全員に響くように大声で宣言する。そして、彼女はゆっくりと湖へと入っていく。そして腰ほどまで湖に浸かると手に持った玉串を湖につけ、祝詞の一種なのか、何かを呟きながら、玉串をゆっくりと左右に振る。一回、二回と大きく振るう姿はどこかシュールなものであったが、彼女の真剣な雰囲気に周囲が吞まれたのか、笑う者は誰一人としていなかった。しばらくその動作を続けていると、明日香を中心に波紋が広がる。最初は一瞬だけ見えただけであったが、次第に玉串を振る動作に合わせて波紋が連続して起こる。そしてそれに応えるように波紋がこちら側へ返ってくる。その直後。

 

 

「あっ…!あれは…!?」

“ソレ”に反応したのは西部であった。湖の真ん中から白く巨大な泡が大量に吹き出す。そして、その中ゆっくりと茶色い巨体が姿を現す。

「アレがバラノポーター…!」

旗中の口から思わず言葉が飛び出る。背後の防衛隊員達が一気に殺気立つ。指揮官が「打ち方待て!」と叫ぶ声が聞こえるが、バラノポーターが少しでも敵対的な行動を取ればすぐさま攻撃を行うだろう。その人間達の意志を知ってか知らずか、バラノポーターはゆっくりとこちらへ向かい、明日香の手前――と言っても10m程は離れているが――で足を止めて、ゆっくりと彼女に顔を近づける。

「婆羅陀魏様……」

明日香はそれを恐れるどころか、むしろ友人と久々に会ったかのような雰囲気で迎え入れる。明日香はバラノポーターの鼻先を包み込むように抱きしめた。バラノポーターはそれを理解するようにゆっくりと目を閉じた後、こちらをじいっと見つめた。明日香以外の人間が一瞬凍り付く。動揺した防衛隊員が発砲しなかったのが奇跡と言うべきか、お互いがお互いを見つめる沈黙が続く。

「あっ婆羅陀魏様…!後ろの人達は悪いことをしに来た訳じゃありません!婆羅陀魏様をぜひ見たいと言う事でお連れしました…!」

目的を思い出したのか、顔を上げた明日香が普段の調子でバラノポーターに伝える。彼(?)はそれを理解したのか一瞬、明日香を見た後に再度こちらを見つめ直す。先程までの値踏みするような雰囲気は消え、どこか穏やかにこちらを見渡した後、目的は果たしたと言わんばかりに湖へと帰っていく。

「いやー……寿命が縮んだよ。進二君」

「本当ですよ西部さん……」

西部と旗中が溜息交じりに会話した瞬間、また地面が揺れ始める。

「クソッやっぱりダメだったか…!」

「違います!これは…!」

葉山の言葉を龍女が否定する。それを表すかのように、バラノポーターも怪訝そうに辺り見渡す。揺れはさらに大きくなると同時に、反対側の斜面が崩れていく。

「バラゴン…!」

防衛隊員の誰かがそう叫ぶ。それに答えるかのように、背中に乗った土を振り払いながら、怪獣バラゴンは耳を真横に立てて、大きくバラノポーターへ威嚇をした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。