怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
書き進めてはいたんですが、リアルでワタワタしてたのと、書いてる途中で「アレ?どこまで書こう?」とか「これでいいんだろうか…?」とか色々考え始めてしまって…(言い訳タイム)
と言う事で15話です。
時は遡って岩屋村の外
「すごい……」
バランの足もとにいる明日香は思わずそう呟いた。バラゴンと戦車中隊の戦いの様子は音や匂いとして山の向こうにいる彼女にも伝わってきた。そしてそれは地響きと衝撃音の後に沈黙へと変わる。その直後、規則的な振動と共に周囲の防衛隊員が慌ただしくなる。
「明日香ちゃん!君は神社へ避難しろ!ここはもう戦場になる!」
そう言って葉山が彼女を向き合わせる。葉山の瞳に映る明日香がせんじょう、と口を動かす。
「……!婆羅陀魏様は!?」
ハッと気づいた明日香は、葉山にそう問いかける。彼は僅かにバランに視線を向けた後、
「…バランならきっと大丈夫だ。今は君だけでも……」
その瞬間、無数の爆発音が辺りに響く。思わず首を竦めた2人は音の方を向き、声を失った。
山陰からバラゴンの姿がのっそりと姿を表し、その体に爆炎が光るのが見えた。やがて地面からもいくつもの細い光がバラゴンを襲う。しかし、それは先ほどまで聞こえていたそれとは弱々しく見えた。
「婆羅陀魏様!お逃げください…!」
間に合わない。そう悟った明日香は悲痛な声を上げる。すると、バランはゆっくりと彼女の方を向いた。彼女を見るバランの瞳はとても優しく穏やかに見えた。
「婆羅陀魏様……」
何かを察したのか、明日香は思わず声を漏らす。その声を受けて、バランはゆっくりと立ち上がり一歩一歩歩き出す。そして、バランの周りに風が吹き始める。それは歩を進める毎に強くなり周囲の音をかき消していく。近くで何事か無線に叫ぶ隊員も、はるか遠くで熱線を吐いたらしいバラゴンも、その全ての音が壁に遮られたかのように風に遮断される。やがてバランは足を止めると僅かに体勢を低くする。その体が白く輝いた瞬間、一際大きな風が彼女らを襲う。明日香は、一瞬片手で顔を覆った後にその指の隙間からバランを見ようとした瞬間、目の前の光景に息を吞んだ。
(空を走っている……!?)
空を走る、そんな表現が見られることは無いが、強風に曝される地面に触れることなく、何も無いはずの空間をまるで地面化のように走る姿を見て、彼女はそう形容するしか無かったのだ。
バランはその光り輝く姿で駆け抜け、今まさに熱線を放とうとするバラゴンにタックルを仕掛ける。そんな攻撃を受けるとは微塵にも思っていなかったらしいバラゴンは、その攻撃をもろに受けてはるか彼方へ吹き飛ばされた。
「これが、婆羅陀魏様の御力……」
天高く吠えるバランの姿を見て明日香がそう呟く。その時、明日香は背後から自分を呼ぶ声に気付く。
「明日香!明日香!ごめんなさい!ダメなお母さんでごめんなさい…!」
明日香の母親の小百合が彼女に飛びつくなり、今にも泣きそうな勢いで謝罪を繰り返す。倒れそうになりながらも、なんとか小百合を受け止めた明日香はその様子に思わず狼狽したが、周囲も同様に困惑した表情で見つめていることに気付き、僅かに気まずそうに笑う。
「えっと……神社の方に避難しておきますね……」
そう言って明日香は、勝手に飛び出したのは謝るから、と言いながら噎び泣く小百合を連れて神社へ歩き出す。その道すがら、バランのいる方を見て
(婆羅陀魏様、どうかご無事で……)
彼女は今も戦っているであろうバランにそう祈るのであった。
一方、バランとバラゴンの戦いは先ほどの戦い以上に熾烈さを極めていた。バラゴンは、元来の敵対心と奇襲されたことによる怒りが組み合わさり、今まで以上に激しく突進を仕掛ける。
しかし、バランは強風を使って突進の速度を緩めて突進を受け止めるとそのまま掴んだ頭を振り回し、ハンマー投げのように大きく投げ飛ばした。
バラゴンはそのまま受け身を撮る事も出来ずに地面へ叩き付けられる。
バランはとどめを刺そうと、その喉元へ飛びつこうとする。だが、バラゴンもそのままやられようとはせず、向かってくるバランの足元、その地面を大きく陥没させる。
バランはその攻撃を予想できなかったのか、まさしく落とし穴に吸い込まれるように地の底へ叩き付けられる。それを見たバラゴンは起き上がるやいなや、さらに首だけが顔だけが何とか見えるバランへ追撃を仕掛ける。バランも攻撃を断念して大きく跳躍するや、両腕から膜を拡げると自身で発生させた風に乗せてモモンガのように大きく後退をする。
バランとバラゴンの戦いはより激しくなりつつも、さらなる拮抗を生むのであった……
岩屋村役場 戦闘指揮所
「残存する戦車及びBTRは国道より後退、予備の1個中隊と合流し戦力の再編中。普通科連隊も再編中ですが、予備兵力も投入した為、再編完了には時間がかかると思われます。特科と対戦車小隊は弾薬の補給は完了し再攻撃が可能。また、空防の攻撃機もこちらに到着、すぐにでも攻撃が出来ます。」
バラゴンの襲撃と言う最悪の事態を免れた指揮所では、指揮官である連隊長が部隊の状態に関しての報告を受けていた。その報告を彼は静かに話を聞き、そしてゆっくりと口を開いた。
「バラゴンの状況は?」
「現在もバランと交戦中、大きな動きは確認できません。」
連隊長はそれを聞いて分かったと答えると
「特科及び対戦車各隊は、可能な限りバランを援護。バラゴンの動きを封じ込め次第、空爆でこれを撃破する。」
本来、バラゴンの動きを封じる役割は戦車部隊の役割であったが、これが再編中の今はバランにもう一働きしてもらうほかない。その思いを胸に秘めて連隊長は命令を行うのであった……
岩屋神社
「すっかり見えなくなっちゃいましたね……」
龍女がそう呟く。バランがバラゴンを瞬く間に吹き飛ばした後、戦いの様子は山陰に隠れてしまい、音と衝撃だけがこちらに響いていた。普通であればそれだけでも恐ろしい筈であるが、一日に何度も怪獣を見た彼女にとってはむしろ物足りないと言った様子であった。
「とは言っても、僕達はこの先の道を知らないからねぇ…」
遭難するわけにはいかないし、と西部がチョコの箱を取り出してパクパクと食べ始める。おおよそバラゴンに近づきたくないと言った様子の彼から目を離した旗中は周囲に目をやる。今や避難所となった神社は多くの村人達で溢れかえり、口々に不安や今後について話しているのを散見する。魚崎も村長として避難状況を確認したり、村人達の相談を聞いて回っているようだった。
「何もしないってのもアレですし、俺達も村長さんを手伝いますか?」
旗中の言葉を聞いて、龍女が愉快そうに笑う。
「私達にも出来ること、あるじゃないですか♪」
そう言って、旗中の右手にあるのもを指差す。
「……カメラ?」
これで撮影をしろと言う事だろうか。しかし、道がわからなければどうしようもない。そう旗中の口が開く前に龍女は笑みを浮かべたまま、彼の背後を指差す。
「ちょうど道案内できそうな人も来ましたし♪」
見ると、バラゴンの襲撃前に村役場へ向かった瀬良親子の姿が戻ってくるのが見えた。小百合はひどく疲れた様子で、彼女らを出迎えた魚崎に肩を担がれてしまっていた。明日香達も旗中達の視線に気づいたのか、こちらの方へ向かってくる。
「明日香さん♪婆羅陀魏様の応援に行きませんか♪」
龍女は明日香に単刀直入に言う。
「えぇっと……」
明日香はそう言って、小百合の方を僅かに窺いながら戸惑った様子を見せる。
「良いのよ、明日香。私はもう大丈夫。あなたが…あなたもやりたいことをやりなさい。」
その視線に気付いたのか、小百合は先ほどまでの疲れた表情から一変。僅かに微笑みながら彼女に話しかけた。それを見た明日香は僅かな沈黙の後に生来の笑顔を浮かべて
「……うん!分かった!私、婆羅陀魏様の所に行ってくる!」
「ええ。いってらっしゃい。」
「お母さん、行ってきます!」
2人が笑顔と挨拶を交えた後、明日香は今も戦いが行われている方へ駆けていく。小百合はその背中を見守った後、真剣なまなざしで龍女達へわずかに頭を下げる。彼女達もそれに答えるように頷くと、明日香の後を追って走り出した。
「……若いなぁ。」
走り去っていく彼女らを見て、ふと魚崎が呟く。それを聞いた小百合は彼の方を振り返って口を開く。
「健三君も、まだ若いでしょ?」
そう言う小百合の瞳がいたずらっぽく輝く。それを見た魚﨑はふと郷愁の念に駆られる。
「……そうだね。」
僅かな沈黙を置いて、魚﨑は言葉を絞り出してその思いを打ち消す。魚﨑は村長として、小百合は神職として、この事態を乗り越えないと行けない。
「俺達も出来ることをしようか。」
「ええ。2人で。」
2人はそう笑顔で言葉を交えると村人達の方へ進んでいく。その直後に山の向こうから衝撃音と震動が彼らを襲う。しかし、2人はそれをものともせずに目の前の仕事に取りかかるのであった……
月明かりに照らされる山間部で、2体の怪獣が激しくぶつかり合う。バラゴンはそのままバランを押し倒そうとするが、バランは微動だにしないどころかその腕とも言うべき前足をバラゴンの首へ回す。投げ飛ばす気かそのまま首をへし折る気か、バラゴンは危険を察して逃れようともがき、バランの足を崩そうと熱線を放つ。
バランは僅かに足を動かしてそれを避けるが、バラゴンを離そうとはしない。バラゴンは業を煮やしたのか、畳んでいた両耳を開くと大きく咆哮する。再び大穴を開けられる。バランはそう考えたのか、バラゴンから両腕を離して空へ逃れようとする。しかし、異変が起こったのは地面ではなく彼らの両脇にそびえる山々であった。
突如、天が割れるかのような爆音と衝撃が周囲を包み、それと同時にバランやバラゴンよりもはるかに高い山々が瞬く間に崩れ、その大量の土砂が大波波となって2体を襲う。バランは身を守るように両腕と膜を拡げるが、土砂はそれを上から呑み込んだ。
「バランとバラゴンが…消えた…?」
その光景は神社から走ってきた旗中達もはっきりと確認することが出来た。辺りに土煙と不気味な沈黙が漂う中、旗中が呆然と呟く。
「も、もしかして、今ので2体とも……」
付近を見渡したながら西部が口を開く。それを聞いた旗中は内心でそれはないだろうと思った。バラゴンは地面を操る力を持つ可能性がある。今目の前で山が崩れたのもそれによるものなら……
そこまで思考を進めた時、再び大きな揺れが彼らを襲う。それは今まで以上に大きく、彼らは思わず立て膝や尻餅をつく。その揺れはより強くなり……
その時、彼らの頭上で爆発音が鳴り響く。彼らが上を見上げると、今自分達のいる山がまるで火山の噴火のように爆発していた。
「何がどうなってるのぉ!?」
その光景に西部が悲鳴を上げる。それと同時に爆発で吹き飛んだ石がこちらへ降ってくるのが見えた。
「こっちです!」
マズいと思った瞬間、明日香が旗中達3人を近くにあった小屋へ連れて行く。何かの倉庫だったらしい小屋はボロボロではあったが、降り注ぐ石で破壊されることはなかった。石が当たる音がなくなるのを見計らって、旗中達が外へ出ると、未だに土煙が立ちこめる中で3つの光と巨影が蠢く。バラゴン。そう認識した直後、土煙から現れたバラゴンの元へ上から何かが降ってきたかと思うと、その次の瞬間には爆発音と共にバラゴンの背中から大きな爆炎と血のような液体が夜空に広がるのであった……
一応、次回がこの辺りのお話の最終回になるかと思います(唐突)