怪獣の方舟~The Earth of Monster~   作:わいえす!

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大変ご無沙汰しております。
一ヶ月も経ってしまいました。思えばゴジラSPも最終回を終えてゴジラVSコングも公開……色々と感想を言えべきなんでしょうが、もう色々と旬を過ぎてしまった感があります。
でも、やっぱりゴジラは良いですねぇ……


第16話「風の声」

岩屋村 上空

 

 

 

無数に輝く星空の下、高度4万フィート(約12000メートル)の上空を、2機の飛行機が編隊を組んで飛行する。レーダーとエアインテーク(空気取り入れ口)の一体化した機首、主翼の中ほどからが可動する可変翼、今や骨董品同然な単発のターボジェットエンジン……

 

Su-22M7 “フィッター”

かつて北日本軍の主力攻撃機であったそれのコックピットは、かつて無数の計器の置かれていた計器板は3つのMFD(多機能ディスプレイ)とごく僅かな計器に、上面に付いていた照準器は機体の飛行状態を示すHUD(ヘッドアップディスプレイ)へと姿を変え、古めかしいその機体の外観とは似つかわない程に近代化を遂げていた。

 

そして、そのコックピットでは、パイロットがMFDを1つを注視する。そこには爆発と共に山の山頂から現れるバラゴンの姿が映されていた。緑と黒を基調とした画面の中で動くバラゴンが2つの爆発に覆われる。

2機のフィッターから投下された爆弾――レーザーとGPSで誘導されるLJDAM――が直撃したのだ。1機辺り2発投下されたそれは、まずMPR500貫通爆弾が硬い表皮を貫通、続いてMk82 500ポンド爆弾がその穴へ突入し、合計で4発の爆弾がバラゴンの体内で炸裂する。自らの防御を突破した攻撃への驚きか、それとも内部で爆発したことによる痛みの為か、バラゴンははるか上空にいるフィッターのパイロットにも聞こえそうな程、大きく口を開いて悲鳴を上げるように吠える。しかし、バラゴンはその動きを止めることはなく、なおも山頂から出ようとする。

 

<Yellow1. This is JTAC. Target survived. Request reatack.(イエロー1。こちらはJTAC。目標はなおも生存。再攻撃を要請する。>

 

その直後、コックピットに地上で爆撃を誘導するJTAC(統合攻撃末端統制官)から無線が入る。“イエロー1”のコールサインで呼ばれたパイロットは予想通りと内心で呟くと

 

「Rather. Yellow1 reatack.(了解。イエロー1、再攻撃を行う。)」

 

そう答えて機体を左に旋回させる。ふと、彼が眼下を眺めるとバラゴンが新たな爆炎に包まれているのが目に入った。どうやら特科が砲撃を始めたらしい。これで倒れてくれれば良いが…そう彼が思った瞬間、目の前がオレンジめいた光に覆われる。バラゴンの熱線が掠めた、そう気付いたのは口を半ばほど開いたバラゴンと目が合ったからだった。咄嗟に僚機の無事を確かめると、彼にライトブレイク、ナウと指示すると共に機体を右へ急旋回させる。コックピット内が右に傾くと同時に、激しい振動と左へ押し付けようとする猛烈なG(重力)が彼に襲いかかる。その衝撃に耐える彼の真左がオレンジ色に光る。再びバラゴンの熱線が機体の左側面を掠めたのだ。まだ狙われている。そう思った瞬間、彼は今度は左へ機体を傾けると、スロットルを目一杯まで押し込んでさらに加速をしようとする。高度は既に3万フィートを下回り、すぐに機首を上げなければ地面と激突する事になる。しかし、彼はそれ以上に一刻も早くバラゴンの死角に入らなければ撃ち落とされると言う、生存本能から来る恐怖ともパイロットとしての意地とも取れる思考が彼を支配していた。コックピットの高度計が2万フィートを下回ろうとした時、機体が今までにないほどの衝撃に襲われる。計器もまともに読めない振動の中、異常を示す警告灯が一斉に光った事だけがまともに認識できた。撃墜された、その瞬間に彼はそれを理解した。彼は無我夢中で操縦桿と座席の間にある射出座席のレバーを引いた。座席は彼をシートベルトで固定すると、勢い良くキャノピーを突き破って機外へと飛び出す。一瞬、沈黙と暗闇が彼を包むが、次第に上空の星空と水平線上に見える山々と街の光がおぼろげながらに見えてくる。足下を見ると火の玉となって落ちていくフィッターと勝ち誇ったように大きく吠えるバラゴンの姿が見えた。どうやら僚機まで落とす気は無いらしい。今や星の一つにしか見えなくなった僚機を見ながら、安堵と自機を落とされた悔しさを忘れる為に深く溜息をつく。すると、眼下がパッと明るくなる。見下ろすと、フィッターが地面に激突したのか大きく爆発の炎が拡がっていた。バランが山々に押し潰された辺りに落ちたらしく。茶色い地面が明るく照らされる。その光景を眺めながら、彼は僅かな違和感に気付く。今、地面が動かなかっただろうか……

 

 

空中での様相は地上にいる旗中達からも見えていた。バラゴンは防衛隊の攻撃が直撃した後、その怒りをぶつけるように熱線を放つ。先程までとは比べものにならない程に強烈な熱線が天に向かって放たれる。

熱線は爆撃の下手人であるフィッターに何発も襲いかかり、ついに1機がそれに被弾する。機体は火の玉へと姿を変え、ゆっくりと地面へ落ちていく。時間にして30秒とない、あっという間の出来事であった。

 

「バラゴンの奴、やりたい放題しやがって……」

腹を決めたのか、戦いの様子をカメラでも撮る西部が呟く。バラゴンは、先程から断続的に続く砲撃をものともせずに、山頂からゆっくりと降りようとする。このままでは岩屋村や都市部に来るのは時間の問題だろう。旗中がそう考えていると、龍女が口を開く。

「それなら私が参りましょう♪」

自信満々と言った笑みを浮かべる彼女の姿を見て、旗中は背中を冷や汗が流れるのを感じた。

「ダメだ。()()はダメだ。」

気付いたときには、旗中はそう言うや龍女の手を掴んだ。彼女は僅かに驚いたように息を吞むが、すぐさまその表情を消すとじいっと彼を見つめる。夜闇を吸い込んだように黒く、光彩の見えない彼女の目は、旗中に自身を糾弾するかのように見えた。二人は続く言葉を言わず言えず、沈黙が覆う。

「いえ、大丈夫です。」

その沈黙を明日香の言葉が断ち切る。えっと二人が振り返る一方で、明日香はバランが生き埋めにされた場所を見ながら続ける。

「婆羅陀魏様ならきっと……」

 

 

明日香はゆっくりと目を閉じると、両手を胸元に当てる。

「掛けまくも(かしこ)き婆羅陀魏山神 

諸々の禍事(まがつこと)(つみ)(けがれ)

()らむをば

(はら)(たま)

清め給へど(もう)さむ事を

聞こし()せど

畏み畏み白す」

明日香は朗々と祝詞を唱える。すると、それに応えるかのように風が彼女の頬を撫でる。明日香は僅かに微笑むと、すぐに唇をきっと結び

(婆羅陀魏様……お母さんや魚崎さん、村の人達に龍女さん達……皆をお救い下さい。)

その思いが届いたのか、風はより強くそして向きを変えると、バランの埋もれた場所へと吹き始める。やがて地面が揺れと共に勢い良く盛り上がると、そこからバランが現れた。バランは身体に乗った土を振り払うと、バラゴンへ威嚇するように大きく吠える。

 

「旦那様!逃げますよ!」

不意に後ろから声が聞こえた瞬間、明日香の体が宙に浮く。何事かと見上げると大写しになった龍女の顔と、今にも熱線を放ちそうなバラゴンの姿があった。熱線の巻き添えにならないように逃げるという事だろうか。龍女にお姫様抱っこをされているらしい明日香がぼんやりと考えた。

「あなたのせいですよ。」

龍女が正面を見ながら口を開く。え、と明日香が不思議そうに見つめると、彼女は僅かに苦笑して言葉を続けた。

「あなたのせいで色々と台無しにされました♪」

そう話す龍女の言葉とは裏腹に、彼女の声色と表情は安堵しているように見えた。

 

 

明日香達が離れるのとバラゴンの熱線が放たれるのは殆ど同時であった。熱線はその余波で周囲の木々を焼きながらバランへと直進する。バランは両腕をあおぐように前に向けると、今まで自身に集まっていた風がバランの前へ向く。熱線はそうして出来た強風によって防がれた結果、火の粉のように飛散してバランの周囲を焼くだけに終わった。

その火の海の中からバランはゆっくりと姿を現すと一つ吠える。すると、再び風がバランの元へ集まり始め、かつて体当たりを仕掛けたときのようにその巨躯が光り輝き始める。バラゴンは2度目の体当たりを警戒したのか、すぐさま熱線を放つ。先程のように強風の直撃を受けなかった為に熱線が打ち消されることはなかったが、気流の乱れかバランには命中はせずその真横を爆発と共に火の海へと変える。バランは僅かによろめいたご、それに反応することなく、自らの輝きをよりいっそう強める。バラゴンは焦りを覚えたのが、続けざまに熱線を放とうとする。

その口から火が迸った瞬間、全くの別方向から3つばかりの飛翔体がバラゴンの鼻口部を襲う。射撃準備の完了した防衛隊の中距離多目的誘導弾のミサイル攻撃が直撃したのだ。“中多”とも略されるそれは、一矢報いるようにさらにミサイルを3発放つ。ミサイルを受けたバラゴンは怒りと共に顔を中多の方へ向ける。だがその一瞬が命取りとなった。

その瞬間、バランは全身の光を右手に集めると、空を切り裂くようにその右手を前へ薙いだ。その光はまるでギロチンのように横へ薄く姿を変えてバラゴンへ向かう。それに気付いたバラゴンは咄嗟に跳んで避けようとしたのか前脚を大きく上げる。しかし、光の刃はそれよりも早くバラゴンの腹と言うべき部分に直撃し、背中を突き抜けると空の彼方へ消えていった。その攻撃はバラゴンを切断したかに見えたがバラゴンの体重の為かそれとも光の刃の切れ味が良すぎたのか、2つに別れることなく山の反対側へと倒れ込むように姿を消し、その直後に爆発音だけが響き、バランは勝利を宣言するかのように天高く吠えるのであった。

 

 

「勝ちましたね……」

その光景を見て、龍女はそう呟く。その声色はしみじみとしていて、喜んでいるようにも残念がっているようにも聞こえた。

 

「ああ、バランが…婆羅陀魏山神が勝ったんだ。」

旗中はその事実を噛みしめるように答える。そう言った後、この光景は婆羅陀魏山神の伝説に書き加えられるのだろうか、といささか場違いな想像が頭をよぎった。

 

「この光景をずっと撮っていたいけども、もうバッテリーが……」

西部がマイペースに呟く。バッテリー交換をしない辺り、最後の1個なのかもしれない。

 

「婆羅陀魏様ー!ありがとう!ありがとうございました…!」

明日香が両手を振って今日1番の声でバランへ感謝を告げる。

 

彼ら彼女らの声は山々へと飲み込まれ、やがてはまるで何事もなかったかのように静寂に包まれていった……

 

 

 

 

――1週間後――

夏の遅い日の入りの後、岩屋神社は村人や周囲の市民、そして取材に来たメディア陣でごった返していた。そして、その中には旗中達の姿もあった。

あの後、バランはゆっくりと山を越えてその姿を消した。恐らくはあの湖へと姿を消したのだろう。不思議と言うべきか、バラゴンの死体は発見されなかった。防衛隊によると、戦いが終わった直後に航空機が偵察した際には湖へ転落したと言うが、翌日にはその湖そのものを発見することが出来なかったらしい。もしかすると落ちたのは一時的に主の消えていた霧の湖だったのかもしれない。

婆羅陀魏神楽はバラゴンの被害から間もなかった為に開催が危ぶまれたが、村への被害は最小限であったことや瀬良親子や魚崎村長らが開催に前向きだったこともあり、予定通り執り行われることになった。

「ホントは取材はウチだけだって話だったのに…」

「仕方ないですよ。良くも悪くも話題をかっ攫ったんですから…」

口を尖らせながら文句を言う西部を旗中が嗜める。しかし、皆怪獣に襲われた村を撮りに来たんだろうな、と旗中は内心で溜息を吐くのだった。

「そろそろ始まるようですね。」

隣で舞台を見つめていた龍女が呟く。舞台袖から小百合と明日香の2人が姿を現したのだ。雑談をしていた観客達もそれを見て舞台へ注目する。2人が中央へ立つと、小百合が口を開く。

「婆羅陀魏神楽に先立ちまして、先の巨大生物での被害に際して命を落とされた方々へ黙祷を捧げたいたいと思います。」

黙祷、と言う小百合の言葉を受けて、旗中達はすっと目をつむり、会場も沈黙に包まれる。バラゴンとの戦いによる死者行方不明者は百名近くに上る。そのほぼ全てが防衛隊員であり、巨大生物による災害がどのようなものかを暗に示す数字であった。その沈黙を払うようにやめと言う言葉が周囲に響く。ありがとうございました、と言う小百合の言葉に続いて明日香が口を開く。

「巨大生物と言う災害から岩屋村や周囲の街を守るために、防衛隊や皆様がバランと呼ぶ巨大生物が戦ってくれました。この場をお借りして、その皆様へ感謝を述べたいと思います。」

ありがとうございます、と明日香、そして小百合が深く頭を下げる。すると、一陣の冷涼な風が会場内に吹く。まるで、それはバランがそれに答えるかのような風であった……

 

 

 

 

 

第一章 終

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