怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
ー1986年ー『オペレーション・イージスシールド』
1986年 インド洋上空
そこは上も下も遠くまで蒼く澄み切った空――高度3万フィート(約9100メートル)の空を2機の飛行機が切り裂くように空を飛ぶ。
超音速を飛行する為の鋭い胴体と幅広い主翼、戦闘機としては珍しい3発エンジンに胴体下にぶら下げた6発の大型
かつての米海軍核攻撃機、A-5《ヴィジランティ》をベースに空軍の邀撃機として開発されたNR-349をさらに艦載機として改造した機体である。元々高高度爆撃機として開発されたこの機体は、自らの空母を沈めに来る爆撃機を邀撃するのに十分であり、米海軍のF-14戦闘機よりも低コストであったことから万年金欠の海上防衛隊の邀撃機として採用された経緯を持ち、その日も快調な3基のJ79ターボジェットエンジンを回しながら哨戒任務に就いていた。
『Blue01.This is Hawkeye. I contact 3unknown. vector 010. angle 23. You are intercept.(ブルー01。こちらホークアイ。3機の
先頭を飛ぶFA-5J――ブルー01――にAEW(早期警戒機)から通信が入る。インド洋のド真ん中を2万3000フィートと言う低い高度でインドから南進する所属不明機――例の“お客さん”か…そうブルー01のパイロットは内心で呟き、
「Blue01 roger.I intercept.」
そう返すと機体を右に大きく傾けた。そして、2番エンジンだけを他の2基よりも推力を落とした。FA-5Jの2番エンジンは左右の2基よりも高い位置にあり、旋回時にここの推力を下げれば、より早く旋回できると言う部隊内での裏技――最もそれを毎度やってると整備員に睨まれるが故の“裏技”なのだが――をあった。この日もそれを使っては僚機と共に目標へ機首を向けて
やがて、FA-5JのAWG-9レーダーが目標を探知する。
「Hawkeye. This is Blue01. I contacted object. (ホークアイ。こちらブルー1。目標を探知した。」
ブルー01はAEWに報告を上げると、通告の準備を始める。レーダーが普及しきった時代において最も大事なことは“そのレーダーに映ってるモノは何か”である。これが敵なのか、又はIFF(敵味方識別装置)の壊れた友軍機なのか、はたまた警戒空域に迷い込んだ民間機か…しかも画面上に映る目標にはその大小は映されることは無く、無線で誰何するか、最悪直接目視で確認をするしか無い。何とも面倒くさい話だが、これでも20年前よりはマシらしい。そんな事を思ってると後席のRIO(レーダー迎撃士官)が緊張を孕んだ声を出す。
『目標、高度を上げた。こっちへ向かってくる…!』
『Blue01. This is Hawkeye. Cleaned to engage.(ブルー1。こちらホークアイ。交戦を許可する。』
やや遅れて、状況を察知したAEWも交戦許可を出す。所属不明機が“敵機”へと変わった事にパイロットはそれに動揺することなく、Rogerと短く返して推力を上げた。3基のJ79エンジンがうなりを上げると機体が瞬く間に加速をする。それと同時にRIOは
『Blue01.FOX3.』
RIOの声と共に胴体から3発のAIM-54が放たれ、ブルー02が放った分と合わせて計6発が白煙を上げて目標に向かう。3つの“敵機”は上昇を続けていたが、その内2つがAIM-54の直撃を受ける。しかし、その1つはミサイルの弾幕を切り抜けると、FA-5Jの編隊に肉薄して
『メーデー!メーデー!メーデー!』
その時、ブルー02からの宣言が聞こえた。咄嗟に僚機がいたはずの方向を見ると、右主翼の無いブルー02が錐揉み状態になりかけながら落下する姿が
「
セルヴァム――1984年にヒマラヤ山脈に埋められたゴジラから生まれたとされる生物にして現在最も危険な“怪獣”――それに怨嗟の言葉を吐きながら、普段以上に1、3番エンジンと2番エンジンの推力をアンバランスにして旋回する。RIOが呻く声が聞こえたが、気にせず一気にセルヴァムの背後につく。そして、パイロットはHUDのモードをGUNに変えると照準をセルヴァムに合わせた。
「GUNs!GUNs!GUNs!」
機関砲を使用する宣言をして、その引き金を引いた。俗にバルカンと呼ばれる、機首下部のJM61A1機関砲が火を噴いてセルヴァムに向かって放たれる。毎分6000発から4000発と言われる20mm機関砲弾がセルヴァムの体を貫き、その右の翼をもぎ取る。そのまま落ちていくセルヴァムの脇を高速で抜けると、パイロットは周囲の索敵を行う。セルヴァムは3体ともインド洋のど真ん中へ落ちて行き、片方の主翼をもがれたブルー2も加速して強引に錐揉み状態から抜けたようだ。ひとまず危機を脱した事にパイロットが安堵の溜息を吐くと、RIOの声が聞こえる。
『ったく、もう一人いるのを忘れないでくれよ。頭ぶつけたじゃないか。』
その恨み節に、パイロットは苦笑する。
「悪い悪い。ついカッとなっちまった。後で1本奢るよ。」
『2本だ。』
思った以上に怒っているらしいRIOの言葉に、肩をすくめて了解と答えたパイロットは機首を母艦へ向けた後、ふと後ろを振り返る。真後ろにいるRIOのその遙か後ろ…ヒマラヤ山脈には世界の各地を焼いたゴジラが眠り、そこから無限にセルヴァムが生み出されている。
『先月は米軍のF-14とソ連のMig-25が仲良く2機ずつ、先々月はインドから逃げてきたオンボロ輸送機を誤射……』
パイロットの内心を組んだのか、そうRIOが呟く。今もセルヴァム達は周辺国やインド洋を航行する船舶を度々襲い、幾ばく振りに組織された“国連軍”が派遣されても尚インドは無政府状態、難民の流出が今も続いている。
「……いつまで続くんだろうな、これ。」
『さぁな』
パイロットの呟きにRIOが淡々と答える。無責任ともとれるその言葉に諦めと割り切った感情が混ざったものを感じ、詮無きことだと視線を前を戻し、旗艦の途へ着いた。
……1984年のゴジラ封印直後から始まった国連軍主導の作戦『オペレーション・イージスシールド』は1990年まで続けられた。しかしソビエト連邦の崩壊、続くソ連より流出した核により印パ間で核戦争が勃発した事により米軍も撤退し作戦は事実上の終了。周辺国の暫定政府が成立し始めるのは、実に30年後の2010年代であった。
FA-5Jの設定
元ネタは1970年にアメリカ空軍(防空軍団)で運用されていたF-106の後継機のトライアルIMI(Improved Manned Interceptor)の1機として提案されたNR-349です。計画自体がポシャった機体なので、特撮系はおろか映像作品にも登場してない筈です(更新されるはずだったF-101やF-106は世界大戦争や大怪獣ガメラに出てるんですけどね…)。
そのさらに元ネタのA-5ヴィジランティは個人的にカッコイイ機体なんですが、まぁ知名度が…
FA-5J『ヴィジランティゼロ』
1960年代後半から1970年代にかけて行われた、海上防衛隊(海防)の空母再編計画にて艦載戦闘機として開発された機体。米海軍の核攻撃機A-5をベースに、その代名詞とも言えた尾部から投下される爆弾倉をJ79ジェットエンジンに換装、胴体下面には最大で6発のAIM-54“フェニックス”ミサイルを装備出来た。また、戦闘機化にあたって、固定武装として機首下部にJM61A1“バルカン”が装備された。ちなみにヴィジランティゼロと言う名称は、A-5の愛称であるヴィジランティとかつての日本海軍の戦闘機、零式艦上戦闘機にちなんだものと言われる。
爆撃機や巨大生物の攻撃から空母を守る戦闘機として、海防は米海軍の新戦闘機であるF-14を望んでいたが、新空母の整備だけでなく陸防や空防の更新で予算が圧迫されていた為に断念。既存機ベースの戦闘機を調達する事に決定する。
調達に当たってトライアルを実施、F-111BやNR-349の艦載機型、F-14のローコスト仕様等が挙げられたが、F-14のローコスト仕様はAIM-54は運用出来ず、F-111Bは元々米海軍に蹴られていた上に運用コストも高く、艦載機がベースのNR-349案に決定した。開発は順調に進み、1974年に初飛行し1980年には最初の飛行隊が実働任務に就いた。1984年のゴジラ復活時にも展開し、実際に交戦も経験。
1990年代後半からF-33J(Su-33ベースに旧北日本系企業が開発した機体)に代替されて退役していった。