怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
そう言えば、オカルトと伝承って微妙に違う気がするんですが、じゃあ何が違うのと言われると答えられないジレンマ…
第1話「
2024年 8月
太平洋上
この地球と言う星は7割が海であるとされ、人類もまた何千何万年もの間、これを狩り場として、もしくは陸と陸を結ぶ“道”として利用し続けた。そして2024年の現在でもそれは変わらず、むしろそれに依存するかのようにその利用度は高まっている。この太平洋の端に浮かぶ島国、日本でもそれは同じであり海の道――シーレーン――を常に安全な物にする1つが海上防衛隊という組織であった。
その海上防衛隊の1隻、巡洋艦“あいづ”の艦内はにわかに慌ただしくなっていた。
『本艦の210度方向、40マイル(約60km)を航行中の貨物船から救難信号を受信。本艦は直ちにこれの救助に向かう。』
艦内放送の直後、全長180mもの巨体がゆっくりと進路を変更する。艦内の緊張とは裏腹に、その姿は空母の護衛から海上監視までこなす“日本海軍”の堂々たる所作と言えた。
『貨物船の遭難は巨大生物によるものと思われる。対潜対水上対空警戒を厳となせ。』
続く艦内放送によってよりその緊張感は高くなる。頼むから巨大生物は鯨だったと言え。そんな声が漏れるようだった。
やがて、艦尾にあるヘリ甲板からヘリコプターが発艦する。
「艦長、貨物船の中央部に破孔を確認。これより救助を行わせます。」
艦の内部にあるCIC(戦闘指揮所)の中で、戦闘指揮を行う砲雷長が艦長にそう報告と進言をすると艦長は短くはいとだけ答えた。艦長とは文字通りその艦の長であるが、一方で戦闘などは専属の指揮官によって行われる。いわば艦長はそれぞれの指揮官を取りまとめる役割なのである。
「現場海域へ到着。戦闘用意。」
「レーダーに感無し。目標は潜航中と思われる。」
「CICよりソーナー室、直ちに捜索を開始せよ。」
戦闘の発令を命じた砲雷長が目標の捜索を指示する。海中どは空気と異なり光や電波を殆ど通さない。その為水中にいる目標を探すには音が重要になる。一般にソナーと呼ばれるそれは、海中の音から潜水艦や生物を判別したり、コウモリのように自ら音を発してその反射から相手の位置を割り出すレーダーの代わりとなる重要な機器である。
『ソーナー室よりCIC、
「CICよりソーナー室、目標は潜水艦か?」
『キャビテーションノイズの確認はできない…ただ今うなり声のようなものを聴知。鯨ではない。』
マイクのように音を拾うパッシブソナーで目標を捕捉した
「…艦長、目標を巨大生物として監視を続けます。」
そう報告する砲雷長の背中を冷や汗が流れる。先程と同じくはい、と低く答える艦長の声も緊張感が滲み出ていた。今、“あいづ”がいるのは多くの船舶が行き交う航路上であり、無闇に攻撃をすれば他の民間船舶に被害が及びかねない。つまり、巨大生物の動きを1つ残らず捕捉し続け、最悪の場合は攻撃することも覚悟しなければならない。
バラゴンが秋田に現れてから1ヶ月足らず、その被害がどれほどのものかを知っている者程今の状況がどれ程危険か理解できた。
『…!ソーナー室よりCIC!
『艦橋よりCIC、左ウイングより目標と思われる背びれを視認。速力は30ノット(時速約55km)本艦に真っ直ぐ向かってくる。』
音波を発するアクティブソナーによるものか、それともその遙か前から気付いていたのか、
「回避運動始め!」
砲雷長は悪態をつく暇も無く回避の指示を出す。“目標”が接近をしてきた為に回避をすると同時に増速を始める。機関室内にある4基のLM2500ガスタービンエンジンが航空機のそれを思わせる高い吸気音を上げるとあいづの船体は瞬く間に加速を始め、その艦首に打ちつける白波もいっそう激しくなる。“あいづ”がぞうそくを始めた事によってサメやシャチを彷彿とさせる背びれは“あいづ”に接触することなく、その後方ギリギリを通過した。
『艦橋よりCIC、背びれは本艦左舷から右舷を通過。なるも目標は反転、右舷から本艦に向かってくる。』
「主砲攻撃始め!」
『主砲攻撃始め。CIC指示の目標…』
回避を喜ぶ余韻もなくさらに攻撃の指示を出す。それと同時に艦首と艦尾に1基ずつ装備された主砲であるMk 71 8インチ砲が旋回し、水飛沫を上げながら接近する背びれに照準を合わせる。
『主砲、射撃用意よし』
「主砲、うちーかた始め!」
かつての重巡洋艦と同じ口径である2基の主砲は、5秒に1発と言う速度で放たれその背びれへと吸い込まれていく。背びれは無数の爆炎に包まれた後、進行方向が右へと逸れると再び海中へと潜り始める。
『ソーナー室よりCIC、目標は潜航するも離隔する様子は無い。』
「短魚雷攻撃始め。」
再び接触する可能性を考えたのか、砲雷長は魚雷での攻撃を指示する。魚雷が外れるリスクよりも、自艦が沈没するのを避けようとしたのを理解したのか、艦長もこれに首肯した。その指示が下されると共に、“目標”に近い右舷の3連装短魚雷発射管が目標へ指向する。
『短魚雷、発射用意よし』
「発射用意…撃てっ」
砲雷長の命令と共に、発射管から短魚雷が放たれる。目標の諸元が入力されていたそれは、海中へ没すると同時にアクティブソナーを出して捜索を始める。やがてアクティブソナーが巨大な影を捉えると一直線に向かい、その脇腹に直撃する。約50kgの成形炸薬弾は外皮を貫通すると内部にもその衝撃を与え、“目標”は大きく悲鳴を上げるように咆哮する。そして、その爆発エネルギーは抵抗の少ない海面へと向かうと大きな水柱へと変わる。それは“あいづ”に近かった為に、その船体も左右に大きく揺れる。
「CICよりダメコン室、被害を報告せよ!」
ダメコン――ダメージコントロールは被弾などの被害を最小限にし、艦を沈ませないシステムだ。アメリカ海軍等で取り入れられていたそれは、第二次大戦後に海上防衛隊にも影響を与え、かつての戦艦のような装甲が最小限に留まる現代艦艇の強靭化に一役買っているのであった。
『ダメコン室よりCIC、現在浸水等の被害は確認されていない。』
艦の状態を司るダメコン室からの報告を受けCICの中はほっとした雰囲気に包まれる。しかし
『マジか…』
砲雷長のヘッドホンに明らかに動揺が混じった声が聞こえた。声から水測員と判断した彼はソーナー室へ指示を飛ばす。
「CICよりソーナー室、報告は明瞭にせよ。」
『ソーナー室よりCIC、短魚雷は目標に命中し沈没中。また、鳴き声から“目標”は“ゴジラ”と思われる。』
その報告にCICは耳を疑った。知らず知らずの内にあゴジラと戦った事、そのゴジラが短魚雷1発で呆気なく沈んだ事、その情報は彼らの思考を停止させるには十分であった――
翌日 東海道新幹線
『小林丸沈没 原因はゴジラか』
『海防 巨大生物をゴジラと発表』
『ゴジラの出現は1984年以来40年振り』
旗中のスマートフォンの画面からニュースの見出しが映し出される。今日は朝からこのニュースで1色だった。言い回しとごく僅かな主張を除けば、ゴジラが再び現れて人間を襲い始めたと言う新聞社の記事を一通り読んだ後、彼はスマートフォンの電源を切って膝の上に置き、ふっと息を吐く。そして何気なく車窓に目を向けると、五重塔が建っていることに気付いた。周囲には東京のような天を衝かんばかりの高いビル群はほとんど見えず、ここが今の日本の“首都”である京都であることを否応なく認識させた。となると今見えた五重塔は東寺のものか、かつて日本を分裂させた地でもあった京の街はその陰を見せないほど静かに、そしてどこか気品を感じさせる街並みを見せていた。今回の移動はモンスターQ絡みの取材ではなく完全なプライベートなものだった。とは言え、旅行と言うほどフラットな物でなく殆ど墓参りのようなものだと自認していた。
「……本当に行かれるおつもりですか?」
隣に座る河野龍女がタイミングを見計らったかのように口を開く。今回はきちんと隣の座席を買ったらしい彼女の、そのいつになく歯切れの悪い口調に旗中は龍女が最初から乗り気じゃなかったなと思い返す。何故彼女も付いてきたのか、彼女のどこか影のある瞳はそれを教えてくれそうには無かった。
「勿論。ここで帰ったら何のために来たのか分からなくなる。」
「大阪旅行にしたって良いんですよ?」
断言する旗中に、龍女は食い下がる。直接には言わないだけで、行って欲しくないと言う意志だけは見て取れた。しかし、旗中はあえてそれを無視する。
「それも良いけれど、せめて今年位は行ってあげないと……もう10年なんだから」
「死者を悼むのは、何所ででも出来ます。今まではそうやって…」
「でも、行きたいんだ。」
旗中が念を押すように強く言うと、龍女は諦めたようにそっと目を伏せる。しかし、その次の瞬間には顔を上げて普段通りの微笑みを浮かべた。
「なら、仕方ありません♪私もお供致しましょう♪」
龍女の言葉が空元気なのは旗中にも感じ取れた。しかし、彼にはそれを指摘する事もフォローする事も出来なかった。旗中にとっても“そこ”へ行くのは躊躇われる場所であった。なぜなら…
旗中はそこで一旦思考を閉じる。その先を一気に思い出してしまったら自分の覚悟も揺らぐのが見えたからだ。旗中は座席に座る姿勢を直してその目を閉じると、とある伝説を記憶から掘り起こす。
(安珍清姫伝説か……)
今回の目的地、和歌山県に流れる日高川流域にて伝わる悲恋の伝説。そこにまつわる話が全ての始まりであった――
巡洋艦あいづの設定
元ネタはGMKに出てきたフネですが、色々盛りすぎた結果名前以外の要素が消えました…見た目はほとんど同じと思って貰えれば(いいのか?)
艦番号CG-147
全長 180m
全幅 20m
基準排水量 12,000t
満載排水量 15,000t
速力 30ノット
機関構成 COGAG(LM2500×4基)
武装 Mk41 垂直発射システム 128セル
(SM-2/3/6艦対空ミサイル、ESSM艦対空ミサイル、07式対潜水艦ロケット等)
90式艦対艦ミサイル 4連装発射筒×2基
Mk.71 8インチ単装砲×2基
Mk.15 20mmCIWS×2基
HOS303 3連装短魚雷発射管×2基(97式/12式短魚雷)
C4ISTAR イージス武器システム
AN/SQQ-89 対潜戦システム
FCS Mk.99 SAM用×4基
Mk.160 主砲用×2基
Mk.116 対潜水艦用
レーダー SPY-1D(V)多目的レーダー
SPQ-9B 対水上レーダー
OPS-20 航海用レーダー
ソナー AN/SQS-53 艦首型
AN/SQR-20 MFTA 曳航型
艦載機 SH-60J/K(最大2機)
海上防衛隊(以下海防)が2000年代から整備の始まった“あいづ型ミサイル巡洋艦”の1隻。かつての長門型戦艦を彷彿とさせるせり上がった航海艦橋や、艦橋とヘリ格納庫上部にそれぞれ2基ずつ設置されたSPY-1レーダーが外見上の特徴。
海防では空母機動部隊を4つ有しており、基本的に1隻の空母を中心として2隻のミサイル巡洋艦と4隻の駆逐艦から構成され、その中に潜水艦や場合によっては陸上基地からの航空機も支援として加わる。
その中でも同艦型は、VLSが128セルと言う米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦を上回るミサイル搭載数であり、空母機動部隊の防空から駆逐艦隊の旗艦までこなす巡洋艦に相応しい能力を有している。
あいづ型は2隻が建造され、その改良型も2010年代に就役している。
この作品はミリタリー描写多め(当社比)だと自認してるんですが、流石に今回はやり過ぎた感が…