怪獣の方舟~The Earth of Monster~   作:わいえす!

25 / 33
ご無沙汰してました。新しい小説を書いていたら一月ほど経過しておりました…(汗)


第5話「龍神目覚める」

数分前 和歌山県河野地区

 

「~♪~♪」

今や草木と廃墟だけとなった集落に場違いな鼻歌が響く。その鼻歌の主、河野龍女はどこかのCMから聴いた物なのか短いスパンで繰り返しながら山の方へ向かっていく。

やがて道の勾配が徐々に急になっていき、左右の視界は木々に阻まれて見えにくくなる。この道は龍の道と呼ばれているのだとか。なんでも山頂に向かって蛇行するところから名付けられたらしい。

この名前を安珍清姫伝説と結びつける人間はどれ位いたのだろう。龍女はぼんやりと疑問に思う。あの伝説は二人の死でオチとなる。となればわざわざ繋がりを考えるのは相当な暇人か…

21歳という若さ故なのか軽い足取りで山道を登っていくと、比較的平坦な中腹に差し掛かる。そこは軽い広場のようになっており、奥には小屋ほどの大きさがある祠が建っている。

「…ここも相変わらず殺風景ですね。」

そう呟くと、不思議と草木に覆われていない広場を進み祠の前に立つ。祠の扉は開かれており、がらんどうな内部が見える。中へ入ろうとした龍女だったが、足下に落ちている物に気付いて腰を屈めてそれを手に取る。

「……南京錠?」

どこでも売っている鍵式の南京錠は、長らく風雨に晒されていたのか全体が酷く錆び付いていたが、それ以上に彼女の目を引く物があった。“ツル”や“シャックル”と呼ばれる掛け金の部分が切断されていたのだ。この南京錠が扉の前に落ちていると言う事は泥棒か何かがここへ入ろうとしたのだろう。

 

彼女が南京錠をそっと置いた時、背後に何者かの気配を感じ取った。旗中のものではない、龍女がそう判断して振り返ると5m程離れた位置に一人の少女が立っていた。だいたい高校生ぐらいであろうか。化粧っ気のないその顔には表情がなく、そのガラス玉のような瞳が龍女の顔を捉えると口元だけが笑顔に変わる。

「こんにちは。清姫様。」

「人違いですね。お引き取りください。」

口を横に開いただけの機械的な笑みを浮かべた少女の言葉、龍女は事務的に突き放す。それでも少女は笑顔を崩さずに続ける。

「まぁつれない。貴女がここにいられるのは私達のお陰なのに…」

「私が生きてるのも、私がここにいるのも、それは私の勝手です♪貴女をそんなに恩着せがましいのは貴女の親のお陰でしょうか♪」

龍女の挑発的な言動からか、親と聴いた少女の目が一瞬だけ細まる。しかし、すぐにガラス玉の瞳へと戻り、まぁ良いでしょうとだけ答えた。

「では、本題に入りましょう。清姫さ…」

「河野龍女」

「私達と共に参りましょう。」

龍女の言葉を無視して少女は言葉を続けようとするが、龍女は足下に置いていた南京錠を拾うと少女に勢い良く投げつける。ビュンと言う風切り音と共に南京錠は少女の顔を掠めて背後の木に命中する。残っていた掛け金が折れたのか、キーンと言う金属音が辺りにひびく。

「私、話を聞かない人が嫌いなんです。とっとと目の前から失せなさい。」

僅かな沈黙の後、龍女がゾッとするような低い声を放つ。明らかに殺意の混じった声にも少女は動じず、一仕方ありませんね、と呟いた。 

「では、“彼ら”に手伝って頂きましょう。」

そう言って少女が指を鳴らすと、龍女の背後で無数の木々が倒れる音がする。龍女がハッと振り返るとそこには青い怪獣が彼女を見下ろしていた。頭頂には角が生え、ガマガエルを思わせる全身にイボの付いた体を持つ巨体はゲタゲタと嘲笑うかのように吠える。

「この“ガバラ”は貴女に焼かれた人々が集まったもの。貴女にはおあつらえ向きの相手でしょう?」

ガバラと言う怪獣は龍女を踏み潰そうと大きく片足を上げる。

「何と醜い姿…」

自らの生命の危機にも関わらず、龍女はそれを恐れるどころ一言呟いただけであった…

 

 

 

現在

 

青いガマガエルじみた怪獣は大きな振動と共に倒れ込み、マンダに似た怪獣は威嚇するように咆哮する。その2体の怪獣に向かって駆け出していた旗中であったがその途中で山根に止められる。

「突っ込んでどうする!彼女なら…」

「龍女は今戦ってるんです!だったら…」

羽交い締めで制止をした山根を振り切ろうとした時、2人の頭上を青い光が走る。倒れていたガマガエル怪獣がマンダへ向かって電撃を放ったのだ。

両腕から放たれたそれは、食らいつくべく蛇行しながら向かってきていたマンダへ真正面から当たる形となり、その突進を止めた。ガマガエル怪獣はその隙を逃さず、立ち上がるやマンダを押さえ込もうとする。マンダも激しく抵抗し、遂に2体はバランスを崩して斜面を転がり落ちる。転がる2体はその進路上から逃れようとした旗中と山根の頭上を飛び越え、日高川の河川敷でようやくその勢いを止めた。

 

「なんとかしないと…」

怪獣に押し潰される危機を脱した旗中が焦燥感を滲ませて呟く。戦況はマンダの不利となっていた。ガマガエル怪獣は馬乗りになって電撃や殴打でマンダを攻撃し、それらは致命傷を与えないまでもマンダの反撃を弱くさせるには充分であった。

旗中は脇目を振らずに再び麓へ向かって駆け下り始める。何をするとも考えていなかった旗中であったが、その途中、あるものが視界に入ってその足を止めた。十年前、旗中達の乗ってきた乗用車である。

「親父、少し借りるよ…」

言葉もそこそこ、旗中は割れた窓から車内に入り込んで車内を物色する。機材も殆ど無くなり、当然エンジンがかかる訳でもなかったが、助手席まで覗き込んだ彼は発炎筒が刺さっているのを見つけた。十年が経過し使用期限をとうに過ぎた代物だが、今の旗中にとっては重要な“武器”であることに変わりなかった。

古びた発炎筒を掴むと2体の怪獣の所へ駆け出す。マンダの動きは緩慢で弱っているのは明らかであった。旗中はギリギリまで近づくと発炎筒のキャップを外してすり薬を擦り付ける。発炎筒の使用期限は4年とされ、使えるか怪しい代物だったが、僅かな間を置いて炎が勢い良く噴き出す。

「こっちだ!クソガエル!」

発火を確認した旗中は大きく叫びながら、発炎筒を投げつける。赤々と火の付いた発炎筒は放物線を描きながら、依然としてマンダに馬乗りとなっているガマガエル怪獣の眼前を通過する。

殆ど死に体となっているマンダへの興味を失っていたのか、ガマガエル怪獣はあっさりと旗中の方を向くと彼へ手を伸ばす。対する旗中もガマガエル怪獣を睨みつけたままその場を動かない。

怪獣の青い手が旗中を捉えようとした時、その腕が、その体躯がピクリと動きを止める。旗中とガマガエル怪獣がそろって視線をズラすと、そこにはガマガエル怪獣の首に食らいつくマンダの姿があった。一瞬、マンダと視線を合わせた後、ガマガエル怪獣はマンダを引き剥がそうとしたがマンダはそれよりも速かった。マンダの口元に炎が奔ったかと思うと自身の牙によって出来た穴からガマガエル怪獣の内部へ炎を注ぎ込む。その直後、ガマガエル怪獣は動きを止めて腕をダラリと下げると、やがてその炎に堪えきれなくなったのかその頭部が爆発を起こす。

首から上を失った体はマンダが口を離すとそのまま後ろへ崩れ落ちた。完全にその動きを止めたガマガエル怪獣を見て、マンダは勝利を宣言するかのように咆哮する。

「龍女…!」

旗中が叫ぶと、マンダはピクリと咆哮を止めて彼を見る。僅かな沈黙の後、マンダは踵を返して日高川の対岸から山の中へ消えていく。

旗中は慌ててそれを追おうとするが、川に入る直前で腕を掴まれてその動きを止める。

「何を考えてるんだ!?溺れるぞ…!」

やっと追いついたらしい山根が腕を掴みながら怒号を上げる。川を見ると水位は1メートル程あり、下手に入れば溺れ死ぬ事も十分にあり得るだろう。川底を泳ぐ魚を見て旗中はハッとする。

「……すいません」

「分かれば良いよ。それよりも、この怪獣とマンダだ…」

旗中の謝罪に、山根は背後で斃れるガマガエル怪獣を親指で指差しながら答える。既にマンダの姿は見えなくなっていた。かつてのバラゴンのように地中へ潜ったか、それとも……

やがて、2人の耳に遠くからヘリのローター音が聞こえてきた。警察かメディアか、それとも防衛隊か。いずれにせよ旗中の内心に暗雲が立ちこめている事だけは事実であった……




ガバラ、今度何か買ってあげるからな…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。