怪獣の方舟~The Earth of Monster~   作:わいえす!

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2か月以上ぶりの更新です。何とか年内には滑り込ませる事が出来ました…


第6話『河原にて』

和歌山県 山中

 

「んんっ……」

8月の太陽が照りつける中、河野龍女は目を覚ます。気怠げに重い身体を起こし、辺りを見渡した龍女は溜息交じりに苦笑する。

「やってしまいましたね…」

麓の日高川周辺はまさしく戦争でもあったかのように各所が抉れており、夏の青々とした紀伊山地を構成する木々も軒並み薙ぎ倒され、その茶色い山肌をさらしていた。そしてそれらは川辺から獣道のように一直線に伸び、彼女の下で止まっていた。

「さて、あの人は追ってきてくれてるのでしょうか♪」

龍女は一人呟く。しかし、その声に答える者は誰もいない。考えても詮無きことと彼女は思う。元より出会う事などあり得なかった人間だ。自分のような存在が10年近くも共に居続ける事が異常なのだ…

彼女がそう思ってると、山の向こう、紀伊水道から飛来する気配を感じ取る。これは防衛隊であろうか、()()の時よりは衰えるらしい探知能力から推測をすると、逃げるようにまだ残っている木々の合間へ駆けていく。鬱陶しい奴を落とせと言う本能を抑え、人の姿で走る彼女が考えることは1つであった。

(あの娘……落とし前は必ず…)

龍女に怪獣をけしかけ、その“日常”を終わらせた少女を見つける。その為にはここで足を止めるわけにはいかない。

龍女は静かに決意し、山の奥へ消えていった……

 

 

 

数時間後 和歌山県 日高川町役場

 

町の東部、山間部にほど近い位置にある3階建ての建物は多くの人間が忙しく行き交い、にわかに殺気立った雰囲気に包まれていた。

そして、その三階にある「巨大生物による災害対策本部」と銘打たれた会議室はカーテンが遮蔽された空間には、町や県、警察と消防、そして防衛隊の人間が集まっていた。様々な立場の人間が集まる中、“目撃者”である山根と旗中もその中にいた。

「会議に先立ちまして、T大の山根恭介准教授より今回の巨大生物についてのお話がございます。」

会議の長を務める町長が山根に発言を促す。山根ははいと答えて静かに立ち上がる。

「ご紹介にあずかりました山根です。早速ではありますが、今回の巨大生物についてお話しさせて頂きます。まず、現在確認できている巨大生物は2体です。」

山根の言葉と共にスクリーンが変化する。いつの間に撮ったのか、日高川を背に2体の怪獣が戦う写真が全面に映し出される。龍を思わせる細く長い怪獣に二足歩行をするカエルのような怪獣が電流を浴びせる様子や、龍の怪獣がカエルの怪獣に巻き付き火を噴く様子に、どよめく者や状況をメモする者など様々な反応が室内を覆う。

「これらの巨大生物についてですが、まず龍のようなタイプ、こちらは1960年代前半に現れたマンダとの類似点が見られます。」

スクリーンに白黒の写真が写る。航空機から撮ったのか、砂浜に横たわり息絶える巨大な龍のような姿は先ほどの怪獣と瓜二つであった。

「マンダの全長は220メートル、画像のように長い胴体に小さな足を持つのが特長です。マンダは水中での活動が主でしたが、陸上で活動する事も可能でした。今回のマンダは当時のそれとは小型でおよそ全長は70m程度と予測されます。マンダは複数の個体がいたとされ、その生き残りである可能性は否定できません。現状、この巨大生物はマンダ型のそれであると結論づけるべきでしょう。」

山根はそこで言葉を区切ると、目を使って周囲を見渡す。追いつけていない者がいれば質問も受けるつもりであったが杞憂であったようだ。

「続いて、もう一体の巨大生物です。こちらは二足歩行型で、既存の動物に似た生物は見受けられませんが、背中にイボのような物があり、これはヒキガエル科のカエルが持つそれと類似しています。また、両腕から電流を発する事が確認されています。この攻撃は必ずしも致命傷となるわけではありませんが、怯ませる程度の効果はあるものと思われます。」

山根はここからが本題ですが、と前置きをする。

「巨大生物の名称ですが、死骸に簡単な調査を行った際に画像のような物を発見致しました。」

マンダ型の巨大生物によって吹き飛ばされた頭部、正確には首の裏の付け根に埋め込まれている“それ”を見た人々から僅かにざわめく声が上がる。

 

“道祖神 賀婆羅”

 

大きさは90センチほど、丸みを帯びた三角形をした岩にはそう表面に大きく書かれていた。山根はレーザーポインターで指し示しながら説明を続ける。

「この後半の4文字は“ガバラ”と読むものと思われます。まず道祖神ですが、これは言わば村の境目等に置かれ、災厄から村を守ったり子孫繁栄の意味があるとされていました。寡聞にしてこの賀婆羅と言う名前は初めて聞いた次第でありますが、この地域で道祖神として信仰されていたと考えるのが自然ではあります。」

「質問をよろしいでしょうか?」

町役場の人間が手を上げる。山根がどうぞと促すとメモ帳を片手に立ち上がる。

「賀婆羅と言う道祖神はこの地域のものとの事でしたが、今回出現した巨大生物はそれと同じと言うことでしょうか?」

「……その理解で問題無いかと思います。」

山根の返答に質問した町役場の人間は不満げな表情を浮かべ、山根は少し直接的に言い過ぎたかと内心で後悔した。地方自治体はその地域と切っては切れない関係にある。自らの地域に現れた物が周囲に悪影響を及ぼす物とするなら、その自治体までも白い目で見られる恐れがある。バランの時は魚崎村長や住民の理解、そしてバラゴンと言う“敵”がいたからで、この反応が普通なのだ。山根が何かフォローの言葉を探していると、町長と言う男が手を上げた。

「山根先生、1つ良いかな?そのガバラと言う怪獣はもう死んでるのかね?」

「頭部を損壊していますので、恐らくは…」

「なら大丈夫だ。後は処分の方法を決めれば良い。」

山根の返答に村長はそう満足げに答え、自治体の人間も静かに座った。

(これも普通だよな…)

巨大生物はいるだけで脅威、出来ることならとっとと消えて欲しい。その感情をひしひしと感じた山根はそう嘆息したが、すぐに切り替えて話を進めた……

 

 

 

1時間後 日高川沿い

 

「申し訳なかったね。あんなのに付き合わせて」

「いえ、あれが世間の反応なんでしょうし…むしろ勉強になりました。」

山根の自虐めいた言葉を、旗中は日高川を見ながらやんわりと受け流す。それを見た山根は苦笑した後、同じように視線を日高川に向けた。

町役場での対策会議が一旦終了した後、山根が気分転換になるとして旗中をここまで連れてきたのだ。日は沈みかけているが、夏のうだるような暑さは変わらず、会議で配られた水のペットボトルも半分を切っていた。山根はその水を一口飲むと口を開く。

「私はまた対策本部に戻ることになるけど、君はどうする?」 

「俺は…龍女を追いたいと思います。」

「なら、まだここに居た方が良いかもね。…防衛隊も本気のようだし。」

「例の中央から来る特殊戦略作戦室って奴ですか?」

「軍事には疎いからアレだけど、特殊戦略作戦室と言えば対巨大生物戦のエキスパート。先月の失態を取り返さないといけない分、彼らはそれほど躍起な訳だ。」

防衛隊は先月のバラゴン戦で敗北を喫している。バランのお陰で被害を最小限にできたとは言え、彼らにとって良い結果とならなかったのは事実であった。しかも今回は経済拠点の1つである大阪と“首都”の京都が近い。最悪のケースを考えると、防衛隊は決戦を覚悟してると見て良いのだろう。

「だったら、なおさらここに居る訳には…」

「待った。いくら防衛隊が本気でも、巨大生物を見つけてすぐに攻撃をしたりはしない。そう言う規定があるからね。」

勢い良く立ち上がった旗中を山根が嗜める。触らぬ神に祟り無し。過去には人間が先に攻撃をした結果、被害の拡大を招いたケースもある。人の生活を脅かす物で無い限り、防衛隊が手を出す可能性は低いだろう。

「だから、彼らが集めた情報を貰える所に居た方が自力で歩き回るよりよっぽど利口だ。さっきみたいに私の助手って顔をしてれば大丈夫さ。」

山根の言葉に旗中は不満げな表情で座り直す。

「…何で俺の手伝いをしてくれるんです?」

「手伝ってる訳じゃないよ。単に気になるだけさ。君と…あのマンダとの関係がね?」

瞬間、旗中の心臓が跳ね上がるのを感じた。

「マンダが出現した時の取り乱し様を見れば誰にでも察しがつくよ。河野龍女はあのマンダなんだろう?私も言ってて信じられないけど…」

早鐘のように鳴る心臓を抑えながら、旗中は山根の方にゆっくりと向く。山根の顔から糾弾の感情は読み取れず、むしろ子供のような好奇心があるように思えた。旗中にはそれがたまらなく恐ろしく見えた。

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