怪獣の方舟~The Earth of Monster~   作:わいえす!

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あけましておめでとうございます。そしてお久しぶりで御座います。
すっかり年が明けてしまいました…いやまさかこんなに遅くなるとは…
一つ躓くと完全にストップしてしまうのを何とかしたい…何とかしたいなぁ…


第9話『接敵』

同時刻 京都

首相官邸地下 危機管理センター幹部会議室

 

「マンダが消えた…!?」

 

誰かの言葉を筆頭にほの暗い会議室内をざわめきが包む。つい先程まで画面を占領していた巨大生物が一瞬の内に姿を消した。その非現実的な光景に室内の人間は大なり小なり驚きを隠せなかった。

 

「カメレオンのように体色変化させて擬態している可能性は…」

 

そのざわめきの中から環境大臣が声を上げる。

 

「どうなんだ?防衛大臣?」

 

「未だに光学及び赤外線による捜索を行うもマンダの捕捉に至っておりません。何らかの妨害手段を有している可能性もあり、電波及び電磁波での捜索も実施します。」

 

「わかった。早速やってくれ。」

 

わかりました、と答えた防衛大臣の直後、柘植官房長が声を上げた。

 

 

「総理、マンダの出現位置、時間は不透明です。次の再出現が首都近郊となる可能性が捨てきれません。現在出ている避難指示だけでは対応しきない恐れがあります。早期に災害緊急事態を宣告する事を進言します。」

 

「……」

 

柘植の言葉に大河内は口をつぐむ。

災害緊急事態、災害が国家の運営に重大な影響を及ぼす時に、国の秩序を維持する為に布告するものである。それは国民の生活を制限するなど強い権限を持つ一方、国会の承認が必要となるなどハードルも大きい。付け加えるなら、早期に宣言を布告してもマンダが首都に現れなかった場合、国民からの反発も予想された。

 

「…まだだ。まだ布告には早すぎる。」

 

情報と確証が持てない今、大河内にはその言葉が精一杯であった。

 

 

 

同時刻 和歌山県山中

 

紀伊山地の山中、マンダが消えてほど近い場所に河野龍女は姿を表した。延々と続く緑の光景を無感動に眺めていると、彼女の背後に人の気配を感じる。咄嗟に振り返ると、そこには昨日の少女の姿があった。

 

「昨日の話、考え直して頂きました?」

 

「……私がお慕えするのはただ一人。お引き取り下さい。」

 

相変わらず機械的な少女の誘い文句に、龍女は殺意を込めた目線を向けながら答える。少女はそれを気にもせず、龍女へと近づいていく。

 

「でも、さっきので逃げちゃう辺り、もう諦めてるんじゃないですか?もう人には戻れないって。」

 

「……」

 

嘲るような口調で龍女の眼前まで迫った少女は、無言で目をそらした彼女の右手を取る。

 

「人ならざるものは恐れられ避けられるもの、貴女もそうでしょう?」

 

嬉々として語る少女の瞳に龍女の顔が写る。龍女の沈黙を了承と見たのか、少女はさらに続ける。

 

「私達には力がある。この世界を統べる事も出来る。」

 

「……ふふっ」

 

唐突に口元を押さえてコロコロと笑始めた龍女の姿に、肩にまで手を伸ばそうとしていた少女は怪訝な顔を浮かべる。

 

「貴女って私しか見てないんですね♪」

 

龍女はそう言うと少女の手を振り払うとその脇をすり抜けた。龍女の向かった先には、肩を揺らして大きく息を吸う旗中の姿があった。

 

「はぁっ…はぁっ…ようやくっ…見つけたっ…」

 

龍女は、急な山道を走ったのかまともに言葉を発せられない旗中の隣に寄り添うように立つ。

 

「まったく、なんでこんな所まで来てるんですか♪」

 

「お前がっ…勝手にいなくなるからだろうがっ…」

 

悪態をつきながら息を整えた旗中がチラリと前を見る。

 

「で、そちらはどなたさん?」

 

「んー知らない人?」

 

「不審者じゃねぇか。」

 

「勧誘の人?」

 

「もっとヤベぇじゃねぇか。」

 

困ったような口調で返答した龍女に旗中がツッコミを入れる。その時

 

「ふふっあはははは…!」

 

やりとりをを見ていた少女が唐突に笑い出す。訝しむ2人の前で、少女は嘲笑ともとれるその笑いが収まると軽く2、3回手を叩いた。

 

「そう、そうなんですね!だから貴女は躊躇うんですね!」

 

だったら、と少女が再び手を叩くと、背後で何かが蠢くのが見えた。それは2,3メートルほどの高さになるとゆっくりとこちらへ向かってくる。

 

「巨人…?」

 

日光に当てられた姿を見て、旗中はそう呟いた。背丈こそ異常だが、その顔立ちや体躯は人間のそれと酷似していた。その巨人は二体現れるとそれぞれ少女の脇に立つ。

 

「勧誘が無理なら実力行使、って事ですか。」

 

龍女が不敵な笑みを浮かべてそう嘯いた。少女はそれにええ、と笑顔で答えると、

 

「これだけじゃありませんよ?」

 

その時、彼らのが大きく震える。機器が音を立てて揺れ、木の葉が落ちていく。それは2,30秒ほど続いた後、シーンと静まりかえった。

 

「いったい何が…?」

 

旗中の声を聞いた後、龍女の背筋にゾッと走る感覚があった。それは、かつてのバランや昨日のカエルもどきと対峙した時と同じ……

 

 

 

同時刻

 

マンダが現れ去った河野地区ではある異変が起こっていた。“それ”を捉えたのはスクランブルで上がったSu-22M7であった。フィッターの照準ポッドで捉えられた映像は直ちに地上に送られる。

 

危機管理センター内

 

「なんだこれは…」

 

「巨大な……人のように見えますが……」

 

正面の大型モニターに映されたそれを見た大河内の呟きに環境大臣と思しき声が答える。先程までマンダのいた…そして今もガバラの死体のある…河野地区に突然として新たな巨大生物が現れた。日高川の河川敷に蹲るそれは、姿形こそ人のようなものであるが緑色の体色をしており座高だけでも15メートル近く、立ち上がれば50メートル近くになるであろう。

 

「とにかく、“アレ”の詳細を把握したい。現地はどうなっている?」

 

「マンダ対応で付近からは離れていますが…呼び戻しますか?」

 

柘植の問いに大河内がやってくれと答えた後、防衛大臣が隣にいた統合幕僚長より何事か話しかけられる。それを聞いた大臣の表情がサッと青くなる。

 

「総理、付近に民間人がいます…!」

 

「何だって…!?」

 

それを聞いた大河内の動揺した声と、カメラの映像がズームされるのは同時であった。ワゴンタイプの乗用車が一台、“巨人”の目前まで迫っていた。日高川河川敷と道路は10メートル程の崖に阻まれており、さらにその間に木々が並びドライバーはいまだに気づいていないかもしれなかった。

 

「あの車を止めろ!何としてでも…」

 

大河内はとっさに指示を出した。付近の警察か防衛隊、そのどれかで止められれば…その場にいた全員の意思はそれで一致していた。しかし、その願いは届かなかった。

“巨人”はおもむろに顔を上げるとワゴンへ勢いよく手を伸ばし、ワゴンはそれをまともに避ける事も叶わずそれに直撃し勢いよく横転した。“巨人”はおもむろに立ち上がるとワゴンを持ち上げ、その屋根を剥がし始める。そして、その露わになった車内に齧りついた。“巨人”はその()()だけに興味があったのか、半分程になったワゴン車を投げ捨て、川の下流へゆっくりと歩き始めた。

この間僅か30秒足らず、会議室内は呆然とそれを見つめていた。

 

「人を…食べた……?」

 

誰かの声が響く。それはその場にいた彼ら彼女ら全員の意思を代弁したものであった。

 

「なんてことだ……」

 

大河内はそう呟き両目を左手で抑えた。一瞬、災害緊急事態を宣告していれば、と後悔が走る。しかし、もうどうしようも無いのは変わらず、今すぐに対応しなければならない事態が目の前にあった。

 

「……日高川流域の自治体にJアラートを発令。住民へ直ちに避難をさせるようにしてくれ。」

 

「陸海空防衛隊はあらゆる手段を使ってこの巨大生物の侵攻を阻止。奴を市街地に入れるな。」

 

大河内は静かにそして鋭く下命した……

 

 

 

()()が、貴女の返答という訳ですか……」

 

何かを察したのか、龍女は殺意のこもった瞳で少女を睨みつける。その少女は意にも介さず、ええと答えた。

 

「残念ですが致し方ありません。貴女にその気が無いのであれば、なるように仕向けるだけです。」

 

「龍女、何が起こった?」

 

旗中は少女を横目に見つつ、龍女に小声で問いかける。龍女はこちらを向くことなく静かに答えた。

 

「もう一体、河野から怪獣を仕掛けてきました。恐らくは町に向かってます。」

 

「マジかよ…」

 

旗中が呟いた瞬間、少女の傍らに立っていた巨人が一体、両手を振り上げると勢いよくこちらへ向かってきた。

 

「…!」

 

咄嗟に龍女が旗中を抱き寄せて後ろへジャンプする。その常人離れした脚力は数メートル後退しストンと着地する。しかしもう一体の巨人がそこへ追撃をかけてくる。龍女は小さく舌打ちをした後、側面へ飛び山の斜面を駆け下りる。巨人も追いかけてくるが木々に邪魔され、その速度はゆっくりだ。

 

「ごめんなさい♪舌打ちしちゃいました♪」

 

「気にしなくて良い。それよりもどうする?」

 

旗中はいつもの調子でケロリとした龍女に問いかける。しかし、その返答を聞く前に少女が問いかける。

 

「さぁ、いかが致します?清姫様?ここで私達と戯れるか怪獣となられるか。」

 

少女は高らかにそう宣告する。旗中は今目の前の状況だけで無く件の“怪獣”がどのようなものなのかも気がかりであった。もし、防衛隊だけで対処出来なければ…その懸念が脳内でぐるぐると回っている時、少女が思い出したように声を上げる。

 

「そう言えば申し遅れておりました。私の名はキラーク。これよりこの星を支配する者。」

 

キラーク、そう名乗った少女は軽く会釈をするとニコリと微笑んだ……

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