怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
〈人型巨大生物は坂本橋を破壊。なおも前進中。〉
〈CP、こちら戦闘中隊。当該巨大生物を視認。射撃の指示を請う。送れ。〉
「師団長。戦闘ヘリ部隊は現着まで2分。偵察戦闘大隊は巨大生物を視認しました。いつでも攻撃が出来ます。」
「周囲に民家は少なく、付近に民間人の残っている可能性は少ないです。」
「分かった。各部隊、射撃を許可する。」
前進する巨人に最初に会敵をしたのは引き返してきた偵察戦闘大隊の16式機動戦闘車と87式偵察警戒車だった。16式は8輪のタイヤと105mm砲を備え、87式も旧式ながら6輪のタイヤと25mm機関砲を有し、いずれも路上では時速100キロを誇る機動力と火力を併せ持った車両である。今回、戦闘中隊の16式12両に加え、同じ偵察戦闘大隊所属である偵察中隊の87式6両が加わえられていた。中隊長はこれらを3個小隊に分け、小隊の内2個を日高川の両岸に配置し先行。そして途中にかかる千与橋に1個小隊を展開させた。巨大生物の進む日高川をキルポイントとし、複数の方向から同時に攻撃をさせる。機動できる平地が少なく、制約の多い場所だからこそ、部隊の生存性を高める策としても上策と言えた。
〈戦闘中隊。こちらCP。射撃を許可する。送れ。〉
「CP。こちら戦闘中隊。了解。直ちに射撃を開始する。」
「小隊各位、こちらへ中隊長。直ちに射撃を開始せよ。送れ。」
〈16、目標、巨大生物頭部、対りゅう、小隊集中、指名〉
射撃指示を受けた小隊は走行しながら砲弾薬を装填する。内部へのダメージ、そして貫通して周囲に影響を及ぼさない為に対りゅう、対戦車りゅう弾(HEAT弾)が装填される。それと同時に砲塔が見た目に合わない速度で巨人の頭部に向けられる。
〈16、各車、射撃開始!〉
〈撃てっ〉
命令の元、16式から105mm砲弾が放たれる。第3世代戦車の正面以外であれば貫通出来るそれが、巨人の頭部に寸分違わず命中し爆炎を上げる。巨人は僅かに蹌踉めいたが、それでも確実に撃破出来た保証は無い。16式の各車はさらに次弾を装填し、その間を埋めるように87式が25mm機関砲を放つ。威力こそ劣るが持続的に射撃することで巨人に反撃させる隙を与えさせない。案の定、巨人は両手で払うように大きく動かすが、部隊に全く効果を与えるものでは無かった。
〈CP、こちらアタッカー1、BP1に進入。これより射撃を開始する。〉
地上部隊が射撃と同じタイミングに偵察戦闘ヘリRAH-1が3機、観測ヘリのOH-1Bと供に現着する。各機はBP(射撃位置)である山の斜面に隠れ、僅かに機首を上げる。
〈アタッカー、こちらニンジャ、目標情報を送信する。捕捉次第直ちに誘導弾での射撃を開始せよ。〉
〈アタッカー1了解。目標を捕捉。射撃を開始する。〉
RAH-1のコックピットでは、OH-1Bからデータリンク経由で送られた目標情報がガンナーのHMDに反映される。傍には山の斜面しか見えない景色に巨人の位置情報が入り、ミサイルのトリガーを引く。RAH-1の機体側面にあるスタブウイング下のランチャーから96式多目的誘導弾が放たれる。96式は山の頂上を越えると4枚の動翼を操作し巨人へ真っ直ぐ降下、そのまま巨人の肩へ直撃した。戦車の上面を貫通し撃破できるミサイルの直撃に、巨人の両腕はダラリと垂れ下がる。それでも依然と動き続ける巨人に対し、RAH-1は脚部、その膝部に第2波を放つ。RAH-1には96式が左右に4発ずつ、さらにハイドラ70ロケット弾も左右に19発ずつを装備し、残弾には未だに余裕があった。やがて第2波の直撃を受けた巨人は河川に膝をついた。それと同時に、JTAC(統合末端攻撃管制官)の指示を受けたフィッターが攻撃進入を開始した。
〈Little woods.1-1 inbound.(こちらリトルウッド1-1、進入した。) 〉
〈Little woods1-1.CONTINUE.(リトルウッド1-1へ、そのまま継続せよ。)〉
〈Little woods1-1.IN.(こちらリトルウッド1-1、攻撃態勢に入った。)〉
〈Little woods1-1.CLEARED HOT.(リトルウッド1-1へ、攻撃を開始せよ。)〉
Little woodsのコールサインを持つ2機のフィッターは、CLEARED HOT…攻撃許可が降りたことにより各1発ずつ合計2発の500ポンドLJDAMを投下した。GPSとレーザー誘導を併用したそれはピンポイントで命中しその上体の中で爆発を起こした。
爆弾の爆煙が晴れた後、膝をついたままである巨人の上半身は腰から大きく裂けその頭部は川面に触れており、動く気配はなくそれは死んだように見えた。
しかし、
〈CP、こちらJTAC、目標上に人影を確認。煙により詳細不明。〉
レーザー目標指示装置で観測を続けていたJTACが司令部に報告を上げる。“人影”は2つ、損壊した腰の部分より突然上半身だけが生えたように見えた。その異質な光景にJTACが<<人じゃない>>と判断した直後、“それ”が飛び出した。
〈CP、こちらJTAC、目標より小型の移動目標が分離、日高川下流へ向け毎時70キロで移動中。〉
新たに出現した2体の“巨人”に、千与橋で射撃態勢にあった16式と87式が対応する。しかし、予想外での出現であった事と主力戦車並みの速度で“走る”巨人に105mm砲の初弾は外れ、25mm機関砲と連装銃の7.62mm機関銃は有効打を与えられなかった。
「CP、こちら戦闘中隊、2体の巨人が千代橋を通過。市街地方面への射撃指示を請う…」
ハッチから乗り出した小隊長が砲塔を旋回させつつ指揮所へ通信をした瞬間、自身の背後から地響きを感じる。振り返ると、先程爆撃でやられた筈の巨人がこちらへ猛スピードで向かってきていた。
「01、02前進!03、04後退!」
いつの間に、そう思ったのも一瞬、砲塔旋回が間に合わないと判断した小隊長は橋からの退避を指示した。アクセルを全開にし千代橋の前後から2両ずつ離脱する16式だったが、ほぼ同時に巨人の体が千与橋に激突する。激しい衝撃音と共に吹き飛ぶ千与橋に後退していた16式が1両巻き込まれる。26トンの車体は飛ばされる事こそなかったが、バランスを大きく崩しもう1両の16式を巻き込みながら県道26号のアスファルトを削りながら横転する。損失は少なかったが、偵察戦闘大隊が突破されたことにより巨人は市街地へ大きく進むことになった。
日高川町 防衛隊指揮所
「巨人、千与橋を突破!なおも前進中…!」
「突破された偵察戦闘大隊は再編の要あり。使用不能になった県道26号も併せると戦線復帰は困難です。」
「侵攻エリア上には民家が点在。JTACや観測ヘリに情報収集を行わせていますが、CAS(近接航空支援)は非常に困難です。」
「…他兵種はどうなっている?」
報告を受けた師団長は静かに部隊の状況を確認する。
「特科部隊の射撃準備は完了と報告を受けています。機甲科は和佐と若野に1個中隊ずつが展開。対戦車小隊もその後方に展開しています。両地区に掛かる若野橋が最終防衛ラインです。」
「特科は直ちに射撃を開始。観測戦闘ヘリコプター隊は航空支援と引き続き情報収集を実施。避難及びメーサー隊展開の完了まで遅滞戦術に努めるように。」
これ以上の侵攻を許すな、師団長はそう続けた。慌ただしく動く司令部を傍目に、オブザーバーである黒木は戦況図の置かれた机を見ながら静かに思案する。
(現状の戦力では足止めが精一杯だ。あの3メートルクラスでも市街地に進入すれば、少なくない被害が出る。残る手は……)
「頼んだぞ…旗中進二……」
そう呟いた黒木の瞳は何かに縋る以上に強い意志を持つそれであった…
同時刻
防衛隊のものであろう戦闘の音は旗中達の耳にも聞こえていた。基本的に近代戦は数分間で決着が済むとされる。しかし、未だに続くそれは終わる気配を見せず、防衛隊が押されている状況を示していた。
「龍女。」
「……はい。」
2体の“巨人”と向かい合いながら、旗中は彼女の名を呼ぶ。龍女は覚悟を決めているのか、旗中を見ることなく静かに答える。
「行ってこい。龍女。あっちを止められるのはお前だけだ。こっちは何とかする。」
「……戻ってこられなくなるかもしれませんよ?」
「バカ言え。お前ならしれっと戻ってくるだろ。」
旗中の言葉を聞いた龍女はハッとしたように肩が僅かに動き、やがてクスリと笑った。
「そう。そうですね♪“私”はいつもそうでしたもの♪」
そう言って龍女は旗中と向き合う。彼女のガラス玉のような瞳には生気がこもっていた。
「進二様。貴方の事をいつまでもお慕えしております。」
「変な言い方するな。縁起でもない。」
旗中の言葉に龍女が苦笑したとき、背後から2体の“巨人”が左右に分かれて向かってくる。挟み撃ちにする気だろう。
「旦那様!」
気配を察知した龍女は対応しようとすぐに向き直る。その直後、けたたましい音と共にレーザーのような光の雨が“巨人”達を襲う。予想外の妨害に巨人達は動きを止める。
「龍女!今だ…!」
旗中はそう叫んで彼女の肩を押す。一瞬、龍女は呆気に取られていたようだったが、すぐに真一文字に口を結ぶと戦場へ向かい駆けていった。それを見送った旗中は逆方向…麓へ駆けていく。態勢を立て直した“巨人”達はその体躯を揺らしながら旗中の方へ向かってくる。奴らは龍女の脚には追いつくことは叶わず、旗中を人質にでもしようとしているのかもしれない。しかし、それは旗中にとっても好都合だった。旗中は走りながら隠し持っていたハンドヘルド型無線機を取り出し叫んだ。
「もう一回…!お願いします…!」
その声と同時に再び光の雨が“巨人”達を襲う。しかし、無数の風穴を開けられても尚、“巨人”はその動きを止めない。
〈12.7mmじゃダメか…〉
旗中の持つ無線機から、山根の複雑な声が聞こえる。先程からの光弾は旗中達を連れてきたUH-60JAに装備されたM3重機関銃、その曳光弾のものであった。人間なら容易く真っ二つにする12.7mm弾を毎分1,100発という発射速度で放つ武器であっても足止め程度にしかならないのは、あの“巨人”が怪獣たる所以だろう。とにもかくにも、旗中には走って逃げるしか無いことを悟らせるには十分だった……
千与橋を突破した“巨人”は更にもう1基の橋を破壊し悠々と前進する。その直後、上空から1つの塊が“巨人”の左肩に直撃し爆発を起こす。それはフィッターの1機が投下したLJDAMであった。再び崩れ落ちた“巨人”に対し、更に2発、3発と投下される。500ポンド爆弾の威力は“巨人”だけでなく両岸の崖も崩した。
再び崩れ落ちた“巨人”に先程よりも小さい爆発が立て続けに起きる。それは戦線の後方に展開している特科の99式自走155mmりゅう弾砲によるものであった。毎分6発以上と言われる速度で155mm砲弾が2個中隊計10両から放たれる。第1波以上の火力を受けているにも関わらず、“巨人”の体は依然として再生しようとしているようだった。そして、
《アタッカー1、こちらニンジャ、巨人より新たに2体の人型移動物体が現出。そちらで対処できるか?》
(クソッ、キリが無い…!)
OH-1Bより報告を受けたAOH-1のパイロットが内心で毒づく。誘導弾は第1波で使い切り、戦車並の速度で走る“小型の巨人”2体を無誘導のロケットや機関砲でようやく撃破したタイミングでの報告に苛立ちを隠せない。
「残弾は?」
《ロケット弾が24発、20mmが600発。他機にやらせます?》
「…いや、こっちでやろう。もう真下にいる。」
ガンナーからの言葉を聞いた後、HMDに敵として反映された2つのマーカーを見てパイロットが答えた。ガンナーも同じものを認めたのか舌打ちが僅かに聞こえた。
《まるでフランケンシュタインだ…!》
「つべこべ言わずに撃ち込め!ニンジャ、こちらアタッカー1、移動物体を確認した。これより射撃を行う。こちらの残弾は…」
射撃指示と報告を同時に行いつつ、パイロットはガンナーの言葉を反芻する。人間に創られた不死身の巨人、フランケンシュタイン。彼の巨人は人の良心を持ち合わせていたと言うが、今自分達と戦う彼らはどうなのだろうか…?
詮無きことだ、そう思って目の前に向き直った直後、眩い光がキャノピーの左側から差し込む。思わず手をかざして光の方へ目を向けたパイロットは目を見開いた。
(龍…!?)
キャノピーに収まりきらないほどの頭、機体からは全体が見えないほど長く、巨大な龍が彼らの真横を通過していた。咄嗟にパイロットは操縦桿に当たるサイクリックスティックを右に傾けて回避するが、龍は彼らではなく下流を走る2体の巨人に向かっていった。
龍は見た目によらない速度で巨人に近づき、その両腕で2体を掴むとそのまま握り潰してしまった。高い再生能力を持つらしい巨人でも潰されてしまってはどうしようもないのだろう、“龍”は両手でそれが何の反応も見せない事を確認すると天高く咆哮した。その声はAOH-1のキャノピー越しでも彼らを震わせた。
「アレが“マンダ”か…」
《アイツも敵なんですかね…?》
「……知るか。」
光を見てから10秒足らず、余りの状況の変化に彼らは呆然とせざるを得なかった……
こう書いといてアレなんですけれども、マンダって咆哮と呼べそうな鳴き声ってしてましたっけ……
補足ですが、JTAC絡みはこちらのサイトを参考にしてます。
https://note.com/cypher1778/n/nf003aece8db9?magazine_key=mf6dd081d5c19