怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
世間(?)的にはマイゴジが大ヒットしたかと思えば、アカデミー賞受賞。ゴジラ×コングも同じく大ヒットで映画館で揃って公開と言う、自分がゴジラシリーズに触れた約20年前では考えられない状況になりました。
いや本当にすごい時代になった……
同時刻
紀伊山地の山々に、巨大な衝突音が幾度も木霊する。
突如として現れた巨大生物“マンダ”とダメージを回復させた“フランケンシュタイン”が戦うのは必然と言えた。しかし、その巨体のぶつかり合いにはレベルの差が見て取れた。
真っ直ぐな突進を繰り出す“フランケンシュタイン”に対し、“マンダ”は蛇や龍を想起させる細身の体をくねらせて衝撃を逃しと同時に“フランケンシュタイン”のバランスを崩させる。
決定打を出せない“フランケンシュタイン”は苛立ちを隠せない様子を見せると共に、山の斜面を利用して“マンダ”に飛びかかろうとする。しかし、“マンダ”もそれを読んだのか、長い尻尾を横合いから叩きつけ、フランケンシュタインの巨体を吹き飛ばす。
大きく宙を舞った“フランケンシュタイン”はメートル程飛ばされる。
2体の戦いは、かつての河野地区に近づいていた……
その戦いを陰から見入る姿があった。キラークと名乗った少女だ。
「気に入らないなぁ……」
その少女は不満そうに眼前の状況を見つめる。
「結局、貴女も怪獣になりたかったんじゃないですか。」
彼女の無機質な声は低さを増し、右手を正面にかざして指鉄砲を作る。2体の怪獣が争う戦場を前に、それは珍妙な光景であったが、キラークの目は本物の銃を撃つかのように目を鋭く細めていた。
「だったら、永遠にその姿でいられるようにしてあげます。」
彼女が言い終わるや発砲したかのように人差し指を上に上げる。それと呼応するかのように、彼女の眼前の戦場先のさらに先、河野地区へ青光りを帯びた巨大な稲妻が落ちた。
数刻前
「現在、“マンダ型”は“フランケンシュタイン”と交戦中。旧河野地区方面へを後退させています。」
指揮所内の地図にはどこかで買ってきたらしい龍の人形を置き、即席の“マンダ”とし、これまた“フランケンシュタイン”替わりの人形を置いて対峙させていた。
「後1時間で避難が完了すると報告が上がってきています。このまま戦闘が続けば、さらに避難に余裕が持てます。」
自治体との情報共有を担当するLO(連絡幹部)からの報告を受け、師団長は満足そうに頷く。“フランケンシュタイン”が出現した当初は押され気味の防衛隊であったが、件の“マンダ”が現れてからは地上部隊の再編や航空部隊の準備の時間が稼げていた。このまま“フランケンシュタイン”も倒されてくれれば、と言う逃し団長だけで無くこの指揮所内の総意であった。
「よし、まずは避難を最優先し、後退した部隊の補給を急がせ……」
そうした期待が入り交じる中で師団長が命令を下そうとした時、爆発のような巨大な雷鳴が響くと同時に指揮所内の電灯とパソコンが一斉に暗闇へと落ちた。
「被害状況を知らせ!」
隊員達が慌ただしく動いてからやや経った後、師団長からの問いに通信課の幕僚が答えた。
「指揮所内の電子機器が全て停止。各隊との通信も不通。先の落雷による電磁パルスかと思われます。」
「機器の復旧を急がせろ。それと各隊に伝令を派遣し被害の確認を行え!」
指揮所内はつい先ほどまでの楽観的な雰囲気を吹き飛ばされ、新たな事態に不安と混乱に呑まれつつあった。
指揮所の喧噪の中、オブザーバーとしてその場にいた黒木は思考を巡らせる。
(このタイミング、この地域で電磁パルスを起こすレベルの落雷……まさか)
その思考がまとまりかけた時、通信員から報告が上がる。
「上空のフィッターより報告!落雷はガバラに直撃し再生を開始!まもなく行動を再開する模様!」
「バカな……頭部を失っていたんだぞ……」
驚愕とも呆然ともとれる呟きを漏らした師団長達を横に、黒木は河野地区の方向を見やった。彼らの不安を煽るように雷鳴は未だに轟いていた。
「各無線端末を再起動。なるもCTP(共通戦術状況図)が初期化されています。」
「くそっ、他のシステムで使用可能なものはあるか?」
「FCCS(火力統制システム)のCTPが使用可能です。」
「よし、すぐにこちらへ回して共有させてくれ。」
停電に伴う通信システムの遮断と言うトラブルに見舞われた防衛隊であったが、対応は迅速だった。問題の発生した通信システムそのものの復旧ではなく、健在であった別の通信システムから友軍等のデータを移行させて戦闘能力の維持を図ったのだ。
「……黒木三佐、この状況をどう思う?」
指揮所内の混乱が収まりつつある中、師団長はそう問いを投げ掛けた。“マンダ”と“フランケンシュタイン”の戦いが決着付かない今、新たに出現した巨大生物への対処に意見を求められるのは当然であった。この発言でこれからの方針が決まる。そう黒木は一回息をつくとゆっくりと口を開いた。
「……大前提として、巨大生物たちは各々で争う傾向にあります。ですが、今回は既に2体の巨大生物が争っている状態にあります。」
そうして、黒木は眼前の地図に近づくと河野地区を指で指す。
「仮に、“ガバラ”に昨日の戦闘での記憶がある場合、このまま“マンダ”を襲う可能性が高いでしょう。」
仇討ちの可能性、黒木の指摘に指揮所内の幕僚がうなる。
「しかし、そうなると“フランケンシュタイン”がこちらに向かってくる可能性があるか……」
「はい。それを踏まえて、我々は“ガバラ”を対処します。」
黒木は幕僚からの返答を待っていたかのように答えると、指先を動かす。
「まず、残存しているフィッターからのCASを実施。背面への攻撃であれば有効な打撃が出来るでしょう。続いて特科による射撃で遅滞させ、最後に近衛師団のグリペンでとどめを刺します。」
航空機と火砲の火力による制圧。復活した“ガバラ”能力が分からない以上、この策が最も湯港であることは疑う余地はなかった。
「“ガバラ”、行動を再開。」
指揮所にそう報告が上がってきた。もはや時間は無い。師団長は淡々と指示を下した。
「“ガバラ”を敵対的巨大生物と判断。これを撃破する。」
2体の巨大生物が争う戦場のその先、復活した“ガバラ”は先ほどの落雷を帯電させているのか、青白い光を放っていた。この世ならざる光景の遥か上空、高度30,000フィートから2機のSu-22M7“フィッター”が接近してきていた。
燃料の乏しい両機は打ち合わせ通り、JTACの誘導を受けて攻撃態勢に入った。
〈Little woods2-1 bombs away.(こちらリトルウッド2-1。爆弾を投下した。)〉
それぞれ最後の1発になっていたLJDAMを投下し、2機はそのまま回避行動に移った。JTACはレーザー誘導装置を“ガバラ”に指向させる。そのまま2発のLJDAMは、JTACの誘導により青白い光を放つガバラに吸い込まれた。そして、LJDAMの500ポンド爆弾の爆発はガバラを大きく飲み込んだ。
仕留められる確率は低いが、過去の戦訓から足止めには十分な威力となる筈だった。しかし、その爆炎が晴れた後の“ガバラ”は全くの無傷であった。
〈JTAC。こちらCP。ただ今のBDA(戦闘効果判定)を報告せよ。〉
「……CP。こちらJTAC。LJDAMは至近弾となるも、目標は健在、なおも前進中。第二次攻撃の要ありを認める。」
現場にて観測していたJTACは苦虫をかみつぶしたように報告を上げ、さらに続けた。
「目標は帯電しており、LJDAMの信管を早爆させた可能性あり。留意されたし。」
先の攻撃時、観測していたJTACの目には着弾直前のLJDAMを稲光が飲み込む瞬間が見えた。見間違えでなければ、“ガバラ”は近距離であっても防空能力を持っていることになる。今後の彼らにとっては重要な情報であった。
指揮所ではガバラへの空爆の報告を師団長が黙して聞いていた。ダメージを与えられなかったのは想定外であったが、攻撃前に撃墜される状況よりもマシだったと言えた。やや間を置いて、師団長は幕僚と最後に黒木を見て下令した。
「直ちに特科による遅滞戦術を実施。同時に近衛師団にCASを要請。」
指揮所からの指示を受け、特科部隊所属の21連装ロケット砲車からロケット弾が発射された。3両編成の小隊が3つ、それぞれタイミングをずらして放たれたそれは、“マンダ”と“フランケンシュタイン”の頭上を飛び越え、“ガバラ”へ吸い込まれていく。計189発のロケット弾は、最初こそLJDAMの時と同じく早爆したものの、爆発によって出来た隙間から“ガバラ”に命中していく。
自身の防御が突破された驚きか、それとも多数のロケット弾での攻撃による痛みか、“ガバラ”は両手を掲げて大きく吠えた。その直後、“ガバラ”から一層激しい閃光が放たれると共に両腕を地面に叩きつけた。すると、“ガバラ”の前方に向かって巨大な稲光が走り、残りの飛翔中であったロケット弾を全て早爆させ、そしてそのさらに前方で戦っていた2体の巨大生物を巻き込んだ。“マンダ”と“フランケンシュタイン”の2体とも、横合いから来た予想外の攻撃に吹き飛ばされ、痺れたかのようにそのまま倒れ伏せてしまった。
“ガバラ”による巨大な雷撃は範囲こそ狭いが、周囲に大きな被害を与えた。雷によって発生した火災の中で“ガバラ”は先ほどよりもさらに大きく吠える。その光景はまさしく地獄のような光景であった……