怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
つい先程まで青々と生い茂っていた草木が燃える中、“ガバラ”の青い巨体が悠然と歩いて行く。途中、特科の155mmりゅう弾砲の砲撃が降り注ぐ。だが、自身の全長と同じ高さで炸裂するそれを“ガバラ”は鬱陶しげにするだけで全く意に介することなく、“マンダ”と“フランケンシュタイン”のいた戦場に辿り着く。
先程まで戦っていた2体の怪獣は“ガバラ”による電撃の直撃を受けたことにより、痙攣と共に倒れ伏せていた。“ガバラ”はそのまま“マンダ”の元へ向かうと、左足を上げて“マンダ”の頭部を踏みつけた。“マンダ”は悲鳴の入り混じったような叫び声を上げたが、“ガバラ”は何度も踏みつける。その姿は先の戦いの鬱憤を晴らそうとしているかのようであった。
やがて、うめき声も上げられなくなった“マンダ”の首を“ガバラ”が無造作に掴み上げた時、ようやくマヒから復活した“フランケンシュタイン”が嬉々として向かってくる。先程まで自身が押されていた“マンダ”への復讐を意図したのか、“マンダ”へと手を伸ばそうとするが、“ガバラ”は先ほどよりも小さい電撃を“フランケンシュタイン”の足下へ放つと、先へ行くよう促すかのように手で払った。
“フランケンシュタイン”は仕方なしに先──日高川の下流──へと体を向けた瞬間、複数の爆発がその巨体を襲う。そのまま倒れ伏した“フランケンシュタイン”の頭上を素早く影が2つ抜けていく。やや小ぶりの機体に大型の主翼と
その隙を“マンダ”は逃さなかった。グリペンを狙おうとした“ガバラ”の手が僅かに緩んだ瞬間、拘束が抜け出し“フランケンシュタイン”にトドメを刺そうと遅いかかろうとする。しかし、ダメージの蓄積していた“マンダ”の動作は素早さに欠け、それよりも速く“ガバラ”の電撃が直撃する。再び倒れ伏した“マンダ”へさらに2体の怪獣から追撃がかけられる。
先ほどとは全く真逆の状態に“マンダ”は追い込まれていた……
同時刻
「親父……お袋……」
軍用機特有の薄暗い機内の中、座席に座り込んだ旗中進二の呟きがヘリのローター音に混じって僅かに聞こえる。山根はそれを横目に見つつ、パイロットから状況の報告を受けていた。。
先の“フランケンシュタイン”との戦闘からややあって、再びUH-60JAに回収された旗中であったが、その姿は茫然自失といった具合で、到底話せる状態ではなかった。いくら修羅場馴れしてるとは言っても、間近で
「一旦、指揮所まで戻りますか?」
その時、機長から提案が入る。どちらにせよ情報を集めなければならないし、今の状態の旗中をどうにか出来る余裕は山根には無かった。
「そうしてください。向こうの戦況も把握したいので。」
山根は二つ返事で応じた直後、背後でギシリと言う音と共に何かが立ち上がる気配を感じた。山根がその方向へ向き直ると、幽霊のように旗中が機体の振動によろめきながらこちらへと向かってきていた。
「今、戦闘はどうなっていますか…?」
「旗中く……」
山根が言い終わる間もなく、旗中はその両肩をがっしりと掴む。
その勢いにバランスを崩しそうになり、咄嗟に引き剥がそうとした山根だったが、彼の縋るような目を見て動きを止めた。
「親父もお袋もいなくなって、あいつまで……!」
「分かった。だから、まずは君が落ち着きなさい。旗中進二君。」
山根はそう言って、旗中の目をじっと見る。最初は震えていた瞳が次第に収まっていく。やがて、山根の両肩に掛かっていた力が抜けるのを感じると、旗中の両手をゆっくりと降ろさせた。
「……すいません。」
「良いんだ。気にするな。」
山根はそう言って旗中を座らせると、今の状況を掻い摘まんで説明した。
「つまり、今向こうには3体の怪獣がいて、たつ…マンダが2対1で押されていると?」
「断片的な状況を聞く限りはそのようだね。これから指揮所に戻って情報を精査したいと思う。」
山根がそう言うと、旗中は黙り込んでしまう。これはよからぬ事を考えているな、山根は直感的に感じとった。
「何とか現場まで……」
「ダメだ。危険すぎる。」
旗中が言い終わる前にぴしゃりと言う。山根の直感が当たり、ついため息が漏れてしまう。
「最後まで言わせて下さいよ。」
「だいたい向こうまで行ってどうする?さっきみたいに1体を抑えるのとは訳が違うんだぞ?」
山根はやや間を置いて、それに、と続ける。
「それに君の話と合わせれば、“彼女”とあの河野地区を破壊した巨大生物は同一だ。今はそれどころじゃないが、政府や防衛隊も敵対的巨大生物に指定する可能性が高い。これ以上は危険だ。」
山根はそう言った後、旗中の目に怒りが灯っている事に気付いた。その時、山根はしまったと後悔したが、既に旗中は口火を切っていた。
「何なんですその言い草は!?昨日俺を焚き付けたのは誰ですか!?利用だなんだと言って、俺をここまで連れてきて、その上あいつが危険だなんだって言って諦めさせようとする!滅茶苦茶ですよ貴方は!」
旗中は勢いに任せて言った後、侮蔑した笑みを浮かべる。
「じゃあついでに教えてあげますよ。俺達の前に現れた怪獣。あれは俺の親父とお袋ですよ。あんた達が攻撃する直前、あの怪獣は俺を見た。あの目は殺される時のお袋の目だった。親父はお袋は怪獣として蘇ったんだ。それをあんたらが殺したんだ。」
錯乱とも自棄ともとれる言動。しかし、山根はその言動に引っ掛かりを覚えた。否、覚えてしまった。
「今、なんて言った……?」
「だから、蘇ったんだって……」
「そう、蘇り!“不死の心臓”だ!」
思わずキョトンとした旗中を尻目に山根は何事かまとめ始める。なぜここで気付いたのかと後悔したが、一瞬の事であった。
「第2次大戦時にドイツから運び込まれた不死の心臓、確か高い再生能力があったはずだ。そう言われてみれば、彼らは耐えてたんじゃない。“再生”していたんだ。なぜ気付かなかったんだ。……だとすればなぜここで巨大生物に?いや、それよりも対処法だ。生半可な攻撃はむしろ危険だ。一撃で消し去るレベルの攻撃が必要になる。確かメーサーが展開しているんだったか。だとすると……」
延々と独り言を呟いていた山根は、やがて、旗中の方を向いた。
「旗中君、彼女も何とかなるかもしれない。」
大人は怖い。その姿に怒りも何も消えてしまった旗中はそのような感慨を抱いてしまったのであった。