怪獣の方舟~The Earth of Monster~ 作:わいえす!
そんな、新しい発見をするのも良いものですね。
旗中達を載せた車は山へと近づいていき、やがて家々が立ち並ぶ集落が現れた。
「この辺りは、もう岩屋村です。」
魚崎がそう説明する。目的地はもうすぐなのだろうと思っている。そう思った矢先、車の速度が段々と遅くなる。と、同時に魚崎の声。
「あれ?村の人達が集まってる。どうしたんだろ。」
後部座席から2人が前を覗き込むと、確かに十数人ほどの人々が集まっている。彼らは運転席に魚崎がいることぎ分かるとこちらへ向かってきた。
「村長さん。隣街で怪獣が出たって言ってるけど、祭りはどうするんだ?」
開口一番、彼らは同じようなことを口々に言う。どうやら、祭りを開催するかの是非が気になったようだ。
魚崎は、祭りは来週が本番ですからとなだめるが、あまり効果はないようだ。とうとう困り果てたのか、魚崎は旗中達にこう伝えた。
「すいません。私は村の人達に説明しないといけないんで、先に行ってて貰って良いですか?終わったらすぐに追いつくので。」
あそこを登ったらすぐなので、と魚崎は少し先にある坂を指差す。どうやら、山の中腹に繋がっているようだ。
「えーと……どうします?」
最初に反応した旗中が2人の反応を見る。彼本人は歩くことに忌避感はないのだが、龍女と何より西部の事が心配になったのだ。
「貴方様と一緒でしたら何所までも♪」
「すぐって言うし良いんじゃない?」
2人がそれぞれ反応を口にする。それを踏まえて旗中が代表して歩いて行くことを伝えて、車を降りる。
「さぁて、久々の山登りだぁー」
西部がそんなことを言う。果たして彼はきちんと山を登れるのだろうか?そんな懸念が旗中の脳裏に浮かんだ。
~10分後~
「遠い…遠いよ……」
懸念は的中した。山道は参道として整備されており比較的歩きやすいものではあったが、それでも西部にとってはキツかったらしい。
「前もそんな感じで真っ先にダウンしてたんだから、良い運動になりますよ。」
旗中はカメラを向けながら、そんな返しをする。西部の様子を見かねて、カメラマンを変わったのだ。最も、旗中にしては渡りに船だったが。
「それにしても、村長さんと言うのは大変ですねぇ……あんなに人に囲まれてしまって……」
疲れた様子を微塵も感じさせない龍女が、持参してきた虫除けスプレーを手で遊びながら呟く。これは山に入る前に全員にかけていたものだ。
「本人が大丈夫大丈夫って言ってたんだから、大丈夫なんじゃない…?」
この中で1番大丈夫そうに見えない西部が息も絶え絶えに答える。
「でも、村の掟に背いたーって事で刺されたり……」
「いや、サスペンスじゃあるまいし。それは考えすぎだろ……」
アクロバティックな事を言い始めた龍女に、旗中がツッコミを入れる。世間は狭しといえども、殺人事件がホイホイ起こる世の中は勘弁願いたい。
龍女はまだ何か言いたげであったがふと正面を見上げた瞬間、彼女は足を止めた。
「あら?誰かこちらに向かってきていますね。」
その言葉を受けて、旗中もカメラを正面に向ける。確かに片手を振りながら小走りで近づいてくる。
最初に目に付いたのは服装だった。白の小袖に赤の袴、紅白の姿をしたその姿はまるで……
「巫女?」
「巫女さんだ…」
「巫女さんですね」
旗中、西部、龍女がそれぞれ声に出す。年齢は高校生くらいであろうか、その巫女はこちらに駆け寄ってくるとようこそお越しくださいました、と深くお辞儀をした。
「初めまして。私、ここの岩屋神社で巫女をやっている瀬良明日香と言います。東京から来られた方達ですよね?山道は辛くなかったですか?」
「いえ、この程度の道なんてへっちゃらです。」
先程までの姿は何所へやら、明日香と名乗った少女の問いかけにキリッとした表情で答える。その様子に旗中と龍女は内心、嘘つけとツッコミを入れた。
「あ、僕は西部と言います。東京のテレビ局で働いてます。」
背後の感情はいざ知らず、西部が自己紹介と同時に名刺を渡す。明日香は名刺を見るのが初めてだったらしく、よろしくお願いしますとそれを受け取った後、興味深げに太陽に透かしてみたり、軽く曲げたりしていた。その光景を3人は微笑ましくしばらく見ていたのだが、その視線に気づいたのか、慌てて名刺を後ろ手に回し、恥ずかしげに笑った。
「あはは…ごめんなさい。つい気になっちゃって…」
その姿に苦笑しつつ、旗中達も自己紹介をする。
「えーと、モンスターQ.netの旗中進二です。珍しいお祭りがあると言うことで、東京から来ました。」
「旗中進二親衛隊の河野龍女と申します。短い間ですが、お世話になります。」
こちらの自己紹介を終えて、明日香が再び頭を下げる。
「はい、改めてよろしくお願いします……ん?親衛隊?」
「気にしなくて大丈夫です。勝手に言ってるだけなので。」
何事か言おうとした龍女の口を塞ぎながら旗中が答える。
「じゃあ、ここで話すのもなんですし、神社の方に向かいましょう。」
明日香もそれ以上は言及することなく、彼女が来た方向へと歩き出した。
さらに歩くこと5分。目の前に大きな木製の鳥居が現れる。その先にはさらに一軒家が三軒分あるであろう大きさの拝殿が見える。
「…意外と大きいんですね。」
龍女が、旗中が感じていたことを口にする。
「えへへ、小屋みたいな所をイメージしてました?うちの神社はちょっと大きいのが自慢なんです。」
誉め言葉と受け取ったのか、明日香が自慢気に言う。確かに有名な神社ほど大きくはないが、それでも山中にあることを考えれば大きいと言えるだろう。
彼らが神社をくぐると、参道の左手に神楽殿、右手に社務所、と言った具合に施設が現れる。早速、旗中達が参拝の通りに、神楽殿の手前にある手水舎で清めていると、明日香が社務所の方から女性を一人連れてくる。
「この神社の神職を務めております、瀬良小百合と申します。娘がご迷惑をかけませんでしたか?」
「どうも、東京のテレビ局でディレクターをやっている西部と言います……瀬良?」
言い終わるや否や西部が挨拶をするが、何かに気づいたようではたと止まる。
「もう、お母さんったら変なこと言わないでよ。あっ後ろの二人が旗中進二さんと河野龍女さん。やっぱり泊まるのは三人だって。」
「はい、旗中進二と言います。今回はよろしくお願いします。」
「河野龍女と申します。しばらくお宿をお借りいたします。」
旗中が挨拶すると、龍女もこれに続いた。西部は若干後づさりした後、「お母さん…?」と独白している。
(それにしても…)
“泊まるのは三人”か。恐らく龍女が付いて来るのを見越して先方に直接伝えていたのだろう。現場に丸投げする割には面倒事が起こりそうなときはしれっと介入する。
(本当に食えない人だな…)
旗中は、これを伝えたであろう門倉に内心ごちた。
「おーい」
その時、鳥居の方から聞き覚えのある声がする。その方向に顔を向けると、魚崎が小走りで向かって来ていた。村人をなだめ終わらせてきたのだろう。
「あら、健三さん。おかえりなさい。村の人たちに捕まってたと言ってたけど…」
「いやぁ、お祭りはちゃんとやるって繰り返し言って、やっと帰ってもらえたよ。小百合さんの所にも来たんじゃない?」
「ええ、こっちにも何人かいらしてたわ。でも、不安なるのも仕方ないんじゃないかしら。年に一度のお祭りだからって皆さん張り切ってたし……」
魚崎と百合の間で、会話が弾む。どうやらただならぬ関係のようだ。一方の西部は、
「おかえりなさい…?」
完全に思考が停止していた。アニメだったら全身が真っ白になっているに違いない。
「あの…西部さんは大丈夫ですか…?」
明日香が心配げに聞いてきた。
「放っとけば治りますよ…多分」
とりあえず、旗中はそう答えておく。戻ってこなければはたいておこう。
そう考えた後、旗中は視線を周囲の人々から景色に切り替える。7月の空は青く、遠くには入道雲が見える。そして辺りを囲む山々は緑一色に染まっている。しかし、僅かな違和感。
(少し、風が冷たいからか…?)
ここも一応山だからであろうか、麓よりも僅かに肌寒い気がした。