星のかたちの白い花   作:西風 そら

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「婚礼の夜にフラフラ出歩いて、崖から落ちたとか。どこまでも愚かな娘…… あ、いや、長殿の娘御は違いますぞ。あのような娘と似ていると言われるだけでも不愉快でしょうが。

 だがあれ以来、シルフィスキスカが部族に寄り付かなくなって、困っていたのです。生きた体温のある娘と触れ合えば、意固地も溶け出すだろうと。息子に説得させて無理矢理引っ張って来た甲斐があったというもの」

 

 周囲が黙ってしまうと、うしろめたい者は、それを覆い隠す為に饒舌になる。

 この男性も、自分が何かをしくじったという自覚はあったのだろう。

 『何を』しくじったのかまでは分かっていないが。

 

 

 

 ***

 

「リィリヤの手の中に、草と土が握られていた」

 氷の壁に手を沿えて、青年はポツンと言った。

 

「崖から墜ちた時、しがみつく間があったんだ。その時きっと僕の名を呼んだろう。聞こうと思えば聞こえた筈なんだ。でも僕は耳を塞いでいた。大人達の言うように、僕は僕の血統を守り、リィリヤは他所に嫁いだ方が幸せになれると、無理矢理思い込もうとしていたから」

 声は抑揚なく、最後まで棒読みだった。

 

「最初、君に出逢った時……リィリヤが三股の槍を持って、今度こそ僕に罰を与えに来てくれた……と、思ったんだ」

 

 リリの指が上がって、彼の肘に触れた。

「それで、貴方は、周囲に気遣う事を、やめたのね」

 

 青年は黙っていた。

 

「大人達の決め事など蹴飛ばして、リィリヤを妻にしたいと、思いきり叫びたかったのね」

「…………」

 

「誰はばかることなく、リィリヤを抱きしめたかったのね」

「…………」

 

「リィリヤを、攫(さら)って、逃げてしまいたかったのね」

 

 青年は俯(うつむ)いて、小さく頷(うなず)いた。

 

「あとは、何がしたいの?」

 

 青年は顔を上げた。

 リリの紫の瞳が、真正面から彼を見つめていた。

 

 

 

 ***

 

「私の娘の事は、彼女自身が決めます。私は口出ししません。あの子を信頼していますから」

 ナーガが、ようよう言葉を発した。

 

 抑えていても、声の震えを隠す事が出来なかった。

 この男性の感覚が風波の標準だとしたら、里の娘達が心配だ。今、建前とはいえ、縁談を前提に交流させている。

 宜しくない。彼女達は自分を信頼して、よく知りもしない部族との見合いに応じてくれたのだ。

 

 男性は、さすがにナーガに不信を抱かせている事を自覚した。

「いやいやいや、蒼の長殿、私どもに誤解があるようですが、本当にああするしかなかったのです。リィリヤがたとえマトモな娘でも、シルフィスキスカとの婚姻は認められなかった。血が近すぎたのです。近いも近い、この世で一番近い間柄。双子の兄妹だったのですから」

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「僕たちは、二つに割れて、地上に墜っこちた林檎なんだ。だから、ほら、こんなにも呼び合って、こんなにピッタリ合わさる」

 シルフィスが、リリの肘に腕を絡めて引き寄せる。

 

 

 

 

 

 ***

 

 執務室の二人は黙ってしまった。

 さっきまで風波の部族に凄く酷い印象を持っていたナーガとユゥジーンだが、ちょっと悪かったかな、と思えてきた。

 ナーガだって、蒼の里でそんな事が起こったら……困る。

 とにかくそれは、とても困った事なのだ。ヒトの心ばかりは理屈ではどうしようもない。

 

 

 外のデッキから、見習い少年の呼ぶ声があった。

 

 ユゥジーンが出てみると、ホルズの末娘、ウサギ頭のピルカが、小さな革鞄を両手で持って立っている。

「これ、ヘイムダルさんのかしら? 宴席に残っていて、誰の物でもないっていうから」

 

「あ、僕のです。ありがとう」

 ヘイムダルは慌てて横から手を出して、鞄を受け取った。

 

「風波の他の皆さんは、お宿の方に移動しました。ヘイムダルさんは?」

 娘はちょっと渡すのを遅らせながら、聞いた。

 

「俺が後で案内して行くよ」

「そう……はい」

 

 ユゥジーンに言われて、ピルカは残念そうにお辞儀をして去りかけた。

 が、意を決したように顔を上げ、風波の青年を振り向いた。

「あの、さっきお話していた私の自慢の刺繍。見たいって仰ってくださったでしょう? 後で必ず宿舎に持って行きますから、見て下さいね」

 

「あ、ああ……」

 風波の青年は、遠慮がちにナーガを見た。

 

「是非、見てあげて下さい」

 ナーガは目を丸くして答えた。色んな意味で驚いたのだ。

 

 これで終いかと思いきや、娘はもう一度ナーガを驚かせた。

 二,三歩歩いた後、首を横に振りながら戻って来たのだ。

「ああ、やっぱり言わなくちゃ。失礼は後で罰して下さい。ひとつだけ、聞いて頂けないでしょうか」

 

「??」

 世話役の男性も、ヘイムダルも、驚愕の表情だ。多分彼らの部族では、女性がこんな風に割って入って自分の考えを言うなんて、あり得ない事なのだろう。

 

「いいですよ」

 ナーガが優しく答えたのも、彼らには驚きだった。

 

「あの竜が去ってから、他の風波の方々に、シルフィスさんとリィリヤさんの事を聞きました。それで、皆さんが口々に話す事を繋ぎ合わせて思っただけだから、的外れかもしれないけれど……」

 

「話してください、聞きたいです」

 ナーガは静かに言った。

 

 

 

 




***兄妹・姉弟での婚姻***
 このお話の世界では正確な遺伝学は確立されていませんが、
長い歴史の『経験則』からNGとされています。


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