愛屋及烏 / 依依恋恋   作:哀餓え男

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見切り発射その2~( ・ω・)


第二話 出会い(裏)

 面倒だ。

 ああ、面倒だ。

 面倒臭い。

 字余り。

 と、電車の窓から見える景色を眺めながら一句(うた)ってしまったのは、あたしこと暮石 七郎次(くれいししちろうじ)

 何を隠そう、明治維新の頃から続く由緒正しき? 暗殺者一家の後継ぎ候補である。

 あ、ちなみにもう一人の候補は、六郎兵衛(ろくろうべえ)と言う名の兄。

 兄妹揃って古くさい名前だろう?

 しかもあたしの場合は、女なのに七郎次だ。

 いくら名前に頓着(とんちゃく)しないのがうちの家系の特徴の一つとは言え、せめて性別は気にしてよ。

 いや、代を重ねるごとに、◯郎の◯の部分の数字が増えていく変なこだわりはあるわよ?

 あるけれど、やっぱり女の子の名前で七郎次はない。せめて、(なな)で終わってほしかったわね。

 

 「まあ、気にしてないけど」

 

 心の中で愚痴りながらも、結局はどうでも良いかと思えてしまうのは血筋なのかしら。

 ちなみにあたしは今、東京駅へと向かっている真っ最中。

 (とと)様の常連……って、言い方で良いのかはわからないけど、とにかくお得意様である(たける)おじ様から紹介された依頼人と会うために、あたしは電車に揺られて本州の端である山口県から、遥々東京駅まで向かってるってわけ。

 でも……。

 

 「仕事、しとぉない」

 

 本当にしたくない。

 働きたくない。寝て過ごしたい。食っちゃ寝して一生を終えたい。

 仕事に就く関係で、学校を無期限で休めることに内心喜びもしたけど、正気に戻った今は学校に通ってた方が楽だったと後悔してる。

 と言うか、あたしが働く必要ってある?

 だってうちの家って、金だけは有るのよ?

 何故なら、使わないから。

 これもあたしの一族の特徴の一つなんだけど、とにかく欲が薄い。

 物欲はもちろん、食欲、性欲、睡眠欲等々、普通の人が常日頃から我慢と発散を繰り返して制御している欲求が希薄なの。

 必要最低限の衣食住にしか金を使わないから貯まる一方。人からすれば、無いんじゃないかって言いたくなるほどだそうよ。

 

 「ああじゃけど、曾祖父(ひいじい)様の頃は……」

 

 日々の食事が報酬だったんだっけ。

 暮石家の開祖である弥一郎(やいちろう)の頃から曾祖父様の代までそれだったってんだから、呆れちゃうわね。

 爺様までそんなだったら、暮石家は断絶していたかもしれないわ。

 

 「いや、いっそその方が……」

 

 良かったんじゃないかしら。

 だってうちの一族は、先に言った通り暗殺を生業(なりわい)としている。赤の他人の命を、金と引き換えに奪って飯を食ってきた畜生にも劣る一族よ。

 そんな人非人(にんぴにん)の一族なんて滅びれば良い。続くべきじゃない。

 と、あたしが普通なら本気で考えて、自分の首をかっ切ってるなりしてたんじゃないかな。

 

 「しないけどね……っと」

 

 いけないいけない。

 私が独り言を言ったもんだから、対面の席に座ってた人に変な目で見られちゃった。

 まあ、無理もない。

 私は表情が作れない。

 声にも、感情を乗せることができない。

 心の中では相応にはしゃいだり怒ったり悲しんだりするんだけど、それを表に出すことができない。

 父様や(あに)様のように、感情があるように振る舞うこともできない。

 暗殺者としては三流ね。

 だって闇に紛れて殺すことはできるけど、人に紛れて殺すって芸当ができないんだもの。

 特に、私の場合は息を飲むほどの美貌らしいんだけど、表情がないせいで悪目立ちして人の目を集めてしまうらしい。

 これで父様や兄様並みに感情があるフリができれば、人の目を集めることなく人混みに紛れることもできるんでしょうけど……。

 

 「どうしても、無理なんよねぇ」

 

 おっと、また声に出しちゃった。

 けどまあ、もうすぐ到着みたいだから気にしなくても良いか。

 対面の客も、降りるための準備に気をとられて聞こえなかったみたいだし……って、あたしも準備しなきゃ。

 いくら荷物がトランクケースと猛おじ様から頂いたコートだけだからと言っても、早めに降りるのに良い場所を確保しておかなきゃ人の波にながされちゃう。

 

 「ふう、なんとか揉みくちゃにされんで済んだね」

 

 さすがは帝都東京。

 と、言えばいいのか、人の数が凄い。

 これだけ人が多いと、家族以外の人を性別でしか判別できない私でも大丈夫そうね……て、アレは何?

 改札を抜けるなり目に飛び込んできた、真っ白い服を着て柱に背中を預けている男は何者?

 ああ、そうだ、依頼人だ。

 たしか猛おじ様が、白い服を着て軍刀を提げていると言ってたから、あの男が依頼人で間違いない。

 それは良いんだけど……あの人、正気?

 だって、彼から見て左斜め前方には老婆に変装した殺し屋。その反対側には、女と子供の殺し屋。

 都合三人の殺し屋に狙われているのに、浴びせかけられている殺気をどこ吹く風とばかりに気にしていない。

 彼が、海軍のお偉いさんだからかしら。

 猛おじ様から聞いた話では、見た目は頼りない金持ちのボンボン然とした奴だが、幾多の死線を潜り抜けた歴戦の軍人で終戦の立役者。

 これから先、確実に歴史に名を残す英雄だったはず。

 実際、服の上からだとハッキリわからないけど、身体はしっかりと鍛えている。

 アレは昨今の武道家どもが、御大層な理念とやらのために鍛えたモノとは違う。

 生き残るために鍛えたモノ。

 だから、平然としているの?

 自分なら殺し屋が三人がかりでもどうにかできるって自信があるから、そんなにも堂々としていられるの?

 でも、そんな体勢じゃあ何もできないわよね?

 腕は組んでるし、重心は完全に柱に預けてるから咄嗟に動けない。

 

 「あ、もしかして……」

 

 あたしを試しているのかしら。

 いや、その可能性が高い。

 そうであるなら、あたしの後ろから迫り来る人の波が押し寄せると同時に仕掛けようとしていると思われる殺し屋どもが、今か今かと手ぐすねを引いているのに動こうとしないことに説明がつく。

 そうでなければ……。

 

 「ただの阿呆……じゃね。でも」

 

 どちらにしても、人の波が彼に達する前に殺し屋どもを始末しなければならない。

 もし失敗して依頼人を死なせでもしたら、兄様に何を言われるかわかったもんじゃないからね。

 

 「と、言うことで……」

 

 あたしは、()()()()()()()()()()()を置いて、早足で彼のもとへ急いだ。

 よし、ここまで人が多い場所で柳女(やなぎめ)を使ったのは初めてだけど、思ってたより上手くできた。

 彼はもちろん、殺し屋どもや他の人達まで、あたしに気づいていない。

 

「少し、借りるよ」

 

 あたしは、面食らっている彼が腰に帯びていた軍刀を一気に引き抜いて、50メートルほど先であたしが目標のそばに現れたことに慌てている老婆風の殺し屋へと振った。

 振ったは良いし、魂斬り(たまぎり)も問題なく決まったんだけど、刀が思っていたよりも重くてフラついてしまった。

 

 「な……にが」

 

 起こった? って、感じかしら。

 まあ、その反応は普通ね。

 だって、あたしが振った刀は届いていない。

 それなのに、老婆風の殺し屋は胸から血を噴いて倒れたんだから。

 もっとも、届いてもまともに斬れやしないんだけどね。

 だってあたしには、父様や兄様と違って剣術の心得がまるで無い。魂斬りの修行だって、こんなに長い刀じゃなくて短刀を使ってた。

 理由は簡単。

 あたしには、刀を振り回せるほどの筋力が無いの。一応、鍛えようとしたことはあるんだけど、父様が猛おじ様に「ムキムキの女に需要があるか! と、七十年後くらいに言ったら問題だが、この時代なら問題なし! と言うことで、この子に筋トレはさせるな!」って、訳のわからない説得をされちゃって、あたしは筋力を鍛えるのを禁止されちゃったのよ。

 

 「ふむ、やっぱあたしにゃあ重いのぉ」

 

 本当に重い。 

 肩に担ぎ上げるのも一苦労よ。

 でも、文句を言ってる暇はない。

 すでに談笑する親子を装っていた殺し屋たちが、あたしを敵と認識して殺意をあたしに向けている。

 だからあたしは、二人の方へ刀を真っ直ぐ振り下ろした。

 結果、床に当たって軽く跳ねた刀を離しちゃったけど、殺し屋二人を始末するのには成功した。

 

 「さて、とりあえずはこんなもんかねぇ」

 

 他に殺気が無いのを確認したあたしは、縦に割れた殺し屋を尻目に依頼人に振り……振り向いたんだけど……。

 やっぱ、コイツは阿呆の方だったらしい。

 血のニオイがこびりついてるから実戦経験はあるはずなのに、殺し屋がたった三人死んだだけで狼狽えている。

 そんな彼にあたしは……。

 

 「アンタ、正気かい? 命を狙われちょるのに、そんな目立つ格好してこんな場所で突っ立っちょるなんて阿呆じゃろ。あたしが殺らにゃあ、今斬った奴らに殺られちょったよ?」

 

 と、言ってしまった。

 まあ、あたしは声に抑揚がないから、嫌みっぽくは聞こえないだろうけど、初めての依頼人に対して少々失礼だったかもしれない。

 だったら、話題を変えるのも兼ねて……

 

 「ああ、自己紹介がまだじゃったね。

 アンタの護衛をすることになった暮石 七郎次(くれいししちろうじ)じゃ。気軽にナナちゃん、と呼んでええけぇね」

 

 と、なるべく可愛らしく、年相応の少女に見えるよう意識して、ついでに七郎次じゃなくてナナと呼べと釘を刺した。

 

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