愛屋及烏 / 依依恋恋   作:哀餓え男

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第二十四話 覚悟(裏)

 

 

 

 前々から思ってた事だけど、小吉は阿保だ。

 前は必要もないのにあたしを(かば)って怪我をしたし、今回は信頼を得るためかどうかはわからないけど、腕一本を犠牲にしようとした。

 まあ、それが小吉の良いところではあるんだけど、あんな戦い方をしてて、よく今まで生きてこれたものだと呆れちゃうわ。

 もっとも、応急処置だけして、龍見姉妹とちゃ……チャー……なんとかを連れて旅館に戻るなり……。

 

 「死にかけちょるけど」

 「他人事みたいに言うな小鬼!」

 「そうです! あなたが短刀の手入れをちゃんとしてなかったから、小吉様がこんなになっているのですよ!?」

 「あたしに斬らせた小吉が悪い」

 

 だから、あたしは悪くない。

 だいたい、短刀の手入れってどうやるの?

 武器なんて、基本使い捨てでしょ?

 と、言おうものなら龍見姉妹が斬りかかって来そうだからやめておこう。

 

 「まあまあ、落ち着け二人とも。幸いな事に、化膿して熱を出しただけで済んだんだから良いじゃないか」

 「良くねぇよ!」

 「そうです! だいたい、沖田殿が日頃から小鬼を注意していれば、こんな事にはならなかったのですよ!」

 「お、俺が悪いのか!?」

 

 そう、ジュウゾウも悪い。

 あたしたち暮石の人間は、世の大半のモノに興味がないのよ? いくら得物だからって、武器の状態を気にする訳がないでしょうが。

 

 「はいはい、怪我人の前で騒がない。沖田さん、申し訳ありませんが、ナナの短刀を研ぎに出して来て頂けませんか? 近くに、腕の良い研師がいますので」

 「わかった。七郎次、短刀を寄越せ」

 「嫌じゃ」

 「嫌じゃ。じゃない。それは大和中将殿から頂いた業物だろう? そのままにしといたら、もっと錆びて使えなくなるぞ」

 「丸腰になるけぇ嫌じゃ」

 

 ここには龍見姉妹だけでなく、歌もいるのよ?

 小吉を狙ってる奴が三人もいるのに、丸腰じゃあ困るでしょ。

 だいたい、錆びて使えなくなったら、新しいのを買うなりすれば良いのよ。

 

 「だったら、俺の刀を持っとけ」

 「ジュウゾウのは重いし長いけぇ使いづらい」

 「じゃあ、拳銃ならどうだ?」

 「銃なんか撃ったら肩が外れる」

 

 たぶん。

 それに撃った事もないから、持ってたって役に立たない。撃ったって、当たんないでしょうし。

 

 「ねえナナ。短刀って、どれくらいの長さ?」

 「これくらい」

 

 と言って、スカートをめくって実物を見せた。

 その瞬間にジュウゾウが目を背けたけど、今はちゃんと、小吉に買ってもらったふんどしをはいてるから見ても大丈夫よ?

 

 「あ、これってもしかして……」

 「歌殿、これに心当たりが?」

 「うん。たぶんこれ、うちの家宝」

 「おいおい。この小鬼、人んちの家宝を手入れもせずに使ってたのか?」

 「信じられませんね」

 

 そんな事を言われても、あたしにこれをくれた猛おじ様は、これが家宝だなんて一言も言わなかったもの。

 と言うか、猛おじ様は普通の人の中で誰よりも暮石家に詳しいんだから、小吉かジュウゾウあたりに忠告しとけば良かったのに。

 

 「まあ、蔵にしまいっぱなしだった物だから、ナナが持ってても問題ないわ」

 「けどよぉ。死蔵してたって言っても、歌んちの家宝なんだろ?」

 「そうだけど……。うちってかなりの現金主義だから、家宝も万が一の時の質草(しちぐさ)程度にしか思ってないのよ」

 

 はて?

 龍見の口が悪い方と歌が、妙に仲が良い気がする。

 龍見姉妹がここに来たのは、今日が初めてのはずよね? と、疑問に思ってるあたしを蚊帳の外にして、歌は「あ、ちょっと待ってて。すぐ戻って来るから」と言って、部屋から出ていった。

 

 「お待たせ。はい、これ。これなら、その短刀と同じくらいじゃない?」

 

 そして戻るなり、あたしが持ってる短刀より倍近く、長さにして二尺くらいの、黒塗りの鞘に納められた脇差し……いや、小太刀かしら。を、渡してきた。

 いやいや、どう見ても長いし……。

 

 「ちょっと、重い……かな?」

 「使えない?」

 「使えなくは……」

 

 ない。

 試しに抜いて振ってみたら、思ったよりもしっくり来た。

 もしかして、あたしの腕力が上がってる?

 昨日、小吉の腕を落とそうとした時に、短刀が妙に軽く感じたのもそのせい?

 でも、どうして腕力が……あ、たぶん、毎朝ジュウゾウに稽古をつけてたからだ。

 適当に拾った木の枝とは言え、毎日のように何かを振り回したことはなかった。

 あれのせいで、知らず知らずの内に鍛えられてたんだわ。

 でも、それってマズくない?

 だって昔、猛おじ様は「ムキムキの女に需要があるか!」って、言ってたのよ?

 だから、あたしは身体を鍛えるのを禁じられていた。

 なのに、ジュウゾウのせいで鍛えられてしまった。

 

 「ジュウゾウ。もう、あんたに稽古はつけん」

 「ちょっと待て、どうしてそんな話になった?」

 「だって、このままじゃあムキムキになる。ムキムキな女に需要はない。ムキムキになったら小吉に嫌われる。じゃけぇ、稽古はもうつけん」

 

 そう言いながら刀を鞘に納めると、何故か龍見姉妹がうちひしがれたように項垂(うなだ)れているのが目についた。

 何か、あったのかしら。

 

 「ちなみに歌殿。あの脇差し……小太刀か? 微妙な長さだな。に、銘は?」

 「え~っとたしか、勢州桑名住村正(せいしゅうくわなじゅうむらまさ)

 「い、今なんと?」

 「だから、勢州桑名住村正。そんな変な顔して驚くほど、凄い物なの?」

 「凄いなんて物じゃない! 勢州桑名住村正の村正とは、かの徳川将軍家に不幸をもたらした妖刀・村正のことだ!」

 

 ふぅん、妖刀か。

 だから、変な邪気を帯びてるの?

 

 「ま、まさか、七郎次が錆びまみれの雑菌まみれにした短刀も……」

 「あ、そっちは村正じゃなかったわ。繁慶( はんけい)って書いてあった」

 「これまた名刀! 繁慶ってお前……徳川家に召し抱えられていた刀工だぞ!」

 

 知らん。

 興味もない。

 でも、ジュウゾウが(よだれ)を垂らしそうな勢いで見いってる様を見るに、どちらも相当良い物のようね。

 だったら……。

 

 「欲しいんなら、ジュウゾウにあげる」

 「良いのか!? いや、いやいやいやいや! 受け取れん! 俺程度の腕じゃ不相応だ!」

 「じゃったら、そんな物欲しそうな目で見んで」

 「わ、わかった。ただ、一つ頼みたいことが……」

 「何?」

 「繁慶の方は研ぎに出してからだが、戻ってきたらその二本の刀の手入れを、俺にやらせてくれ」

 

 え? 手入れをしてくれるの?

 それは願ったり叶ったりね。

 あたしは手入れの仕方なんて知らないし、面倒臭い。

 しかも一本増えちゃったから、余計にでもしたくないもの。

 

 「ええよ。あ、あと、こっちの長い方の(こしらえ)を変えれる?」

 「できるが……今のままじゃ駄目なのか?」

 「如何にも日本刀ですって見た目が気に入らん」

 「わかった。手配しておこう。白鞘なら良いか?」

 「うん。それでええ」

 

 あたしが答えながら短刀を手渡すと、ジュウゾウは「じゃあ行ってくるから、油屋大将のことは頼むぞ」と、言い残して出ていった。

 頼まれたのは良いけど、何をすればいいのかしら。  

 頭に乗せてる濡れ手拭いを、水でまた濡らせて乗せればいいのかな?

 

 「ちょっとナナ! せめて搾りなさいよ! 小吉お兄ちゃんが水浸しになっちゃったじゃない!」

 「しかも折らずに、顔全体に被せやがったぞコイツ。あれ、もしかして息ができないんじゃね?」

 「もしかしなくてもそうです! どきなさい小鬼! 私がやります!」

 

 だって、ジュウゾウに頼まれたんだもん。

 看病なんてしたことないあたしに頼んだジュウゾウが悪いのに、どうしてあたしが怒られないといけないの?

 

 「ったく、小鬼がそばにいたら、小吉の大将は早死にしちまうぞ」

 「そうですね。小吉様が女を囲いたいと言い出しても、小鬼だけは排除しないと」

 「なんで、アンタらにそんなこと言われにゃいけんの?」

 「小吉の大将がオレらの婿だからさ」

 「故に、あなたは用済みです」

 

 小吉が龍見姉妹の婿?

 あ~……そう言えばそんな話をしてたようなしてなかったような……。 

 でもどうして、小吉が龍見姉妹の婿になったら……。

 

 「なんで、あたしが用済みになるん?」

 「そりゃあ、オレらの方が強いし、胸もあるからな」

 「婿殿には二人同時に相手をしてもらうため、龍見家には閨での作法や精力剤の作り方も伝わっています。なので、夜の方も必ず満足させる自信がありますので」

 

 いや、意味わかんない。

 二人があたしよりも強いかはさておいて、どうして胸が大きいと良いの?

 ネヤデノサホウって何?

 セイリョクザイ?

 どちらも聞いた事がない言葉だけど、歌が顔を真っ赤にして「わ、私も教わろうかしら」って言ってるのを見るに、たぶんまぐわいに関することでしょう。

 でも……。

 

 「それで、どうしてあたしが用済みなん?」

 「なんで、今のでわかんねぇんだよ」

 「おやめなさい地華。暮石の者は頭がおかしいですから、きっと遠回しな言い方では伝わらないんですよ」

 「いやいや、メチャクチャ直球だったじゃん」

 

 わかってるわよ。

 だからさ、そんな憐れんだような目で見ないでくれない? えぐりたくなるから。

 

 「アンタらも、小吉と寝たいんか?」

 「そ、そりゃあ……な。本当は籍を入れてからが良いけど、小吉の大将がしたいって言うなら……」

 「私たちも望むところです」

 「小吉の得物がこれでも?」

 

 と、言ってから、あたしは小吉の布団を足元から腰まで(めく)った。

 けど……。

 死にかけてるからか、いつもの元気がないわね。

 触ったら元気になるかしら。

 

 「お、おい、小鬼。何してんだ?」

 「起たせよる」

 「た、起たせるって、何をですか?」

 「小吉の……あ、これ」

 「ちょ……! なんだよこれ!」

 「ふんどしの上からでこれですか!? え、どうしましょう、地華。こんなの、私……」

 「お、怖じ気づくなよ姉ちゃん! 大丈夫だって! 小鬼の短刀よりは短……って、おい、やめろ小鬼。ふんどしに手をか……けぇぇぇぇぇ!? や、やだ、怖い! 姉ちゃんオレ、こんなの無理だよぉぉぉ!」

 「私も無理です! こんなのを入れられたら、身体が裂けてしまいますぅぅぅぅ!」

 

 思い知ったか龍見姉妹。

 さあ、このそそり立つ小吉の得物を見ながら、もう一度さっきの台詞を言ってみなさい。

 言えないでしょ?

 あたしだって、こんなのを突き付けられたら「勘弁してください」って言っちゃうだろうし、歌ですら「む、昔見たのと違う。昔はこんなに、凶悪じゃなかった」って、言いながら襖まで後退して、身体をガタガタと震わせるくらい凶悪なの。

 小吉とまぐわうなら、これと向き合う覚悟がいるのよ。

 

 「ほれ、さっきの台詞をもう一度言うてみぃ。ほれ、ほれ」

 「揺らすな! 叩いて揺らすのをやめろ小鬼!」

 「ちょ、こっちに向けないで! 嫌ぁぁぁぁぁ! 助けて父上! 父上ぇぇぇぇ!」

 

 ふむ。

 これは中々良い。

 散々、あたしに好き放題言ってた龍見姉妹が身を寄せ合い、涙まで浮かべて震えている様を見るのは気分が良いわ。

 

 「わ、わかった! もう言わねぇ! 言わねぇから、それをしまってくれ!」

 「よう聞こえんなぁ。ちぃとここで、ネヤデノサホウとやらを披露してくれんかね。な? 歌も知りたがっちょったし」

 「知りたくない! 前言を撤回するから、早くしまってよナナ!」

 「そ、そうです! そのままでは、小吉様が下半身だけ風邪を引いてしまいます!」

 「やっぱり聞こえんなぁ」

 「こんのクソ小鬼! いい加減にしないとぉぉぉぉ!? ごめんなさい! 謝るからこっちに向けないで!」

 

 勝った。

 見てますか? ご先祖様。

 何がどうなって龍見家と殺し合ったかは知らないし興味もないけど、仇はとりました。

 命までは奪ってないけど、二人とも泣かせたんだから良いわよね。

 まあ、それはそれで良いとして、改めて見ると本当に凄いわね。

 なんか、前見たときより長いし、太い気がする。

 しかもちょっと叩くだけでビヨンビヨン跳ねるし、心なしかビクビクしてる気もする。

 

 「ナ、ナナ、そろそろ叩くのはやめた方が……」

 「なんで?」

 「なんでって……その、出ちゃうかもしれないから」

 「何が?」

 「何がって……。地華さん、お願い」

 「オレに振るなよ! 姉ちゃん頼む!」

 「私!? 面倒ごとばかり押し付けないでください!」

 

 三人の言ってることがよくわからない。

 歌が言うことを信じるなら、このまま叩き続ければ何かが出るのよね?

 小便でも出る……おぅふ。

 

 「おま、お前ぇぇぇぇ! だから、だからやめろって言っただろうがぁぁぁ!」

 「噴火……あれは噴火……いえ、量を考えたら洪水? どちらにしても、お腹の中であんな事が起きたら……」

 

 のかと思ってたら、違うものが天井まで噴き出した。

 なんだろう? これ。

 白くてネバネバしてる。

 それに、独特のにおいがするわ。

 三人に聞いたらわかるかしら。

 ああでも、歌は失神したっぽいし、龍見姉妹は歯の根も合わないほどガタガタ震えて怯えてるから、答える余裕は無さそう。

 あ、でも都合が良いことに、ジュウゾウの気配が近づいてる。

 

 「思ったより近かっ……」

 「ねえ、ジュウゾウ。これ、何が起こったの?」

 「それは俺の台詞だ。どうしてこうなった?」

 

 はて?

 同じ男であるジュウゾウにもわからないの?

 じゃあこれは、小吉特有の症状?

 そんな疑問が解消されないまま、あたしたち四人は、「掃除をするから出ていけ」と言うジュウゾウによって、部屋から追い出された。

 ただ、あたしたちを追い出したあとにジュウゾウが「何の罰ゲームだ、これは……」って、ボソッと言いながら絶望してたのが、ほんの少しだけ気になったわ。

 

 

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