愛屋及烏 / 依依恋恋   作:哀餓え男

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第二十五話 夜会(表)

 

 

 

 おかしい。

 予想外の発熱による失神から立ち直ってからと言うもの、女性陣が目を……正確にはナナさん以外の女性陣が目を合わせてくれない。

 それどころか、避けられてる気さえする。

 以前は無駄に抱きついて僕を誘惑していた歌ちゃんは僕を見るなり顔を真っ赤にして走り去るようになったし、地華君には、目を合わせただけで殴られた。

 まあ、悲鳴が意外と可愛かったのと、すぐに謝ってくれたから笑って許したけどね。

 一番酷いのは天音君かな。

 彼女には何もしてない……はずなんだけど、彼女は僕を見るだけで「父上ぇぇぇぇ! お助けください父上ぇぇぇぇ!」と、泣き叫んだ。

 そんな彼女たちの変化が不思議でしょうがなかったから……。

 

 「ねえ、沖田君。心当たりはあるかい?」

 「あると言えば、あります」

 

 沖田君に聞いてみたんだけど、なんとも煮え切らない答えが返ってきた。

 やっぱり、僕が何かしたのかなぁ。

 でも、心当たりが全くないんだよ。

 それと言うのも、龍見家での一件が終わって大和旅館に帰るなり、僕は熱を出して一週間も寝込んでしまった。

 だから、熱にうかされて寝ている僕が何かをしたとは考えづらい。

 と、なると、交渉の際に「僕のモノになれ!」って言われたのが、時間が経って「いや、アイツのモノになるとかないわぁ」「あの人のモノになるくらいなら、そこらの浮浪者に犯された方がマシです」みたいな感じになっちゃったんじゃないだろうか。

 だってほら、僕ってモテないから。

 でもそれだと、歌ちゃんの態度まで変わったのが説明できないんだよなぁ。

 

 「教えてくれないかい? このままじゃあ、スッキリできないよ」

 「いや、ある意味スッキリしていたかと」 

 「それ、どういうこと?」

 「じ、実はですね……」

 

 沖田君の説明を聞いていくにつれて、僕の心は羞恥心に満たされていった。

 え? なんで僕、ナナさんに息子をいじられたの?

 しかも、天井に届くくらい勢いよく出しちゃって、その掃除を沖田君がしてくれたって?

 うん、死のう。

 これほどの辱しめは、前世でも経験したことがない。

 でも、それで彼女たちの変化には納得できた。 

 そりゃあ、自慢じゃないけど外国人顔負けの大きさを誇る僕の息子(未使用)が、噴火とも表現できそうなイキっぷりをしたらああなるよね。

 ん? そう言えば、朧気だけどナナさんに息子を虐められる夢を見た覚えがある。

 もしかしてあの夢は、その時のことだったのか?

 まあ、それはそれで良いとして……。

 

 「油屋大将。何故、急に落ち込んだのですか?」

 「いや、だってさぁ……」

 

 慣れてるとは言え、会って間もない女性に嫌われるのは精神的にこたえるんだよ。

 そりゃあ、沖田君からしたら「なんだ、そんなことか」と、言いたげな顔をするほどどうでも良いことかもしれないよ?

 でもね、それは沖田君が、親に反対されるような大恋愛の末に奥さんと添い遂げたリア充だからこその反応なんだ。

 

 「まあ、そう落ち込むな小吉。女に嫌われるのなんぞ、お前からすれば日常茶飯事だろうが」

 「あのさぁ、猛君。喧嘩を売ってるんならそう言ってくれるかい? 買うから」

 

 ちなみに今現在、意識を回復した僕を見舞うためと言う名目で、猛君も帰省してる。

 さらにチャーリー・富岡君も、他の隊員やその家族の住まいが確保できたことを報告に来てくれている。

 でも、こう言ったらみんなに失礼かもしれないけど、むさ苦しい。

 だって、高々16畳ほどしかない部屋に、現役の軍人が三人も来てて、しかも僕を包囲するように座ってるんだ。 

 もしこれが漫画やアニメなら、むさいオッサンしか出ない回とか、どの層に需要があるんだ? って、ツッコンでるところだよ。

 

 「ところで沖田。酒はないのか?」

 「酒ですか? 大和中将殿のお母上にお願いすれば、用意してもらえると思いますが……」

 「じゃあ、悪いが酒と摘みを頼んできてくれ。ああそうだ。富岡少尉は洋酒の方が良いか?」

 「いえ、自分は……」

 「俺の奢りだから遠慮をしないでくれ。前々から、元442の人とは盃を交わしたいと思っていたんだ」

 「では、中将殿と同じもので」

 「遠慮するなと言っただろう。一応、ワインやスコッチなどもあるはずだ」

 「いえ、日本酒を飲んでみたいのです。恥ずかしながら、自分は祖国の酒を飲んだことがないもので」

 「わかった。では沖田。酒は日本酒だけで良い。ただし、最低でも五升は用意してくれと伝えてくれ」

 

 酒盛りでも始めるつもり……なんだろうなぁ。

 って言うか、富岡君って喋り方が変わってない?

 ルー語はどうしたルー語は。

 もしかして、ルー語はキャラ付けだったの?

 でも面倒臭くなったから、陸軍兵みたいな喋り方に変更したのかい?

 とか考えてる内に、一升瓶を数本抱えた沖田君が、摘みが載ったお盆を持った錦おばさんと一緒に戻ってきた。

 

 「お、来た来た。悪いなお袋。今日は騒ぐぞ」

 「駄目と言っても騒ぐでしょうが馬鹿息子。小吉さんは怪我人なのですから、あまり飲ませては駄目ですよ」

 「わかってるわかってる」

 「あと、代金はしっかり頂きますよ?」

 「それもわかってる。金ならあるから、心配するな」

 

 相変わらず、仲が良い親子だなぁ。

 小言が多い錦おばさんに、猛君が面倒くさそうに対応しているだけなんだけど、何て言うか……凄く自然なんだ。

 お互いに信頼し合っているから、あんなにもしつこい小言でも、あんなにも雑な対応でも仲良く見えちゃうんだろうな。

 

 「よし。うるさいお袋も行ったし……」

 「酒盛りだろ?」

 「酒盛り? 酒盛りはついでだ。男が集まったら、猥談(わいだん)と相場は決まっているだろうが」

 「どこの世界線の相場だよ」

 

 普通は恋バナじゃないの?

 いやまあ、恋バナから猥談に発展したりはするけど、のっけから猥談はないでしょうに。

 

 「沖田少佐殿。ワイダーンとは?」

 「ああ、何と言ったら良いのか……Dirty talkでわかるか?」

 「Oh!Dirty talk! それならわかるであります!」

 

 わかるなよ。

 しかもなんで、目をキラキラさせてるの?

 もしかして、富岡君は猥談が好きなの?

 

 「ノリが良いな富岡少尉。では、君から聞こう。どれが好みだ?」

 「どれ、とは?」

 「あの四人で誰が好みかと聞いとるんだ」

 「ああ、なるほど。ですが、自分にはwifeが……」

 「ここにはいないだろうが。さあ、遠慮せずに言ってみろ。歌以外なら、俺は何も言わんぞ?」

 

 どうして四人と言っておきながら、歌ちゃんを除外した?

 まあ、どう見ても完全無欠のロリっ子である歌ちゃんが好みだと言う奴なんて控えめに言って変態だから、気持ちはわからなくもないけどさ。

 

 「では、自分は天音殿で……」

 「ほう! 龍見姉の方か! 理由は?」

 「理由と言われましても……何と言いますか、自分が育ったLittle Tokyoには、天音殿のような、如何にも大和撫子と呼べるような女性がいなかったもので、好みと言うよりは憧れに近いでしょうか」

 「なるほどなるほど。たしかに、わからなくもない」

 「あ、あと、胸が大きいところが良いです」

 「巨乳か! 富岡少尉も巨乳派なのか!」

 「ええ。大きければ大きいほど良いです」

 

 二人とも、本人に聞かれたらぶっ殺されるぞ。

 と、言いたいところだけど、確かにあの巨乳は魅力的だ。

 そこは同意する。

 しかも、地華君も双子だからか同じくらい巨乳だけど、何か違うんだよ。

 天音君の胸は品があると言うか、神々しさすら感じるのに対して、地華君の巨乳は荒々しさを感じる。

 まあ、口には絶対に出せないけど。

 

 「沖田。お前は?」

 「わたくしは……」

 「女房一筋。などとは言わせんぞ?」

 「……では、恥ずかしながら。に、錦殿です」

 「俺のお袋? お前、熟女が好きなのか?」

 「いえ、そういう訳ではなくてですね。実はわたくし、幼い頃に母親を亡くしておりまして。それで、その……」

 「うちのお袋に欲情したと?」

 「違います! ある意味、富岡少尉と同じ理由です」

 

 ああ、わかる気がする。

 錦おばさんは、小言が多いところに目を瞑れば理想のお母さんだもんなぁ。

 しかも子供が二人いて、松さんと同い年とは思えないくらい若々しいし。 

 

 「そう言う大和中将殿は、誰が好みなのですか?」

 「俺か? 俺は……そうだな。強いて言うなら、龍見妹だな」

 

 おっと?

 意外なチョイスだ。

 猛君の彼女は嫌になるくらい何人も紹介されたけど、皆一様に、おしとやかなタイプばかりだった。

 それなのに、地華君が好み?

 

 「ああいう鼻っ柱が高い女を、俺好みに教育してみたいと思ってたんだ」 

 「する前に殺されると思うよ」

 

 いや、5~6回殺されろ。

 そうすれば、猛君の女癖の悪さが少しは治るかもしれないから。

 

 「次は小吉だが……お前には聞かなくても良いか」

 「そうですね。油屋大将には聞く必要がありません」

 「どうして?」

 

 聞かれたら聞かれたで困るけど、聞いてもらえないのは少し寂しいんだよ。

 ほら、二人は僕の態度や言動から、ナナさんに惚れてるって気づいてるのかもしれないけど、富岡君は頭にクエスチョンマークを浮かべてるからね?

 

 「お前は歌だろう? このロリコンが」

 「沖田少佐殿。ロリコンとは?」

 「ロリータコンプレックスの略だ。ペドフィリアの方がわかりやすいか?」

 「Really!? 油屋大将殿は、変態だったのでありますか!?」

 

 よし、喧嘩だ。

 と言って殴りかかりたいけど、三人とも僕より強いから瞬殺されるだろうなぁ。

 僕が三人より唯一優れていそうなのは、猛君を殴り続けた副産物である右ストレートのみだし。

 

 「ところで小吉。東京に戻ると聞いたが、本当か?」

 「必要な書類は作り終わったからね。ひとまず、バカンスはおしまいさ」

 「こんな田舎ではバカンスも糞もないだろう……は、まあ良い。次は、呉か?」

 「うん。この書類を横鎮の現司令長官に渡せば、関東圏で僕がやるべき仕事はほぼ終わりだからね」

 「紙切れ渡してあとはお任せ。か? お前も偉くなったもんだ」

 「そりゃあ、僕の階級は上から二番目に高いからね」

 

 ちなみに、現在の僕の階級である大将より上にある階級は、実はない。

 なのに僕が二番目に高い階級と言ったのは、上に元帥の称号を持つ大将がいるからだ。

 正確には、元帥海軍大将だね。

 

 「いっそ、元帥の座も奪ったらどうだ?」

 「それ、僕に山本さんを蹴落とせって言ってるの?」

 「冗談だ。だから、そんなに怖い顔をするな」

 「冗談でもやめてくれ。僕がこの歳で大将になれたのは山本さんの後押しがあったからだし、僕たちがここまで上手くやれたのも彼のおかげだ」

 

 (くだん)の山本さんとは、本来の歴史でも知る人ぞ知る英雄である、山本五十六元帥海軍大将だ。

 彼の生涯については割愛するけど、本来の歴史では、一式陸上攻撃機に搭乗してラバウル基地を発進した後、ブーゲンビル島上空でアメリカ陸軍航空隊のP-38ライトニング16機に襲撃、撃墜されて戦死した。

 だけど僕たち転生者。

 特に日本の転生者は、これを徹底的に阻止するために動き、成功した。

 さらに彼は、早い段階で僕たち転生者の存在に気づいていた数少ない人の一人ある。

 それもあって僕は尉官時代から可愛がってもらったし、書類を作るだけで事が運ぶように体制を整えてくれたりもしてくれてる大恩人だ。

 ちなみに、僕が大事な場面で吐くハッタリは、彼がギャンブルをする時によく使っていたブラフを参考にしてたりもする。

 

 「わかった。俺が悪かった。で、話を戻すが、呉に行くのは大和の件でか?」

 「そっちはついでだね」

 「じゃあ、何をしに行くんだ?」

 「おいおい、僕が進めているのは軍縮だよ? だから当然、目標は工廠さ」

 

 呉、特にその海軍工廠は、東洋一と謳われるほどの設備と、日本最大の工員を抱える兵器工場だ。

 当然、ドック入りさせてる艦艇も多い。

 だからこそ、僕が直接行ってメスを入れるつもりなんだけど……。

 

 「広島って、暮石の天敵がいるらしいんだよねぇ……」

 「瓶落水(からみ)のことか? ああ、なるほど、ナナを連れて行くかどうかで、悩んでいるんだな?」

 「まあ、そう言うこと。ちなみに、瓶落水のことは……」

 「瓶落水に関する知識は、お前と大差ない。なんなら、五郎丸に聞いてみてやろうか?」

 「お願いできるなら」

 「じゃあ、してやる。だがしかし、日本の未来よりも女の心配とはなぁ。お前の価値観が、俺にはよくわからん」

 「僕自身にも、わかんないよ」

 

 龍見姉妹と、富岡君を始めとする元442が加わったことで、個人が抱える戦力としては過剰なほどの戦力を手に入れたから、ナナさんがいなくてもどうとでもなる。

 なのに、僕はナナさんも連れていきたい。

 いや、ナナさんと離れたくないんだ。

 

 「でもまあ、お前がそういう奴だから、あんなにも濃い連中が集ったんだろうな」

 「大和中将殿に同意します」

 「自分も同意しますが……。それでいくと、自分と沖田少佐殿も、濃い連中に含まれるのでは?」

 

 まあ、そうなるな。

 と、達観している僕を他所に、三人はああでもない、こうでもないと口論を始めた。

 そんな三人を眺めながら酒を飲んでいる最中に、何故かナナさんがいるような気がした。

 目には見えないのに、気配も感じないのに、何故か僕のすぐ傍に彼女がいるような気がしたんだ。

 まあ酒に酔ったせいだと、思うんだけどね。

 

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