愛屋及烏 / 依依恋恋   作:哀餓え男

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第四十五話 誕生日(表)

 

 

 今日はナナさんの誕生日。

 あれ以来、東京に戻ってもまだ僕の前に姿を現さない(ただし地華君曰く、物陰から見ているらしい)ナナさんのために、七夕の準備と偽ってパーティーの準備は進めて来た。

 あと残っているのは……。

 

 「プレゼントだけなんだけど……」

 

 これが決まらない。

 一応、ナナさんに告白するより前に「これとか良んじゃね?」ってノリで用意はしてたんだけど、フラれちゃったから渡すのが忍びなくなっちゃってさ。

 だから代わりの物をどうしようかと……。

 

 『知るか。指輪でもやっとけ』

 

 猛君に電話で相談したんだけど、用意していた物以上に贈りにくい物を提案しやがった。

 この時代にはまだ、エンゲージリングを贈る習慣はないと言っても、意味を知ってる僕からすれば難易度の高い贈り物だ。

 だってフラれたんだよ?

 独り言を言ってる最中に聞かれた結果とは言え、ハッキリと嫌だって言われたんだ。

 まあその後に、話題を変えるために口走っちゃった台詞でもう一度告白した形になっちゃったんだけどね。

 

 『月が綺麗ですね。なんて、俺でも使ったことがないぞ』

 「言わないでよ。後悔してるんだから」

 『気にするな。ナナは絶対に気づいてないぞ? アイツが夏目漱石の逸話なんぞ知ってると思うか?』

 「思わないけど……」

 

 言った身としては、どうしても気にしちゃうんだよ。

 そりゃあ言った僕ですら「あれ? 今のって告白じゃね?」と、後から気づいたくらいだけどさ。

 

 『指輪が嫌なら、花でも贈ったらどうだ?』

 「それは歌ちゃんが用意してる」

 

 故に、被るから却下。

 ちなみに歌ちゃんは、あれ以来布団に潜り込んで来なくなったナナさんの代わりに毎晩僕の布団に潜り込んでる。

 いやぁ、これがさ。

 ナナさん以上にヤバイの。

 だって歌ちゃんって、寝てる時に右手の親指をチュウチュウする(しゃぶるって言ったら何か卑猥だからね)癖があるんだ。

 それに気づいた時に、好奇心から僕の人差し指と代えてみたら、まあ美味しそうにチュウチュウしてくれてさ。

 一瞬で理性が蒸発して夜中なのに庭先で遠吠えを上げちゃったよ……は、僕の頭の中の黒歴史ノートに記しとくとして。

 

 『お前は俺の妹に何をしてるんだ! 歌はまだ子供だぞ!』

 「あれ? 声に出してた?」

 『ああ、俺でもキモいと思うくらいデレデレになった声でな!』

 「そりゃあごめん。で、相談の続きだけど……」

 『この流れで話を戻すな!』

 「まあ良いじゃない。間違いは犯してないんだから」

 

 いやまあ、十分すぎるほどの過ちではあるんだけどね。

 それこそ、通報でもされたら言い訳できないレベルの。

 

 「ちなみに、沖田君は使い捨てにしても惜しくないレベルの刃物を大量に贈るらしい。龍見姉妹は、着物を贈るって言ってたかな」

 『沖田のはまあ、ナナの性格を考えれば妥当か。だが着物なんぞ貰って、ナナは着れるのか?』

 「着方くらいは教えるんじゃない?」

 

 覚えるかどうかは疑問だけど。

 

 『一応聞いておくが、お前が用意していた物は何なんだ』

 「ロケットペンダント」

 『飛ぶのか?』

 「飛ばないよ! なんで、この時代で通じにくいボケをするのさ!」

 『なんだかんだと言われたら』

 「答えてあげるが世の情け。って、やかましいわ!」

 

 ちなみにロケットペンダントとは、チャームが開閉式になっていて、中に写真や薬などを入れられるようになっているペンダントのことだ。

 呉にいた間にたまたま見つけた銀製のロケットペンダントに、みんなで撮った記念写真の僕とナナさんの部分だけを切り取って加工してはめた物を用意した。

 と、話の流れで説明したら……。

 

 『キモいな。いや、ハッキリ言ってやる。気持ち悪い。恋人でもないのに、自分とのツーショットをはめたロケットペンダントを贈ろうとする思考回路だからお前はモテないんだ。恐怖すら感じたぞ』

 

 と、バッサリ斬り捨てられました。

 ええ、キモいですが何か?

 僕だって、変に浮かれた気分だったのはナナさんにフラれるまでだったよ。

 まあ、フラれたことで正気に戻って、そのペンダントは書斎の机の引き出しの中に封印したけどね。

 

 『キモいついでだ。身体にリボンを巻いて「僕がプレゼントだ!」と、言ってみたらどうだ?』

 「それ、下手したら殺されるよね?」

 『2~3回殺されろ。お前は一度死んでるんだから、別に大したことじゃあないだろう?』

 「大したことあるよ!」

 

 もう一度生まれ変われる保証もないのに何言ってんだ。

 そもそも君は、他に思惑があったとは言え僕に死んでほしくなくてナナさんを紹介したんだろう?

 なのに、殺されろとはどういうことさ!

 

 『冗談だからわめくな。それより、プレゼントならそのペンダントをやれ。たぶん、喜ぶ』

 「いや、さっきキモいって言ったじゃないか。それに僕は……」

 『フラれた。か? それなら安心しろ。お前の聞き間違えだ』

 「でも、確かに……」

 『聞き間違えだ。良いから、俺の言う通りにしてみろ』

 

 そう言い残した猛君に電話を切られた僕は、仕方なく書斎に戻って封印していたペンダントを眺めることにした。

 良い出来なんだけどなぁ。

 全部銀製で、ペンダントトップは縦5cm、横3cmの長方形。

 表面に十字架の意匠が彫ってあって、縁にも細かい模様が一周グルリと彫ってある。

 パッと見だと、銀色をした聖書って感じか。

 

 「その中に、写真が入ってるの?」

 「うん、こんな感じで……って! 歌ちゃん!? いつからそこに!?」

 「ついさっき。ノックしても返事がないから入っちゃったけど、駄目だった?」

 「ぜんっぜんオーケー」

 

 ただし、自家発電中じゃない時なら。

 もし見られちゃったら、僕の人生は色んな意味で終わっちゃうからね。

 

 「よい……しょっと。ねえ、小吉お兄ちゃん」

 「なんだい?」

 

 ふぅおぉぉぉ!

 ふぅおぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 僕の膝に少女が!

 数え年だと12歳だけど満年齢だと11歳のツインテ美少女が僕の膝に乗ってるぅぅぅ!

 と、慌てふためくと思ったかい?

 でも残念でしたぁぁぁ!

 僕は既に、平成のアイドルもビックリなレベルの美人であるナナさんの全裸添い寝を経験済みだし、歌ちゃんとも同衾(どうきん)(健全)も経験済みだ。

 つまり、高が膝に乗られたくらいで僕の平常心は……。

 

 「あれ? なんか、体が持ち上がった?」

 「き、気のせいじゃないかな?」

 「そっか。気のせいか」

 

 保てませんでしたぁぁぁ!

 特に僕の26cm砲が!

 でも、さすがは僕の主砲。

 数十キロはある歌ちゃんを持ち上げるなんて、我ながら凄いチン力だと思うよ。

 

 「これを、ナナにあげるの?」

 「う、うん、そのつもりだったんだけど……」

 「あげないの?」

 「だってその、付き合ってもない男からこんなのを貰ったら気持ち悪いでしょ?」

 「そんなことないよ! ナナ、絶対に喜ぶと思う!」

 「でも……」

 

 僕の独り言に咄嗟に答えてしまったんだろうけど、ナナさんは嫌だと言った。

 その時のことを歌ちゃんに話したら……。

 

 「それ、結婚が嫌なんじゃなくて別のことが嫌だったんだと思うよ?」

 「別のこと?」

 「そう、別のこと。だってナナ、小吉お兄ちゃんを愛したら殺さなきゃいけなくなるって言ってたもん。だからきっと、それが嫌だから嫌って言ったのよ」

 「僕を愛したら、ナナさんが僕を殺す?」

 

 どうしてだ?

 もしかして、暮石家にはそういうしきたりがあるのだろうか。

 もし、そんなしきたりがあるんだとしたら……。

 

 「なんとも、素敵なしきたりだな」

 「殺されるのが?」

 「うん。好意的に取りすぎなのかもしれないけど、僕は「殺してでも他の奴には渡さない」って決意を感じたんだ」

 

 まあ、言った通り好意的に受け取りすぎなんだろうけどね。

 でも、ナナさんになら殺されても良いと、僕は本気で思っているようだ。

 だってもう、右手に握りしめたペンダントを渡す気になっている。

 これを渡して喜んでもらって、殺したいほど愛してほしいと思ってしまったんだ。

 そんな僕を、歌ちゃんは寂しそうな目で見上げながら、「こりゃあ、勝てないな」と、意味のわからないことを言っていたよ。

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