小吉の裸をこんなに間近で見るのは、小吉の家のお風呂以来だっけ。
改めて見てみると、本当に傷だらけ。
小さな切り傷から、どうしてこんな怪我をして生きてるの? って言いたくなるような大きな傷跡までいくつもある。
数えきれないほどある。
右拳なんか特に酷い。
まるで、毎日丸太でも殴ってたんじゃない? って言いたくなるくらい凸凹。
でも、不思議と痛々しいとか、可哀想だとは思わない。
それはきっと、この傷の一つ一つが、小吉が仲間を護ってきた証。
小吉の誇りそのもの。
誇りまみれのこの身体が、小吉にとって何よりの勲章だと何故か理解できたから、そう思ったんだと思う。
「ねえ、小吉」
「なんだい? ナナさん」
小吉に触れるのも久しぶり。
ずっと手を引いてもらって、このままバタ足の練習をするのも悪くないと思ってる。
でも……。
「やっぱり怖い。浜に戻ろう? ね? もう泳げるようになったと思うし」
足がつかない場所にいるのは怖い。
小吉がそばにいるから溺れることはないし、川よりも体が浮きやすいから沈むこともないと思う。
でも怖いの。
陸に戻りたいの。
なのに、小吉は……。
「……まだ無理だよ。もう少し練習しよう」
帰してくれない。
これは厳しく指導して、あたしを小吉なしでも泳げるようにしようとしてる?
いや、違う気がする。
だって小吉は楽しんでる。
もしかして、怖がるあたしを見て面白がってる?
だとしたら……。
「小吉は意地が悪い……」
「べ、べつに、意地悪してる訳じゃないよ?」
「じゃあ、なしてあたしにこんな怖い思いをさせるん?」
「そ、それはその……」
ん?
あたしはバタ足をやめたのに、小吉は手を引くのをやめない。
そのせいであたしは、小吉に手を引かれるまま海の上を漂ってるわ。
さらにあたしと目を合わさないようにしてるのか、そっぽまで向いてる。
まさか、陸に戻らないんじゃなくて、戻れないんじゃないでしょうね?
例えば……。
「……起ったん?」
「違うよ?」
「じゃあ、止まって」
「それは出来ない」
「やっぱり、起ったんじゃろ」
「……」
小吉のスケベ。
あたしのバタ足に付き合いながらも、浜で球遊びをしている地華たちをチラチラ見てたせいで起っちゃったんでしょ。
だったら、意地悪された仕返しよ。
「止まって」
「いや、だから……」
「ええけぇ止まって」
「はい……」
少し強めに言ったら、小吉は渋々ながら手を引くのをやめた。
その途端にあたしは足の方から沈んで、小吉の両手に体重を預けて直立した。
でも人一人分の隙間を空けて、それ以上小吉に近づけない。
あたしのお腹に突き刺さらんばかりにおっ起ってる、小吉の得物のせいでね。
「小吉。あたしのお腹に当たってるこれは何?」
「え~っと……」
「小吉は変態じゃねぇ。こんな駄々っ広い場所でも、構わず起たせるんじゃけぇ」
「ごめんなさい……」
あ、これ、なんか良い。
最初は意趣返しのつもりだったけど、顔を恥辱にまみれさせてあたしから目をそらす小吉を見てたら、もっと意地悪したくなった。
「ねえ、誰を見て起たせたん? 地華? 白い方? それとも瓶落水? まさか、ジュウゾウじゃあないよね?」
「そ、それは……」
「ほれ、怒らんけぇ言うてみ? ほれ、ほれ」
「ナナさん、それ以上はマズい。そのまま叩き続けられると……」
「何がマズいん? もしかして、あの白いドロドロが出るんか? 言わにゃあ、叩くのをやめるよ? ええの?」
我ながら、何をしてるんだと疑問に思う。
でもやめられない。
止まらない。
呼吸もし辛くなってきたし、心臓も音が聞こえるくらい脈打ってるのに、それがたまらないほど気持ち良いから。
「なんか、こうして浮いちょるのも疲れたねぇ。あ、そうだ」
「ちょっ……!ナナさん、どこに乗って……!」
「乗れるとこなんて、ここしかないじゃろうがね」
どこかと言うと、小吉のナニ。
それに股がってるの。
でも、水中とは言えあたしの体重を支えるなんて凄いわね。
どんな鍛え方をしたら、こんなにも硬く、力強くなるんだろ。
あたしが腰を動かしてもビクともしないのよ?
「ナナさん、それは本当にヤバい。それ、素ま……」
「ん~? よう聞こえんなぁ。もっと、ハッキリ言うてくれん? ちゃんと、あたしの目を見て」
「だから……」
ああ、小吉がベソをかく寸前みたいな顔をしてる。
あたしと同じように息を荒げて、心臓の鼓動も速くなってる。
今、あたしと小吉は海の中で溶け合って、一つになろうとしているように思え……てたのに。
「ちょっ……! 何これ!? 体が流され……」
「これ……
「こ、睾丸……龍? 確かに、小吉のは龍みたいじゃけど……」
「字が激しく違う! 簡単に言うと離岸流の逆! 沖から岸に向かう流れだ!」
だったらちょうど良いじゃない。
小吉に意地悪するのも、海の中より部屋での方が……って、思ったより流れが速いわね。
この速度だと、浜に打ち上げられると言うよりは叩き付けられるんじゃ……。
「痛たたた……」
やっぱりか。
叩き付けられるってほどじゃあなかったけど、小吉のお腹の上に乗ったままけっこうな距離を滑っちゃった。
「油屋大将! ご無事で……すか!」
はて?
ジュウゾウが駆け寄って来るなり、台詞の途中で真後ろ向いた。
さらに白い方が、鬼の形相であたしを睨みながら刀を抜こうとしている。
「小鬼、まさか海の中で……」
「いや、姉ちゃん落ち着け。さっきので流されただけだって」
「でもぉ、二人ピッタリ引っ付いてぇ、変な動きしてたわよぉ?」
流された?
確かに、あたしと小吉はコウガンリュウとやらで流されたわ。
あ、もしかして白い方は、そのせいで小吉を下敷きにしちゃってるのに怒って……って、なんだか胸元と腰回りがスースーするような……。
「あ、流されたって、こっちか」
自分の身体を見下ろしてみたら、流される前まで確かに着ていた水着がなくなってた。
なるほど、だからジュウゾウは慌てて後ろを向き、白い方は怒ってたのか。
「ねぇ、七郎ちゃん。それぇ、入ってなぁい?」
「それ? どれ?」
「小吉さんのアレ。その位置に七郎ちゃんが座ってて、小吉さんのアレが見えないってことは、入ってるとしか思えないんだけどぉ」
最初は意味がわからなかった。
でも自分が乗っている位置と、小吉がフンドシをはいていないことに気づいたら身体が震え始めた。
「ナナ。い、痛くねぇのか?」
「わ、わからん。ねえ地華、本当に入っちょるん?」
「オ、オレにもわかんねぇよ!」
痛みはない。
身体の中に異物が入り込んでるような感触もない。
でも、直前まであたしが乗れるほど雄々しくおっ起ってた小吉のアレがある場所にあたしは乗っている。
三人からはもちろん、あたしから見ても入ってるようにしか見えない。
「ナナ、ゆっくり腰を上げてみろ。ゆっくりだぞ?」
「で、でも、本当に入っちょったらどうするん? 抜けるん?」
アレが根元まで入ってるとしたら、あたしの内臓を貫いてる。
だって、ヘソよりさらに上に来るくらい長いのよ?
そんなのが入ってるとして、抜いたら内臓まで出てこない?
「ねぇ、天音ちゃん。どうして小吉さんはぁ、白目剥いてるのかしらぁ」
「浜に打ち付けられた衝撃で気絶したのでは?」
「なるほどぉ。あれぇ? でもぉ、泡まで吹くかしらぁ?」
本当だ。
小吉が白目を剥いて、泡まで吹いて気絶してる?
もしかして、打ち付けられた衝撃を全部引き受けてくれたのかしら……は、置いといて。
「小吉? 大丈……夫?」
じゃ、ないのはわかってるけど一応ね。
でも、小吉の頬を軽く叩くために腰を浮かしたことで、入ってないことが感覚でわかっ……。
「たぁわ!」
「ナナ! 大丈夫か!? やっぱ、入ってたのか!?」
「いや、入ってはなかったんじゃけど……」
たぶん、あたしが乗ってたせいで足方向へ倒れてた小吉のアレが、あたしが腰を浮かせたことで跳ね上がってあたしのお尻を弾いたのよ。
実際、バチーン! って小気味良い音がしたし、当たった場所がヒリヒリしてるもの。
「う……ん」
「あ、気がついた?」
「ああ、僕としたことが、受け身を取り損ね……」
「どうしたの?」
頭を振りながら身を起こそうとした小吉が、あたしを見るなり硬直した。
視線なんて、あたしの顔の少し下あたりを凝視してるわ。
でも、なんでそんな場所を……あ、そういえばあたしって……。
「ぶほぉあ!」
すっぽんぽんだった。
と、思い出す前に小吉は噴水のように鼻血を噴き出して、また気絶してしまった。