地華と歌はあたしの友達。
以前は、歌曰く片寄った教育で友達はいらないと兄様に洗脳されてたっぽいんだけど、歌に泣かされて自分の弱さを知ってからは、あたしに友達は必要なんだと一応は納得して二人を友達と思うことにした。
いや、たぶん間違ってるとは思ってるのよ?
あたしの友達観と普通の人の友達観はズレてるんだろうなぁ~って考える事が増えたし、二人への接し方はこれで合ってるのかぁ~って悩むことも増えた。
でも、歌が帰省しなきゃいけなくなった時に寂しくなって思わず泣いちゃったのは、あたし的には友達への対応として合ってたと思ってる。
まあ、友達への対応に正解を求めてるってことは、まだあたしの友達観はズレてるってことなんだろうけど。
「小鬼。もう一度言っておきますが……」
「心配せんでも、邪魔なんてせんよ」
今日は、マイチンに一般人を招いて行われる花火大会。
そのお祭りを、屋台をハシゴしながら浜までみんなで歩いて花火を見ようってなってたんだけど、地華が前触れもなく「一生に一度のお願いだ。オレと小吉の大将を二人っきりにしてくれ」って、言ってきたの。
当然、あたしは
だってあたしは小吉が好きで、小吉もあたしのことが好き。
だからみんな一緒ならともかく、小吉と地華が二人っきりの状況には嫉妬した。
嫉妬はしたけど受け入れて、白い方と瓶落水、そしてオマケのジュウゾウと一緒に、遠巻きに二人を見守ってるわ。
「地華も、小吉が好きなんじゃもんね。白い方も?」
「当然……と、言いたいところですが、地華ほどではありません」
「へぇ、そうなんだ」
「それより、白い方と呼ぶのを、いい加減やめてもらえません?」
「あたしのことを小鬼って呼ぶのをやめたら、考えちゃげる」
考えるだけだけどね。
まあそれは一先ず置いといて、あたしの嫉妬心が連れ立って歩く二人を見る時間にそって膨らみ続けてるのがヤバイ。
このままじゃあ、感情を殺意に変換して溜め込む方法がわからなくなってる今のあたしは嫉妬心に駆られて地華を襲いかねない。
そうならないように、嫌だけど……。
「ねえ瓶落水。もしもの時は、あたしの感情を食って動けなくして」
「う~ん……。良いけどぉ、条件があるわぁ」
「何?」
「四進お姉ちゃんお願ぁい♪ って、両手を胸の前で組んで上目使いで言ってくれたらやったげるぅ」
こ、こいつ、足元見やがって。
でも、今いるメンツで暴走したあたしを止められるのはこいつだけ。
なら、本当に目茶苦茶嫌だけど……。
「しずおねーちゃんおねがーい」
「棒読みじゃなぁい。でもまあ、良いか」
これほどの屈辱は生まれて初めてね。
でも、その甲斐はあった。
このまま嫉妬し続けて地華を殺したくなっても、あたしは瓶落水に止めてもらえるんだもの。
「天音殿。つかぬことをお聞きしますが、地華殿は槍がないだけで、どうしてあんなにも性格が変わるのですか?」
「変わると言うよりは、戻ると言った方が正しいです。ジュウゾウ様」
「では、普段の地華殿は……」
「槍を持っている間だけの仮面。ですが、あの子に槍を手放すことは許されていません。あの子は常に、自分を偽って生活しているんです」
「それは、龍見家にとって必要な事だからですか?」
「そうとも言えますが……。うちは古くから続く旧家故に、しきたりに従う、破ってはならぬと言う、強迫観念に近い感情を植え付けられています。あの子は、先祖代々の呪いとも言えるしきたりの犠牲者なんですよ」
先祖代々の呪い……か。
白い方……天音だったっけ?
の、言葉は、あたしの胸にも刺さるものがある。
だってうちも、何代にも渡って目指す悲願、鬼の顕現を目的に、何人もの他人を殺し、何人もの家族を犠牲にしてきた。
そんな感傷に浸ったからか、鬼の顕現とやらが何なのか、妙に気になってきたわ。
「ねえ、瓶落水……」
「四進お姉ちゃん」
「しずおねーちゃん。鬼の権限って何なん?」
「知りたいのぉ?」
「うん、少しだけ」
それをこの場で知ってそうなのはこいつだけ。
だから思いきって聞いてみたけど、しずおねーちゃんは話す気があるのかないのかわからない笑顔で、あたしを見てる。
「私も詳しくは知らないわぁ。ただ、それを叶えるために、暮石と瓶落水に別れたって、ひいお爺様から聞かされた覚えはあるわねぇ」
「じゃあ、暮石だけじゃ……」
「鬼の顕現……。暮石が言うところの、
「それが叶ったらどうなるん?」
「知らなぁい。でもぉ、六郎ちゃんは妙なことを言ってたわねぇ」
「妙なこと?」
「えぇ。鬼の顕現は我が家の悲願ではあるけれど、それは手段でしかないって言ってたわぁ」
悲願を叶えることが手段でしかない?
何の手段?
兄様がそう言ったってことは、やっぱり鬼を顕現させた後に何かするのかしら。
「ややっ! 天音殿! 地華殿が……!」
「声が大きいです沖田様! 二人に気づかれたらどうするおつもりですか!」
あんたの声もデカイ。
と、ツッコミたくなるような天音の声で、あたしの思考は邪魔された。
仕方がないから視線を上げると、空に咲く花火を背景に小吉と地華が向かい合ってたわ。
何を話してるんだろう。
地華は怯えたようにも、思い詰めたようにも見える表情で小吉に何か言ってる。
「あ……」
あたしには読唇術の心得なんてない。
なのに、地華が小吉に「好き」と言ったのだけはわかった。
人が多くて、二人の感情を上手く感じ取れないのに、地華が小吉を心の底から好きなんだとわかった。
なのに不思議と、嫉妬心は鳴りを潜め始めた。
代わりに湧き上がって来たのは罪悪感。
何故かあたしは、地華に申し訳ないと思ってる。
どうしてだかわからないけど、あたしは地華に謝りたいと思ってる。
その想いに頭を混乱させられたあたしは……
「あたし、どこまでおかしくなるんじゃろうか……」
と、誰にともなく問いかけていた。