愛屋及烏 / 依依恋恋   作:哀餓え男

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第五十三話 迷探偵小吉 前編(表)

 

 

 

 

 洋館と聞いて何を思い浮かべるだろう。

 使用可能な洋館なら殺人事件の舞台。

 廃墟なら、肝試しにうってつけだね。

 何故そんな前置きをしたかと言うと、僕とナナさんが洋館にいるからだ。

 

 「ようこそお出でくださいました。私はポール・ディレクター。等ホテル、『大人のレジャーランド城』の支配人を勤めさせていただいております」

 

 さて、どこからツッコもう。

 僕たちが招待されたのは、洋館をイメージして建設されたホテル。

 それは良い。

 でもその名前がもぉぉぉぉ!ツッコミどころ満載!

 ホテルを謳ってるのにランドでオマケに城まで付けちゃってるじゃない!

 どれかに絞れよ!

 ホテルなら『ホテル 大人のレジャー』とか『アダルトレジャーホテル』で良いじゃん!

 と言うか、そのホテル名考えた奴って正気だった?

 酔ってたり傷心したりしてなかった!?

 正気でつけたとは思えないホテル名だよ!

 いや、有りそうだよ?

 あと数十年したら田舎道にポツンと有りそうなホテル名だよ?

 ただし、ラブホテルな!

 

 「油屋様、どうかなさいましたか?肩で息をされてますが……」

 「ああ、気にしないでください」

 

 その原因の一つはお前な。

 あ、すみません。

 ポールさんは明らかに僕よりも歳上、60代後半くらいかな?なのに、心の中でとは言えお前呼ばわりしてごめんなさい。 

 でも仕方ないじゃん?

 だってポールさん、ポールって名乗ってるのにどこからどう見ても日本人じゃん?

 日本とどっかあっち系のハーフで、日本人の特徴が強めに出ちゃっただけかもしれないよ?

 でもさ、執事服より着流しの方が似合いそうな典型的な日本のお爺ちゃんにしか見えないポールさんがキメ顔で『私はポール・ディレクター』って渋カッコいい声で名乗っても違和感しかないわけよ。

 カッコいいんだよ?

 声はカッコいいの。

僕が知る未来の声優さんで例えるなら大塚さんだろうか。

 もし時間が戻せるなら、彼と対面する前に「待たせたな!」って言って欲しいくらい渋カッコいい。

 でも名前が残念!

 ポールはまあ……百歩譲って良しとしよう。

 でもさぁ、ディレクターは無いでしょ。

 たしかフランス語で、支配人はディレクターだったはずだけど、それをファミリーネームに持ってきちゃ駄目でしょ。

 今はまだディレクターって言葉自体が日本人に浸透していないから良いかもしれないけど、あと数十年後にディレクターとか名乗ったらテレビ業界の人だと誤解されるよ?

 

 「では、お部屋にご案内させていただきます。おや?雨が降ってきたようですね」

 

 そうだね。

 今はまだ小雨みたいだけど、台風張りの豪雨になりそうな雲が空で(うごめ)いてるね。

 もうそれだけで嫌な予感が止まらない。

 だってここ、結構ガチめの洋館だよ?

 さらに、車を使っても人里まで2時間は軽くかかる山中で、この洋館から徒歩五分の場所にある吊り橋が落ちたら脱出不可能。

 駄目押しとばかりに、洋館の裏には崖があるらしい。

 満貫どころか役満だよ!

 吊り橋を落とすだけでクローズドサークルの出来上がりだ!

 今から、明日の朝の目覚ましは絹を裂くような女性の悲鳴だろうなと覚悟しなきゃいけないくらいフラグがビンッビンに立ちまくってるよ!

 

 「ねえ、小吉。あたしらの他にも客がおるみたいじゃけど……」 

 「そうみたいだね」

 

 姿は見えないけど、ポールさんが「あちらがパーティーホール兼、談話室となっております」って説明してくれた正面の扉の向こうに人の気配を感じたんだろう。

 ちなみにこの館の大まかな間取りは、玄関を抜けると     

 25平米ほどのホールが広がり、正面には左右に大きく弧を描く階段に挟まれる形でパーティーホールの扉。

 そしてホールの左右には、使用人用の部屋やキッチンなどが配置されている。

 パーティーホールの扉温泉付近を起点に大きく弧を描く階段はそのまま二階に繋がっており、ホールをベランダのように囲む廊下に直結しているようだ。

 そのベランダに等間隔でドアが設けられているのを見るに、あれが客室なんじゃないかな。

 ホールから確認できる部屋は左右あわせて4部屋ほどだけど、廊下はさらに奥まで続いている。

 上から見ると、たぶん二階の客室前の廊下は『H(こんな)』感じに見えるんじゃないだろうか。

 

 「ねえ小吉。あたしらを招待してくれた人ってどんな人なん?」

 「招待されたと言うか押し付けられたと言うか……」

 

 本来なら、ここに来る予定だったのは猛君と、その彼女の一人だ。

 あのスケコマシは、自分に用ができて行けなくなったからと、舞鶴鎮守府で忙しくしていた僕に「休みも必要だろ?」と、さも僕の体を心配するような台詞で僕をここの来させたんだ。

 まあ、最初はありがたいと思ったよ?

 ナナさんには四六時中、暗殺者に目を光らせてもらってるし、龍見姉妹と沖田君には仕事を手伝ってもらってる。 

 四進君は……食っちゃ寝してるだけだからいいけど、四人には苦労をかけてるからちょっとした慰安旅行を。って、思って招待を受けたんだけど、蓋を開けてみたらこれだよ。

 招待されたのは二人だけだった。

 だから、僕はやめようとしたんだけど、他の四人に半ば強制的にここに連れて来られたんだ。

 

 「まさか、全員グルじゃないよね?」

 「グル?」

 「いや、独り言だから気にしない……」

 

 で。

 と、締め括ろうとしたんだけど、「こちらでございます」と案内された部屋に入るなりその疑念はほぼ確信に変わった。

 だってここ、相部屋だよ?

 しかも、部屋をほぼ占領して存在感をアピールしているのはダブルベッド。

 もう一度言おうか?

 ダブルベッドだ!

 そう!

 恋人や夫婦が上で獣になって激しい組体操をしても大丈夫な面積を持つダブルベッドだよ!

 もう、これはヤれって事だよね?

 この機会にヤることヤっちゃえって言う、ありがた迷惑に近い気遣いだよね!?

 

 「あ、あの……。ここで寝るん……よね?」

 「う、うん、そうみたい……だね」

 

 さすがのナナさんもこの部屋の意味がわかったのか、顔を真っ赤にして部屋を直視しないようにしている。

 トランクを握る両手にも力が入ってる気がする。

 それは僕も同じだ。

 なるべくベッドを見ないようにして、一泊分の着替えが入ったカバンの取手をこれでもかと握り締めている。

 そんな僕らを察してか、ポールさんは「では、お食事の時間になりましたら、お呼びします」とだけ言って去ってくれた。

 

 「と、とりあえず座らない?」

 「そ、そうじゃね。ここでつっ立っちょってもしょうがないし」

 

 と、お互いに何でもない風を装いながら、僕たちは荷物をベッドの脇に置いて腰かけた。

 マズった。

 どうして僕たちは、側にあるソファーではなくベッドに腰かけた?

 これじゃあ即ベッドイン可能じゃないか。

 ナナさんもそれに気づいたのか、わかりやすくうろたえている。 

 ここは、男であり歳上でもある僕が何とかしないと。

 

 「そう言えば、刀はどうしたの?」

 「か、刀?短刀以外は、全部トランクに入っちょるけど……」

 「へ、へえ、そうなんだ」

 

 はい、会話が途切れました。

 バカ!

 僕の大バカ!

 そこから会話を広げていかなきゃいけないのに、どうしてそこで黙っちゃったの?

 僕が黙っちゃったせいで、ナナさんが申し訳なさそうにうつむいちゃったじゃないか。

 

 「しょ、小吉!」

 「は、はい!」

 「あ、あたしとその……。したい?」

 「し、したい……とは?」

 

 いや、何故聞き返す。

 この状況で「したい」とくれば、それはセックスしかないじゃないか。

 なのに、わざとらしく聞き返すなんて男の風上にも置けない愚行。

 いくら童貞を拗らせているからと言っても、人生経験は他の同年代よりあるんだからもっと気の利いた台詞を返すべきだっただろ。

 

 「あたしね、小吉じゃったらええよ。でも、あの……汗とかかいちょるけぇ、できればお風呂に入ってからがええ……。ダメ?」

 「うん、ダメ……いやいやいやいやいや!ダメじゃない!ダメじゃないよ?うん、やっぱ、そう言うのは風呂に入ってからだよね!」

 

 誤魔化せたか?

 心の中で「え?風呂に入ってから?何で?風呂に入ったら匂いが落ちちゃうじゃん。紺色の冬用から白の夏用のセーラー服に変わったナナさんの匂いが落ちちゃうじゃん。それはダメだよ。だって、女性はナニの前に匂いをやたらと気にする……らしいけど、男はその匂いも嗅ぎたいからね?様々な要因によって構築された女性の匂いは、それだけで男を狂わせる香水なんだ。それを洗い流すなんて愚行中の愚行。僕レベルの賢者になれば、その匂いだけで10回は昇天できるよ」と、思考を巡らせた末に口から飛び出した『ダメ』だったけど、美味く誤魔化せただろうか。

 

 「じゃあ、小吉も風呂に入らんで。そのまま、あたしを……」

 「え?僕は入るよ?」

 「ど、どうして?」

 「どうしてって……」

 

 だって臭いじゃん。

 僕は、ナナさんに認識してもらうために、このクソ暑いのに第二種軍装なんだよ?

 だから、当然汗まみれさ。

 ふとした拍子に、自分の汗の臭いがわかるくらい汗をかいてるよ。

 そんな汗臭い身体で、ナナさんを抱くわけには……って、怒ってない?

 何故かはわからないけど、ナナさんが頬をおたふくみたいに膨らませて怒ってるっぽいんですけど?

 

 「小吉の……ド阿呆!もう知らん!」

 

 そう言うや否や、ナナさんは足元に置いていたトランクを僕の顔面へ叩きつけて僕の意識を刈り取った。

 次の日の、絹を裂くような女性の悲鳴で叩き起こされるまでね。

 正に、襲撃者による銃撃で左肩を撃ち抜かれた四進君が上げたのと似た悲鳴さ。

 

 「しずおねーちゃん!生きちょるんか!?」

 「な、なんとか……ねぇ」

 

 そうは言っても、肉弾戦が不得意な四進君に、これ以上の戦闘は無理そうだ。

 でも変だな。

 猛君から聞いた話では、彼はたしか一発で三人(・・・・・)を殺傷するほどの腕前だったはず。

 なのに、四進君を殺し損ねた?

 発砲の寸前にナナさんが「避けぇ!」と忠告したのを加味しても、彼が四進君を仕留め損なったことに違和感を感じる。

 そしてその違和感は、ナナさんが彼と斬り合いを初めて少したった頃に、確信に変わった。

 

 

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