地華と天音の神変って技は、本来なら舞の最後を飾る大技らしい。
それを初撃に持ってきて、おそらくは回避するはずの兄様に追撃をかける。
そういう、段取りだった。
「おいおい、アレを防いだってのか!?」
「信じられませんが、防がれたようです。ですが、予定通りにいきますよ!」
二人が言った通り、兄様は爆弾の爆発にも匹敵する神変を、一歩も動かずに防いだみたい。
でも、どうやって?
兄様を中心として、地面が半径5間ほど、すり鉢状に
「よお、ナナの兄ちゃん! その刀は飾りか? それとも、抜く余裕がねぇのか!」
「それとも、居合がお得意なのですか?」
二人の猛攻を、兄様は刀を抜かずに、鞘だけで防御している。
でも、二人が言ったことは的外れ。
兄様は抜けないんじゃない。
刀を抜く必要がないから、抜かないの。
居合が得意だからでもなく、鞘だけで十分だと判断したから抜かないのよ。
だって……。
「僕が刀を抜いたら、すぐに終わってしまうだろう?」
その言葉と同時に、地華の左肩から血が飛び散った。
「ほら、こんなにも簡単に斬れてしまうんだ。なのに刀なんて抜いたら、その瞬間に終わってしまうよ」
今度は、天音の右腿から血が噴き出した。
アレは、暮石流術殺法 殺の段、
ただし、兄様の魂斬りはあたしのより間合いが広く、得物を振らなくても相手を斬れる。
他の術の精度と威力も、あたしとは比べ物にならない。
「ちっくしょう……!」
「まさか、これほどとは……!」
それでも、二人は果敢に攻撃を続けている。
二人の猛攻を軽く受け止め、時に受け流してその場から一歩も動かない兄様を、確実に仕留める事ができる位置に誘導するために。
「小吉。あたしも行く」
「まだだ。まだ早い」
「でも、このままじゃ地華と天音が……!」
殺されてしまう。
そう言ったのに、あたしの言葉は、あたしたちの頭上を飛び越した軍人の雄叫びにかき消された。
あのオッサンは、たしか……。
「ふ、船坂!? どうしてここにいる! 貴様には、歌の護衛を命じていたはずだ!」
「申し訳ありませぬ、大和中将殿! 不肖、この船坂弘。妹君の涙ながらの願いに突き動かされ、馳せ参じてしまいました!」
言いながら、オッサンは兄様に右の正拳突きを繰り出した。
その正拳は兄様に受け止められたものの、兄様を2間ほど後退させたわ。
でも、その代わりに……。
「ぬぅっ……!? これは面妖な!」
オッサンは身体のあちこちを斬られた。
突き出した右腕なんか、二の腕のあたりからバッサリ斬られて地面に落ちた……のに。
「何のこれしき! くっつけとけば治る!」
「ちょっ! 嘘だろ!?」
「本当に繋がりましたわね。あのお方の体は、どうなっているのですか?」
拾って切断面をくっつけたと思ったら、もう普通に動かしてる。
それを見た小吉が「ねえ、実はあの人って、転生者だったりしない?」と言い、猛おじ様が「だとしたら、俺らとは別の神様に転生させてもらったんだろう」と、ため息混じりに答えた。
二人が言ってることはよくわからないけど、あのオッサンが異常なのはよくわかったわ。
「龍見姉妹! 船坂君を援護しろ! 船坂君は、六郎兵衛を所定の位置まで誘導!」
「おう! 任せとけ!」
「承知いたしました!」
「了解であります!」
小吉の命令に、三人は即座に応えて行動に移した。
小吉が言った所定の位置とは、四方を囲んだこの迎撃陣の四隅、そのいずれかよ。
でも、どうしてそれを、歌が人質にされないよう護衛するために来たあのオッサンが知ってるんだろう。
「おい、小吉。船坂元軍曹にも、作戦を伝えていたのか?」
「念のためにね」
「まさか、歌に入れ知恵をして……」
「入れ知恵はしてないよ。ただ、こうなるんじゃないかと思って、保険をかけてただけだ」
なるほど。
小吉は歌が、あのオッサンに加勢に行ってとお願いすると、予想してたのか。
あ、そうこうしている内に、兄様があたしから見て左の隅に追い込まれた。
「沖田君、今だ! 三人は離れろ!」
「目標、第一コーナーに到達! 総員、攻撃開始! 撃って撃って撃ちまくれ!」
小吉とジュウゾウの命令で、兄様が追い込まれた第一コーナーへと銃撃が始まった。
しかもご丁寧に、銃撃が始まる前に、そのコーナーにいた人たちが手榴弾まで落として行ったわ。
人一人殺すにしては過剰な火力だけど、あたしは冷めた目でその光景を見てる。
それは、兄様なんか死ねば良いと思ってるからじゃなく、アレじゃあ兄様を殺せないとわかっているからよ。
「派手だねぇ。アレ、弾代だけでいくらかかるんだい?」
それを裏付けたのは、銃撃が終わったのを見計らったように聞こえてきた兄様の声。
反対側の第二コーナーに背中を預けて、拍手までしているわ。
「
「半分正解。ちなみに、いつから僕がここに居たかわかる?」
「僕とナナさんに、生首を放ったあと。だろ?」
「大正解! さすが小吉だ!」
なるほど。
だから、龍見姉妹の神変は地面をえぐっただけで終わり、先の銃撃と爆発も、地面と足場を破壊しただけで、兄様にはかすり傷一つ与えられなかったのか。
「んな馬鹿な! たしかに、アイツに打ち込んでる手応えはあったぞ!?」
「地華の言う通りです。口惜しいですが、私たちの攻撃はたしかに、彼の鞘に受け止められていました」
「自分も同感であります。この拳の痛みが、幻覚だったとは思えません」
「そういう術だからねぇ。と、言っても、信じてはもらえないかな」
信じられる訳がない。
その思いを体現するように、三人は再び構えた。
「さっき、君たちが相手をしていたのは僕の気配。それが僕の、暮石流術殺法 段外の参、
それが、兄様の段外か。
アレはたぶん、柳女の応用。
暗示で切り離した気配を自分だと思い込ませて、戦っていると錯覚させる術なんだと思う。
しかも、効果範囲が広い。
兄様が開戦後すぐにあそこへ移動したとすると、その効果範囲は二町(一町は約372㎡)近い範囲になる。
「君たちの相手にもそろそろ飽きて来たけど、せっかくだから良いものを見せてから終わらせるとしようか」
兄様が言う良いものなんて、きっとろくなものじゃない。
間違いなく、この場にいる全ての人たちを危ない目に遭わせるものだわ。
だったら、そうなる前にあたしも……。
「おいで、四進」
斬りかかろうと思い、身を屈めたら、兄様の影からしずおねーちゃんがヌッと出てきた。
死んでると思っていたしずおねーちゃんが生きてて嬉しいと思う反面、どうして兄様と一緒にいるんだろうと、疑問もわいた。
でもその疑問は、兄様がしずおねーちゃんに口づけをしたことで、一層深くなったわ。