クロムに憑依転生 作:石猿
こっそり更新しとけば……バレへんやろ……(すみませんでした)
紐は荷や服を纏めたり道具を作るのに使ったり用途は非常に多い。だから一年を通じて作るものではあるのだけれど、それを石神村では特に冬の間に多く作る。寒気は肌を裂き生命の多くは息を潜める季節に、老いも若いも村の外へわざわざ出て行くことはないからだ。少しでも食料を増やすべく鹿や兎、休眠中の熊を狩りに出る一部の大人以外が内職に従じた結果の一つと言い換えてもいい。
木の皮や蔦といった植物を乾燥させて
ただこの作業は言ってしまえば外に出れない村人達の時間潰し。今日だって雪が降ってなければ子供は風の子らしく外で遊んでいただろうし、詰まるところ屋内で遊びに興じるのも咎めるものではなかった。
「ねえねえ、クロム君は向こうに混ざらないの?」
「ん、僕は大丈夫」
「ふーん」
少女が指差す先では、銀狼がちょっかいを掛けられたコハクに締め上げられている。それを見て囃し立てるマグマやサファイア。その光景は幾千年の時が経っていようと、いや世界を越えようとも変わらない子供達の光景。僕はそれを一歩引いた所で眺めていた。
「それで、ルビィは僕に何か用かな」
「用が無いと話しかけちゃダメ?」
「そんなことないよ。でも珍しいから」
別に僕が仲間外れとか一人ぼっちとか、少なくとも主観では孤独というわけではないのだけれど、ただ外出しては道具を作り、変な妖術の実験をしては外出を繰り返す僕は必然的に関わる人が偏っていた。女の子ならルリとコハクと話していることが多い一方で、ルビィ達キラキラ三姉妹──サファイア、ガーネット、ルビィの美人三姉妹──とは機会が少ない。
作業の手を止めて首を回す。ずっと同じ体勢で凝り固まった身体がゆっくりと解れて歓喜の声を上げた。なんとなく上げた視線がバチッとルビィのそれと交差し、一度
「今日は少し冷えるでしょ。僕は平気だから使って」
「やたっ」
「これが目的だったか」
今年も今年とて雪の多い厳冬。雪で家を覆っても遮断しきれない寒気は身体に悪い。厚手の冬服の上から毛皮を羽織っていても一枚じゃ足りないだろう。聞き
向かい合うように腰を下ろしたルビィの美しい
「えへへ、あったかい」
「なら良かった」
「クロム君は寒くないの?」
「それを君が聞くのかい」
「一緒に羽織ればあったかいよ」
「はいはい。そういうのは好きな子にやってあげると良いよ。金狼とか」
「つまんなーい。もうちょっとドキドキしてくれたって良いのに」
「ふふ、ごめんね」
「むぅ、仕方ないなぁ」
少し
恋に恋する乙女にも至らない、まだ見ぬ恋に
ただ僕のそんな子供扱いが透けて見えたのか、ルビィの頬が小さく膨らんだ。それも子供っぽく思えてしまい、ついにルビィはそっぽを向いてしまった。でもそれすらやっぱり可愛らしくて、やることなすことが裏目に出てしまっている。その無垢な愛嬌こそが彼女を引き立てる魅力に他ならないのだけれど、本人はますます不服そうにいじけるばかり。
「ごめんね。その、別に子供扱いしてるわけじゃないんだよ」
「そう言ってるってことはそう思ってるってことでしょ」
「あ、いや。それは、その」
「そもそもクロム君だって私と同い年でしょ」
「うん、まあ」
「いい、女の子はそういうの敏感なんだよ。大体クロム君はデリカシーが──」
覆水は盆に返らず後悔しても後の祭り。しまったと思えど一度出た言葉は飲み込めない。じとっと睨まれながら受ける堰を切ったように止まらないルビィの言葉の雨霰。雉も鳴かずば撃たれまいに、わざわざ言葉に出すなんて逃げ道を自分で塞ぐ愚行を犯したのは誰だろうか。
精神年齢にして一回りは下の女の子の言うことだから、反駁するなんて似つかわしくない。向かい会うように座って半ば諦めながら甘んじて諫言を受け入れているうちに、段々と他人の目を集める。
なるほどルビィが嫌がるわけだ。腹立たしいのとも恥ずかしいのとも違う、むず痒くて、でもやっぱり気恥ずかしい。ただ幸運だったのは気恥ずかしいのは僕だけではないということ。ルビィもその気勢を収め、柔らかな黒髪から覗く頬と耳に朱を差した。
説教も終われば視線も自然と離れて、腕相撲を始めたマグマと銀狼に注目が集まっていく。銀狼が瞬殺された。今度は金狼とコハクが勝負をするようだった。
「私だって、お姉ちゃんとかルリちゃんみたいに」
小さな声。きっと近くに座る僕以外には聞こえなかったし、誰にも聞かせるつもりはなかったのであろう言葉。ルビィも言ってから気付いたように視線を逸らした。その視線の先には、彼女の姉達がいた。
それでもルビィは僕の対面に座っていた。
だから僕はゆるりと瞼を落とし、暗闇を揺蕩うこと数秒。再びゆるりと視界を開く。
「歳の差はどうやったって埋まらない」
「そういうことじゃない」
「もう少しだけ。いつまで経ってもお姉さんはお姉さんのままだし、妹は妹のまま。どうしようもない、当たり前のこと」
「……」
「だから少しだけ考えを変えてたらどうかな。もう少しゆっくりじゃダメかい。今すぐには無理でも、今の
「でも」
遮る言葉は、強い。
「でも私は今、なりたいの」
「……そっか。そうだよね」
それを、知っている。
ああ、僕だって知っている。彼女には筋の通った理屈とか物の道理なんて関係無くて、難しい過程をすっ飛ばして明瞭な結果が欲しいだけ。それは、良く分かる気持ちで。
だから少しだけ余計な口が回った。自分でも驚くくらいに軽やかに。
「今すぐじゃないといけないのは、どうしてなんだろう」
それは意図せず諭すような口ぶりで、あたかも僕が成熟した精神を持ち合わせたかのような淡白な口調で。しかし憮然としたルビィの返事は早く、それを振り返る間も悔やむ間も無かったのはきっと幸運だった。
「だってクロム君が」
「僕?」
「……なんでもないっ」
「えっと、さすがに少し気になるかなって」
「なんでもないったらなんでもないの」
不服そうに眉根をきゅっと寄せたルビィは、しかし次の瞬間どこか悪い
「クロム君も参加するってー!」
「ま、待ってルビィ。僕は──」
「よーしならクロムの相手は僕が!」
「うむ。銀狼が相手なら丁度良いだろう」
「しかし、なぜ銀狼は突然……」
「どーせオレに負けた分取り返すとか考えてんだろ」
「銀狼……」
「そこ聞こえてるからね!?」
掴んだ腕を引かれて子供達の腕相撲大会へと連れて行かれるのを察した時にはもう手遅れ。ぎゃーわーと賑やかな話の中に有無を言う間も無く引き摺り込まれ、あれよあれよと中心へ。
相手は銀狼に決まったらしい。力自慢のマグマやコハクでないだけマシだが、だからといって勝てる気もしない。しかしもう拒否できる雰囲気でもなかったのが更にどうしようもない。
最後の足掻き、頼みの綱とばかりに元凶のルビィに助けを求めれば、赤い目を細めた彼女はちらりと舌を出して悪戯っぽく笑った。無慈悲な歳相応の無邪気さに諦めを決め込み、僕は負け戦へと出陣することにした。
その日は結局、僕はボロ負けしたとだけ言っておこう。
蛇足。今話では別にルビィがヒロインとかそういうつもりでは書いてないです。なんか同い年の幼馴染が急に大人びて自分が子供っぽく思えるのが嫌なだけの普通の女の子。現状偽クロム君的には姪っ子感覚。ほんまか?
趣味作品故に更新は不定期ですが緩くお付き合いただければ幸いです。