クロムに憑依転生   作:石猿

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 これ書いたの十三巻読む前なんですよ。だから十三巻読んだ時ゾワッと来た。


E=4 TRIAL

 地図を作り始めてから三ヶ月が経った。

 指針が定まったおかげか前世の記憶を得たおかげか、僕は以前よりも様々なことを試していた。とはいえ前世の科学知識は実用とはかけ離れているため、一つ一つ虱潰しにするのは『クロム』だった頃とあまり変わらない気がする。

 仕事の後に収集に赴いて地図を作り、帰って数日実験、そしてまた収集へ。時折ルリと出掛けたりカセキに相談したりする日を挟むことはあれど、毎日が(せわ)しない。

 そして訪れた季節は夏。前世よりも格段に涼しい気がするが暑いは暑い。石神村の子供達は村の周りの湖で水遊びをして涼を取るのが例年の慣習だ。

 僕も涼を求めて水に飛び込みたいのは事実だ。暑くて遠出する気になんてならないし、重い荷物を背負ってアップダウンのある道を歩きたくない。かといって周囲に混じってただ遊ぶというのも、ルリを助けるという目標が頭の片隅に引っかかってそんな気分にはなれない。

 だから一挙両得を狙うことにした。

 僕が訪れた場所は、村から少し離れた所にある浅い川。真ん中に川中島を持つ、深い所でも膝より少し上までしかない幅広の清流。

 腰に水筒を二本と空の筒を一本、片手に浅い木製の皿を持って川を横切り中洲に降り立てば、開けた空間をそよぐ風は涼しく、周囲に誰もいないそこは秘密の楽園のよう。目を閉じれば僕という存在がが自然に溶けて行くような気さえする、清涼なひと時。

 

「……よし」

 

 誘惑を断ち切るために頬を張る。身を委ねるのは後にしよう。

 改めて川へと入る。透き通っていて冷たい川の水が心地良い。

 思い返すのは前世の記憶。薄ぼんやりとした記憶を掘り返しつつ、皿に水を掬って中洲の砂を適当に入れ、そのまま川の中にゆっくりと沈める。緩やかな川の流れに巻き込まれていくつかの砂粒が流れていった。そのまま右に左にと器をハンドルのように回して中の砂を揺すれば、やはり川に攫われて幾つかの砂粒が流されて行く。

 根気よく何度も砂を揺すり、川へと攫わせることを繰り返して残ったのは、ほんの一摘みの砂。川から器をあげて慎重に水だけを捨ててじっくり観察するが──ない。

 初めから上手く行くはずがないと、残った砂を川に捨てて気を取り直し最初から。

 皿に水と砂を入れて、川に沈めて、器を右左。残った砂を確認。また捨てる。そしてまた最初からやり直し。

 周囲には誰一人いない大自然。蝉がジリジリと空気を焦がす中、そんなことを何度も何度も繰り返し、目的のものはここには無いのかと諦めかけたその時だった。

 

「あった」

 

 キラリと輝く小さな粒が器の底に残っているのを遂に見つけた。それは爪の先より更に小さな、たった一つの輝き。大量の砂に埋もれていた、小さな小さな輝きだった。

 しかし、人類がその唯一無二の輝きを求めて争ったことは数知れず、人間と紡いだ歴史は紀元前にまで遡り、その希少さと人の欲望よって果てには価値の基準点として君臨した、鉱石の王様。

 僕は今なら、それらの事実を共感をもって理解出来る気がする。この一粒のために掛けた手間も時間も、長時間作業がもたらした身体の痛みも、見ただけで吹き飛んでしまいそうな圧倒的な輝き。

 失わないように丁寧に摘んだ、快晴の下で麗しく陽光を反射しているそれを、人は。

 

「──砂金だ」

 

 人はそれを、金と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 一粒の砂金を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 体が冷えすぎないよう途中で何度か休憩を挟みながら、その後も一日中作業を続けた段々と慣れていったおかげで、後半になるにつれて砂金が見つかる頻度も増えた一方、やはり問題が見つかった。

 そもそもこの砂金取りの方法は金の重さを利用したものだ。水中で砂を揺することで比重の大きな砂金を下方へ落とし、軽いその他の砂を流水で排除することで砂金を残す。まずこれが問題だ。

 流水で排除出来るのは軽い砂粒のみ。つまり比較的粒径が大きなものは弾けない。

 粒が大きいから別に手で()けることも出来るのだが、こう何度もやっているとそれが非常に手間だ。正直面倒くさい。

 次の問題。これは僕の技量の問題もあるのだろうが、上手く砂を残せない。底の浅い器は水の流れを利用することが出来るが、少しでも手元が狂えば砂を全部流し去ってしまう。

 そして、最後にして最大の問題。

 

「腰が、痛い」

 

 そう、作業の体勢がキツすぎる。ずっと中腰というか身体を曲げたままというか、とにかくキツい。終わった後に伸びをしたら聞いたことの無い音を立てて背骨が伸びたと言えば、何となくキツさが分かるだろうか。なんなら村に帰ってきた今もずっと痛い。

 砂金は確か、vs司帝国にて使われるキーアイテム、だった気がする。綿飴機を使って非常に長い金線を作っていたはずだ。ああ、あとは金狼の槍を水銀も一緒に使ってアマルガムコーティングしてたっけ。

 どちらにせよ結構な量の砂金が必要になる。アニメで集めていた様子も無かった気がするし、となるとその砂金は『クロム』が全て集めたのだろうが──こんなにも、大変なのに? 

 僕が今日一日を費やして集めた砂金の量は僅か一摘み。粒にしたら手足の指の数より少ないだろうそれを、膨大な金線にできる量を集めなければならないと? 

 だが、僕は成さねばならない。砂金収集なんて時間の掛かる作業を挟んでいては、下手をすれば越冬前に司帝国への攻撃を仕掛けるのに支障が出かねない。

 目の前に焼け始めている夕食の魚を眺めるのはぼんやりと、しかし思考はクリアに。

 さあ、どうする。

 ルリを治すという()()()のその先、千空率いる科学王国に必要な砂金。諦めるなんて言語道断、妥協も当然許されない。

 頭を回せ。どう足掻こうと明日以降も長期間続けることだ。時間を掛けようが効率化することこそ近道だが、悠長にしている暇なんて僕には無い。無駄な時間を作るな。

 思考の暗晦に沈んだ僕の前で、焼けた魚の脂が焚き火に落ちて静かに爆ぜた。




 四話で大体一万文字くらい書いたけど全然喋らないなクロム君。
 原作ではさらっと終わってますけど、砂金取りって実はめっちゃ腰に来るんですよ。あと目にも来る。
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