異世界に転生したら人魚になりました   作:花時雨

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06話 名付けによる進化

  牙狼族との戦いが終結し、夜が過ぎ、朝がやって来た。広場に集まってぐるっと周りを見渡すと、だいぶ野性味のある所帯になっていた。

 

「そういえば村長、お前の名は?」

 

  …確かに私達は名乗ったけど、村長達は名乗らなかったな。色んなことがあって忘れてた。けど皆お互いに名前を呼び合っていなかったような…気のせいかな?

  けど名前の件は私の気のせいではなく、魔物は普通名前を持たないそう。名前がなくとも意思の疎通は出来るらしい。

  私とリムルはヴェルドラから名前を貰ったから人間と同じく名前を持つのが当たり前だと思ってた。ヴェルドラの名付けが自然すぎて全然気づかなかった。

 

(……あの、でも、私達が呼ぶのに不便だよ)

 

  ねぇ、とか貴方、とか君、とか…うん、不便だな。熟年夫婦か何かかな??

 

「そうだな。…よし、お前達全員に名前を付けようと思うが、いいか?」

 

  ザワッ!

 

  リムルが名付けると言った瞬間、ゴブリンや牙狼族は熱い眼差しで私達を見た。

  村長が代表するように、遠慮気味に

 

「よ、宜しいのですか?」

 

  と聞いてくる。

 

「お、おう。じゃあまあ、俺とセレンで一列に並ばせてくれ」

 

(あっ私も?)

 

「なんだよ、不満か?」

 

(う、ううん!全然!)

 

  辺りが歓喜に包まれ、喜んでいるゴブリン達を見て不思議に思う。本当になんだろう、一体…自分で名付けないのかな?

 

《告。魔物への名付けは人間と異なり、相手の強さに応じた魔素を消費します》

 

  へぇ………んっ!?ちょっと聞き捨てならないことが聞こえたんだけど!魔素消費するの!?それ大丈夫!?

 

《私がいるので大丈夫です》

 

  何が!?あと時々すっごい流暢に喋るのホント何なの!?

 

《否。気のせいです》

 

「おーい、セレン?何してるんだ?早く名前付けようぜ」

 

(あ、うん)

 

  …え、これリムル知ってるの?大丈夫?とりあえず「理解者」に任せるよ?大丈夫なんだよね?

 

《はい》

 

  ……任せるよ?

 

「ええと、村長とその息子は村一番の戦士だったリグルの身内だと言っていたな」

 

「は、はい」

 

「では父親の村長は“リグル・ド”だ」

 

「おお…っ」

 

  …う〜ん、まあいっか。不安があるけど「理解者」を信じて任せよう。

  現実に戻るように私は目の前にいるゴブリンを見た。私達に最初話しかけた赤いバンダナを付けている、村長の息子だ。…よし。

 

(じゃあ、君はお兄さんの名前を継いで“リグル”

と名乗ろうか)

 

「はい!」

 

  他の子はどうしようかな。これだけいると名前を考えるのも大変だよ…

 

  その後、「理解者」から名前の案を頂きながらゴブリン達に名付けをしていった。そしてようやく最後のゴブリンの名付けが終わり、一息付いたらリムルの方が騒がしくなった。

 

(どうしたの?)

 

「セレン様!リムル様が……!」

 

  リムルを見るとぐでっ…と脱力していた。日本の百均にあるスライムそっくりだ。まあ、リムルは本物のスライムだけど……いやそれよりどういう状況なのこれ。

 

《解。個体名:リムル=テンペストの体内の魔素残量が一定値を割り込んだため、低位活動状態(スリープモード)へと移行しました》

 

  やっぱリムル知らなかったのか…私もそろそろやめた方がいいのかな?って言っても、もう終わってるけど。

 

「セレン様……リムル様は大丈夫なのですか?」

 

(だ、大丈夫だと思うよ?リムルだし…)

 

  曖昧な答えになってしまったが「理解者」が言うにはリムルは3日後には回復してるらしい。長いのか短いのかわからないけど、回復するのなら気長に待ってよう。

  するとゴブリンや牙狼族が一斉に光り出した。突然のことだったので思わす目を瞑ったが、次に目を開けると、大人の姿になったゴブリンや大きくなった牙狼族の姿が。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます!このリグルド、「世界の言葉」を聞き感激致しました!!」

 

  ……は?

 

(リ、リグルド…?)

 

「はっ!何でしょう、セレン様!!」

 

  …え……えぇぇぇぇぇ!?!?誰!?誰なの!!?誰だこのマッチョ!!

 

《解。個体名:リムル=テンペストが名付けたこの村の村長、リグルドです》

 

  いやそういうことじゃなくて…!……え、リグルド!?今リグルドって言った!?(遅い)リグルドって言ったよね!?

  リグルドっていうと、あのヨボヨボのお爺さん村長だったあのリグルド…!?ヤベェ全然わかんねぇ!!前の姿形も見当たらない!!もはや進化を超えたメガシンカだわ!!

  リグルドの進化が衝撃的すぎて他の子達を見ていなかったが、皆確実に大きくなっている。子供から一気に大人に成長した感じだ。何なんだよ、かぐや姫かよ。

 

《進化です》

 

  そういうことじゃないよ。

 

  驚きすぎて思わずため息をつき、「理解者」の説明が入った。

  雄のゴブリンは“ホブ・ゴブリン”に。雌のゴブリンは“ゴブリナ”に。そして牙狼族は“嵐牙狼族(テンペストウルフ)”に進化したようだ。うん、訳わからん。名前を付けだけでそんな簡単に進化しちゃうのか。

  「理解者」から説明を受けていると、誰かのお腹がぐぅ〜…と鳴った。

 

(…あ、そういえば朝食まだだったね)

 

「みっともないものを聞かせてしまい、申し訳ありません…」

 

(大丈夫だよ。私は水だけで十分だから何か探してくるよ)

 

「いえっ!セレン様のお手を煩わせるわけにはいきません!俺達が獲物を捕って参ります!」

 

(でもお腹空いてるでしょ?腹が減っては戦ができぬって言うから、ここで村を守っていてね)

 

「…っ、はい……」

 

  いやそんな悲痛な顔しないで?私がやりたくてやってることだから…

 

「ならばお供だけでも…!」

 

(私は大丈夫だから、心配しないで)

 

  …まあ、皆が心配するのも無理ない……のかな?牙狼族との戦いでは私はあまり戦ってないし…どちらかというとサポートに回ってたからね。心配してくれるのも納得がいく。私もゴブリン達の立場だったら心配する。

  大丈夫だと押し切っていざ森に行こうとしたら、嵐牙狼族(テンペストウルフ)を代表としてランガが前に出た。

 

(我が主、ならば我を連れて行ってください。我々は食事を必要としませんので、存分に戦えます)

 

  食事を必要としないのか。ガッツリ肉とか食べてそうだけど。

  まあ、ランガだけならいい…かな。あと尻尾ブンブンするのやめようね。周りの被害がすごいから。

 

(……じゃあ、お願いしようかな)

 

「はッ!命を懸けてでもお守りしてみせます!」

 

(命は懸けなくてもいいよ…)

 

  ゴブリン達に留守番とリムルのこと…そしてあることをお願いし、ランガと一緒に森に入った。

  ……それにしても、ランガのこのもふもふ感、すごい好き(乗ってます)。後でもふもふさせてもらおう。うん、そうしよう。

 

  それよりも獲物だな。地球と異世界じゃ食材とか全然違うと思うし…思ったけど「生成者」で食材調達すればよかったんじゃ……いや、何でもスキルに頼るのはよくないな。「生成者」は便利すぎるし。あ、「理解者」は別だよ?

 

(それよりランガ、名付けをしたのはリムルなんだから主はリムルなんじゃないの?)

 

「我はお二人を主だと認識しているのでどうかお気になさらず」

 

(あ、そう…?……でも私がリムルと同格だからって気を遣わなくてもいいんだよ?)

 

「我が主、もっと自分に自信を持ってください」

 

(そうしたいのは山々なんだけどねぇ…)

 

  ランガに言われて思わず苦笑した。皆からどう思われているのか考えるのが怖いのだ。あんな大げさに扱われるのも、リムルと同格だから。いつか私を必要としない日が来るかもしれないし。

 

《告。半径50メートル以内に牛鹿の群れを感知》

 

  おっ、早速か。牛鹿って発音的に牛と鹿が混ざってそう。やっぱファンタジーだな。

  そしてランガに牛鹿のいる方向に向かってもらった。スピードが凄い。今度はゆっくり走ってもらおう。ジェットコースターみたいだから二度と味わいたくない。ていうか近いからそんなにスピード出さなくてもいいのに……

 

(ほいっと)

 

  牛鹿を見つけた瞬間、水の槍で一突きした。「水操作」、便利だな。水の量を増やしたり減らしたり、凍らすことも出来る。それに水操るのって何かかっこいいよくない?………決して厨二病ではない。

  牛鹿が死んだことを確認し、私はランガから降りた。

 

「…?我が主、何をしているのですか?」

 

  私が数体の牛鹿に手を合わせていると、ランガが不思議そうに尋ねた。魔物は弱肉強食の世界だから、こういう風習は無いかも。

 

(ランガみたいに食事を必要としない種族もいるけれど、そうじゃない種族もいる。そして生きるためには何かを犠牲にしなければいけない。相手の命を頂くのと同じだから、感謝しなきゃいけないんだよ)

 

「流石は我が主です。この世の恵に感謝するとは!」

 

  狩りなんて初めてするからこうするのかは知らないけど。

 

(じゃあ、帰ろっか)

 

「はっ!」

 

  どうやって運ぼうか考えていたら、ランガが背中に乗せて運んでくれた。頼もしいな。

 

(ただいま)

 

「おかえりなさいませ、セレン様!」

 

「よくぞご無事で…!」

 

  皆心配し過ぎだな…私は大丈夫なのに。

  それぞれ安心させるように頭を撫でていると、ハルナがこちらにやって来た。

 

「こんな感じでよろしいでしょうか?」

 

  と言って差し出したのは不器用ながらも頑張りました!と表現できるようなお皿が。

  そう、私が森に入る前、自分達の食器を作ってもらったのだ。わからないところは教え合って……私がゴブリンと関わると物作りしかしないけどいいのか?これ。

 

(じゃあ、早速ご飯を作ろうかな)

 

「セレン様、解体は我々にお任せ下さい」

 

(あ、じゃあお願いしていい?)

 

「はっ!」

 

  男性陣に牛鹿の解体を任せ、それぞれ地面に置かれている食器達に目を向けた。どれも歪だが、愛情を感じる。

 

(ふふっ、可愛いね)

 

「そ、そうでしょうか?」

 

(うん)

 

「ありがとうございます…!あの、セレン様の分も作ったのでよろしければお使いください!」

 

(ありがとう。大切に使うね)

 

  けどご飯を口にするのはリムルが味覚を手に入れてからだ。ずっと一緒にいるのに、私だけ美味しいものを食べるなんてずるい気がするし、リムルからすれば寂しいだろう。やっぱり日本人同士、美味しいものは共有したい。

  ゴブリン達から、これも見て欲しい、こっちは、とあちこち食器を見回っていたら、解体作業が終わっていた。

 

(ありがとう。じゃあ、今から料理を作るからハルナ達も手伝ってくれる?)

 

「もちろんです!」

 

  牛鹿の他にも道中で果物や山菜を見つけたので森の恵に感謝してありがたく頂戴してきた。お肉は焼いて、山菜で野菜スープでも作ってみようかな。主食が無いが我慢するしかない。まあ私が食べるわけじゃないんだけど……

  山菜を切ってもらい、お肉も一口サイズに小さく切る。私は仕上げに味付けをした。

 

(味はどう?)

 

「とっても美味しいです…!」

 

「こんな美味しいもの食べたの初めてです!ありがとうございます!」

 

  建物を見る限り、食べ物は生か焼くぐらいだろうなーって思ったから…喜んでくれたようでよかった。

 

(じゃあ、運ぼうか)

 

  少し時間が掛かってしまったが、無事に料理が出来た。テーブルを作る余裕が無いので地面にシートをひくだけだが…元々こういう生活をしていたからか抵抗は無いようだ。

 

(あ……皆、いただきますをしてから食べようね)

 

「?いただきますとは…?」

 

  ………知らないのか。というか前世+人間の常識が魔物の常識とは限らないからな…知らないのも無理はないかもしれない。

 

(えっと…こうやって手を合わせて、いただきますって言うの。料理を作った人や森の恵とか、食事に関わった人全てに感謝する意味を持つんだよ。私の故郷の習わしなんだけどね)

 

「なるほど!」

 

「流石セレン様です!」

 

  何が流石なのかよくわからないが、ゴブリン達はいただきます、と丁寧に言って食事をした。素直だなぁ……

  私はランガにもたれながらゴブリン達の様子を見ていた。リムルをそっちのけにすると怒られそうなのでしっかりとリムルも抱えて。このもふもふ感いいなぁ…私が小さいのかこの子が大きいのかわからないけど布団代わりになりそう…

 

  ……早くリムル回復しないかなぁ…私一人じゃ無理だよ。ここは社会人のリムルがビシッと決めて欲しい…高校生の私には無理です。何でか知らないけど私もリムルみたいに敬われているし…

  そう思いながら私はリムルを撫でた。リムルを撫でると何か落ち着くんだよね。ほんと何でだろ。

 

(……あの、皆、私に様付けしなくてもいいんだよ?リムルの方が強いからリムルだけに…)

 

「何をおっしゃいますか、セレン様!」

 

「セレン様が頭を撫でてくださったお陰であの日、子供達は怯えずに牙狼族に立ち向かえたのですよ」

 

「食べ物もこんなに美味しいものになるというのも初めて知りましたし、もっとセレン様から色んなことを教えて欲しいです!」

 

(そ、そうかな…?)

 

「そうですよ!もっと私達を信じてください」

 

(…うん、ありがとう)

 

  でも出来れば様付けはやめて欲しいなー…とリムルが目覚めるまで悲願し続けたが、それだけは譲れないと言われてやめてくれなかった。解せぬ。

 

 

  そして3日が経ち、リムルは目を覚ました。正確には意識はあるけど動けない状態だったらしい。まあ、睡眠を必要としないもんね。

 

(おはよう)

 

「おう、おはよう」

 

「まぁ、リムル様。お加減はもうよろしいのですか?」

 

「え?」

 

  私の隣にはハルナ。リムルはきっと誰!?となっているだろう。うん、わかる。私もそうなったからめちゃくちゃわかる。

 

リグルド様(村長)を呼んでまいりますね」

 

「あ、はい」

 

  ハルナが行った後、リムルはすごい勢いで私を見た。

 

「おいセレン、誰ださっきの女性!?」

 

(ハルナだよ。リムルが名付けたでしょ?)

 

「いや、まあ、そうだけど………え???」

 

(うん、リムルの言いたいことはわかる。私も最初びっくりしたから)

 

  でもリグルドを見るとハルナより驚くと思う。

  そう思っているうちにリグルドがやって来た。

 

「リムル様!お目覚めになられましたか!」

 

「おお、リグルド___」

 

  リムルが最後に見たのはヨボヨボな村長。目の前にはその時とは程遠い、ムキムキになっているリグルドが。リムルの今の心境はきっとこうだろう。

 

「(誰だよ!?)」

 

  …なんだろうね。リムルの心の叫びが聞こえた気がする。まあ私も同じく誰!?って叫んだし。

 

「さぁこちらへ。宴の準備が出来ております」

 

「お、おう」

 

(なぁ、絶対皆デッカくなってるよな…?)

 

(うん。進化だって)

 

(いやそんな簡潔に言われても…)

 

(進化)

 

(おっおう……)

 

  ごめん、進化としか言いようがない。まさか名前付けだけでこんな大事になるとは思わなかった。

 

「御快復、心よりお慶び仕ります!!我が主よ!!」

 

「ラ…ランガ?」

 

「はっ」

 

  ゴブリンだけでなく、あのボスよりデカくなっているランガを見てリムルは驚愕した。

 

(おい、マジでどうなってんだよ!?)

 

(知らないよ!!)

 

  私はリムルが復活してくれたことに安心しつつ、この3日間思っていた皆の進化について共感し合うのだった…

 

 

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